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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【Merkmal】願いと目標と不甲斐なさを

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Merkmal-10(089)chit-chat



* * * * * * * * *




 冬のノウイは厳しい寒さの真っ只中にある。雪は時折吹雪となり、船は天候不順でよく欠航になる。


 そんな厳しい環境下にあるこの北の港町は、新年を迎えても華やかになる訳でもなく、何も変わらない。腕試しに向かう者、貴重な素材を求める者、色んな旅人がノウイの北にある魔窟へと向かっていく。


 この日もエンキは宿を出るキリムとステアを見送り、自身も温かい格好をして宿の外へと出た。ゴジェの店の前に立つと羽織ったジャンパーからゴーグルを取り出し、そっと語り掛ける。


「ワーフ様。今、大丈夫でしょうか」


 クラムワーフは召喚されるのを待っていたのか、いつものツナギ姿でしっかりとカバンまで抱え、すぐに現れた。


「や、エンキ! どうしたんだい? おはようかな?」


「おはようございますワーフ様。あの、そろそろキリムの軽鎧を形に仕上げようかと」


「良い材料がそろったのかい?」


「はい、キリムが色々とかき集めてくれました。マルス達が捕まえてくれたアークスパイダーも、いい具合に糸を吐いてくれています」


 エンキが準備万端だと意気込み、店の扉をノックする。すると外も暗い8時半だというのに、ゴジェが待っていたかのように扉を開けた。


「おはよう、エンキちゃん。ワーフ様もおはようございます」


「おはようございます。ゴジェさん、工房に入らせて貰っていいですか?」


「もちろんよ。もうすぐミサちゃんも来るわ。あたしはお店の準備をするから、工房は自由に使ってちょうだい」


「はい! 有難うございます」


 エンキとワーフは店の裏にある工房へと向かい、そこで完成形のデッサンをワーフに見せる。


 ゴジェから習ったデッサン、ワーフから習った装備のセオリー、それらを自身のレーベルにどれだけ溶け込ませるかを何日も考えて仕上げたものだ。


「とても綺麗なデザインだね。無駄のないプレスラインがむしろ特徴的だ。筋肉の形を似せたり膨らみを持たせるのが主流な軽鎧において、あえて直線的に見せる胸当てはとても斬新だよ」


「そうですか! そう言って頂けて嬉しいです。実は、キリムに見せた時も気に入ってくれたんです」


「作る人と使う人が気に入るのはとても重要だよ。えっと……この胸当ての下の部分はすぐ鎖帷子で仕立てるんじゃなくて、プレートを肋骨の上まで……」


 ワーフはエンキのデザインを大切にしつつ、装備として実用的なものになるように修正を加えていく。


「どう? 捗ってる?」


 デザインや完成模型を作りだしてから数時間。お昼ごはんのために工房へと下がったゴジェが、装備の設計図を覗き込む。


「まあ、素敵じゃない! アークスパイダーの糸で作った布なら、足りなければあたしが仕入れ値で譲ってあげるわよ」


 店番はいつしかミサ1人に任せた状態となる。3人……いや、2人と1匹は時間も忘れて製作に取り掛かった。





 * * * * * * * * *





「俺、キリム達と旅して、ブリンクが打撃を喰らった時に気が付いたんだ。このデザインで、このプレス曲げのラインを格子状に……」


「いい案だね! おいらが教えた緩衝構造をあえて表に見せるんだね。取り外しができれば交換で済むし、とてもいい」


「どうしても黒で統一したいってことだし、それならいっそシルエットもシンプルにしてすっきりさせたいものね。あの子に着せる事を考えたら、美しいものじゃなきゃ。形状のアクセントに拘らず、縁を塗るのも素敵よ。ラインが映えるわ」


