第112話 ラクシドールの最後
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
第五章は第91話からです。
では、引き続き無属性魔法使いをお楽しみ下さい。
アクナヴィーテにより、ラビッツジョーカーから抜け出た黒いモヤがアルベルト達の対峙するラクシドールの偽物へと入り込み、その姿を変貌させていく。
「何だ、あの黒い煙みたいなのは?」
「ねえ、アル……アイツ何か上半身だけムキムキになって大きくなっていってない?」
「アルベルト様、何か嫌な予感がするわ。」
「同感だね、逃げるにしたって何処へも逃げられないし……。」
「なら、戦うしかねーよ……攻撃が効かなくてもオレは最後まで諦めるつもりはないからな!」
「グウオオオオオオオオ!!」
上半身だけムキムキになったラクシドールの声には理性を感じられなくなり、さらに暴走しているのか両手で胸を叩きゴリラの様にドラミングをしたかと思えば両腕を天高く上げ、そのまま勢いよく床に叩きつける。
「ぎぃやああああっ!!」
「いぎっ、ぎゃああああっ!!」
「あぎゃああああ!!」
その衝撃からか、他の手足無い糸に吊るされていた大人達の糸がプツッと切れてしまい皆、毒蛇の中へと落ちてしまい一斉に噛みつかれて悲鳴を上げる。
「くっ…………。」
「あれじゃ、助からねえ……せめてオレたちに出来る事をしねーとな。」
(うぅ……、メルダ……貴方は悲鳴一つ上げずに…………。)
「トレーシィは下がって、魔力切れなんだろ?」
「スーさん、みんなゴメンね……あたし役立たずで。」
一通り暴れ廻ったラクシドールが起き上がると唐突に口を開けると中から灼熱の炎をアスティオ王子に向かって吹き出した。
「アスティオ!」
「ふんっ! この程度なら、そのまま返してやるよ!! 煉獄焔舞陣!!」
「ええっ!? あの人、魔物の吐いた炎を身に纏って突っ込んで行ったよ!!」
「僕も援護しに行くから、アルベルトはトレーシィとエリーシャをお願い!!」
「分かった。」
「アルベルト様、メルダは……もう…。」
「エリーシャ………。」
(メルダの事が相当ショックだったか……無理もないか、俺だって信じられないが幾らメルダにテレパシー送っても反応が無いんだ。 だから、メルダはもう。)
ラクシドールの吹いた炎を身に纏ったアスティオ王子は、そのままラクシドールに突っ込み斬りつけるとラクシドールの全身に炎が燃え広がる。
両手の剣でラクシドールを斬りつけた後、ラクシドールはアスティオ王子に向かって握った拳で殴りつけようとするが、そのタイミングを逃さずにスラストの魔法の矢が拳に当たる事で攻撃が遅れ、その隙にアスティオ王子は距離を取る。
「妙だな、さっきまで全然攻撃が効いてなかったはずだが……今は手応えを感じる?」
「それは僕も気になったよ、何かコイツ変だ……まるで感情そのものが消え去ったかの様な……。」
「グルルル………グオオオオオオオオ!!」
(ふむ、やはり最初から憎しみの記憶だけ残しておくべきでしたねぇ。 さて……まさか彼が生きているとは思いませんでしたが、これは嬉しい誤算ですねぇ。 私の見込みでは、ブラウン家の御子息以外の方ですとパワー不足で今のラクシドールさんを倒すのは不可能でしょうねぇ。)
アクナヴィーテは空間移動の能力を使い、ラクシドールの暴れるテント内へと侵入し、高みの見物をしながら何やら考え事をしていた。
(おや、そろそろブラウン家の御子息が動きを観せてくれそうですねぇ。)
「あれじゃ埒が明かねえな、仕方ないか……トレーシィ。」
「何? アル……。」
「エリーシャを見ててくれ。」
「え?」
「今なら倒せるかもしれない、マジックアーマー! んでもって、せりゃっ!!」
俺はマジックアーマーで身体能力を上げ、更に勇気を纏って右手の拳に全ての力を集中させラクシドール目掛けて走りだす。
(俺の感が正しければ、あの左目の紅い部分に当てれば倒せるはずだ!)
「アルベルト!?」
「凄いパワーを感じる、エルフの人! アルベルトを援護するぞ!!」
「わ、分かってる! 最大限の力だ、マイトアロー!!」
「グオオオオオオオオ!!」
「こっちの腕はオレが防ぐ! 残影焔!!」
「悪い、スラスト! アスティオ!!」
俺がラクシドールに向かっているのを察知したのか、ラクシドールは狙いを俺に変えて両腕を振り上げ、思いきり叩きつけようとするが右腕の方はスラストの放った最大限の魔力を込めたマイトアローで吹き飛び、左腕の方はアスティオ王子の質量を持った残像から放たれる焔で斬り燃やされる。
「グガアアアアアア!!」
「これで、終わりだああああっ! マナ・インパクト!!」
両腕が無くなり最後の悪足搔きなのか、ラクシドールは腔内に瞬時に溜めた魔力を俺に向かい放つが俺は魔力を集中させた右手の拳をラクシドールに向かって突き出すと、その力は凄まじくラクシドールを青白い光が包み込み、その姿を消滅させた。
ラクシドールが消滅した事で周囲の毒蛇と火炎は消え去り、後はボロボロになったテントと毒蛇に無残に噛み殺された手足の無い死体が数ヶ所に横たわっていた。
(おや、やはり彼が止めを刺してくれましたか。 ではラクシドールさんの魂を回収させて頂くとしますかねぇ。)
「はぁ…はぁ…、倒せた……けど何でだ?」
「おめでとう御座います、いや〜本当に倒してしまうとは!」
「アル、この人……何か変だよ?」
「ああ、僕も感じる……上手く説明出来ないけど人間なのに人間らしくない!」
「おやおや、随分な言われようですねぇ。 ふむ、あの一撃で砕けないとは流石、魔晶石と言った所でしょうか!」
ラクシドールを倒した後に黒いタキシード姿の男が現れ、その男はラクシドールの居た場所に転がる紅い水晶を手にすると懐にしまった。
(なんだ? 見覚えが有るぞ、この男!?)
「アンタ、何者だ?」
「おっと、これは失礼しました……私貴方の兄をさせていただきましたアクナヴィーテと申します。」
眼の前に居るタキシード姿の男は俺の兄をしていたと告げるが過去の記憶が曖昧な為、何を言っているのか理解出来なかった。
何時も読んでくださり有難う御座います。
取り敢えず、この辺で第五章を完結させます。




