第31話 愚者と小船と妖精と(追放側視点)
第二章は第26話からになってます。
今回は追放側視点になります。
いつも見ていただき有難う御座います。
誤字報告は毎度、助かっております。
では引き続き無属性魔法使いをお楽しみください。
ニアミスの告発現場を間近で聞いた事により、国外へと逃亡を企て港町シークトーレで客船に乗り遠くへと行こうとしたクレメンスだったが船乗りに止められ失敗に終わる。
「何で船が出せねえんだよ! 俺は客だぞ、金だって有る!!」
「あのな、今は国王会議の真っ只中だ! それに国王陛下達の安全の為に貸し切り常態なんだ! いくら金を積まれても乗せるわけにはいかん!」
「クソ、もういい! 分からず屋共め!!」
そう言ってクレメンスは他に国から脱走する手段を画策する。
「どうするか、さすがに馬で捜索されたら見つかるのも時間の問題だ…ん?」
船着場の近くに小船を見つけるとガッツポーズをとり、早速乗り込みオールを使って海原へと出航する。
「俺様はなんてラッキーなんだ! ちと古いが問題ないだろう! 絶対に捕まってやんないからな! ハーハッハッハッ!」
クレメンスが小船に乗り、国外へと逃げようとして数時間後に小船の持ち主が現れる。
「おや、わしの船が無くなってるのぉ……誰かが勝手に乗って行きおったのか? あの船、沈みかねんから処分するとこじゃったのに……心配じゃのぉ。」
そんな事もつゆ知らずクレメンスは、かなり遠くの方まで小船を漕いでいたが一向に島が見えない事に焦りを見せていた。
「ど、どうなってやがる……一向に島一つ見えてこねえ! それに何だ? さっきまで晴れてたのに小雨が降って来やがった!?」
無情な事にクレメンスは、航海に関する知識が皆無であり自然の危険性を全くもって考慮しておらず今となって自分の愚かさを実感していた。
「おいおい、冗談じゃねえぞ!?」
時間が経つにつれ強風が吹き荒れ雷が鳴り響き、さらには大雨に打たれる。
「クソ、嵐になりやがった! 避難するにも島なんて……ヤバイ! 船が沈みかけてる!?」
気付いた頃には船に大量の水が入ってきており、慌てて水を両手で救って出すが間に合うはずも無く沈むのも時間の問題だった。
クレメンスの肘が一緒に乗せていた何かに当たり、大金の入っていた袋が大海原へと流れて行く光景が目に映る。
「しまった! 俺様の金が!! 俺様の金、俺様の金!!」
この男あろう事か自分の命より金が大事らしく船から飛び出し流れ行く金を掻き集め始めようとしたのだが、しばらくして体力が尽き気絶し流されていったのだ。
だが、悪運だけは強いらしく何処かの砂浜に打ち上げられ一命を取り留める。
「うっ……、何処だ? ここは……、はっ俺様の金!!」
呆れた事に助かったという感動よりも金への執着が勝ってしまっているようだ。
「クソ、俺様がいったい何したってんだ! ちくしょう!!」
そんな事を口にしていると風に乗って記事がクレメンスの顔にバサッと貼り付いた。
「うわっぷ! 何だこれ? ギルドの発行してる記事のようだな。」
今は少しでも情報が欲しいクレメンスは、記事に書かれている一文に注目する。
「おっ! 何々、妖精一体につき一万ゴールドだって!? 場所はサーメイル王国か……まずは誰か見つけて、こごサーメイル王国かどうかの確認が必要だな!」
クレメンスは微かな希望を持って道なりを歩いて行くと馬車が近くまで通ってきた。
「なあ悪いんだが、ここの国名が知りたいんだが。」
「ここはサーメイル王国だな、何だ訳ありか?」
「実は全財産失ってな、妖精を捕まえて資金繰りがしたいんだ!」
「なるほどね、なら乗ってくかい? 丁度サーメイル王国の城下町に戻る途中だしな。」
何処までも悪運だけは強いクレメンスはなんと無料でサーメイル王国まで馬車に乗せてもらい妖精を捕まえる為に色々と準備をする為情報集めを始めるのであった。
「よお、そこのアンタ! 妖精を捕まえたら金が手に入るってのは本当か?」
「ああ、本当だよ! 俺も捕まえて一万ゴールド貰ったからな!」
「そいつを聞いて安心したぜ、で…何処を捜せば見つかるんだ?」
「おいおい、それは自分で見つけな!」
クレメンスは楽をしようと見つけ易い場所を聞こうとするが断られてしまう。
「ま、気持ちは分からんでもないな! 妖精が現れそうな場所なんて大体決まってるだろうからな!」
そう言って、クレメンスは妖精を捜し始めて数時間が経った。
「クソ、妖精なんていねえじゃねえか! もう何処にもいねえのか? ん、何だアレ………子供にしちゃあ妙だな微妙に空中に浮いてるし、もしかして妖精か!?」
どうやら、妖精はクレメンスが後方から近づいて来ている事に気付いておらず小声で独り言を言っている。
「どうしよう、皆捕まっちゃった……このまま人間達との誤解が解けなかったら戦争になっちゃうよ! あたしが、どうにかしなきゃ……。」
「みーつけた……。」
「えっ!?」
カバッと妖精を後ろから両手で躰をホールドするクレメンスの顔は気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべていた。
「ちょっと! 何処触ってるのよ! 離しなさいよ、変態! ロリコン! 犯罪者!!」
「人聞きの悪い事言うな! 俺様は変態でもロリコンでも犯罪者でもねえよ!!」
「いい加減にしなさいよ! あたし達、妖精は子供なんて攫ってないって言ってるじゃない!!」
「何のことか分からんが、俺様には金が必要なんだよ! 悪く思わないでくれよ? 見つかったお前が悪いんだからな!」
捕まえた妖精をサーメイル城へと連れて行き、一万ゴールドを手にするクレメンスは満面の笑みで紙幣を顔に当てスリスリとこすりつける。
「確かに妖精のようだな、まだいたのか……では約束の一万ゴールドだ。」
「よっしゃ! やっと会えたな、俺様のお金ちゃん!!」
「ここから出しなさいよ! 大変な事になるわよ! 後悔する事になっても知らないわよ!!」
声を荒げる妖精の言葉はクレメンスには全く届いておらず、手にしたお金で食事を摂りに城下町へとクレメンスは赴くのであった。
さて、次回は新たな無属性魔法を覚えさせますかね!
今回も楽しんでいただけたのなら幸いです。
 




