第82話 過去の約束
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
では、引き続き無属性魔法使いをお楽しみ下さい。
俺は第二試合で不可抗力とはいえレニーにした事を謝っていた。
「ホント悪かった、どうすれば機嫌直してもらえる?」
レニーは頬を膨らませ、そっぽを向きながら横目で俺の方を見ながら重い口を開く。
「デート……。」
「今なんて?」
「聞こえなかったフリしてんじゃないわよ! どうしても許して欲しかったら明日一日ずっと私と付き合いなさい!!」
「そんな事言われてもな、俺別にレニーの彼氏って訳のじゃないんだけどな。」
「デートしてくれないなら、有る事無い事憲兵に言ってやるんだから!!」
「あーもう! 分かったよ、そういやそう言う奴だったなお前は!!」
俺はレニーと初めて会った事を思い出し、この様なやりとりをしている。
7年程前だろうか、まだ子供の俺は師匠に砂浜に打ち上げられている所を拾われ冒険者としてのノウハウと魔弾の撃ち方を教えてもらっていた時の事、もう一人師匠に魔法の使い方を教わっている女の子がいたのだ。
−7年程前−
「アルベルト、そんなに力んでも魔弾は作れんぞ?」
「ふんぎぎぎ! はぁ………はぁ………駄目だ全然出せねえ。」
「ぷぷ、何よアンタ体内に尋常じゃないマナを持ってるのに詠唱も必要無い魔弾も作れないわけ?」
「う、うるさいな……まだ感覚が掴めてないだけだ!」
当時の俺は魔弾すら放てずレニーに何時も馬鹿にされていた、それでも休む事無く練習を夜遅くまで続けていた。
「今日は、このくらいにして休憩するぞ。」
「俺はまだ練習しとく。」
「ま、精々倒れない様に気をつけなさいよね〜。」
(くっそー、馬鹿にしやがって! 今に見てろよ必ず魔弾を撃てる様になってやる!!)
ナスタークの家にて、レニーとエミリーとジーニーが夕食を摂っていた。
「ナス、アルベルト君は放っておいて良いのかい?」
「んー? そうだな、あればっかりは本人が自分の感覚で覚えねーと意味が無いからな。」
「不憫なものだね、無属性魔法使いってのも空気中のマナは常人の半分も溜められないとは。」
「アルベルトはそんな事気にしなくて良いのにね、いざとなったら私が守ってあげるのに。」
「ん、ジーニーどうした?」
「ちょっとアルベルト君にアドバイスしようと思ってね。」
「そうか。」
ジーニーは席を立つとアルベルトの元へと近付いく。
「アルベルト君、そろそろ休憩しようか。 無理をしたからと言って魔法は使えないよ?」
「ジーニーさん……、そうですね明日また頑張ります。」
「そうだね、じゃあちょっとだけアドバイスしようか。 魔法が使えるようになるには深呼吸して心を落ち着ける事だよ。」
「心を落ち着ける……か、有難う御座いますジーニーさん!」
俺は一日中魔弾を撃てるようになる為の練習をしていて疲労が溜まっており、師匠の家のグレープジュースを一気飲みする。
「ゴクゴク……、ぷはー……あ、あれ?」
(何だ? 体がふらつく、無理しすぎたかな?)
