63:ノンノ、発見する
黒塗り修正部分はお好きな単語を当てはめてください。
肉じゃが、カレー、唐揚げとかでも読めると思います。
「はぁ~~……」
私は深くため息を吐く。廃墟から戻ってから、ため息を吐く回数がぐっと増えてしまった。
なにしろ、とても気が重い。心身ともに無事だから良かったものの、またしてもアンタレスに助けてもらってしまったのだから。
思い起こせば子供の頃から、私はアンタレスに助けてもらってばかりだ。
八歳の頃。植物園の特別展示会に家族で出掛けて、イチャイチャするカップルに気を取られて迷子になり、最終的にアンタレスが迎えに来てくれたこともあった。
アンタレスは残留思念を読めるので、私がどこへ行こうが最後には発見できるのだが、その為うちの家族はアンタレスのことを私発見器だと思っているふしがあった。
巨大食人植物に食われかけていた私を発見したアンタレスの絶句した表情を、私は今でもつぶさに思い返せる。
『私の髪の毛、二十センチも食べられちゃったよぉぉぉ! お色気お姉さんになるためには艶々ロングヘアーが大事なのに!』
『髪の毛だけで済んだんだからいいでしょ。ノンノは短い髪も似合うし、長いのがいいならまた伸ばせばいいよ』
原っぱにピクニックへ行った時は、十一歳の私とアンタレス二人揃ってユニコーンに攫われたっけなぁ。
ユニコーンがたくさんいる洞窟に連れて行かれて、果物とかお花のおもてなしを受けた。
『私だって早く大人になって、爛れた夜を迎えたいのに! 好きで前世から処女歴更新してるわけじゃないのに!』
『待って、なんで僕までユニコーンに連れてこられたわけ?? は?? もしかしてこのユニコーンたち、僕を女性だと思ってるの?? ……ふざけるなよ。角をへし折ってやる!!!!』
あの時はアンタレスがガチギレ状態で、護衛の救助が来るまで必死にアンタレスを止めたっけ……。
あの頃のアンタレスはまだ背が低くて、ちょっとボーイッシュな美少女に見えたから、ユニコーンも勘違いしてしまったのだろう。仕方がないね。
ヒューマンウォッチングにぴったりな壁の隙間を見つけたので入ったら、お尻が引っ掛かって動けなくなった時も、アンタレスが引っこ抜いてくれた。
『僕が見つけなかったら、ノンノは本当に酷い目に遭ったかもしれないんだからね!?』と、めちゃくちゃ怒られた。
たしかに、アンタレスが私を早期発見してくれなかったら、壁の隙間で一人寂しく夜を明かしたことだろう。
ちなみにこれは去年、十五歳の時の話。
とにかく、最近の私はちょっとアンタレスに助けてもらいすぎだ。私、健全強制力に消されかかっているのかな?
そういうわけでアンタレスへのお詫びの品を探しに、侍女のセレスティと街へ買い物に来たのだが―――……。
「ノンノお嬢様、さすがに買い過ぎでは!?」
「えぇ~? そうかしら?」
「バギンズ様にお似合いだからと言って、服も靴も小物も買い過ぎです! ソックスガーターだけで何十足買うおつもりなのですか!? ノンノお嬢様のお小遣いの額を超えてしまいますわよ!?」
アンタレスへのプレゼントはお小遣いじゃなくて、ピーチパイ・ボインスキーとして稼いだお金から出しているから平気だもん。
アンタレスは顔が綺麗だから全部似合ってしまって、一つだけなんて選べないんだもん。
ソックスガーターってえっちだから、いっぱい必要だもん。アンタレスに毎日スラックスの裾を捲って見せてほしいんだもん。
そう思ったが、セレスティから「これ以上は馬車に乗せられません」と言われたので仕方なく諦める。
「ノンノお嬢様、荷物が多すぎて人間の乗り込むスペースがないので、ちょっと馬車の中を整理してきます。そのあいだ、近くのカフェで休んでいてください」
「わかりましたわ、セレスティ」
腕まくりして馬車の中の整理し始めるセレスティから離れ、私はすぐ近くのカフェに向かった。
カフェの入り口前にはいくつかのテラス席があり、そこには遠目から見てもお色気ムンムンなお姉さん二人組の姿を発見した。
私は歩調を緩め、さりげない振りをしながらお色気お姉さんたちを観察する。
ほう……、おっぱいが大きい。ウエストもキュッと細くて、マーメイドラインのスカートを履いたお尻が超絶セクシーだ。私も今度、ああいう感じのスカート買ってみよう。
背中に流された髪もサラサラ艶々で、どんなケアをしているのか気になる。ネイルはどんな色かな? 靴はどんなデザインかな? 香水も知りたい。お色気お姉さんたちの愛用品全部買いたい。そして私もお色気お姉さんになるのだ! お色気お姉さんのコスプレをするのだっ!
