公爵は周囲に翻弄される
「リリアーヌ・ソル・シルベット殿下貴方との婚約は破棄させて頂く」
先程までの楽しげな雰囲気は一転シンと静まり返ったホール。
ホールの一段上で楽しげに踊り談笑してる人達を嬉しそうに見ていたリリアーヌ殿下は段下一番前に出てきた婚約者である公爵令息のテオドール・ソル・ラリアの声に驚き顔を固めた。
「そして、ここで殿下の罪を公表したいと思う。」
テオドールの周りには宰相子息のアライブ、騎士団長子息のライアー司祭長子息のユミールそして、最近噂の伯爵令嬢の姿があった。
「罪?」
小さく殿下の呟く声が聞こえた。玉座に座る王女殿下はその言葉と同時に先程までの表情を一切なくし、やばいとおもった瞬間にガラリと雰囲気を変えた。
「貴女はこの国に圧政を敷き民を苦しめすぎた」
何を言い出すのか。後2月後には殿下と婚姻を交わし王配となる筈の彼が王女殿下が政務に関わるようになってからのこの国にの発展を知らないわけがないだろう。
その実力から王女殿下が婚姻されたらすぐにでも隠居し全ての権限を明け渡すつもりの国王はこの話を聞いたらきっと激怒されるだろう。
「ほう」
先程まで姿勢よく座られていた殿下はその姿勢を崩し肘掛けにたてた手の上に顔を預ける。
「して、その圧政とやらはなんだ」
殿下の雰囲気におされてるのか彼等は口をぱくぱくし声がでてこない。
それもそうだろう。殿下は女神と言われる程の美貌にいつも穏やかな笑みを浮かべ怒ることもなく穏やかな人だと周りから思われていたから。婚約者である彼もそんな姿しか見たことなかったであろう。
とんでもない。殿下はこの裏と表の顔をうまく使い分けここまでやってきたのだから。現国王夫妻唯一のお子で幼い頃から帝王学をたたきこまれたお人だ。賢王とよばれた現国王でさえ我以上だと言われたお人だ。
どこをどう見れば圧政なんて言葉がでてくるのだろうか。
他国に比べ貧富の差も少なく福祉も充実した我が国には最も縁遠い言葉ではないか。
「遠慮はいらぬ言ってみろ」
殿下に気圧され言葉が出てこない彼等。
「あなたの贅沢のために税が引き上げられてあたしのドレスもまともに買えなくなったんだから」
彼等の横にいた伯爵令嬢アリア・エルートが声をあげた。
彼等が何も言い返さなかったからだろう。だがテオドールならまだしも格下であるアリア嬢が声をかけていいわけがない。
だが、アリア嬢の声で再びやる気が戻ったのかテオドール達が同じような事を次々に口にしていた。
「して、その罪とやらで我をどうするつもりだ」
周りの貴族達は彼等の言葉に眉を顰めていた。それもそうだそんな罪などありはしないのだから。ただ金のあるところ、つまり貴族達からその収入にあわせた税にしたまでにすぎない。
今までが貴族達は微々たる税しか払ってなかったのだ。それでも平民より豊かな暮らしができるほどの収入が彼等にはあるのだ。それで足りないと言うのなら今まで贅沢をしすぎたせいだろう。
「貴方にはその玉座からおりてもらう」
最後に良いことをいったと思っているのだろうテオドールの満足げな顔。
王女殿下の次に王位継承順位2番手にあるテオドールはそこを狙っていたのだろう。殿下と婚約破棄をし、殿下を引きずり下ろし自分が玉座に座る。その後その伯爵令嬢と婚姻でもするつもりなのだろう。
バカがそんなことできるわけが無い。周りの表情をみろ皆が蔑んだ目で自分達を見てるのに気付かないのか。
喜んだ顔をしてるのはアリア嬢の両親と一部のバカな奴等だけだ。
テオドールの周りにいる奴らの親なんか顔面蒼白だ。
「お前の息子は面白いことを言うな」
政治顧問として殿下の側にいる私に声がかかった。
