第0話『悪魔のはじまり』
これはオレの持論だが。
クズはどこまでいってもクズである。
どんなに取り繕っても、どんなに善人ぶろうとも。
その根底にある醜悪さは決して誤魔化せない。消そうと思って消えるものじゃない。
ヤツらは己の欲望を満たすためなら、他者を傷つけても構わないと思っている。
自分さえよければそれ以外のことなど、心底どうでもいいのだ。
そういう人間はもはや人間ではない。
ただの悪魔だ。
人間の皮を被った醜い悪魔である。
悪人が笑い、善人が泣く。
そんなものは許されてはいけない。そんな人間はこの世にいたらいけないんだ。
――だから殺す。
悪魔は。
クズは。
すべからくオレが殺してやる。
沢渡クロエ。
お前は決して許されない。
◆
それは静謐なる夜。神聖なキリシタンの教会。
30メートルはあろう高い天井。それを囲うように彩られたステンドグラス。月の光が差し込むと、きらきらと乱反射する。灯りはそれだけで十分だった。
祭壇に向かって祈る神父がいた。絵画から飛び出したような美しい男だった。
月の光に輝く金髪。長い四肢。横顔はぞっとするほど整っている。
「――主よ」
祈る神父の目の前には、魔法陣のような赤黒い文字が描かれている。彼の血で描かれたものだった。
月の光が当たらない陣の中央。人影が佇んでいた。小さな影だ。
「我が願いに応えよ――」
神父の呟きの後――魔法陣が輝きだす。彼の両手には血より紅いペンダントが握られていた。
陣の中央に佇んでいた人影が光に包まれる。光はどんどん大きくなり、神父は目が開けられなくなる。
真っ白な光が教会を包む。ひりひりと全身を刺すような光だ。
「あ、ああ……」神父の声が震える。歓喜の声だ。
光が徐々に小さくなっていく。それと同時に人影の姿があらわになる。神父は息を吞んだ。
黒々した山羊のような角が頭に二本。佇む影の両目は真紅に染まっていた。神父に微笑んだ瞬間、ぎらりと長い牙が顔を出す。
そう、それはまるで――。