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12.薬草採取に行きます!

「――他に必要なものがあれば言ってくれ。可能な限り用意する」

「こんなに早く……、本当にありがとうございます!」


 翌日すぐ、ライナー様は私のために魔法部屋を用意してくれた。

 部屋を綺麗に片付けて、使いやすいように可能な限り道具を揃えてくれて。

 本当に仕事が早くて驚いた。


 ……もしかして、ライナー様も昨夜は寝ないでこの部屋を用意してくれていたのかしら……?



「とにかく、これで立派な魔女になるための秘薬作りができるわ!」


 ライナー様がこの魔法部屋から出ていくと、私は一度自分の部屋に戻ってこっそりと魔女の本や薬草を持ち込んだ。


「さて……まず何から作ってみようかしら……!」


 興奮して全然眠れなかったから、色々考えてはある。


「魔女と言えばやっぱり惚れ薬よね! 使う機会は今のところないけれど、本で読んだわ!」


 そう。『心優しき呪われた魔女』の物語の中で、魔女は意中の相手を惚れさせる薬を作ってほしいと頼まれて、その女性に惚れ薬を作ってあげるのだ。


「物語の中に出てくるような薬が本当に作れるなんて……すごい、すごいわ。憧れる……!」


 でもそうなると、必要な材料がまだある。


「数種類の薬草と、ピンクスネークの生き血があれば簡単に作れる……って、なんだかとっても魔女っぽい……!!」


 どうやら一人前の魔女になるとそんなものがなくても自らの魔力のみで簡単に秘薬が作れるようになるらしい。

 でも私は初心者だから、ピンクスネークの生き血があったほうがいいわね。


「……でも、ピンクスネークなんて見たことがないわ」


 ピンクスネークは人を惑わす毒を持っていると聞いたことがあるけれど、実際に見たことはない。お伽噺に出てくるような、伝説級の魔物なのだ。

 この森には生息しているのだろうか……。


「とにかくまだ必要な薬草もあるし、森に行ってみないと」


 昨夜読み込んだから、薬草の種類は頭に入っている。私は、興味のあることはすらすらと頭に入ってくる。

 妃教育なんかよりよほど楽しい。




「――ライナー様」


 森に出かける前に、念のためライナー様に声をかけていくことにした私は、彼の部屋の扉をノックした。


「何かあったのか?」

「足りない薬草があるので、森に採りに行ってきます。逃げるわけではないので、心配しないでくださいと伝えに」

「そうか。では同行しよう」

「え、大丈夫です。逃げませんので……!」


 それを伝えに来ただけなのに、ライナー様は当然のように読んでいた本を置いて立ち上がった。


「遠くへ行って結界外に出てしまっては大変だからな」

「……すみません。ではよろしくお願いします」

「構わない」


 これはお断りできる雰囲気ではない。


 腰に剣を差し、ローブを羽織って。行く気満々のライナー様にそれ以上何も言えず、私たちは森へと出かけた。




 魔物が住まう迷いの森とはいえ、結界のおかげで塔の周りは綺麗で静か。

 だから遠くへさえ行かなければ、私一人でも本当に平気なのだけど……。


「なんの薬草を探しているんだ?」

「えっと……ライナー様は、薬草にお詳しいですか?」

「いや、それが薬草関係はさっぱりで……力になれず申し訳ない」

「いいえ! 全然構いません!! 私はとても詳しいので、お任せください!!」

「……そうか。よかった」


 隣を歩きながら、ライナー様にそう問われてドキリと心臓が揺れた。


 危ない。詳しくないなら安心だけど、もし私が作ろうとしているのが魔女の秘薬だとばれたら大変だわ。


「ライナー様はゆっくり待っていてくださっても大丈夫ですよ」

「いや。魔物が出たらあなたを守れるようそばにいるから、安心してくれ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 こんなに近くにいられては、ピンクスネークが出ても彼が仕留めてしまうのではないだろうか。


 欲しいのは生き血なのだけど……。


「あっ、この薬草……!」

「あったのか?」

「これも! ……こっちにも! すごいです、ライナー様! この森、珍しい薬草がたくさん生えています……!!」


 さすが魔女が住んでいた森なだけあってか、本に載っていた必要な薬草が取り揃っている。

 王都ではなかなかお目にかかれないような、珍しいものがたくさん生えているわ。


「この辺りは人が寄り付かないからな。向こうの川に魔石もよく落ちているぞ」

「魔石が……!?」

「ああ、後で行ってみるか?」

「はい!! ぜひお願いします!!」



 ある程度の薬草を摘んだら、その足で川まで連れていってもらった。


「すごい……本当に魔石が転がっているなんて……! これ、いただいてもよろしいでしょうか?」


 鉱石の一種である魔石は、魔力や瘴気を浴びて石自らの力を強くする。

 そしてそれらの石に魔力を付与すれば、色々な用途に使える。

 それはもう、作り手次第で可能性は無限なほどに。


「ここにあるものは誰のものでもない。構わないだろう」

「ありがとうございます。ではありがたく、ちょうだいします」


 人の手に触れられていない、天然ものの魔石がこんなにたくさん……!!


 ああ……すごい。とてもすごい……!

 これは色々と実験ができそうだわ。

 早く試したい……!!


「目的のものは手に入っただろうか?」

「はい!! それ以上のものまでたくさん! ライナー様、本当にありがとうございます!!」

「……っ」


 嬉しさのあまりライナー様の手を握ってしまった私に、彼は戸惑ったような顔で言葉を詰まらせた。


「いや、俺は何もしていない……」

「はっ! すみません、つい興奮してしまいました……!」


 いきなり馴れ馴れしくしてしまったわ。

 数日を二人きりで過ごしたせいで忘れかけていたけれど、ライナー様は一応私の監視役なのだった……!


「……これを」

「え?」


 慌てて手を離してぱっと後ろを向いた私だけど、そのすぐ後、ライナー様の遠慮がちな声が聞こえて振り返る。


「まぁ、綺麗なお花……」


 白と青の中間色のような、淡い青色の美しい花を差し出され、そっと受け取る。


 とても可愛らしい。こんなに立派で綺麗なお花は王都でもなかなか見なかった。

 しかも、人の手が加えられていない、天然ものは本当に貴重。


「……あなたの髪の色に似ている」

「そうでしょうか」

「ああ――」


 じっと私を見つめて何か言葉を続けようとしたライナー様だけど、私が見つめ返すと口を閉じてしまった。どうしたのだろう。


「ライナー様?」

「……戻ろう。昼食の用意をする」

「はい。……?」


 ぱっと顔を逸らしてしまったライナー様の表情は見えなくなってしまったけれど、金色の髪から覗く耳が少し赤くなっているように見えたのは、気のせいかしら?



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