じわじわと二人組に近付いて行くと、私の視線がギラギラし過ぎたのか、お姉さんたちが振り返った。
「あーっ! アンタ、前にウラジミール様に連れてこられた、迷子の子猫ちゃんじゃない!? ひさしぶりねっ! 元気にしてたの!? 彼氏と仲良くやってる~?」
「あらあら。どこかで見たことのある子だと思ったら。以前シトラス王国のお城でお会いしましたわね、子猫ちゃん。お元気そうでなによりですわ」
「ファビュラス様! マーベラス様! こんなところでお会いできるなんて……!!」
「はぁっ!? ファビュラスとマーベラスって誰よっ!?」
隣国の王族ウラジミール・ウェセックス第二王子のハーレム構成員、ファビュラスさんとマーベラスさんがそこにいらっしゃった。
▽
「お久しぶりですわ、ファビュラス様、マーベラス様。バニーガール衣装じゃなかったので、最初は気付きませんでしたわ」
ファビュラスさんとマーベラスさんは私がお二人に勝手に付けたあだ名だが、「名乗るのがめんどくさいからそれでいいわよ!」「どうせ偽名しか、あなたに教えられませんし」と言われたので、そのまま使っていいことになった。
「お二人はなにをしにシトラス王国へ? バカンスですか?」
ウェセックス王子が来訪したという話は聞かないので、個人的な休暇で遊びに来たのだろうか。
「ちょっと、うちの国から逃げ出した要人を暗さ「ええ、私たち二人でバカンスですわ、子猫ちゃん」
ファビュラスさんはなにかを言いかけたが、すぐにマーベラスさんに口を塞がれてモガモガしている。それをすぐにファビュラスさんが振り払い、「だぁぁぁ! もうっ! 悪かったわよ、今のはあたしが迂闊だったわ!」と叫んだ。
「鳥頭のあなたがいつまで覚えていられるかは知りませんけど、わたくしの足を引っ張らないでくださいませ」
「アンタも、出発前にウラジミール様にお会いできなかったことをあたしに八つ当たりするのはやめてよね! ムカツク女!」
ファビュラスさんとマーベラスさん、意外とギスギスした関係だったらしい。
私は気付かない振りをしているが、テーブルの下でお互いの足をゲシゲシと踏み合っている。怖ぇぇ。
アイスティーを飲むことに集中している振りをしていると、ようやく女の戦いに休憩が入ったらしくファビュラスさんが「ねぇねぇ、子猫ちゃん!」と私に声を掛けてきた。
「子猫ちゃんは今日は一人で買い物だったの? あの時の彼氏とデートしないの?」
「いえ、かくかくしかじかで彼氏にお詫びのプレゼントを買いに来たのですが……」
けっきょく私がアンタレスに着せたい服や小物を買い漁ったという結果で、お詫びとは一体……? という状況になってしまっていることを、お二人に伝えた。
するとファビュラスさんとマーベラスさんは、なんてことの無い表情で私に言った。
「■■■■■すればいいじゃない! 男なんて、それでイチコロでしょ!」
「■■■■■なども、ウラジミール様はお喜ばれますわ。でも子猫ちゃんのような初心者だと難しいかしら……?」
「それなら■■■■■で■■■■■で■■■■■よ!」
「あのぉ、■■■■■とか■■■■■ってなんでしょうか……?」
耳慣れない多くの単語に困惑しながら尋ねれば、ファビュラスさんとマーベラスさんは突然ニマニマと笑って、私に顔を寄せた。
「アンタも彼氏が居るんだから、知っておかなくちゃダメよ!」
「結婚してから知って、泣き喚くはめになったら可哀そうですからね」
「はぁ……?」
そして私は宇宙の歴史、この世の真理、未知なる扉の向こう側へと足を踏み入れた。
▽
「だぁかぁらぁ~、■■■■■っていうのはね! ごにょごにょごにょ……」
「ひょぇぇぇぇーーーっ!?」
「それでごにょごにょごにょの、ごにょごにょですわよ、子猫ちゃん」
「あばばばばぁーーーっ!?」
「ノンノお嬢様、馬車の準備が出来ましたよ。さぁ、ジルベスト家へ帰りましょう」
「待ってぇぇぇセレスティぃぃぃ!!!! 私は今、ファビュラス様とマーベラス様から、世界で一番大事なことを教えてもらっているところなんですの!!!!」
「早く帰りますよ、ノンノお嬢様」
「せめてもう一個!! ■■■■■って、なんですか!?」
「あら、もう帰りの時間? 彼氏と仲良くしなさいよ、子猫ちゃん! まったねー!」
「気を付けてお帰りなさい、子猫ちゃん。さようなら」
「あぁんっ! 教えて、ファビュラス先生、マーベラス先生~~~!!」
まだ二つしか教わってないのにぃぃぃ!!
もう百個くらい、えっちなことを教えてよぉぉぉ!!




