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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【TRAVELER】新しい町、出会い、旅人の思い

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TRAVELER‐03(031)


「やあ、ノアくんだったね」


「さっきのお兄ちゃん! どうしたの?」


「うん、ちょっとシェリーさんと話がしたいんだ」


「うん、いいよ。シェリーさん呼んでくる! 入って!」


 中に案内されると、建物の中は板張りの広い廊下が真ん中を貫くなかなか……褒めるべき所が見当たらない空間になっていた。


 電気は通っているが、そのランプは満足に室内を照らせていない。おそらく以前は馬小屋だったのだろう。


 各部屋は馬小屋の隙間だらけの仕切りをそのまま使っていて、あまり良い子育て環境とは言い難い。


「修理する金もないとなれば、一攫千金を夢見るのも分かる。しかし無謀にも程がある」


 シェリーの部屋は手前の海側、向かって右手にあった。事務所にもなっているようだ。シェリーはキリム達を見てニッコリと笑い、食堂へと通してくれた。


「何か御用が?」


「え、えっと……その」


「まさか、うちの子を養子にして下さるのかしら! でも旅をされるのなら……それに耐えられる子がいるかどうか」


 シェリーは胸の前で手を組み、盛大な勘違いをして見せる。生憎キリムはまだ16歳で、他人の面倒を見る余裕もない。キリムは困ったように首を小さく振った。


「いえ、違うんです。その……シェリーさんは明日の討伐戦、お1人で戦うのですか?」


「ああ、その事でしたか。明日はこの孤児院の15歳以上の2人とパーティーを組むわ。優勝は駄目でも、3位までに入れば少しは賞金もあるし」


「失礼ですが、魔物の討伐経験は……」


 恐る恐る尋ねるキリムに対し、シェリーはとても自信満々な顔を見せる。つられてキリムも笑顔になるが……すぐにシェリーは眉を下げて肩を落とした。


「全く。1度たりとも」


「他の2人は?」


「旅人でもないのにとんでもない! そんな危ない事はさせられないわ!」


「え、でも討伐戦に出るんですよね」


 シェリーはやや大げさにうろたえ、天井を仰ぎ見て手の平を上に向ける。そしてキリムへと顔を向けると目を大きく開き、眉毛は下げ、口だけで笑った。


「ええ、ええそうよ。だってわたしが出ると言ったら、危ないから助ける人が必要だって聞かないんだもの」


「子供達に心配して止められる程度には無謀という事だな」


 ステアは腕組みをし、キリムなら分かる程度の表情の変化で呆れて見せた。武器も扱ったことがない素人が3人で魔物と立ち向かい、1体でも倒せたら奇跡だ。


 それはただの無謀であって、勇気ややる気の無駄遣いである。


 キリムはもう迷っていなかった。キリムが止めてもシェリーと子供達は明日の大会に出るだろう。そして賞金を手にする事も出来ず、怪我で済めばいいが、最悪は死んで子供の面倒を見る者がいなくなる。


「あの、お手伝いさせて貰えませんか?」


「……手伝い? この孤児院を一緒にわたしと」


「違います」


 シェリーは目を輝かせてキリムの手を取る。前のめりというか、どうにも思い込みが激しいようだ。本人があっけらかんとした性格なのが幸いといったところか。


「話の分からん奴だな。キリムとよく似ている」


「へへ……コホン、よく言われるの」


「あの、明日の討伐戦、俺と組みませんか」


「えっ? あなたと?」


 その申し出は予想だにしていなかったのか、シェリーは半笑いのままで整理しようとする。


「つまり……明日、わたしと一緒のパーティーで、優勝してくれる……?」


「優勝はお約束できませんが、力にはなれると思います」


 シェリーにとっては断る理由などない申し出だ。今度こそ満面の笑みを浮かべ、キリムと堅く握手をした。


「あの……有難う。その、お礼は何も出来ないんだけど、どうしてそんなに親切に?」


「絶対に無謀だと思ったからです。それに、健気にお金を貯めようとする子供達の姿を見て、応援したくなりました」


 本心を言えば、親のいない子供達に、これ以上悲しみを覚えて欲しくなかった。ただ、そう伝えるのは不謹慎だと思い、キリムは黙っていた。それに、シェリーに討伐戦が具体的にどのようなものかを聞き、対策を練る事も可能になる。


