第76話 シェリー対フラム・ベルジェ
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
では、引き続き無属性魔法使いをお楽しみ下さい。
「何処からでもかかって来ていいわよ? 先に言っておくけど少しくらいは楽しませて頂戴ね。」
「後悔しても知りませんわよ? はあっ!」
フラムは余裕な表情を浮かべシェスカ姫を見下すがシェスカ姫も負けじと全力でフラムの懐へと入り横に薙ぎ払うが、外れてしまう。
「あら残念ハズレ。」
「いつのまに背後に!?」
(今のは残像?)
シェスカ姫は咄嗟に後方へと向き直りながら、フラムへ攻撃を仕掛けるがまたもや残像でかすりすらしない。
「はあ、貴方も他の選手達とあまり変わらないわね。 もういいわ、痛い目みない内に負けを認めてくれる?」
「ふざけないで! ワタクシは絶対に諦めませんわ!!」
「飽くまで闘うつもりのようね、なら……力の差を教えてあげる。」
フラムは呼吸を整えるとゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと瞼を開ける。
その瞬間、フラムの姿が数秒間見えなくなるが、しばらくして同じ場所に現れる。
「貴方は何がしたいのですか? 速さを自慢しただけでは……痛っ!?」
(な、何ですの? 体中に痛みがありますわ!?)
「やっぱ貴方は私には勝てないわよ? 全身に何十回攻撃されてるのにも気づいてないのだもの。」
俺はシェスカ姫とフラムには圧倒的な力の差がある事を悟り、観客席から叫ぶ。
「シェス、じゃなかった……シェリー! もういい、これ以上勝負しても結果は見えてる! だから!!」
「おだまりなさい!!」
「え?」
こちらを見ているシェスカ姫の目は涙ぐんでおり、負けを認めないという意思が伝わって来た。
「ワタクシは諦めませんわ……。」
「強情な方ね、あちらの殿方の言う様に勝負は付いてると言うのに。 諦めないならそれでも良いわよ? 消えない傷が残っても良いならね。」
シェスカ姫はフラムを見据えるが再び姿が消え、痛みだけが増えていく。
「くっ……うっ……!?」
(どうすれば、まともに闘えますの? ワタクシの憧れた昔読んだ絵本の剣聖なら、どんな状況でも諦めずに闘って勝利してましたわ。 ワタクシだって諦める訳には……。)
「ほらほら! どうしたの、抵抗してくれないとつまらないでしょ?」
観客席にて俺達は、どうしていいのかわからず成り行きを見守るしかなかった。
「なあ師匠、もうこれ止めた方が良いだろ? 何で黙って見てんだよ! 試合前に止めるって言ってただろ!!」
「悪い、アルベルト……あの動きは俺にも見えん。」
「なっ!? まさか師匠でも捉えきれてないのか!?」
「ああ、予想以上だ……どうやら教会の連中はとんだ化け物を仲間につけてるらしいな。」
俺達に出来る事は体中に痣が増えていくシェスカ姫を見守ることしかできないようだ。
「あっはははは! さっきで負けていたら、こんなに痣だらけにならずに済んだのにねえ? あら、喋らなくなっちゃったわね。 この一撃で終わらせてあげるわ!」
高速移動しながら、シェスカ姫に攻撃し続けたフラムは止めをさそうと横薙ぎに攻撃しようとした瞬間上空に飛ばされる。
(な、何が起きたの? まさか、この私が攻撃された!?)
状況が飲み込めないフラムは、横目でシェスカ姫を見ると全身に青白い光を纏っているのが分かる。
(あれは、何? 光ってる?)
フラムは空中で体制を整え舞台に着地すると同時にシェスカ姫が纏っていた光が消え、その場に倒れ気絶する。
「き、気絶です! 勝者フラム・ベルジェ!!」
シェスカ姫はフラムに一撃与える事には成功するが、ダメージが蓄積していたのか倒れてしまい担架で運ばれていく。
「シェスカの所に行こう、アネットはポーションの準備をしててくれ。」
「はい、分かってます!」
俺達は闘技場の中で怪我人の運ばれる部屋へと移動し、シェスカ姫の容態を見に行く。
「これは酷イナ、あちこち痣だらケダ。」
「ポーションを飲ませましたが、顔色は良くなりましたが痣までは治らないみたいですね……。」
「ふむ、ではこれを使ってみてはどうかな?」
ふと背後から声がし後ろへ振り向くとシェスカ姫と闘った選手が何かを手に持って立っていた。
「えーと、確かバロック……さんだったか? それは?」
「いかにも、これは“エリクサー”と言ってな…軽い傷なら一瞬で治せる。」
「いいのか、そんな貴重な物使わせてもらって。」
「構わんよ、一国の姫に消えない傷が残ってしまっては一大事なのでな!」
「なんだ、気付かれていたのか……有難う御座います。 遠慮なく使わせてもらいます。」
俺はシェスカ姫にエリクサーを飲ませると体中に出来た痣が無くなっていった。
「凄いな、本当に一瞬で治った!」
「では、私は他に用事があるのでな。 縁が有ればまた会おうぞ!」
そう言うとバロックは、その場から移動していった。
「それにしても、シェスカの纏ってた青白い光……アルベルトと同じモノだったね。」
「何だスラスト? 俺と同じモノ?」
「スーさん、アルと同じモノって何が?」
「もしかして、アルベルトは気付いてなかったの!? まあいいか、実はねエルフの里に現れた魔物と戦ってた時の事なんだけど、さっきのシェスカと同じ様に青白い光を纏ってたんだよ。」
スラストは皆に俺がエルフの里でジャミールと戦った時に起こった現象について語り始めた。
「あの時は必死だったからな、何だか負けてたまるかって強く思ったら力が湧いてきたんだ。」
「不思議な事もあるようですね。」
先程から何か考え事をしているナスタークは、青白い光について考えうる一つの答えを提示する。
「その青白い光は、もしかすると“勇気”かもしれないな。」
「師匠、勇気って?」
「御伽噺や絵本になっている勇者伝説に必ず描かれている青白い光ってとこに魔を退ける力、勇気と度々見るからな。 条件は分からないが、どの国でも神に選ばれた者にしか使えないと噂されているみたいだ。」
「もしそうなら、シェスカとアルベルト様は神に選ばれた存在になるのね!」
「俺には良く分かんねーや、……勇気か。」
俺は拳を握り仲間を守る為、勇気を使いこなしたいと強く思った。
何時も読んでくださり有難う御座います。
楽しんで頂けたのなら幸いです。




