14.だって魔女は危険だから ※王子視点
『――聞きました? 第三王子のザビン殿下ったら、ソアラ様に婚約破棄を言い渡したんですって』
『聞きましたわ。それも、ご自身の誕生日パーティーの場で言ったのでしょう?』
『そうよ。ソアラ様は聖女と認定されていたのに、みんなの前で魔女だと言って、迷いの森に追放したらしいわよ』
『まぁ、酷い』
『本当、酷い王子様よね。他にもたくさんの女性と遊んでいたようですし』
『でも、ベーベル様には振られたのでしょう?』
『そうそう、あれはいい気味だったわ』
『ふふふふふ』
ヒソヒソヒソ――。
ソアラに婚約破棄を告げてから、社交界での僕の立場は地に落ちた。
僕のことを好きなんだと思っていた女性のほとんどが、聖女であるソアラと仲良くなることが目的だったらしい。
「……それは、本当だったのか」
いつものように声をかけても、女性たちは僕から目を逸らして、さっといなくなってしまう。
人前に出れば、ヒソヒソと僕の噂が耳につく。
「こんなの、おかしい……。これまでみんな、僕に媚を売ってきたじゃないか」
男も、女も。一体どうしたというんだ。
みんな、みんな。本当にソアラと親しくなるためだけに僕に近づいてきていたのか?
「くそ……っ!!」
「おい、ザビン。ちょっと来い」
「兄上……」
社交の場に出ても、居づらくなってすぐに帰ってきた僕に声をかけたのは、第二王子のデニス兄様だった。
「おまえ、自分が何をしたのかわかっているのか?」
「……」
「よく顔を出せるよな。恥ずかしくないのか」
僕を人気のない場所に呼んだ兄上は、開口一番溜め息をつき、呆れたように言った。
ソアラと婚約破棄をして迷いの森に追放したのは、僕の独断だった。
しかしあいつは聖女ではなく、魔女だ。光魔法が使えるというだけで聖女認定した、神殿が間違っている。
だというのに、兄上はとても怒っているようだ。
「俺が神殿に行って、神殿長フォルカー・レーマン様と話をしてきた」
「え……!? 兄上がわざわざ神殿に出向いたのですか!?」
「当たり前だろう。おまえは神殿が聖女と認定したソアラを、勝手に追放したんだぞ? 婚約を解消したくなったのなら、まず相談するのが筋だろう」
「ですが……! あの女は闇魔法が使えるのですよ!? 神殿はソアラの闇魔法の力を見抜けなかったのです! あいつは魔女です!! 王都に置いていては危険だ!!」
そう、魔女は処刑にすべき存在だ。
僕は幼い頃から、今は亡き母上から何度も何度も魔女の恐ろしさを聞いてきた。
母は「いい子にしていないと魔女に攫われるわよ」と言って僕のことを抱き締めてくれた。
闇魔法はとても恐ろしい力。魔女は人々の心すらも操ってしまうのだ。
僕は王都を魔女から救ってやったというのに……なぜ怒るんだ。
わざわざ兄上が神殿に出向くことはない。
神殿長が僕に感謝を言いに来てもいいくらいだ。
「はぁ……おまえ、本当にわかっていないんだな」
「兄上はソアラの闇の力を見ていないからそんなことが言えるのです!!」
「聖騎士をソアラの護衛として送り、安全が確認できたから今回は許してくださるそうだ。神殿長の寛大な心遣いに感謝しろ。だが、父上がお戻りになるまでおまえには謹慎を言い渡す。少しの間、おとなしく自室で反省していろ」
「え!?」
なぜ、僕が謹慎処分に……!
兄上も神殿長も、みんなわかっていないんだ。
しかし、僕は確かに見た。ソアラは闇魔法を使って蛇の毒を抜いた。
彼女は危険だ!!
母上が生きていれば、わかってもらえるのに……!!
「ソアラは魔女だ。魔女は危険だ……。王都が滅ぼされずに済んだのは、僕のおかげだ……」
「あのなぁ。今時、闇魔法が使えるくらいで魔女だと認定されるものか。神殿がそれを見抜いていなかったとは思えない。むしろ、闇魔法はとても稀少な力だ。使い手によっては光魔法より素晴らしいものになる」
「しかし……!!」
「父上もお怒りになるだろう。おまえはいつも我儘ばかり言う、困った末っ子だよ」
「……魔女は、危険なんだ。母上が、そう言っていた」
「おまえがあまりにも我儘だから母上はそう言ったんだ。悪い子は魔物に攫われる、とかな」
「でも……!!」
「もしソアラの身に何かあったら、内戦が起きてもおかしくはないんだぞ? すぐに聖騎士が向かってくれて本当によかった。しっかり反省しろ!」
「…………」
ソアラは、聖女ではない。
聖女と魔女が同一人物であるはずがない。
必死に自分にそう言い聞かせてぎゅっと拳を握る僕に、兄上はもう一度溜め息をついて僕を部屋に連れていった。
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