TRAVELER‐07(035)
ステアは瞬間移動をし、詰め所に閉じこもっていた門番に門を開けさせた。入口めがけて押し寄せてくれた方が、一掃しやすいと考えたからだ。
「キリム君!」
「あ……えっと、メーガンさん!」
「北の灯台から、馬車が1台向かっているのが見えたと情報が入った!」
「え、この状況で来たら……」
キリム達に続き、メーガンのパーティーも到着した。熟練のパーティーが1組でもいれば、門前の魔物など瞬時に一掃できる。ただ、馬車がのんびりやって来て受け入れられる状況ではない。
「俺、馬車まで伝えに行きます! ステ……あっ、兄、ちゃん」
「……兄ちゃんだと?」
メーガン達にはステアの事を兄だと伝えている。咄嗟に呼び掛けた言葉に、ステアは案の定険しい表情を見せた。
「あーえっと、あーもう! 嘘つくって難しい!」
キリムは急いでいるのにと呟きながら、メーガンと隣にいたジェスに真実を打ち明けた。
「ごめんなさい! 実は俺、召喚士なんです。こっちはクラムステア」
「……えっ? 召喚士?」
「この兄ちゃんは……クラムだって!? まさかクラムをずっと召喚したままなのか!?」
「噂で聞いた事がある。1人でクラムを連れて旅をしている召喚士がいるって」
「何だ、何か文句があるのか」
「あー……ステア、他のクラム達の手が空いてたら、こっちに応援に来てくれるよう頼んでくれない?」
「まだ俺以外を頼ろうとは。だが今は許してやる」
ステアはおよそ人では考えられない跳躍で門の上に飛び乗り、ノーム達を探す。ステアが愛想のあの字も見せない事に不安を覚えつつ、ジェスが再度本当にクラムなのかを確認した。
「はい、ステアは俺を旅に出させてくれた恩人……いや、恩クラムです。不愛想ですけど優しくて、本当は元の世界に帰ってもいいのに……俺を気にかけてくれているんです」
「優しい……? まあ君がそう言うならいいけど、クラムを四六時中連れている召喚士なんて、聞いたことがないよ」
「おい。話はそれくらいにして、今は町の防衛に全力を尽くそうぜ。援護するから馬車の誘導は頼んだよ、キリム君」
「はい!」
キリムが前に出ると、メーガンが魔法で援護してくれる。ジェスは盾と剣で魔物を殴り飛ばし、道を確保する。馬車が通れなければ意味がないからだ。
「ガードウォール! 簡易結界よ、少しの間なら攻撃を食らっても効かないわ! 安心して!」
「トースさん、有難うございます!」
「よっしゃ! お前ら避けろよ……旋風!」
「いいわね! 視界が開けて狙い……易い! ブライトアロー!」
トースがウインクをし、ネイサンやアデルゲイト達にも保護術を掛けていく。ネイサンは槍を思いきり振り回して周囲の魔物の足を斬り払い、アデルゲイトが放つ閃光の矢が一直線に魔物を焼き尽くす。
キリムにとっては旅人になって以降、初めて上級者と大勢で共闘する機会だ。その実力に圧倒されつつも、自分のなりたい旅人の姿がそこにあった。
「今度こそ、双刃斬!」
キリムは街道から町へと走り込むダークウルフへと刃を突き立てる。そして、その後ろからやって来るスチームボアへ、ネイサンの動きを真似するように回転しながら斬り付けた。
旋風斬にしては軌道が斜めに傾いているが、初心者にしては上出来だ。
「エアロ! ……ウインドカッター!」
「やるね、キリム君!」
「というより召喚士……だよな? あれ? 武器で攻撃して魔法まで唱えるって」
「1人で旅をするのなら、それくらい出来ないと生きられないって事ね、きっと」
風魔法を唱えて魔物を攻撃し、キリムは再び両手の剣で魔物を斬り刻んでいく。武神であるステアと毎日戦っていれば、流石に見て覚えるものだ。
ぎこちなさはあるものの、足りない部分を魔法、物理攻撃双方で補い、等級が上の旅人にも引けを取らない戦いを見せる。
「馬車が来ました!」
「よし、キリム君、いったん下がるんだ!」
