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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【CHANCE】やるべきこと、譲れないもの

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CHANCE-09(067)


 * * * * * * * * *





 午前7時。


 まだ薄暗く、霧の立ち込めるノウイの朝は人通りが少ない。といっても、既に人々は活動していて、耳には様々な音が入ってくる。


 港の船の荷揚げ用クレーンの音や、山と町を往復する鉱石を運ぶトロッコの音、船の汽笛の音。霧で遠くが見えない状況下、工場地帯にでも迷い込んだのかと思うような、殺伐とした空気が漂う。


 朝を迎えた6人は、宿屋での朝食を終えて協会の前で集合していた。ワーフは住処に戻っており、ステアは先程現れたところだ。


「みんなおはよう、よく眠れた?」


「うん、なんかあたし達だけ良いホテル取らせてもらって悪いわね」


「俺たちは夜に酒場に行ってみたし、宿って言っても帰って寝るだけだからな、どうってことない。キリムとステアは? 準備はいいか?」


「今後の事とか魔窟はどう動こうかとか、色々話し合ってたよ。あとは実際にどんなところか、無理のない程度に調べてくる」


「ああ、お願いする。こっちも分かった事は伝えるから、今日は19時に宿屋で」


 エンキはワーフの見つくろいで斧を購入し、背中に担いでいた。万が一の時、自分で自分の身を守れるようにと考えた結果だ。


 幸いにもクラムワーフがとびきりの逸品を与えていることで、少々の敵は怖くない。やみくもに魔物へと手を出さない限り、足手まといにはならないだろう。


「便宜上とはいえ、また2人パーティーだね」


「この1か月、パーティーでの戦闘はそれなりにこなせたか」


「うん、また組むかもしれないからね。いつかどこかで即席のパーティーを組まなくちゃいけない時が来ても、経験が無いのとは大違いだし」


「成長できたのだな」


「うん、きっと成長できたよ」


 他のパーティーとの遭遇の可能性もある中、むやみに人数を増やして魔物を乱獲し、顰蹙ひんしゅくを買う訳にもいかない。そのため、魔窟探索は基本的にマルス達とは完全に分かれて行動することになる。


 パーティーでの戦いはしばらくお預けだ。


 キリムとステアは町の西門に向かうと、門のすぐ北の乗り場でトロッコが来るのを待った。魔窟はノウイの北西の山の麓に位置し、その僅か3キルテ東には鉱山の入り口もある。


 鉱山から人力で運ぶのは流石に大変だ。そこでノウイでは、鉱山と町を繋ぐべくレールを敷き、トロッコを引く汽車を走らせている。魔窟に通う旅人は、鉱夫に混じってその汽車を利用できるのだ。


