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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【CHANCE】やるべきこと、譲れないもの

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CHANCE-02(060)



 * * * * * * * * *





 その頃、クラムの住処にある工房では、夜通し鉄を打つ音が鳴り響いていた。その正体はクラムワーフだ。


 クラムワーフはいつになく楽しそうに、軽鎧を作っている。


 軽鎧の腕の部分は主に丈夫な麻布、小手と胸部には黒くなめらかな合金プレートを使い、刃物への耐性が強い金属繊維の生地を使われている。


 アルミナが使用されているのは、絶縁性も考慮したためだ。無駄のないシンプルなデザインで、動きやすさも抜群だろう。


「ふんふーん、弟子に何もあげないなんて鍛冶師ワーフの名が廃る! 早く完成させないと」


 これは言うまでもなく、弟子にすると勝手に決めたエンキへの贈り物だ。魔物との戦闘からエンキを守るためと張り切っているのだが……凝り過ぎたせいで1週間ほど遅かったように思われる。


 寒さ対策、そして炎と氷の攻撃への備えとして、ファイアバードの羽毛で作られた温かいジャケットも用意している。


 机の上には兜よりは使いやすいだろうと、取り外し可能としたフードも用意されている。


 軽鎧と同じ金属繊維を使っており、そして内側にも同じくファイアバードの羽毛が仕込まれ、フードの縁はファーのように仕立てられていた。


 どうやらエンキのため、全身の装備を作ってしまったようだ。


「ふんふーん、これならエンキも喜ぶ、喜んでくれるに違いない! そろそろノウイに着いたかな、腕輪は着けてくれているはずだ……ああ、でもおいらがこんなに一方的に会いに行っちゃ、他の鍛冶師に示しがつかない……」


 ワーフは汚れていないツナギに着替え、いつものようにお気に入りの耳だし帽を被り、がまぐちを首から下げる。そしてエンキに贈る装備一式を麻袋に入れ、担いで工房を後にした。


「ステアにキリム君を見に行かないか聞いてみよう。見るだけならいいよね、うん、いいに違いない。おいらはたまたまエンキに見つかってしまうんだ、うん、そうしよう。偶然ノウイで見つかってしまおう」





 * * * * * * * * *





「お待たせ!」


「10分遅刻だぞ。俺達より先にホテル選んだはずだろ? 何してたんだよ」


「あーごめん……その」


「リビィが見てた地図が逆さまだったの、以上!」


「またかよ」


 またという事は、リビィは前回も同じことをしたのだろう。


 そんなため息交じりで揃った定刻の10分後、6人は旅客協会の前に集合していた。


 気候と鉄鋼業のせいか、どこか灰色にも見える町並み。空には海辺の霧とたなびく煙突の煙。そんな風景を背に、石造りの神殿のようにも見える協会の建物は重々しさがよく似合う。


