第4話 没落までのカウントダウン(追放側視点)
今回は追放側視点になります。
アルベルトがSランクパーティー龍の顎から追放された夜の宿屋にて両脇に女を侍らす影があった。
そう、リーダーのクレメンス・バッカーニアとサイドにいるのはニアミスとケニーである。
「がははは、やっと無能から解放されてスッキリしたぜ!」
「ホントよねぇ、何の役にも立てないし魔物にちょっかいだして狙われるし最悪だったわ!」
「私も詠唱中に目の前でうろちょろされて気が散ってたのよね。」
龍の顎のメンバーから次々とアルベルトに対しての不満が漏れる。
しかし彼等は知らない。アルベルトが詠唱中のケニーを魔物に狙われないようにする為、魔弾を放ち自身へとターゲットを変更させていたことを。
「でも良かったの?」
「ん? 何がだ?」
「あいつのポケットから、お金盗ってたじゃない?」
「ああ、良いんだよ! コイツは俺達、龍の顎にかけた迷惑料なんだからよ!!」
そう、なけなしのお金が無くなっていたのはクレメンスが盗んでいたからである。
「言えてる、迷惑料にしては結構安いけどね~。」
「で、次のダンジョンは何処にするの?」
「そうだな、ナルデナ洞窟なんてどうだ? 今の俺達なら足手纏いがいなくなったから洞窟の主くらい楽に倒せるはずだ。」
ナルデナ洞窟の最奥地には、なんでも洞窟の主が伝説の宝を守っているという噂があり、その魔物に龍の顎は挑戦するようだ。
「賛成! その前に適当な荷物持ちでも入れない?
アイツと違って邪魔しない奴ね。」
「そうだな、適当な奴でもメンバーに迎えるか。俺達、龍の顎からスカウトされて断る奴なんていねぇだろ。」
そして夜が明けクレメンスは適当な女性をスカウトした。
「あ、あの本日は私のような者をSランクパーティー龍の顎にスカウトしていただきありがとうございます!!」
クレメンスがスカウトしたのは、黒髪をサイドに三つ編みにし眼鏡をかけた女性だった。
「ねぇリーダー、本当に適当な人過ぎナイ?」
ニアミスは少し不満の表情をしていたがケニーは、左程気にしてはいなかった。
「ニアミス、リーダーを信じましょうよ
私達だけでも十分戦えるでしょうし。」
「そういうこった、精々俺達の足を引っ張らないようにしなよ新人のアネットちゃん?」
「は、はい! が、頑張ります!!」
しばらくして、必要な道具を一通り揃えナルデナ洞窟へと辿り着く。
「うしっ! オメエら何時も通り俺とニアミスが先頭で魔物を倒して行くからケニーは、回復魔法の準備を頼むぜ?」
クレメンスは、ダンジョンに入る前に指示をだすがアネットにだけ指示が出されなかったのを疑問に思いアネットが質問する。
「あの、私は何をすれば……。」
そう訪ねるとケニーが肩に手を置き呟く。
「貴方は何もしなくていいの、自分の身だけを守っていなさい。」
アネットはその言葉に不安を募らせながらも、彼等の箔の付いたSランクパーティーなんだから大丈夫だという感情が勝ってしまっていた。
ナルデナ洞窟の中は意外にも明るく、遠くまで見通せる程の光が満ちていた。
その幻想的な光景は、岩肌に着いている大量の微生物が発光しているかららしい。
「思ったより中は明るいのですね…。」
アネットは、その光景に圧巻されていた。
「おっと、お喋りはそこまでだ。 魔物が出てきたぜ?」
目の前には、数体の小人のような大きさで頭には2本の角を生やし緑色の怪物が現れる。
「ゴブリンね…、私達の敵じゃないわ!」
「行くぜ! 雑魚狩りの時間だ!!」
クレメンスとニアミスは、ゴブリンめがけて走っていく。
その姿にアネットは違和感を感じていた。
「え!? 何で?」
「これが龍の顎の戦い方よ、私も回復魔法の準備をしなきゃね。」
(この人達、本当にSランクパーティーなの!?)
