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【書籍化】妄想好き転生令嬢と、他人の心が読める攻略対象者 ~ただの幼馴染のはずが、溺愛ルートに突入しちゃいました!?~(WEB版)  作者: 三日月さんかく
番外編:夏期休暇

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60:ノンノ、廃墟へ行く⑥



 ココアブラウンの髪を振り乱した霊子ちゃんが、物凄い勢いで私の体に向かってくる。めちゃくちゃ怖いぃぃぃ!!


《この中で最も邪悪な心を持ったお前に、取りついてやりますわ!! 覚悟なさいっ!!》

「覚悟とか無理ですけどっ!? やだぁぁぁぁぁ!!」


 聖水スプレーのバリアはすでに消えていた。

 物理的攻撃に意味はないだろうと思いつつ、頭に被っていた鍋を投げつけてみる。鍋は無情にも霊子ちゃんの体を通り抜け、部屋の壁にぶつかり、カランッと音を立てて床に落ちた。


 霊子ちゃんが冷たそうな青白い両手を私に伸ばしてきた。

 あの手に触れられたらおしまいだと、直感的にわかった。


 ごめんなさい、神様。

 私、ノンノ・ジルベストはたいへん邪悪な心を持ち、恥の多い生涯を送って来ました。

 前世からスケベだったし、十八禁ゲームにとても未練があります。今もアンタレスとえっちなことがしてみたくてたまらないし、この国に十八禁文化が生まれてほしいと願っているし、そのためならば心優しいお父様が左遷してもやむ無しだと思っています。私はそんなとっても悪い子です。特に改心する気もありません。

 ですが、神様。

 この場にいる私以外の人、ヒロインと攻略対象者だけなんですけど!? この人たち、乙女ゲーム世界の光の存在みたいなものじゃん!? 心の清い連中と比べるのはあまりにもひどいと思います!!

 世の中には私程度の悪い奴は五万といるし、ていうか、邪悪な心を持ってなにが悪いんだぁぁぁぁ!!!!

 この邪悪な心を体に封じ込めて外側に出さないようにしているだけで、私は十分良い子でしょぉぉぉぉ!!!? むしろ私は世界中の人から「こんなに邪悪な心を持っているのに、人の皮を被って生きているだなんてとっても偉いよ!」って、褒め称えられるべき!!!! うわぁぁぁぁんっ!!!!


一般人(モブ)が清い心で人生を生きていけるもんか~!! 霊子ちゃんのばかぁぁぁ!!」


 霊子ちゃんの手が私の体に触れようとした、その時。


「逃げて、ノンノっ!!!!」


 横から走って来たアンタレスに、私は突き飛ばされた。「ふげっ!」と床に顔がめり込む。

 したたかに顔面を打ちつけたが、無事に霊子ちゃんから逃れられた模様だ。

 ホッとして床から起き上がり、アンタレスにお礼を言おうと振り向く。


 すると私の目の前で、霊子ちゃんの手がアンタレスの胴体を貫き、そのままアンタレスの中へと入っていくのが見えた。


「嘘っ!? アンタレス!?」


 霊子ちゃんに取り憑かれたアンタレスは、胸元を押さえて苦しみ始めた。立っていることも出来ないようで、床へと崩れるように座り込む。

 アンタレスの体の内側からは、霊子ちゃんの声が聞こえてきた。


《代わりにこっちの男に取り憑いてやるわ! この男もなかなか闇深い部分を持っていますわね。さぁお前、わたしの言いなりになりなさい! この体の支配権をわたしに渡しなさい!》

「う、ぐぅ、ううぅ……っ!」

「やだやだやだ! アンタレスの体から出ていってよ! 霊子ちゃんの狙いは私でしょ!? アンタレスに取り憑くくらいなら私に取り憑きなさいよ、ばか幽霊っ!!」

《あはははは! この男はわたしのおもちゃよ! 精神を乗っ取って、体をボロボロにしてやりますわ!》

「私の彼氏を返してよ!! アンタレスの心も体も私のものなんだから!! 霊子ちゃんのおもちゃになんてさせないんだから!! 私が弄ぶんだから!!」


 なに他人の彼氏を奪おうとしてるんだ、この幽霊め! ぶっとばすぞ!


 そんなふうに腹は立つのだが、霊子ちゃんをアンタレスの体から追い出す方法がまったくわからない。

 気持ちばかりが焦って、どうしたらアンタレスを助けられるのかわからない。

 こんなことならもっと普段から、えっちなこと以外のことにも興味を持っておくんだった。でもほかに興味を向けても、除霊の方法とかに興味が向いたかはなぞだけれど……。うぇぇぇぇん。


 気持ちばかり焦る私の手を、アンタレスがそっと握った。

 アンタレスはずっと額に汗をかいて、苦し気に呼吸を繰り返している。


「僕は、だい、じょうぶ、だから……。そんなに泣かないで、ノンノ……」

「ちっとも大丈夫そうじゃないよ、アンタレス!?」

「僕はいつだって、自分を律してきたから……、悪霊ごときに、そう簡単には、乗っ取られたりしないよ……」

「アンタレスぅ……!!」


 どうしてこんなに辛そうなのに、恨み言一つ言わないの? 私を庇ったせいで、アンタレスはこんな目に遭っているのに。


「ノンノの、せいじゃない、よ」

「でもぉ、私が邪悪な心を持っているからぁ……!」

「負の感情を持つのは人として普通だって、僕に教えてくれたのは、きみでしょ……。それにノンノを助けるのは、小さな頃からの、僕の特権だ……。ぐぅ、あぁ、ぁぁぁああ……っ!」

「やめてっ、霊子ちゃん、やめてよぉ! アンタレスにひどいことしないでぇぇ!」


 私とアンタレスの周囲では、スピカちゃんとプロキオンが心配そうな様子でうろうろし、カノープス王子も「ボクにもっと力があれば、こんなことには……!」と拳を床に打ちつけていた。


「どうしましょう、どうしましょう……っ!? バギンズ様とノンノ様をお助けするために、私は……。あっ!!」


 スピカちゃんは廃墟探索に必要そうな物を入れた小振りのポシェットを肩から下げていたのだが、突然その中を漁りだした。


「傷薬じゃなくて……、方位磁石でもなくて……。ありました! これです!」


 ポシェットの中からスピカちゃんが取り出したのは、金色をした葉っぱだった。葉っぱの表面には不思議な紋様が刻まれている。


「『妖精王の護符』です!」


 それは妖精たちのお祭りに参加した際に、プロキオンが手に入れたものだ。妖精剣士たちと戦い、優勝賞品として貰ったものを、スピカちゃんが受け取ったのだ。

『妖精王の護符』の使用は一回限りだが、その効果はたしか、災いから身を守ることが出来ることだったような気がする。


 スピカちゃんはそんな貴重な『妖精王の護符』を、なんの躊躇いもなく使用した。


「『妖精王の護符』よ、どうかバギンズ様とノンノ様を助けてくださいっ!!」


 護符から黄金の光が放たれる。光は一瞬で廃墟の中を埋め尽くした。

 そして光の中から、一人のシルエットが浮かびあがる。

 だんだん光が弱まってくると、シルエットの人物の姿がしっかりと見えてきた。

 アオザイのような衣装に、尖った耳、額には月桂樹で作られた冠。焦げ茶色の髪を腰が隠れるほどの長さまで伸ばしているが、顔の作りは男性的だ。でも、どこかで見たことがあるような気もする。


 年齢も不祥なその妖精は、儚げな微笑みを浮かべると、


「護符に呼ばれてきました。当代妖精王、アルベリヒです」


 と言った。


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