そう、先程から自分の父親がここにいるのに気付いてなかったのか。それとも気付いた上でこの発言なのか。背中に伝う冷や汗が止まることがない。
どこで教育を間違えたのか。ギラリと獲物を狙うかのような殿下の目にテオドールの将来が終わった事を悟らされる。
「父上!私がこの国を立派に変えてみせます。そしてアリアと共にこの国を大国にしてみせます」
気づいてたのか気付いていてのこの仕打ちか。
息子はいつからこんなバカになったのだ。つい先頃までは殿下には及ばずとも殿下をしっかり支えこの国の安寧を任せられると思っていたが。
アリア嬢の腰を自分に引き寄せながらかっこつけているテオドールに頭が痛くなる。
「だそうだ。スティアート」
終わった。ニヤニヤと私をみる殿下に宰相達同様顔色が無くなっていくのが自分でもわかる。
テオドールに抱かれているアリア嬢をアライブ達がおめでとうなんて馬鹿なことを言いながら撫で回している。
「ならば、この玉座を下りるとするか」
「お待ちください」
殿下の力は疑うまでもなく本物だ。だが、殿下はこの玉座に未練など何もない。いつでも継承権を下りると言っていたのを我らが引き止めていたのだ。
そのために宰相達と話し合い婚姻させることでその玉座に居続けて貰えるようにしていたのだ。
社交は息子に任せ政治を行っていただくために。
「我には罪とやらがあるみたいだからな。ここには相応しくないだろう」
嬉しそうに玉座から立ち上がろうとする殿下を宰相達とともに引き止める。
テオドールなんかに玉座を任せられるわけがない。
このような場でこんな事を言い出すくらい馬鹿なのだから
なんとか、殿下にとどまっていただきテオドール達以外の者達を帰らせた。
「お前がここまで馬鹿になっていたのに気付かなかったのは父親失格だな」
亡き妻の忘れ形見だ多少甘やかしすぎたのか。未だに自分が王になれると思っているテオドールに一番に声をかけた。
「父上、どういう意味ですか」
「分からぬのか。ここはもう十分な大国だ。これ以上を望めば大陸制覇するしかあるまい」
西大陸一の大国家の我が国。代々ソルの名を受け継ぐ王族は皆優秀で小国家だったこの国を長い年月かけて大陸一の国家にしてきたのだ。
この国皆がしる歴史だ。勿論テオドールにも将来の王配として優秀な教育を受けさせて来たはずがどうしてこのような事を言い出すようになったのだ。
もはや記憶喪失を疑うレベルだ。
「殿下、申し訳ありません。この罪は我が首と息子の首で償わせてもらいます」
宰相達も同様のようだ。もう、この命で償うしかこの非礼詫びることは出来ないだろう。
「父上何故ですか」
我等の発言に今度はテオドール達が顔色をなくしていた。
「子育てを失敗すれば大変だな」
殿下が愉快そうに我等を見やる。
「子の責任は親の責任だからな。」
「心得ております」
準備をしなければ。曲がりなりにも重要な地位にいる我等だ。すぐにというわけにはいくまい。自分は後任はそれなりに育ててはいるがまだ足りぬ。宰相達は自分の息子を後任に考えていたのだから早急に代わりを見つけなければならない。
「だが、我は寛大だからな。」
後の事を考えていた時に声がかかる。
「テオドールの婚約破棄を聞き届けよう。して、テオドールとアリア嬢の婚姻も認めよう。」
「殿下、それは」
命をかけるのだから今更婚姻など意味がない。
「我も鬼ではない。まだ年端もいかぬ子供の戯言に一々罰を与えていたらきりもない。それに国にとってお前ら程優秀な部下をみすみす死なせるわけにもいくまい」
「ですが、殿下。いくら子供とは言え公衆の面前であの様な事を言ったバカ共ですよ。このまま放置すれば殿下もなめられてしまいます。」
「これしきの事でなめられる程我は安くはない」
