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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【Responsibility】遠くない未来、そこにいる自分のために

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Responsibility-08(077)


「ステア、どうしたんだよ! ステア!」


「クラムステアの様子が……さっきの強さと今のこの威嚇は何だ?」


「分からないんです、こんな……」


 ステアが我を忘れる事など、今まで1度だってなかった。今もまだステアはマーゴ達の方を睨み、キリムに危害を与える全てから守ろうときつくキリムを抱きしめている。


 我を忘れたクラム……その様子自体はキリムもかつてミスティで見た事があった。固有術で呼び出された意識体のクラムは、基本的には無表情で、会話らしい会話もできない。


 だが、ミスティで襲撃を受けた時のクラム達は皆、怒り狂って力任せに魔物へと特攻していった。まるで今のステアのように。


 その時と同じなら、ステアはどうすれば怒りを鎮めることが出来るのか。あまり思い出したくない過去ではあるが、キリムは当時のクラムの様子を思い浮かべていた。


「クラム達はあの時、村を守るために……いや、違う。あれは自分の召喚主を……そうだ。召喚士を守ろうとして全力で戦っていたんだ」


「それだと、戦闘が終わったんだからステアは正気に戻ってもいいはずだ」


「……って事は、まだ戦闘が終わってない?」


 マーゴ達はハッと気が付き、一斉に屍となったドラゴンへと視線を向けた。デニースが念の為と言い屍を燃やすも、赤々と燃える炎は洞窟内に煙を充満させてしまう。デニースはファイアではなく、熱線を放ち一瞬で焦がしてしまうフレイムビームで屍を消し炭にした。


 まだステアは正気に戻らない。


「危機は去っていない……これ以上何をしろと」


 マーゴが盾を構えたまま首をひねった時、洞窟の奥でから揺れと衝撃音が伝わって来た。天井からは岩の破片が崩れ落ち、辺りに土煙が舞う。


「何だ!? 今日の魔窟は一体何が起きているってんだ!」


「これ以上戦えねえぞ……槍のグリップを直すまで時間を稼いでくれるか」


「俺も大剣の柄の巻き布が解けた。もう地上に戻るからと替えも残してない」


 下層がどうなっているかは分からない。先程までは静寂に包まれていて、揺れなど殆どなかった。少なくともこの階には自分たち以外に戦える者がいなかったのは確かだ。


 マーゴ達もこれからまた連戦となれば流石に耐えられるかは分からない。


 ステアは戦うだろうが、それにキリムが耐えられるのかも心配だった。ステアの一撃で巨大なドラゴンを倒すほどの霊力は、キリムから吸い取られているという事だ。


「おい、下層方向からライトボールの光だ!」


「そ、そっちもだ! 上層から誰か降りてきたのか」


「ステア?」


 ふと自身を拘束するステアの力が弱まり、ステアから放たれていた殺気が収まる。おそるおそる顔を上げてステアの顔を覗き見ると、ステアは険しい顔をしていたものの、どこかしまったと苦々しいものに見えた。


「あまり、見せたい姿ではなかったのだが」


「やっぱり俺を守ってくれるためだったんだ……」


「確かにそうだ。だがこれは俺がそうしたいと考えるかどうかとは無関係だ。クラムにとって召喚士は絶対であり、召喚主を何よりも優先して絶対に守る。そうでなければならない。そういう存在だからだ」


