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16.気になりますか?

 その日はシシーがみんなの夕食を作ってくれた。


「とっても美味しいわ! ライナー様のお料理も美味しかったけど、シシーもとても料理上手なのね!」

「まぁ、ライナー様がお料理を?」

「ええ、私は全然上手にできなくて……食事はほとんどライナー様が用意してくれていたの」

「へぇ……やりますね、ライナー様」

「別に、大したことではない」

「はいはい、おかわりもありますから、たくさん食べてくださいね」


 シシーの意味深な視線に、ライナー様は咳払いをした。

 きっと料理の腕がいいと言われて照れたんだわ。ライナー様も可愛らしい一面を持っているのね!



 食事の後は、みんなでシシーが淹れてくれたお茶を飲みながら、ほっとするひとときを過ごした。


 複数人で……それも女性とこうしておしゃべりするのはとても久しぶりな気がする。

 私を馬車で森まで連れてきたザビン様の従者も男性だったし。


「あら、もうこんな時間。そろそろ入浴のお時間ですね」

「ああ、そうだな」

「ソアラ様、ご一緒いたします。とてもいいオイルをお持ちしたので、よろしければお身体のマッサージをいたしましょう」

「えっ? でも……」

「よろしいのです。私はソアラ様のお世話をしにやってきたのですから。ね? ライナー様」

「ああ。遠慮なくしてもらうといい」

「……ありがとう。それじゃあ、お願いしようかしら」

「はい、ぜひ」


 ライナー様にも背中を押され、私は遠慮がちにシシーとともにお風呂場へ向かった。


 だけど本当に、こんなに手厚くお世話してもらってもいいのだろうか?




「――力加減はいかがですか?」

「気持ちがいいわぁ……とても……」

「ふふ、よかった。私、こう見えてマッサージには自信があるのです」

「そうなのね……」


 どう見えてると思っているのかわからないけれど、シシーは料理も上手で優しいし、その完璧さに感心するばかり。

 こんなに素晴らしい使用人をここに呼んでしまっていいのかしら。

 もしかしてライナー様って、実はすごく偉い方だったりして……?

 でもそれなら、私なんかの監視役を引き受けたりしないか……。


 ああ……とにかく幸せ。こんなに素晴らしい待遇を受けられるなんて思いもしなかった……。追放最高……魔女最高……。


「ところでソアラ様、ライナー様と数週間も二人きりで過ごされて、いかがでしたか?」

「本当に最高……」

「え?」

「……え?」


 あまりの気持ちよさにうとうとしてしまっていたら、シシーが唐突にライナー様の名前を口にした。


「そうですか、最高ですか」

「間違えたわ……! いえ、間違えてもないけど……!」


 ライナー様は気がつくし真面目で紳士的で何一つ文句がないどころか、本当に監視役なのか、時々忘れてしまいそうになるほど充実した時間を過ごしてきた。


 だからどう答えようか迷っていたら、シシーが続けた。


「ライナー様はああ見えて、とてもロマンチストで情熱的な方なのですよ」

「……? そうなのね」


 ロマンチストで情熱的……?


 とてもそうは見えないけど……。

 どちらかというと、クールで冷静に見える。

 でも、そういうところは普通、恋人や婚約者に見せる一面かもしれないわ。


「……そういえば、ライナー様はご結婚されていないの?」


 何気なく感じた疑問だった。

 考えてみたら私はライナー様のことをよく知らない。ううん。よく知らないどころか、まったく何も知らない。

 あんなに素敵な方なのだから、結婚していてもおかしくない。

 でももし奥様がいたら、いくら魔女の監視役とはいえ、あまり長い間女性と二人きりで過ごすのはよくなかったのではないだろうか。


「独身でございます!」

「……婚約者の方は――」

「おりませんよ!」

「……そうなのね」


 なぜか必要以上に張り切って答えるシシーを不思議に思うのと同時に、ふと考える。


 とても素敵な方なのに婚約者すらいないなんて、意外だわ。


「ライナー様っておいくつなの?」

「二十二歳でございます。ソアラ様とは四つ離れております」

「そうなのね」


 私はもうすぐ十八歳になるから、確かに四つ上だわ。今は五つ離れているということになるけれど。

 でも、シシーは私の年齢も把握しているのね。


 それよりライナー様は、本当にお若い方だった。落ち着いていて大人びて見えるから、もしかしたらもう少し上かとも考えていたけれど。


「気になりますか?」

「え?」

「ライナー様とは、そのようなお話しはされていないのですか?」

「ええ……あまりおしゃべりなほうではないようだし」

「まぁ確かにそうですね。……では、今度色々お話ししてみてはいかがでしょうか?」

「……お話?」

「きっと楽しいですよ! そうだわ、お二人でピクニックに行かれるのはいかがでしょう! 川には行かれましたか? 綺麗な花も咲いていますし、邪魔者は誰もいませんし!」

「……それはいいかもしれないわ」

「それではさっそく準備しますね!」

「……ええ」


 なぜだかとても楽しそうに声を弾ませているシシーに少し混乱してしまったけれど、マッサージが気持ちよすぎて頷いてしまった。


 シシーは、この手の話が好きなのだろうか。

 主の命令とはいえ、こんな森の塔で仕事をするのは嫌だと思うけど……。でもとても明るくていい人だわ。


 少しでもシシーの退屈しのぎになるのなら、いくらでも付き合おう。

 私とピクニックだなんて、嫌ならライナー様が断るだろうし。


 そう思って、今はありがたくマッサージを受けて癒やされていた私は、翌日そのピクニックがすぐに実現されるなんて、考えてもいなかった。



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