 傾向と対策を知るための協力者。そう考えれば決してキリムにとっても損ばかりではない。


「武器はあるのか」


「武器……ん~。包丁や、盾代わりにまな板などは」


「話にならん。魔物を舐めているのか。魔物との戦いでどれ程多くの熟練者が毎年死んでいるか知らんのか」


「あー……そうよね、ええ、ごめんなさい」


 どうやらこの孤児院に、武器と言える武器はなさそうだ。


 孤児院の子供を出場させない事を確約させ、キリムはまず毎年行われている討伐戦がどのようなものかを聞いた。そして、明かす必要があるのかも悩んだが、キリムは自分が召喚士である事、ステアがクラムである事も伝えた。


「あー……旅人の事はよく分からないんだけど、召喚士って人気なのよね。うふふっ、何で知っているかって? それは勿論、私の父が召喚士だったから」


「え、召喚士だったんですか」


「ええ。でも20代後半の頃にこの町にやって来て、母と結婚して……旅人はやめたの。私が生まれてからは漁師。元々釣りが大好きな人で、旅をしながら各地で色んな魚を釣ったって、いつも自慢げに話してくれたわ」


「失礼ですが、ご両親は……」


「ん~そうね、あなたと一緒、そしてここの子供達と一緒。母は病気で、父は海で船ごと行方不明。あ、でも気にしないで? もうずいぶんと昔の話」


 性格なのか、それとも努めて明るく振舞っているのかは分からないが、シェリーはキリムに気を遣わせたくないらしい。自分が15歳の時に両親を亡くしたため、孤児院の子供も15歳までは絶対に面倒を見るのだという。


 そんなシェリーの境遇を知ったところで、キリムは本題に入る事を促した。


 討伐とは具体的にどのような魔物を相手にするのか、どのような場所で戦うのか。それによってはシェリーにも出番があるかもしれない。


「この町はご覧の通り、海に面しているの。裏手は斜面だし、土砂崩れを警戒して少しずつ切り崩しているわ。その土を埋め立てに使って港を広げるってわけ。けれど、拡張した部分に結界は届いていない」


「そんな危ない場所を、町の人が使うのは……」


 大変高価で、それこそ家1軒の金額では済まないくらいだが、石油を燃料とする持ち運び可能な結界装置もある。大きな商船や、小さな辺境の村の牧場などに使われるものだ。


 それを港、丘、それぞれに複数買って設置するのは現実的ではない。


「そこなのよ! だから町の結界そのものの範囲を広げるの。まだ結界には余裕があるみたい。でも結界の範囲を調整するには、一度結界を切らなければならないの」


「なるほど。その結界を切るタイミングで押し寄せる魔物から、町を守らせるのが目的か」


「ええ、その通り。一応非常用の持ち運びできる結界が町にあるから、戦えない人たちや他の大会に出る人は、今日受付したあの広場の臨時結界の中で終わるまで待機」


「じゃあ、孤児院の子達は安全ですね。町に侵入する魔物から守る、か。海からと陸から、どっちの方が魔物の襲撃が多いんでしょうか」


 チームで魔物の討伐数を競うのであれば、出来るだけ魔物が多く湧く場所で構えたい。


「あー……実は結界の中から応援していただけで、見える範囲しか分からなくて」


「それじゃあ、町の中を少し見て回りたいです。土地勘もないのに戦うのは不利な気がして」


「子供達のご飯の用意をして、洗濯まで終わらせたらご案内できるんだけど」


「案内は大丈夫です、自分達で歩きますから」


 キリムはさっそく町を1周すると言って席を立ち、部屋の外で様子を見ていたノア達に手を振る。そこでステアは……相変わらず不愛想にシェリーを見下ろし、1つ提案をした。

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