 ステアの自慢するでも恩着せがましい訳でもない表情を見て、キリムはそんな思いをさせてしまった事を悔やんでいた。


 ステアは優しい。キリムが真の主ではなかったとしても、旅に同行してくれていただろう。そんな優しいクラムを強制的に戦わせてしまったのだ。


 人のために、キリムのためにと自らの意思で戦う事を選ぶ優しいステアが、自らの使命と存在意義に縛られ、召喚士のために本意ではない戦いをしなければならなかった。


 少なくとも召喚士でありながらそれを何とも思わない者はいない。


「有難う、ステア。それと、ごめん」


「何を謝っている」


「俺を守るために、ステアはあんな……」


「責任を感じる事と、お前に責任はあるかどうかは違う。ないものを謝るな、それこそ無責任だ」


「うん……分かった。ごめん」


 ついまた謝ってしまうと、キリムはだいぶ戻って来た気力のおかげかゆっくりと立ち上がった。


 キリムの目にも、ライトボールの明かりが近づいてくるのが分かる。ドラゴンから少しばかりくすぶる煙の中、人影は手前で一度動かなくなり、それからゆっくりと姿を現した。


「ありゃありゃ、村の青年団のごと若い坊や達がおるばい」


「60の爺さんが現役でやっとるような青年団の、何が若いかねえ? キヒヒッ」


 下層からやって来たのは、白髪を後ろで束ね、丈がくるぶし程まであるやけに派手なピンクのローブを着た老婆と、同じく純白の文字が相応しいローブを着た老婆だ。


「こっちは終わってましたかね。あらあ、5体もおったごとあるばい。よう倒しきりましたねえ」


 上層から現れたのは、肩上までの紫色のメッシュが入ったショートヘアに、灰色にヘルメスの刺繍が施されたローブを着た老婆だ。3人とも背丈よりも大きな杖を持ち、ゆっくりとキリム達に近寄って来る。


「他の階層は終わったばい。と言っても、15階層より下の事は分からんばって」


「上層に逃げた連中を追いよったのも始末したけん、もう安心たい」


 老婆たちは横一列に並ぶと、それぞれが銀歯や金歯を見せつけるようにニッと笑う。次の魔物かと身構えていたマーゴ達は肩透かしをくらい、躊躇いながらそれぞれ武器を納めた。


「婆さんたち、まさかあんたらが倒したってのか?」


「あたしらが倒さんで、誰が倒してくれますか。ねえ?」


「キヒヒッ、若いのにまあ逃げてしもて、あたしらがやるしかなかったけんね。あー疲れたばい」


 老婆3人組は、まるでお茶でもした後のような穏やかさを見せる。仮に老婆達が倒した魔物が、ここで戦ったドラゴンと同じ強さだとしたら、それを1人、2人で倒したことになる。


「そっか、危険をお婆さん達が排除してくれたから、ステアは元に戻ったんだ。有難うございます!」


「……ステア? あら、何か聞いた事あるね、えっと……」


 ピンクのローブの老婆がステアという名で何かを思い出そうとする。


 キリムがステアを紹介しようと口を開いた瞬間、「思い出すけん、ちょっと待ちなさい」と制止する。そんな3人を見て、先に言葉を発したのはデニースだった。


「まさか……あの伝説の魔法使い、レベッカさん、ヤチヨさん、トルクさん……ですか?」


 デニースの確認に、白いローブの老婆が銀色でソバージュのロングヘアを揺らしながら頷いた。


「あたしはトルク。攻撃術と補助術を使ってます。そっちのピンクの婆さんがレベッカ、白い婆さんがヤチヨ」


 老婆はそれぞれ自己紹介をする。マーゴ達も慌てて自己紹介をし、キリムも自身とステアを紹介した。デニースは3人を尊敬の眼差しで見つめていて、どうやらこの老婆達は相当凄い使い手らしい。


「あっ! あー思い出したばい! キリム、召喚士のキリムちゃん! そうかね、あんたがそうかね」


「クラムと一緒に旅をしとるち言われとるね。ここのドラゴン相手に戦ったと?」


「あ、はい。それにしても、凄いですね。こんな強敵を1人、2人で倒しちゃうなんて」


 キリムは老婆達の実力に対し、素直に称賛する。明らかに戦いに不向きな高齢な3人なのに、不思議とこの場が安全に思える程頼もしい。


「はい、それじゃ。自己紹介せねばね。あたしがレベッカ、治癒術士一筋で55年。まあ白いローブは治癒術士っぽくて覚えやすかろ」


「わたしはヤチヨ、攻撃術士。婆さんの魔法は一撃必殺やないけどね、しつこくて効くんだよ。まあ頼りにしとくれ、キヒヒ」


 老婆達と簡単に自己紹介を終えると、この報告をするため、皆で外に出ようという話になった。どのみち安全区域の結界は壊され、長期滞在には新しい結界が必要になる。


 老婆達の歩くスピードに合わせると陽が暮れる。マーゴ達が考え込んでいると、老婆達は今では使える者も少なくなった「飛行術」を使い、杖に跨って浮いて見せた。

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