第91話 致命傷と蘇る記憶
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
では、引き続き無属性魔法使いをお楽しみ下さい。
エセナゴッドの自爆に巻き込まれたアルベルトの姿を見て放心状態になっているアネットにメルダが呼びかける。
「アネット様! アネット!!」
「……え?」
「ありったけのポーションを早く! アルベルト様が死んでしまいます!!」
アネットがメルダの方を見ると左脇腹に空いた穴から大量に出血しているアルベルトが横たわっていた。
「わ、分かりました! 直ぐに!!」
(どうかアルベルト様、死なないで!)
「なあ、アルベルトは大丈夫なの!?」
レニーもアルベルトの状態を見て心底不安な表情になり心配し、アネットはメルダに言われて全部のポーションをアルベルトに使うが足りないらしく、魔糸を広げて傷口を塞いでいるにも関わらず隙間から血が流れ出ていた。
「どうだ? アルベルトは助かりそウカ?」
「アネット様、ポーションはこれで全てなのですか?」
「ええ、全部使いきりました……。」
「どうしましょう、まだ全然足りないなんて……。」
「……うぅ、ワシは一体……ここは……何処じゃ。 むっ!?」
アルベルトの傷を治そうと必死になっているメルダ達に先程まで気絶していた老人、ナゴット神父が意識を取り戻し近づいていく。
それに気付いたレニーがナゴット神父に対して構える。
「待ちなさい! アルベルトに手は出させないわよ!!」
「今は、そんな時ではなかろう! その者の傷、ワシに見せてはくれぬか?」
「信じて、良いのですね?」
「駄目よ、いくらなんでも敵だった奴を信じるとかどうかしてるわよ!」
「一刻を争うのです、アルベルト様を助けるには他に方法が見つかりません!」
「わ、分かったわよ……好きにしたら、どうなっても知らないから!」
「では、始めよう……神よ我が声に応え、この者に生きる力を与え給えヒーリング!」
ナゴット神父はアルベルトに回復魔法をかけ始め傷口が塞がっても、しばらく時間が経つが一向に顔色が青い事に気がつく。
「まだ顔色悪いじゃない! アンタ、アルベルトに何をしたのよ!!」
「妙じゃな……、もしや毒か!?」
「毒!?」
なんとエセナゴッドは自爆する前にアルベルトに対し、毒まで体の中に送り完全に仕留めようとしていたのである。
「毒消しでしたら有りますが、効くかどうか。」
「念の為、アルベルト様に飲ませつください。」
アルベルトに飲ませようとするが気絶している為、軌道を確保しメルダが口移しで飲ませる。
すると段々と顔色は良くなり、アルベルトは静かに寝息をたて始める。
「良かった、なんとかアルベルト様は助かりそうです。 ナゴット様、有難う御座います。」
「いやいや、人命を救うのもナゴット教の教えなのでな。」
「ねえ、ねえ、メルさんに聞きたい事が有るんだけど良い?」
「何でしょうトレーシィ様?」
「何で爆発に巻き込まれたアルベルトが、ここに居るの?」
トレーシィは、一番疑問に思っている事をメルダに投げかける。
「それはですね、あの魔物が自爆する寸前に私の魔身人形のメルダ2号とアルベルト様を魔糸で繋げて位置を入れ代える魔法エクスチェンジを発動しました。」
「なるほど、だからアルベルトは助かったノカ。」
ニアミスはエセナゴッドの自爆した方向でバラバラになったメルダ2号と魔物の残骸を見ながら言う。
しばらくするとナスタークとエミリーが駆け寄り、メルダ達は事情を説明する。
「そうか、ワシは神に仕える者でありながら今まで魔物に操られていたのか……迷惑をかけたの。 ワシは、これからサハラの村へと死者に安らかな眠りを与えに行くとしよう。」
「ナゴット神父、アタシもサハラの村に着いて行っても良イカ? こんな形でも両親の最後を看取りたいンダ。」
「……着いて来ると良い。」
「悪い皆、後は頼ンダ。」
そう言ってニアミスはナゴット神父とサハラの村へと行く途中、塔の中で動きを封じていた信者達にはナゴット神父自ら事情を説明すると共にサハラの村へと赴く事になった。
その一方でジーニーは、アルベルトが機能を停止し忘れていた簡易魔法陣に液体をかけ無力化し塔へとやって来てエセナゴッドの魔法陣を解析し破壊する為に塔の中に残る。
「やっぱ、アルベルト君は詰めが甘い所があるね。 簡易魔法陣、無力化してなかったし。」
「まあ、そう言ってやるなよ。 危なっかしいのは今に始まった事じゃないだろ?」
「けどさ、アルベルトもそうだけど……あの子達いつか死ぬよ?」
「エミリー、ジーニー、二人に頼みが有る。」
「分かってるよ、ナス……あの子達を鍛えれば良いんでしょ?」
「そうこなくっちゃな! アルベルトは起きたらナスタークが稽古付けるんだろ?」
ナスターク達は、アルベルト一行の身を案じ稽古を付ける事を考えた。
気絶していたアルベルトはナスタークの家まで運ばれ、夢の中で遠い記憶を思い出していた。
イシュタッド国王陛下の前に父親のカノールと共に跪いて、とある使命を言い渡される所から夢は始まった。
「面を上げよ!」
「「はっ!」」
「アルベルトよ、お主に重大な使命を与える。 これより、ヴァレンス王国へと赴き“封印の秘術”を会得するのだ!」
「仰せのままに。」
「念の為、兵士も付けるが目立たせる訳にはいかぬからな……すまぬが二人だけになる事を許してほしい。」
こうして子供の頃の俺は、二人の兵士と共に封印の秘術を会得する為に馬車にてヴァレンス王国への近道である祠へと移動している最中に何者かに襲われ馬車から放り出されて川に落ち、そこから記憶が無くなっていた。
徐々に記憶が蘇り始め、意識が戻った俺は目を覚ますとエリーシャとレニーが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。
二人の顔を見て、忘れかけていた初デートの記憶が鮮明になっていき思わず叫び声を上げてしまった。
「アルベルト!」
「アルベルト様!」
「うわああああーーーー!!」
何時も読んでくださり有難う御座います。




