第68話 前回優勝者と虫嫌い
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
引き続き無属性魔法使いをお楽しみください。
俺はニアミスとシェスカ姫に連れられ武闘大会の会場で受付に参加者として参加用紙に名前を記入していた。
「アルベルトは拳闘士の部だな。」
「へぇ、戦士の部と拳闘士の部で分けられてんだな。」
「ワタクシは戦士の部ですわ、こっちの方は会場で用意された特殊な造りをした武器を使って試合するみたいですわ。」
「で、アタシみたいに自分の肉体で試合するのが拳闘士の部って事ダナ。」
「これでよしっ……と。」
「はい、有難う御座います、3日後に予選試合がありますので忘れずにお伺いくださいね。」
「ああ、分かった……ん?」
参加用紙に名前を書き終えたところで、会場の壁に腕を組み俺の方を見ている人物に気が付く。
その人物は黒髪で赤い目をし細身で筋肉質な青年に見える。
「なあ、あの人も参加者か?」
「ん、あの人は前回の優勝者だよ! バゼラードさんは今回の優勝候補の一人なんだ。 なんせ、前々回の優勝者を一撃で沈めてたからねアレには本当に驚かされたよ!」
「そんなに強いのか、戦ってみたいな! アレ、居なくなってる……。」
「誰か気になる対戦相手でも居たのかな? まあ、孤児院出身だから教会に行けば何時でも会えると思うよ。」
バゼラードという前回優勝者の話を聞き、俺達は師匠の家に帰る道中今度は魔法使いらしき格好の人物が何か箱のような物を持って行くのが見えた。
「どうしされました? アルベルトさん………。」
「いや、アレ……。」
「あの人が持ってるの、確か“モンスターボックス”って奴と似てルナ。」
魔法使いらしき人物に俺は声をかけ何故モンスターボックスを持っているのか問いかける。
「すみませーん、その手に持ってるのはモンスターボックスですよね?」
そう聞くと魔法使いはムッと眉を顰め、苛立った口調で話しかける。
「モンスターボックスですって? これはナゴット様がダンジョンの魔物を浄化する為に造られた聖なる箱“セイントボックス”よ! あんな魔物を産み出す迷惑な物と一緒にしないで頂戴!!」
「そ、そうなんですか……。」
「そうよ、この国に来る途中で貴方も知っているでしょう? ナゴット様は奇跡を起こした話を! あの方を信じていればいつか私も大好きだった姉も生き返らせてもらえるはずだもの! じゃあね。」
魔法使いの格好をした冒険者は、そのまま箱を遠くへ持って行った。
「なあ、ニアミス……今のどう思う?」
「亡くなった人に会いたいと思うのはアタシだって同じダ、けど……あの手に持ってるのは前に聞いたモンスターボックスってのと似てルナ。」
「あの、アルベルトさんもニアミスさんも一体何の話を仰っているのです?」
「ああ、冒険者の間で色々話が出てるモンスターボックスの事で各地で発見されては、誰が何の為に設置してるのか謎の物体なんだ。」
「では、あの箱自体が魔物という事なのでしょうか?」
「いや、違うな……アレは一定の時間が経つと魔物を産み出す造りになっているようダナ。 まあアタシは昔小耳に挟んだだけだから確かな情報かは分かラン。」
「本当に危ない物でしたら、あの方を止めた方が良いのでは?」
シェスカ姫の意見は、もっともだが師匠の言葉が脳裏を過る。
「いや、師匠は教会がキナ臭いと言っていたし今は探るべきじゃ無いだろうな……一度師匠のところで話を聞いた方が良さそうだ。」
一方その頃、ナスタークの家ではメルダが料理を作っていた。
「これはサボテンでしょうか?」
「サボテンだが、刺抜きをして焼いて食う事が出来るぞ! コイツと酒が合うんだな~これが!」
「部屋が汚かったので料理も出来ないものと思ってましたので意外です。」
「君、なんか刺が有る言い方をするね……そりゃおじさん一人暮らししてるんだから料理ぐらいするよ。」
メルダは棚に保管されている瓶をチラッとみて、中に黒い何かが敷き詰められてるのを発見する。
「これは何でしょうか?」
「おっ、それに興味有るのか? 見た目はアレだが結構いけるぞ!」
「見た目はアレとは一体……!? いやああああーーーー!!」
瓶の中に敷き詰められてるのをよく見ると、それは大量の乾燥した蠍だった。
落とした衝撃で中身がぶちまけられ、悲鳴を聞いたエリーシャ達が台所へと集まってくる。
「何今の悲鳴! メルダ大丈夫、何が合ったの!?」
「エリーシャ様……、うぅ……。」
「どうしたの、凄い声聞こえたよ!」
「何があったんだ!?」
(あっ……、これアカンやつだ!)
台所には割れた瓶から、乾燥した蠍が散けておりメルダは虫が嫌いだったのかエリーシャに泣きついている。
「あー、いやこれは……その違うんだ……俺は何もしてないぞ! 本当だ信じてくれ!」
エリーシャ達はナスタークを卑下する目で見ており明らかに信じていないようだった。
しかし、アネットは現場の状況を察したのか経緯を推理する。
「なるほど、ようするに料理をしている最中メルダさんが手にした物の中身が虫だという事に気付いて悲鳴を上げたってことですね。」
「つまり、私達に虫を食べさせようとしてたの!?」
「いや、そんな事……。」
「え? 虫食べないの!? 僕の故郷では普通に虫取って食べるよ?」
「うん、あたしも花の蜜ばかりじゃなくて虫食べる事有るよ?」
「「「え!?」」」
種族が違うせいか食に対しての価値観が人間とエルフと妖精では違うようだ。
「まあ、そうですよね……種族が違うって事は文化も違うわけですし。」
「メルダさん、虫嫌いのようだしリビングに連れて行った方が良いんじゃない?」
「そうだよね、何か顔色わるいし……パリパリ。」
「いや、それ食べながら言う事じゃないから……。」
トレーシィは床に転がっている乾燥した蠍を瓶の破片を落として食べていた。
その姿を見たメルダはさらに顔色が悪くなり気絶し、エリーシャはリビングまで運んで行った。
「危ないから妖精の娘は、それ以上コレ食うなよ……処分するから。」
「えー、勿体ない。」
しばらくしてアルベルト達が戻りナスタークは状況説明を強いられるのであった。
何時も読んでくださり有難う御座います。
楽しんでいただけたのなら幸いです。




