HAGANE-10(058)
戦闘時間が長くなるにつれ、全員の疲弊が露骨になり、連携が乱れてくる。はるか格上の魔物相手に善戦しているものの、まだウーガが倒れる気配はない。
このままでは先に全滅か、最低でも誰かが犠牲になってしまう。そうならない為にとブリンクがウーガの注意を引き付けて動きまわるが、その息はとても荒い。
「お、俺にも何か出来る事ねえか!」
見ているだけの状態に耐えられなくなったのか、焦ったエンキがキリムに声を掛ける。
「エンキ! リビィとサンに回復薬を!」
「わ、分かった!」
「なんとかここまで来たのに……回復薬飲んだ、俺が替わる! シールドバッシュ!」
渾身の力でマルスがウーガに一撃を喰らわせる。その直後、回復する余裕のなかったブリンクが道に倒れ込んだ。
幸いウーガの注意はマルスに向かったが、俊敏さでウーガを翻弄していたブリンクの体力も、もう限界だった。
「あ、あたし行ける! エアスラッシュ! トルネード!」
「ブリンク、体力回復今のうちに! マルスいくよ、リジェネ! プロテクト!」
崩れそうな連携をなんとかギリギリのところで持ちこたえさせる。サンはもう一度マルスに補助魔法を掛ける所だった。
「ファイアボール……くっ、剣閃! ストーン!」
キリムが少しでもウーガを弱らせようと短剣で切り付け、そして魔法を放つ。
「キリム! そんなに技と魔法を使ってたらお前がもたない!」
「今俺が攻撃をやめたら、ウーガの注意が逸れた時リビィが狙われる!」
「ブリンク危ねえ!」
キリムが荒い息で再び飛び掛かろうとする。その間、ウーガが持っていた棒をブリンクに投げる。回復薬を飲もうとする一瞬の隙を狙ったのだ。
叫んだのはエンキだった。エンキは手にハンマーを持ち、咄嗟にブリンクへと駆け寄る。
「エンキ! 無茶だ!」
戦闘経験がないエンキは、寸前のところでハンマーを構えてブリンクを攻撃から守った。ただ、幾ら腕力があるとはいえ、完全に払いのける程のことは出来ない。
「うおぅっ⁉︎」
エンキは払いのけた衝撃でブリンクと共に倒れ、その顔のすぐ横に木の棒が転がった。
「ひぃぃ!」
「こっち向け! スマッシュ! くっそ、シールドバッシュ!」
マルスが咄嗟に回り込み、盾で打ち付けながら突進しようとするウーガを抑え込む。そこにもう気力や体力は残っていない。仲間を守りたいという意地だけだ。
「魔力が続かない! ストーン! お願い、そろそろ倒れてくれ!」
「ヒール! ハァ、ハァ、私もまずいわ、もうこれ以上回復出来ない、退却できる!?」
「無理だ! エンキの意識がない!」
ブリンクがなんとかマルスに加勢し動きを封じようとするも、防戦一方ではいずれやられてしまう。
体力が月並みしかない召喚士のキリムも、荒い息でよろけながら魔法を放ち、斬り込もうとする。しかしそれも限界だった。
「キリム! もう無理、一回下がって!」
「ハァ、ハァ……ここで、諦めてたまるか! サン、俺にプロテク掛けれたら宜しく!」
そう告げるキリムの手は震えていた。
それでも魔力の補充をしようとするリビィとサンに注意が行かないよう、後衛とは逆方向へ回り込み、残された体力で技を放つ。
回り込む間に足がもつれている。片手ではまともに短剣を握れず、両手で1本をしっかりと持つ。メンバー全員が満身創痍、もうこれ以上は無理だ。
ギリギリの戦いを続けている中、長引く戦闘に苛立っているのか、ウーガが憤怒し、空に向かって咆哮を放った。素手となった両手により力が込められている。
いよいよ厳しいと察したマルスが叫ぶ。
「逃げられる奴だけ逃げろ! 山を降りたら救援を呼んでくれ!」
「無理よ! 防げるわけないじゃない!」
「全員やられる訳にはいかない!」
そうマルスが叫んだ瞬間だった。マルスの視線の先、ウーガが背中側に居たキリムに振り向き、拳を振り上げた。
「キリム!」