確かにそうではあるが、些か都合良すぎるのではないか
「テオドール喜べアリア嬢との婚姻だ。お前はアリア嬢のところに婿入りしてもらう。」
「何故ですか!テオドールは王になるんですよ」
今までの話を聞いてなかったのかアリア嬢は未だに茫然自失している息子を見ていないのか
「テオドールには王としての器はない。」
「そんなことありません!テオドールは頭もいいし優しいし、顔もいいし、王子様としてふさわしいです!」
「なら婚姻してアリア嬢だけの王子様になってもらえ」
楽しそうに告げた殿下。どうするつもりなのか、先が見えず困惑する。
「子を鍛え直すか廃嫡するかはそなた達にまかせる。スティアートだけは悪いなテオドールはアリア嬢と婚姻させる」
「いえ、それは」
「我の決定は以上だ」
解散せよと殿下が私以外を帰らせた。
「殿下、どういうつもりで」
「どうもこうも先程述べたとおりだ」
「しかし、我々にあまりにも都合がよすぎる」
「言ったであろう。そなた達優秀な人材は手放せない」
「そこまで買ってくださるのはありがたいことですが、殿下の婚姻もなくなってしまわれたのですよ」
「元からテオドールとはあわなかったのだ」
それっきり殿下は口を閉ざされ私も家に帰らされた。
テオドールは部屋で謹慎させている。アリア嬢と婚姻するとはいえ鍛え直さねばなるまい。一月勉強漬けにするつもりだ。
帰って早々グダグダとテオドールは言っておったが相手する気力もなかった。宰相達もとりあえず鍛え直すそうだ。一月様子を見て後を考えるみたいだ。
アリア嬢は伯爵令嬢から男爵令嬢へと落ちた。もともとあの家は派手好きなため散財が過ぎたのだ。没落寸前。テオドールが王になれば贅沢ができるとでも考えたのであろう。伯爵達が娘をつかってテオドールを誑したのだ。没落させてしまえばよかったものを平民になって奴等が生きていけるわけないと殿下が手を回し爵位を下げることによって貴族位を守ったのだ。
優しすぎるこの判断に何故という疑問しかない。きいても答えてくれない殿下。テオドールが王配になる予定だったので親族から養子縁組したテオドールの二つ上の義理の息子であるロバートは何か知っているのか疑問に思う私に
「殿下も人の子ですから」
と答えにもならない答えをもらった。
その後予定通りテオドールは王位継承権を剥奪しアリア嬢のもとに婿入りした。宰相達は鍛え直せたのであろう。アリア嬢と離されたアライブ達は己の罪を認め殿下に頭を下げ忠誠を誓っていた。
「久しいのロバートよ」
突然の殿下の訪問に驚く。
「殿下におかれましてもご健勝なによりです」
驚く私を気にすることもなくロバートと会話する殿下に何か用があるのか問う。毎日王宮であっているのになぜわざわざうちに来るのか
「なに、求婚しにきたまでだ」
「求婚ですか、」
また突飛なことを、ロバートはすでに婚約者もいてもうすぐ婚姻するのだ。テオドールの尻拭いをさすがにロバートにさせるのは申し訳ない。ロバートは婚約者といい関係を築いてるのだから
「ロバートではないぞ」
「では誰に」
ロバートでないならなぜうちに来る?使用人か、それは身分的に困った事になる。
「スティアート、お前だ」
「は?」
「我の旦那になるがよい」
ロバートは知っていたのかしたり顔で私をみているが、私は知らない。こんな急な話があってたまるか。
息子と婚姻する予定だった殿下と私は16も年が離れている。こんな年上でなくても他にもいい男がいるだろう。
テオドールとの婚姻がなくなって次の婚約者を探していたが殿下の方から次は決めてあるという言葉があったので安心していたが
「さぁ、明日は結婚式だ」
こんな話は聞いてない。