「汚れるけど、どうせ魔窟に行ったら汚れるし、いいかな」


「今日魔窟の位置を覚えたら、明日からは瞬間移動してやってもいい」


「ズルだって思われそうで嫌だな」


「誰が見ている訳でもないのに、お前にそんな事を考える余裕があるのか」


「……ない」


 1人50マーニを支払ってトロッコに乗り込むと、汽車はゆっくりと進み始める。途中ですれ違いのため線路が二股に分かれたりもするが、基本は単線だ。


 汽車は草木もまばらな平原から森のすぐ傍を通過し、遠くに湖が見える綺麗な草原を横切っていく。10キルテ程の距離を20分かけて進み、ようやく鉱山の入口へと到着した。


「最終は……17時00分に出発か。18時にノウイの門が閉まるから、鉱石を運ぶとすれば仕方ないね」


「帰りは鉱石を積むんだぞ。人が全員乗れるとも限らん」


「そうだね。でも帰りは乗らないとしても、マルス達の為に様子だけ知っておこうか」


 旅人の往来が少ない冬には、汽車を魔物から守るクエリが破格の条件で貼りだされるという。この線路は旅人ありきで維持されているのだ。


 ある程度強くなれば、その護衛だけで生活することもできる。旅や目標を諦めた「元旅人」には願ってもない仕事だろう。


 木々の姿が一切ない岩肌が剥き出しとなった黒い山の南裾を歩いていくと、1時間もすれば魔窟の入り口に差し掛かる。


 入り口の少し手前は結界こそないものの休憩スペースになっていた。簡素な木のベンチが2つ置かれ、テーブルもある。


 そこでは商売根性と言うべきか、まだ8時にもなっていないのに、旅人を護衛に雇った商人が回復薬を町の倍ほどの価格で並べていた。


「……魔窟維持にご協力下さい?」


 商人に「買いません」とジェスチャーしながら向かった入り口の横には、立て看板があった。


 そこには魔窟を少しでも探索しやすいようにと、有志がランプを所々設置している事、マッピングをしている事、魔物の情報を本に纏めている事などが書かれている。


 そのすぐ脇には厳重に鎖が撒かれた木箱がある。要するに寄付を募っているのだ。


「見ない顔だね。初めてかい?」


「あ、はい。今日初めてです」


「それなら魔窟の地図を持っていきな。山の中腹まで複雑に枝分かれした初心者向けのコース、下るほど魔物が強くなるベテラン向けのコース、どちらもまあまあ記載されてる。事前情報があるのに仕入れないのは賢いとは言えない」


 有志の1人なのだろうか、傷だらけの軽鎧を着て随分と慣れた様子の女性が、手のひらほどのサイズの赤い羊皮紙の手帳をくれた。パラパラとめくれば地図の他、魔物情報なども書き込まれている。


「有難うございます。とりあえず、お世話になるんだし……100マーニ、いや、200マーニ入れておこう」


 木箱にお札を2枚入れ、キリムとステアは魔窟の中を目指す。


「ありがとう。無茶しないようにね、探索済みの通路が多いといっても毎年100人は死んでるって事、よく覚えておいて」


「ひっ……はい、分かりました」


 金色の短髪を掻き上げながら、女性はキリムへと手を振ってくれる。そのにこやかな表情とは正反対にひっかき傷や殴打の痕が見られる装備が恐ろしい。


 キリムは少し緊張しながら、早速地図を見間違えて下りの道へと進み始めた。


「クラムが住む洞窟と原理は一緒なのだろうか。水の浸食で地盤が削られて出来た洞窟のようだ」


「ふうん……洞窟って誰かが掘った訳じゃないのか」


 キリムはランプのおかげで真っ暗ではない事に安心し、のんびりとした口調で返事をする。自分用のランプも持っているが、まだ点ける気は無いようだ。


「光で周囲を照らす魔法があるんだ。町に戻ったら買わなきゃ。手持ちで足りるかな」


「ライトボールか。覚えていて損はない」


 初心者向け、上級者向けを問わず、低層はよく人が通るせいかランプも置かれている。


 上へと登る道なら、所々で崩落した個所から空も見える。だが、深層になれば成る程親切な物はなくなり、真っ暗になる。


 灰色や茶色の岩が剥き出しになった壁に安心していると、急に深い溝があったりもする。それに人が剣や槍を振り回しても苦にならない広さがあるとはいえ、ランプの光が照らせる範囲は限られている。


 そのため、効率よく探索するにはライトボールと呼ばれる、光の玉を生み出す魔法で照らしながら進むのが一般的だ。この術は魔窟に必須の魔法と言ってもいい。


「ステアって、暗い所でも魔物が見えたりするの?」


「いや、俺も暗ければ見えない。気配くらいは分かるがな」


「そっか。じゃあ今日はランプがある場所で戦うしかないね」


「気を付けろ。それよりキリム、上ではなく下に向かっているようだが」


「……あれ? どこかで間違えたかな」


 10分程進み、地下へと続く道である事に今更気付いたキリムは、引き返すのを諦めてそのまま進み始めた。魔窟の名の通り、魔物は外よりも邪悪な力を溜め易く、外よりも強い。


 それでもステアがいれば、ウーガクラスの魔物にだって勝つことが出来る。そこでキリムは、出逢う魔物の強さで自分の特訓となる区域がどこまでかを探る事に切り替えた。


 30分程歩いただろうか、流石ベテラン達が良く通る区間は魔物の数も少ない。このままなら楽に先へと進めるなどと軽い気持ちになり始めた時だった。


「おい、この奥が見えるか、影が動いた。あれは旅人の影ではない」


「えっ」

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