ファイアで魔物を威嚇し、馬車の進路を塞がないように振舞う中、ようやく1台の馬車が走り込んで来た。このスカイポートの町が、今結界を切らしているという情報は持っていないはずだ。
それなのに馬車の速度が速すぎる。辺りが暗くなってしまい様子がはっきりと分からないが、まるで何かから逃げているようだ。
「こっちです!」
キリムがファイアを空へと放ち、門の場所を知らせる。積み荷が無事なのか不安になるほど荷台を揺らしながら、馬車は速度を落とさずにキリムの横を通り過ぎた。
「危ないぞ! 早く町の中に逃げるんだ!」
「えっ」
御者が通り過ぎながらキリムに叫ぶ。逃げろと言われても、今は町の中も安全ではない。
「何かに追われているようだね」
「待って下さい! 何か、見えますね」
「やっぱり、魔物に追われていたか」
「御者だって戦える者が多いし、護衛だって乗っていた筈。この辺で護衛に任せられないような魔物は……」
「いや、あれは」
暗闇の中、次第に明らかになってきたのは、大きさで言えばキリムの背の2倍弱、3メルテ程はありそうな豚のような亜人型の魔物だった。
魔物はキリムの10メルテ程手前で止まり、両手の拳を突き合わせて戦意をあらわにする。
「ウーガ種……。あの馬車、この近くからじゃなく随分遠くから逃げてきたな」
「ウーガ、ですか?」
「本来はもっと北、イーストウェイから北上する山道付近で目撃される。他の場所に絶対にいないとは言えないけど、余程馬車の積荷に興味を示したのか……」
キリムはイーストウェイの町で見かけたクエリを思い出していた。その時書かれていた推奨パーティーは旅人等級4だった。キリムにとって、明らかに格上の魔物である。
この辺りの等級になると、戦える旅人も限られてくる。何年旅人をしていようと、街道をのんびり護衛して日銭を稼ぐような旅人なら逃げる事を選ぶ。
「あいつ厄介なのよね。基本的には近接職を狙うんだけど、攻撃魔法やヒールに対して興味を示したら後衛にも向かってくるの。あたしの治癒術に反応しないのを祈るばかりよ」
「キリム君、危ないから下がっていていい。パーティー戦闘を間近で見るいい機会だと思ってくれ。旅人の先輩として、君に任せるわけにはいかない」
「はい」
キリムはとても残念そうだった。この場にステアがいれば、自分から率先して戦っていただろう。
以前アビーとアンデッドを相手にして苦戦をした。無理をするなと言われ、無理をしないと約束もした。それがなかったなら、この場で戦わせてくれと食い下がっていたかもしれない。
落ち着きを取り戻した門番が、門の周囲に松明を掛け、視界の確保を手伝う。
ウーガの視界に入るように立ったメーガン達の影が、時折ゆらりと揺れる。
「行くわ!」
「畳みかける!」
アデルゲイトが薄暗い中でまず不意打ちとなる矢を放ち、そして魔法職のメーガンが魔法を発動させた。矢での攻撃に怯んだウーガは、視界に魔法の光を捉え、メーガンへと狙いを定める。
「アイスボール! ……あ~くっそ! この辺乾燥してるなぁ」
「あたしの矢にかけてちょうだい、アイスアロー撃つから! ジェス、ひきつけて!」
「了解。ネイサン行くぞ」
「おう、フェザーかけるの忘れんなよ、トース」
「もう掛かってるよ、鈍いんだから。ったくこれだから脳まで筋肉の戦闘狂は」
流石は熟練のパーティーだ。メーガン達は全員で連携しウーガに挑む。たった数秒で、キリムはこのパーティーの実力の高さを感じ取った。
ジェスはメーガンの前に立ち、盾でウーガを強打した。魔物は視界を防がれることを嫌い、視界を邪魔する者を狙おうとする習性がある。盾役はそれを利用し、魔物が嫌がる攻撃をしながら同時に注意を惹き付ける役目を担う。
「ありがとよジェス!」
ウーガの背後から、大柄な体に似合わない素早さでネイサンが蹴りを入れ、両手剣で足を狙う。嫌がるウーガへと、メーガンが更に魔法を畳みかけ、アデルゲイトが痺れ矢を撃つ。