「初めて来たけど帰って来たって感じだな。造りはどこも似たようなもんだし」


「その方がいいよ、分かり易いし。綺麗に飾られても入りにくいし」


「ウーガは別格としても、それ以外の魔物も今まで倒してきた奴らより格段に強かったんだ。あわよくば旅人等級上げてもらいたいな」


 そんな話をしながら建物内に入ると、旅人達が一斉に6人へと振り向く。この街に滞在する旅人は他の旅人を警戒しているようで、なんとも居心地が悪い。


「魔窟があるし、外の魔物を倒したくらいじゃダメじゃないかな。何となく魔窟通いは必須な気もする」


「それにしても……なんかみんな敵意剥き出しみたいで怖いわね」


「魔窟の素材で一攫千金って旅人からすれば、同業のライバルだからな」


 受付前の長椅子は大半が埋まっている。魔窟で経験を積んだ旅人達がこぞって昇格審査を申し込んでいるのだ。


 ゴーンは商人の町、流通の町という性格から、比較的経験の浅い旅人が滞在しやすく集まり易い。何でも手に入る便利な町である反面、専門的なものには弱い。


 強さをより追及する者には、何かに特化した町が好まれる。魔窟、素材に特化したノウイに集まる旅人は、強くなる事を目的とした者が多いという事だ。


「パーティー募集も多いな」


「おい見ろ。これも、これも……これもメンバー死亡による欠員のためって」


「えっ、ちょっと怖いんだけど」


「脅かさないで、メンバーが死ぬって事は治癒術士の力不足が理由の一番に挙げられるのよ」


 張り出された掲示板の情報を見ていると、ここでは脱退、死亡した仲間の枠を埋める欠員募集、冒険に適したパーティーとしての再編成を望む者が多い。


 より強くという気持ちが強く働き過ぎて、弱い者には容赦がない。


 きっとどのパーティーもそんなつもりで訪れてはいない。だがこの町の旅人の雰囲気に慣れ、いつしか弱い者は邪魔者のように感じてしまうのだ。


 強い者ばかりということは、集まっている者たちの年齢は必然的にキリムたちよりも上になる。旅人達の視線から察するに、歳が若い事で等級が低いと見られているようだ。


 見下されている雰囲気を感じ取ってか、マルスはやや苛立ちを見せていた。


「やっぱ雰囲気悪いな」


「仕方ない。俺達の方が等級も経験も下なんだから。けど、きっとここの連中より1年目の旅の質は俺たちが上だ、自信を吸い取られないようにしないと」


「そうよね。そして、私達は絶対に強くなるし、強くなっても弱い旅人を見下さない」


「鍛冶師としては、お前らみたいな奴の心意気を汲みたい。他人を見下す前に自分を上げて、何を成すかだろ。そこに俺の作った装備があれば言う事はねえ」


 あまり長居したい雰囲気ではなく、6人はクエリを確認して魔物の強さや傾向を探る。貼り出されたクエリは、殆どが魔窟に関係するものだった。


「魔窟内の鉱石、ブラックナイトの入手……報酬……含有量500g(単位:ガム。1ガム=1グラム)で3万マーニだって!?」


「こっちはケイブドラゴンの牙入手、1本あたり4万マーニ! ちょっとちょっと、どれもこれも高額報酬だわ」


「等級指定なし……なし? え、でもこの高額報酬は並大抵の難易度じゃないだろ」


 ゴーンをはじめ、多くの町では、等級指定によって差はあれど、大抵のクエリの報酬は数千マーニだ。しかしこのノウイにおいては殆どが等級指定なしの高額報酬だ。


 町の外の魔物退治は見たところ殆どなく、長期滞在するには心細い。


 町の外の魔物は魔窟通いの旅人達が勝手に倒し、交易の殆どが海路のため街道の魔物など邪魔にもならない。周辺の魔物の討伐依頼が多くなることも期待できない。


「魔窟って、私達でも行けるのかな」


「あんまり深く潜らなけりゃ危なくねえだろうけど、貴重な素材も手頃な魔物も狩り尽くされてそうだ」


 エンキのためにノウイを目指しただけで、魔窟の存在は知っていても向かおうと思っていた訳ではない。


 エンキの目的は買い付け、それに貴重な素材の入手だ。それが周辺の森林や平原で叶わないのであれば、魔窟に向かうしかない。


「ノウイまで来て、何も手に入らずに強くもなれずに帰るなんてできないよな」


「そうね。色々と考えたけど、キリムは強くならなきゃいけない期限もあるし……エンキもここでただ材料を買って帰るだけじゃ意味がないわ」


「とすると、魔窟に行く事になるな。素材や鉱石はエンキに見てもらうしかねえけど……そうなるとエンキにも装備を着て貰わないと危険だ」


 エンキが一緒に来た理由の1つは、キリム達には素材の鑑定が出来ないというものだ。魔窟に行くのなら当然エンキの同行が必要になる。


 エンキが自前で装備を作る為の素材はなく、材料を購入し、更にはどこかの工房を使わせてもらう必要がある。


 1日で製作することは当然出来ず、1週間はかかる。キリムの事、更には滞在費の事を考えると、1週間待つことも出来ない。


「……ねえ、俺達、誰かに見られてない?」


「えっ?」


「嫌だぁ、誰? 怖いんだけど」


 ふとキリムが何者かの気配に気づき、視線を向けないようにして声を潜めた。マルス達は誰も気づいていなかったのか驚いて声を上げ、キリムの警戒も虚しく、堂々とキョロキョロしてしまう。

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