 次の日も、1人と1匹はゴジェの店でキリムの装備を考えていた。今日はゴジェも朝から加わっている。


 どうやらおおよそのデザインが決まり、後は細部をどの程度の調整幅にするかといった段階だ。


「あたし、久しぶりの鍛冶に燃えてきたわ! 着飾る服を広める為にお洋服の店を開いたけれど、鍛冶から一度離れてまたこうして携わってみると、鎧や武器にも、もっと出来ることがあったのよね」


「ありがとうございます。ゴジェさんのセンスが抜群だから、統一感が無かった俺のレーベルもいい方向に纏まりそうっす」


 最終デザインが決定し、調整も終わった。エンキはこれからいよいよ軽鎧製作に取り掛かる。


「3人とも、お昼ご飯にしない? 私が作ったホットサンドで良ければ」


 ひと段落したのを見計らい、ミサが食事を運んできた。トレイの上に載せられた熱々のホットサンドは斜めに切り込みが入っており、そこからはチーズやハム、卵があふれ出している。


 一緒に添えられた琥珀色の紅茶は、香りだけでその味が口の中に広がるようだ。


「うわ、ミサさんすげー、うまそうだ!」


「有難うミサちゃん。いつも悪いわね、ホントいい子なんだから」


 ゴジェに褒められ、ミサは嬉しそうに微笑む。


「ミサちゃん、どうかしら。2日間話し合って決めたキリムちゃんの軽鎧なの」


「この横一文字の胸当てが斬新ですね。ここだけ色がダークグレーなのかな、周囲のブラックとの対比で浮き出たみたい! これは売れる!」


「いや、売る訳じゃねえんすけど」


「あ、そうだったわね。さ、続きは食べてからに」


 店の扉に休憩中の札を掛け、3人と1匹は工房のテーブルを囲む。ホットサンドを頬張りながら、この時期には貴重な葉物のサラダを皆でつつく。


「あ、そうだ。エンキくん、女の子向けの装備デザインって得意?」


「あ、そうっすね、実はローブならなんとかって所で、鎧となるとちょっと」


「ゴジェさん、私達でこのデザインを女性向けに仕上げましょうよ。1点ものもカッコいいけど、他に活かさないのはもったいないと思うし」


 ミサの提案にゴジェが深く頷く。


「素敵ね! 悪いけどデザインに関してはワーフ様にも負けないわよ? でも装備としての出来は見て貰いたいわね」


 ゴジェが太い腕で祈りのようなポーズを作り、完成型を想像してうっとりする。その盛り上がった腕の太さはエンキの比ではない。


「面白そうだね! そのデザインを装備に落とし込むのは任せておくれ!」


 エンキが驚いている間に、2人と1匹はどんどん話を進めていく。


 場所を提供してくれ、こうして食事までご馳走してくれる。それだけでなくデザインや技法についても全面的に協力してくれる。こんな事は少なくともゴーンでは無かったことだ。


 周りは全員商売敵であり、少しでも抜け駆けして売らなければ、あっという間に立ち行かなくなる。


 そんな商人の街で生まれ育ったエンキは、お人好しなゴジェに対し、思わず口にしてしまった。


「なんか、俺……ほんと姐さん達に出会えてよかったなって思うっす」


「ちょっと、やだもう姐さんだなんて!」


 姐さんという響きにゴジェが感動し、エンキに力強い抱擁を仕掛ける。


「もう、可愛いんだから!」


「ああ、エンキはおいらの主さんなのに!」


「あたし、思わず自分が女の子なのを忘れちゃいそうになったわ。可愛いもの大好きなの。勿論、一番可愛いのはミサちゃんだけどね」


「あ、あたしよりゴジェさんの方がずっと可愛いし……」


 可愛いと言われて照れるミサは、頬を染めてゴジェを可愛いという。


 ゴジェが自分を女の子だと言った事、ミサがゴジェの方が可愛いと言った事。どちらに突っ込むべきか、もしくはどちらも黙っておくべきか……。


 ほんの僅かな時間、全力で悩んだ末に、エンキはその迷いを紅茶と共に胃袋へと押し込んだ。


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