第41話 小さな悪夢 焦る本体
第二章は第26話からです。
引き続き無属性魔法使いをお楽しみください。
真っ白な空間で気絶している魔物がいた。
その魔物は50センチ程の大きさで頭部が馬であり躰は人を模しているのだが腰から下は揺らめいて足が無く見た目は巨人の魔物とそっくりだった。
「はっ! いっけね、気絶してたか……ったく誰だよ! あんな馬鹿でかい音鳴らしやがったのは、うげっ!!」
そう、この魔物こそバクムーマの本体である。
そして、今まさに自分の造りだした魔力体に侵入している存在に気付いたところだ。
「や、やべぇ……どうしよう! どうにかして追い出さねえと、せっかくおれっちがコツコツとガキ共を攫って造り上げたおれっちだけの国が壊されちまう!」
事の発端はバクムーマが何となく夜中にサーメイル王国に入りこみ、子供の夢を吸い込むように食べた時だった。
過去
「お、このガキの夢……中々美味いじゃないか。」
「おい、そこのお前何をしている! 魔物か、成敗してくれる!」
(やべ、見つかった!!)
バクムーマは急いで街の外へと逃げ出し事無きを得たが子供の見る夢が相当美味だったのか、再び食べたいと思うが街の兵士や冒険者に見つかってしまったら、倒されるのは明白だった。
(くっそー、食事中くらい気を利かせても良いじゃないか! ん、あれは何だ……妖精か?)
バクムーマは隠れて妖精が何処に行くのか着いて行くと先日、夢を食べた子供の元へとやってきていた。
(何だよ、楽しそうにしやがって……そうだ、良いこと考えた! おれっち天才じゃね!)
子供と妖精が愉しく遊ぶ姿を見たバクムーマは、自身の魔力で妖精の姿をした影妖精を造りだした。
(確か、妖精は夜には活動しなかったな…キッヒヒヒヒ!)
それからというものサーメイル王国では妖精が子供達を攫ったという噂が流れる始めた。
無論、妖精達は知るはずも無く一方的に犯人扱いを受けバクムーマはその様子を見ながら嘲笑っていたのである。
その後、ナヤルック村近辺にて巨人を見たという情報が瞬く間に広がるが巨人が子供を攫っているなど思うはずもなかった。
そして現在、バクムーマは侵入者の排除に思考を巡らせていた。
「くそっ、どうする? このままじゃ見つかるのも時間の問題だ。」
焦るバクムーマだったが最近、子供じみたオッサンを取り込んだ事を思い出す。
「そうだ! あの時のオッサンの夢を使って追い出すか、殺せば済む事じゃないか! キッヒヒヒヒ!」
一方その頃、アルベルト達はクレヨンで描かれた世界に攫われた子供達がいないか調べ廻っていた。
「何処にも子供いないね、でも確かに気配は感じるのよね。」
「気配って、どのくらいだ?」
「結構な数だよ? 見ている夢とでも繋がってるのか知らないけど、あちこちから感じるの。」
俺とトレーシィはバクムーマの中を探索していると悪趣味な黄金像が目に入る。
「ん、何だこれ?」
「アル、どうかしたの?」
「ああ、この像の顔……どっかで見覚えがあるんだよ。」
黄金像の顔に俺は既視感を覚えており、その顔をトレーシィが覗きこむと何かを思い出したのか怒った表情になる。
「あっ! この黄金像の顔見覚えが有るよ! 確か前にあたしの後ろから抱き付いてきた変態よ!!」
「変態て……、あっ! 思い出した、クレメンスだ! この顔クレメンスにそっくりなんだ!!」
そんなやりとりをしていると黄金像がゆっくりと動き出し、俺達に襲いかかってきた。
「ちょっと! こいつ動くわよ!! キャッ!」
「トレーシィ!!」
俺は黄金像がトレーシィに腕を振り下ろす動作をしているのに気付いて素早く腕に魔弾を放つ。
すると、黄金像の腕は砕け中身が空洞になっていた。
「大丈夫か?」
「ごめん、なんとか無事よ!」
黄金像は何かブツブツ言っており、よく聞くと金、名誉、地位と繰り返して呟いているのが分かる。
「この台詞、龍の顎にいた時に何度も聞いたな。」
「アル見て! さっき破壊したところ再生していってる!」
巨人のバクムーマと同じ様に黄金像も直ぐさま回復していた。
「外の奴と同じかよ!」
(アルベルト様、聞こえる? エリーシャよ!)
(どうした?)
俺達が悪趣味な黄金像と対峙している中、外の方でも動きが有ったらしい。
「流石に限界のようですね、魔糸で縛ってはいましたが起き上がってしまいますね。」
「アルベルト様、メルダがバクムーマを縛っていたのですが無理矢理に起き上がられました!」
(他は、どうなってる?)
「他は、バクムーマが動かなくなる前と同じ状況よ! それにこの方角ってサーメイル王国に移動してるわ!!」
そう、バクムーマは魔力体である巨人の躰を起こし何とサーメイル王国に前進し始めたのである。
(何だって!? 分かった、こっちも本体を捜し出すから粘ってくれ!!)
巨人のバクムーマはサーメイル王国に移動し、周囲の影妖精はスラストやメルダ、ニアミスとシェスカ姫がそれぞれ相手をしている。
アネットに関しては、眠らされない様に少し離れた位置から道具配分を行っているようだ。
「アル! 大丈夫なの? さっきから黙って攻撃躱してるけど。」
「大丈夫だ、けど早くこいつ倒した方が良いな。 外もかなりヤバイ状況らしい!」
「モタモタしてる暇は無いわね、一気に魔力を失わせる事出来ないかしら?」
トレーシィの言葉を聞いて試していない魔法が有る事を思い出した。
「それだ! サンキュー、トレーシィ!」
「え? 何、どれ?」
俺は黄金像に手を当て無属性魔法を唱える。
「マナドレイン!!」
しかし黄金像は魔力がマナに変換されず、攻撃を続ける。
「なっ! どうなってるんだ!! マナドレインで吸収出来ない!?」
「ねえ、アル……提案なんだけど。」
「何だ、聞くだけは聞くが……。」
「こいつ無視して本体捜さない?」
「それは名案だな、丁度俺も同じ事考えてた。」
俺達は黄金像から逃げ出し、バクムーマ本体がいそうな場所を虱潰しに探すのであった。
何時も読んでくださり有難う御座います。
楽しんでくれたのなら幸いです。




