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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【CURSE】ステアの異変と現実、仲間たち

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CURSE-04(042)


「考えるも何も、それしかないだろ! なんだよ、やったじゃないか! 信頼してくれてんだ、何をためらう必要がある!」


 クラムにとって、あるべき主に出会う事は悲願でもある。ステアも望んでいた事であり、キリムがそうであればと思った事もある。


 だが、ステアをはじめ、クラムが考えていたあるべき主との出会いは、このような自身に不調が訪れるものではなかった。


「……俺は、本当にキリムの為に存在するのだろうか」


「どういう事だ? カーズならそうだろう」


「俺はキリムを本当に食ってしまうんじゃないだろうか。次にキリムの腕に噛みつくとき、自制できる自信もない。何より、カーズを告げた時のキリムの反応が恐ろしい」


 今のステアの状況からすれば、拒否されたならそれで失意の生涯となるだけでは済まされない。他人の血を受け付けなくなってしまえば、いずれ消えてしまう。


 真の主に必要とされない、つまりそれは存在意義無しという事だ。あるべき主従となるか、消滅するかの2択しかない。


 出会ってしまえば、そんな呪いが発動する。だからこそ呪いと同じ意味を持つカーズと呼ばれるのだが、かつて人が名付けたその意味など、クラムは知らなかった。


「カーズの事、教えていないのか? 今の世の中なら、カーズを知る召喚士も少ないと思うぞ」


「あるべき主従を狙って近づいたと思われたくはない。本当に……キリムに手を貸したのは偶然だ」


「おまえが黙っていても、いずれ召喚士のギルドや、その他の旅人から聞くこともあるだろ。どちらにしろ、今のお前じゃ一緒に旅は無理だ」


「キリムの前では気丈に振る舞っているつもりだ」


 ステアは強情だ。きっとキリムにカーズの事を告げることなく、頼れるクラムを演じ続ける事だろう。ディンは、そうやってギリギリまで粘って消えていくステアの姿を見たくはなかった。


 それはキリムがステアとカーズにならないはずだという決めつけではない。


 ディンは仕方なくカーズとなったクラムメルリトのようではなく、ステアとキリムは納得の上でクラムの憧れになって欲しかった。


「いいから、俺が横で見ててやるから。今お前たちはどこを旅してんだよ」


「……ベンガだ。キリムを宿に泊めさせているから心配はない」


「ベンガだな、行ったことはある。任せろ」


「何をする気だ」


 不審に思うステアを無視し、ディンは瞬間移動でその場から消える。不安に思いながらも、ステアはそれ以上動く気力が湧かず、またベッドに倒れるように横になり目を閉じた。





 * * * * * * * * *





「やあ、キリム君」


「え、あれ? あなたはクラムディン……」


 キリムは宿の大浴場から部屋に戻ったところだった。


 風呂上がりに瓶入りの冷たいコーヒーでも買おうかと思い、椅子から立ち上がったところで、ドアをノックされる。ドアを開けるとそこにいたのはフロントの係員だった。


 来客だと告げられ、もしかしたらステアかもしれないと考えたが、ステアであれば部屋の中まで一瞬で移動してくるだろう。他の客と言えば、今はマルスたちくらいしか思い浮かばない。


 そんな中、フロントで待っていたのはクラムディンだった。


「キリム君、悪いが一緒に来てくれ」


「え? こんな時間から……どこにですか」


 急に現れたクラムについて来いと言われても、状況がつかめない。何より、キリムはもう就寝する気で部屋着になっているのだ。外出などまったく考えていない。


「あー、ちょっとこっちへ」


 ディンは入り口の近くまでキリムを手招きし、他人に聞かれないように小声で話し出す。訳が分からないまま、どこか焦ったようにも見えるディンに従い、キリムはディンとそのまま玄関の外に出た。