「ん? アルベルト、無理しすぎたんじゃないかい? フラついてるじゃないか。」
そこへエミリーが来て、俺を心配し手に持ったグレープジュースの匂いを嗅ぎ始めた。
「アルベルト、ちょっとそのグレープジュース調べて良いかい? ……あんのボケナス! これ酒入ってんじゃねーか!!」
「どうかしたのかい? 大きな声が聞こえたけど。」
「ジーニー、アタシは今からナスタークのアホをシバキに行ってくる。 アルベルトを頼んだよ!」
エミリーが場を離れて、しばらくするとナスタークの悲鳴が聞こえてくる。
「覚悟は良いかい? このボケナスがああああ!!」
「待って助けて! 待ってくださいお願いします、あ、あ、あ、ぎゃあああ!!」
「…………。」
「さ、アルベルト君はもう寝ようか。」
俺はフラフラの体で寝床へて移動したが、自分の布団に入るつもりだったが上手く歩けず寝ているレニーの上に倒れてしまう。
「きゃっ! 何するぬよアンタ!!」
「わ、悪いわざとじゃないんだ……。」
慌てて体を起こそうとするが、バランスを崩しレニーにキスしてしまう。
「うわっ……!」
「ちょっ、何を……! ん~~~!!」
(もうダメだ、力が入らねえ。)
俺はそのままの状態で立ち上がれず深い眠りについてしまった。
翌日、俺は頭痛に苦しむ事になりレニーは朝から見当たらず師匠達が捜している様だった。
「頭痛ぇ〜……ん? ジーニーさんどうかしたんですか?」
「ああ、アルベルト君……実は。」
「レニーが居なくなった!?」
「そうなんだ、今皆で捜しているんだけど見つからなくてねアルベルト君も思い当たる場所が有るなら捜してはくれないかな?」
「わ、分かった……たぶん俺のせいだ。」
(レニーは感情的なところが有るから怒って何処かに行ったはずだ。)
師匠達もレニーをあちこち行ってさがすが、未だに見つからないようだ。
「ボケナス! ちゃんと捜してんのか! もっと目を見開いて捜したらどうなんだい?」
「捜してるわ! それにこの顔はお前がやったんだろが!! それに嫌な予感がする……早く見つけないと大変な事になるかもしれん。」
ナスタークの顔はエミリーにより原型をとどめていないくらいボコボコに変形していた。
「くそっ、どこにも居ない……まさか街の外に出たのか?」
(行けそうな場所は、近くの森くらいか……。)
一方レニーは、ナルドレイク王国の近くにある森の木陰に隠れていた。
(まだ、ドキドキしてる……アルベルトの馬鹿。 キスするなら、もっとロマンチックな事した後にしなさいよ。)
「グルル………。」
「きゃああああ!!」
森の入口付近まで来ていた俺はレニーの悲鳴を聞き、森の中に居る事を確信し走り出す。
「レニー! 何処だ!!」
「あ、アルベルト!」
(だ、ダメ……何考えてるのよ私。 アルベルトは魔弾も放てないのに助け求めたらアルベルトまで死んじゃう!)
狼の魔物が今にもレニーに向かって襲いかかろうとしている所へと遭遇する。
「この、レニーから離れろ!」
俺は咄嗟に掌を魔物に向け集中すると魔弾を撃つ事が出来たが、魔弾は魔物に当たるとシャボン玉の様に弾けて消えてしまった。
(くそ、やっぱ力不足でダメージすら与えられないか……けどこれで良い。)
「レニー! 俺がコイツを引きつけてる間に街へ帰るんだ! 良いな!!」
魔弾のおかげで魔物の狙いを俺に変える事ができた、問題は魔物からどう逃げ切るかを考えながら走る。
「くっ、頭痛ぇな……ここまでくればレニーなら街に帰れるか? うわっ、しまった!!」
俺は頭の痛みに耐え兼ね、小石に躓き転けてしまい魔物はチャンスとばかりに大きな口を広げ俺に向かって飛びかかる。
「はは……、カッコ悪いな。 ま、レニーが無事ならそれで良いか………。」
諦めかけた時、遠くの方から凄い速さで魔弾が飛んできて魔物に命中すると、魔物ごと何処か遠くへと消えて行った。
「大丈夫か、アルベルト!」
「師匠! た、助かった……。」
それから、しばらくして俺は師匠から見習い冒険者として知り合いに預けられ旅をする事になった。
その時の別れ際にレニーとある約束をしていた。
「ねぇ、アルベルト……。」
「なんだ?」
「大きくなったらさ、ずっと一緒に居てくれる?」
「まあ、良いけど。」
「ホント! じゃあ約束の指切り!」
こうして、俺はレニーとの約束を交わしたのだが、これがレニーにとっての婚約だとは思っておらず現在苦労する事になってしまっている。
「お、第四試合はやっと終わったか。 結構長かったな、さてと俺の次の対戦相手はバルディッシュだな。」
何時も読んでくださり有難う御座います。
今回は長くなってしまいました。