アネットが、そう思うのも無理は無かった。
何故なら戦闘というのは命のやりとりだ、今の陣形だと回復役のケニーが詠唱中で無防備な状態にも拘らず、物理攻撃に長ける二人が前に出て戦っている。
確実にゴブリンの数を減らしてはいるが、きりが無く次々とゴブリンが湧いて出てくる。
「妙だな、随分とコイツら倒してるはずだが?」
「リーダー、こっちもヤケに多く感じてるよ!」
クレメンス達の顔に疲労感が窺える。
それもそのはず、かれこれ湧き水のように現れるゴブリンに苦戦しているのだから。
「あ、あの、この辺で引き上げませんか!?
一度態勢を整えてからでも……。」
その言葉にクレメンスは、苛立ちをあらわにする。
「ああ!? 今何つった!! この俺様がゴブリン如きに背を向けられるわけねぇだろ!!」
(駄目だ、この人達引き際を分かってない!?)
そう考えているとアネットは何者かにお尻を何かに擦られている感覚に陥る。
恐る恐る、視線を背後に向けるとイヤらしい顔をしたゴブリンがアネットのお尻を涎を垂らしながら満足そうに触っていた。
「ひっ!!」
驚きのあまり、その場から離れ周囲を見渡すとゴブリンの群れに囲まれていた。
「さっきから五月蝿いですよ? アネット!?
気が散るから余計なことしないでくれる?」
「何言ってるんですか! 今私達ゴブリンの群れに囲まれているんですよ!!」
「何を馬鹿なことを……、へ? 囲まれてる!!」
ケニーは詠唱に夢中で囲まれていることに気付けなかったようだ。
前衛の二人も流石に非常事態ということが理解できたようだが、もう遅かった。
「クソっ! こんなはずじゃ!!」
「流石にキツいね…この状況は!」
ゴブリン一体一体は、左程強くはないが数が多すぎると今のような事態に陥ってしまう。
「キャーッ!!」
ケニーに関しては、イヤらしい顔をしたゴブリン達にローブを引き裂かれ、アンダーウェア姿になっており手足を押さえられていた。
(やだっ! 私も、こんな辱めを受けるの!?)
「キキキキッ!!」
ゴブリン達はニタァと笑いながら、アネットの方を見るが何故か溜息を吐き落胆しながら首を横に振りケニーの方へ振り返る。
(え? 何今の?)
泣き顔のケニーのアンダーウェアにゴブリンが手をかけた時、クレメンスの怒号が飛ぶ。
「雑魚モンスター風情がケニーに触んじゃねー!!」
クレメンスがそう言った瞬間、ゴブリン達は何かを感じ取ったのか額から大量の汗を掻きながら逃げていった。
ゴブリン達が逃げていった反対側に目を向けると、そこにはライオンの顔に肩にはヤギの頭、背中には蝙蝠のような翼と尻尾が蛇の巨大な魔物が存在していた。
「嘘……、でしょ? キマイラ!?」
その姿に圧倒されていると足に鋭い痛みがアネットを襲う。
(え?)
「悪いなアネット…龍の顎は、ここで終わる訳にはいかねぇんだよ!!」
クレメンスに太股を剣で斬られたようだ。
「ま、待って…!」
「本当にごめんなさいね! Sランクパーティーは皆の希望なの!」
「サヨナラだ、力の無い自分を怨むんダネ!!」
そう言って、龍の顎のメンバーはアネットを身代わりにし自分達だけ助かる選択をし、キマイラから逃げていく。
(何で、こんなことに……。
ああ、私の人生って何だったんだろう。)
そう思いながら、目を閉じ最後の時間を待つことにした。
しばらくしてゴキッという鈍い音が聞こえ、そこで意識が途絶えた。
次回は、主人公視点になります。