その状況を、様子が見えていたリビィ、サン、そしてキリムは、まるでスローモーションのように感じていた。
(ごめん、みんなも、ステアも助けられそうにない。流石にもう避けられそうにない……ステア、ステアごめん)
拳を避ける力が残っていないキリムは、致命傷を覚悟して目を瞑った。気力をありったけ引き出し、短剣1本でなんとか防ごうと歯を食いしばる。
パーティー全員が見ていられずに目を逸らし、キリムが助からない事を悟りつつも、事態の打開を神に祈った。
だが、1秒経っても、2秒経ってもキリムの断末魔は聞こえてこない。
「我が主をこれ以上嬲るのは無理と知れ。下等な魔物如きが」
「……えっ」
「なぜ俺を呼ばん。死なれては困ると常々言っていたはずだ」
キリムがその聞き馴染んだ声に恐る恐る目を開けて見上げると、そこには黄金色の髪に赤いマントの男、ステアがいた。
「ステア……」
「フン」
ステアは短剣1本で拳を受け止めており、そして新たに振り下ろしてくるウーガのもう1本の腕を容赦なく切り落とした。
「ウアァァァァ!」
「五月蠅い」
ウーガが痛みに大声で叫ぶ。ステアは払い飛ばそうとする腕からキリムを守り、躊躇などなく攻撃を入れ、ウーガの喉を切り裂いた。
「これがお前のクラムの力だ」
そう言葉を発すると、次の瞬間にはウーガの腹には大きな穴が開いていた。ステアが突き刺した短剣がウーガを突き抜けたのだ。
キリム達を瀕死の状態まで苦しめたウーガは完全に倒され、地面の上で灰になった。ステアの登場からわずか10秒程の出来事だった。
「もう心配いらん。お前たちも、良く頑張った」
「ステア、どうして……」
「お前が俺を呼んだからだ。名を強く呼ばれ駆け付けない程、落ちぶれてはいない」
「呼ぶ……そっか、俺咄嗟にもう駄目だと思って腕輪に話しかけたんだ……ありがとう。凄く、怖かった」
「お前は、いや、お前達は熟練の旅人も手を焼くウーガをここまで苦しめた。よくやった」
ステアが優しい言葉を掛けると、皆が安堵し、その場に座り込んだ。
「良かった、怖かった……死んじゃうかと思った」
リビィが大泣きしながらステアへと頭を下げる。マルスは助かったという実感から力が抜け、地面に仰向けになって寝転がっていた。
「俺、パーティーを守れたかな」
「俺達、お前のおかけでみんな攻撃らしい攻撃を受けなかった。ガードの鑑だよ」
「エンキが目を覚ましたわ!」
多少の怪我はあれど、皆が無事だ。キリムがステアの事を考えた事で、ステアは躊躇いなく駆け付け、そしてすぐにキリムを守った。主の為なら自分がカーズの呪いと戦っていようが関係ないのだ。
「戦わなければならない状況だったのだろう。だが何のための召喚士だ。いいか、お前は召喚士だ。仲間を守るために戦ったなら、その為に俺を呼べ」
「でも……」
「死んでは意味がない。1度の召喚で全てが無に帰す訳でもない。戦場において必要なのは志ではなく、戦局に最適な解で手を打つ事だ」
「分かった」
必死に戦い、振り下ろされる拳に致命傷を負わされる覚悟をしていたキリムも、安堵からか目から涙がこぼれる。
「クラムステア有難う!」
「助かりました、有難うございます!」
リビィとサンがステアに抱きついてお礼を告げる。マルスは体を起こしたところで、ブリンクとエンキは「俺達も行った方がいいのか?」と顔を見合わせる。
「お前は俺に抱きついて礼を言わんのか」
「えっ……」
キリムが躊躇って静止する間、ブリンクとエンキがニッと笑い、マルスにも手招きをする。
「クラムステア、ありがとうー」
わざとらしくブリンク達がステアに抱きつき、残るはキリムだけだ。
「なんだこれ……」
キリムは恥ずかしがりながらも皆と一緒にステアへと抱きつく。
「重い。我が主以外の抱擁は要らん」
人を危機から救えた。その事に関しては満更でもない。
ステアはしばらくその茶番に付き合った後、キリム以外を引き剥がした。