「ステアが危ないんだ、助けてやってほしい」


「え、どういう事ですか?」


 突然の発言にキリムは驚く。ステアは夕方別れた後、もしかしたら何か別の用事で戦い、負傷したのか。


 相手はクラムディンであって、騙して人をさらうような事は考えないはずだ。何かがあった事に違いないと思うと、状況が分からずに不信感が募る。


「キリム君が、ステアに最後に血を与えたのはいつだい」


「えっ? そうですね……2週間くらい前です。ステアが俺に気を使って、我慢してるみたいなんです」


「やっぱりな。すまないが無理矢理でも血を飲ませてやってくれ。心配ない、君が倒れる前にステアを引き離すから」


「俺の血が美味すぎて止められないって……やっぱり無理してたんだ」


「話さなきゃいけない事が色々あるんだけど、今は一刻を争うんだ。とりあえずステアの家まで一緒に、いいかい?」


「わ、分かりました。ちょっと宿の人に外出の連絡をしてきます」


 キリムはまだよく状況がつかめていない様子で、ただステアが危ないということだけを心配し、ディンに従った。


 宿の部屋は戻るまで借りるという事にし、別の部屋に居るマルス達に向けて、フロントに伝言を頼む。


 早くとせかすディンに手を引かれ、人気のない路地まで移動すると、そのままクラムの洞窟へと瞬間移動をした。






 * * * * * * * * *





 初めて見るクラムの洞窟は、キリムが思っていたよりは住みやすそうだった。


 明かりが少なく薄暗いが空気は澄んでいて、夜に出歩いているのと変わらない。広すぎるせいか圧迫感はなく、足音や声がよく響く。


 わずかな水の流れる音、ややひんやりとした空気は落ち着きを与えてくれる。所々石柱が伸びていなければ、空の見えない閉鎖的な空間である事を忘れそうだ。


 木造の家々はワーフが作ったのだろうか。どれも茶色く同じ真四角で、いくつかの家の窓からは暖かい光が漏れていた。


「キリム君、こっち。そういえば人が来るのは、俺が誕生してからは初めてかもしれない。足元に気を付けて」


「はい、遠いんですか?」


「そこに見えるのが俺の家。ステアの家はもうちょっと歩いた奥の方だ。だいたいクラムなんてせいぜい100種ほどしかいないから、ゴーン程の街に比べればとても狭く思えるだろうけど、これくらいの広さで十分なんだ」


 全体の広さとしては、幅が500メルテ、奥行きで3キルテほどあるという。天井は飛び回ることが出来るクラム曰く、100メルテ程ありそうとの事。


「とても大きなクラムがいくつか存在するけど、海の神リヴァイアサン、陸の神ベヒモス、空の神ジズなんかは好き勝手に外で暮らしているよ」


 ディンは自分からクラムの事を色々と話してくれる。キリムはクラムの性格の違いを感じつつも、ステアに対してもっと明るく振舞って欲しいと思うことはなかった。


 感情表現が苦手で口下手なステアは、それはそれで傍にいて居心地が良かった。


「俺の血が何か悪いんでしょうか。ステアはそれで何か大変な事に……」


「それは違う、安心していい。あいつが上手く話せるとは思わないが、詳しい事はあいつに聞いてくれ。まったく、大事な事を伝えないのは優しさとは言わないぞ」


 ディンは少し足早になりつつ、キリムが遅れないように時々振り向く。焦りも見えることから、よほど芳しくない事がうかがえる。


「ステアは俺に召喚されて、一緒に旅をしてくれて……本当はとても負担がかかっているのかも。どうしよう、俺、何かいけない事でもしたのかな」


「だからそれはない、大丈夫だって! 自分を責めるような必要はない」


 明るい中心部を背に小走りをしながら、次第に辺りには家が見当たらなくなる。飛び越せるほどの小さな水の流れに架かった木造の橋を渡ると、その先に1軒の家が見えてきた。


「あれだよ」


 ディンが指さしたのは、白い石垣で囲まれた石の家だ。ディンがノックもせずに扉を押し開くと、続いてキリムも続いて家に入った。


 室内はテーブルの上のアルコールランプが1つ灯っているだけで、外よりも薄暗い。


 入口から右手には小さな棚が、左手にはベッドが置かれていて、そこにはステアが装備を着たまま横たわっていた。

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