第109話 幸福の崩れる音
第二章は第26話からです。
第三章は第46話からです。
第四章は第66話からです。
第五章は第91話からです。
では、引き続き無属性魔法使いをお楽しみ下さい。
突然周囲の時間が止まったかの様な感覚を覚え必死に身体を動かそうとするも全く動かせず、誰かがテレパシーで俺に何かを伝えようと過去の記憶の様なものを見せる。
(何だ……身体が動かない、それに時間が止まってるのか?)
何か起こっているのか理解出来ずにいると、白く輝く球体が俺の眼の前まで来ると世界が白くなり、何時の間にか何処かの家の中に俺は立っていた。
(ここは、何処だ?)
《アルエッタ、誕生日おめでとう! はいプレゼントだよ。》
《有難う! お父さん、お母さんプレゼント開けても良い?》
《勿論よ、中身は何かな〜?》
俺の後方から幸せそうな家族の声が聴こえ、振り返るとどうやら娘の誕生日を祝っている様に見える。
(家族……か、駄目だな……もっと冷静にならないと……。 あの人形は、ラクシドール!?)
《ラクシーラビットだあ! お父さんお母さん有難う、一生大切にするよ!!》
《はは、喜んでくれて嬉しいよ!》
《そうね、今度ラクシーラビットの世界をモチーフにした遊園地を創るのよね。》
《そうなの!?》
《そうだよ、ラクシーラビットは正義の味方だからね! 困っている人がいたら手をし差し伸べて助けてくれるんだよ。》
《ボクも大きくなったらラクシーラビットみたいに困っている人達を助けられるかな?》
《勿論だとも、正義の心が悪を挫く! 改心させて皆ハッピー! なんてね。》
《う〜ん、やっぱりラクシーラビットの決め台詞はラクシーラビットが言わないと違和感あるかな〜。》
(楽しそうだな、俺も侯爵家に生まれてなければ……今頃家族と楽しい時間を過ごせていたのかな?)
そんな事を考えているとノイズが走り、周囲の世界が乱れ白黒の砂嵐状態になり先程とは別の場所へと移りアルエッタと呼ばれた女の子の部屋らしき場所に俺は立っていた。
《アルエッタ、直ぐには慣れないと思うけど新しいお父さんよ。》
《始めまして、君の新しいお父さんだ。》
《その人はお父さんじゃないもん! ボクのお父さんはお父さんだけ打もん!!》
《気持ちは分かるけど、新しい生活に慣れないと駄目よ?》
(…………父親が事故か何かで亡くなったのか?)
アルエッタはラクシーラビットと呼ばれたぬいぐるみを抱き締めながら、新しい父親を涙目で睨み付け不貞腐れている。
その後、また世界が白黒の砂嵐とノイズで満たされ今度は何処かの窓の無い薄暗い部屋に場面が変わる。
(今度は何だ? この部屋、窓が無いしアルエッタって子……なんで質素なベッドでボロボロのヌイグルミを護る様に抱き抱えてる?)
《もう、こんな生活耐えられないよ……あんなのお父さんじゃない!》
しばらくすると部屋の中にドアを開けアルエッタの居る部屋へと不機嫌そうな父親が入って来るとアルエッタはヌイグルミを離すまいと強く抱き抱え始める。
《まだ、そんな汚い物持ってたのか! いい加減捨てろ!!》
《嫌だ! ボクのお父さんからの大切な友達なんだ! 絶対捨てない!!》
《このガキが! そんな汚い物が有るから俺の仕事が上手くいかねーんだ!》
(何で子供にあたってるんだ、この人?)
アルエッタに対して暴力的な態度をとる父親の隙を見てアルエッタは横を通り部屋から逃げ出そうとするが父親は逆上しているのか、階段を降りようとするアルエッタを後ろから蹴り転げ落とす。
(なっ! なんて事をするんだ!! すり抜けた? そうか、これは誰かが俺に見せてる記憶か。)
《チッ、動かなくなったか……ガキが死んだ所で隠蔽すりゃどうとでもなる。 それよりも汚い人形だ、とっとと捨ててサッパリするか。》
新しい父親はアルエッタを死なせておきながら、悪怯れる様子も無く隠蔽工作を考えアルエッタの大切にしていたヌイグルミをあろう事かゴミ扱うし捨てに行った。
(何だよ……これ、あんなやっぱりが居るってのかよ!)
《おや、この子の処分をして欲しいと言う事でしたねぇ。 ふむ、あの父親かなり嫌われている様ですねぇ……やり方は私に任せると言ってましたし人を魔物化させる為の実験体にしますかねぇ。》
アルエッタの死体の側にタキシードを着た黒い髪の男が何やらブツブツと呟いているがよく聞こえない、喋り終えた男は懐から紅い宝石を取り出し女の子に当てると宝石の中に何かが吸い込まれていくのが分かる。
(アイツ、女の子に何をしたんだ? また、場面が変わった!)
次は、アルエッタの新しい父親が悪態を付きながら左目の部分が破れたヌイグルミを乱暴にゴミ捨て場に投げ捨てる所だった。
《全く、こんな汚い物何時まで大事にしてやがる! まあいいさ遊園地の所有権は、これで俺の物になったんだ! 心置きなくボロ儲けが出来るぜ、あーはっはっは!!》
(くっ、あの野郎! あんな小さな子が大切にしてた物を平気で捨てやがった!!)
《随分上機嫌ですねぇ。》
《ん? アクナヴィーテか、ガキの死体は掃除したんだろうな?》
《勿論ですとも、私としても実験体が手に入って満足ですからねぇ。 ところで、そのヌイグルミ捨てるのでしたら譲ってはいただけないですかねぇ?》
《ヌイグルミなんざ、どうでも良い! 欲しけりゃ勝手に持って行け!! 俺に必要なのは、この遊園地の権利書だけさ!》
そう言うと父親は権利書をアクナヴィーテに見せると、その場から離れて行きアクナヴィーテは先程の宝石をラクシーラビットのヌイグルミの左目の部分に入れ込む、するとラクシーラビットのヌイグルミが動き出し、まるで何が起こったのか理解出来ずに左右の手を見たりアクナヴィーテの方を見たりしている。
《これは何? ボク一体どうしちゃったの!?》
《どうも始めましてアルエッタちゃん、私の名はアクナヴィーテと言います。》
《ボク、今ラクシーラビットになってる?》
《ええ、確か正義の味方ラクシーラビットと言いましたかねぇ、ですが良く考えてみませんか? ラクシーラビットの世界の人間は皆子供です、つまり大人が居ないのです!》
《ホントだ、大人なんて一人も居なかった。》
《つまり、悪い大人さえ居なくなれば君の望む平和な世界が実現するのです! お望みとあらば征悦ながら、そのお手伝いをさせていただきますよ?》
《分かった、今からボクはアルエッタでもラクシーラビットでもない! ラクシドールだ!》
何時も読んでくださり有難う御座います。
110話で第五章は終わりそうにないので、まだ少し続きます。




