TRAVELER‐01(029)
【TRAVELER】新しい町、出会い、旅人の思い
キリムとステアが旅の日々に慣れ、2カ月ほど経ったある日。
2人は強敵を求めるのではなく戦いそのものに慣れるため、徒歩で旅を続けていた。
ここ数日は雲の影に入れないくらいに晴れ渡り、キリムは随分と日に焼けたようだ。
頭上をトンビが飛び交い、海沿いの崖の上にある街道からは、はるか遠くに水平線が見える。海も見事な空色を映し、キラキラと輝いていた。
「もう少しで町が見えるはず……なんだけど」
「おい、見ろ。……前ではない、下を見ろ」
「うわぁ……崖の下に降りる道が!」
幅が広くなだらかな坂道の下には、海沿いに並ぶ家々が見える。イーストウェイのはるか南、スカイポートという町だ。
空を眺めながら旅立つ港町。赤や黄や青の屋根は陽気な雰囲気を醸し出している。
「楽しみだ、行こう!」
町にたどり着くと、いくつか途中で立ち寄った村の長閑さとはまるで違う、歓声や音楽が聞こえてくる。キリムは入門手続きをしながら首を傾げていた。
「これ……何かお祭りでもやってるのかな」
「町の規模にしては賑やかだな」
「おや、旅人の風貌だというのに、この町の武術大会をご存じない?」
背丈はキリムほどで恰幅の良い門番のおじさんが、おでこに張り付いた前髪を掻き上げ、汗を拭いながら驚く。
「今日から3日間はこの町の創立記念祭なんですよ。何日も前から旅人も続々と押し寄せています。まあ、陸から来る物好きはあんたらくらいだが」
「記念祭!」
「何があるかサッパリ分からんが、興味があるのなら行くといい」
「うん」
祭りなど参加した事はないが、話に聞いた事くらいはある。キリムは目を輝かせ、町の中心部へと足早に向かう。ステアは祭りではなく主の行動に興味が沸き、キリムの後に続いた。
陸側の門は暇なのか、門番は呑気にキリムの名前や出身、登録ギルドを確認する。
「ミスティ、内陸の召喚士の村か。へえ、召喚士ね」
そして、もう一人分の情報を確認した所で、門番は眉尻を上げた。
「クラムステア? クラム……クラムだと!?」
ふざけて適当な事を書くような者には見えず、門番は腕組みをして2人の後姿を見つめる。
「召喚士とクラム……ほう、面白い祭りになりそうだ」
* * * * * * * * *
「おい、いつまで通りを行き来している」
「ごめん、美味しそうなものを売ってるお店がいっぱいで」
キリムは片手に肉を焼いて刺した串、もう片方の手には焼いたコーン、脇には芋を揚げたスティックが入った紙袋を抱えていた。
ステアはキリムが持ちきれないコロッケやオレンジジュースを持っている。普段無駄遣いをしないキリムも、祭りの陽気と誘惑には勝てなかったようだ。
「はあー、凄いや。こんなに美味しいものがいっぱい売ってて、自分で稼いだお金で買えるなんて」
「あまり使い過ぎると魔術書が買えんぞ。ファイアとフラッド(※水を発生させる魔法)だけで旅を続ける気か」
「わ、分かってる……あれ?」
キリムはふと通りの掲示板に目線をやり、そしてそこに書いてあったイベントに注目する。
「武術、魔法大会……?」
「どうした」
「さっき言われてた大会だよ。対戦部門、技術部門、討伐部門」
大きく貼り出されたイベント告知には、対戦部門はトーナメント戦、技術部門は点数を競うと書いてある。出場資格は15歳以上である事、それだけだ。
町民のみならず、旅人や商人、観光客や船乗りも参加可能だ。第27回大会ともなればそこそこの歴史を持つ。恒例のイベントとして、おおむね好評である事がうかがえた。
「見ろ、キリム。賞金と商品が書かれている」
ステアがキリムの両肩に手を置き、上から覗き込むように内容を確認する。
「賞金? 対戦部門は賞金……5万マーニ!? え、うっそ、そんなに貰えるの!? 技術部門も討伐部門も賞金3万マーニ貰える」
「副賞を見ろ、どれも宿泊無料券7泊分、それに……家1軒だと?」
「家!? え、旅人が優勝したらここに住めるってこと?」
「だろうな。というより旅人以外が勝つのは難しい。実質は旅人をこの町に呼び込む、もしくは定住させるのが目的だろう」
参加条件は、前日までにエントリーする事、それだけだ。参加料は対戦部門500マーニ、技術部門250マーニ、討伐部門は無料となっている。
キリムは5万マーニに心揺れていたが、自身だけではまず勝てない。ステアを召喚して戦わせて5万マーニを受け取るのはズルではないかと思い、対戦での参加は見送る事にした。
「技術って、例……岩を砕く、竜巻を起こすなど、その道を極めたと分かる1撃を披露……凄い、これ面白そう」
「お前は何か極めたか」
「うっ……ただ見るのは面白そうって思っただけ」
「お前の事だ、タダで参加できる討伐を選ぶと思っていたが」
「そんな! そりゃ貧乏だったしお金は貯めておきたいけどさ」
貧乏少年扱いに口を尖らせるも、ステアと共に参加するのであれば、討伐クエリがもっとも適している。それに、キリムはステアも戦いたいのではないかとも思っていた。
デル討伐……厳密に言えば捕獲の旅は先を急ぐものでもない。どうせヒヨッコのままでは敵わないのだから、経験を積むついでにお金を稼げるイベントに参加するのも悪くない。
旅人は旅客協会の規則を守りさえすれば、その在り方は定められていない。各地の観光を楽しんでもいいし、祭りを渡り歩いても自由なのだ。
ステアとしては、貧乏からの脱却、父親の死、後ろ向きな理由が多かったキリムには、少し楽しむことを覚えて貰いたいところだ。
「何やるか分からないけど、討伐……参加してみようか。受付は海沿いの広場だって」
「好きにすればいい。戦いとなれば俺も加勢できる」
「俺だけで参加しようなんて思ってないよ。こんなヒヨッコが勝てる大会なんてない」
キリムは食べ終わった串を丁寧に紙袋に戻し、海沿いの道へと出て広場を目指す。護岸工事がなされ、そこだけを見れば崖沿いにあるとは思えないほど開けている。広場には更に多くの人が集まっていた。
「参加受付……当日はここで戦ったりするんだね」
「申請してこい」
「うん」
長机が3つ並べられ、左から順に対戦、技術、討伐と受付が分かれている。対戦部門や技術部門の列には、いかにも熟練者で高そうな装備を着た者が並んでいる。討伐部門は、それに比べると幾分か不慣れな者が多そうだった。
「はい、こんにちは。次の方はここに名前を書いてね」
祭りの実行委員のおじさんは、痩せた手で記入欄を指し、しわくちゃな顔を更にしわくちゃにして、ニッと笑う。希望の者が強そうか弱そうかなど関係ないらしい。
「名前と、住所だけでいいんですか」
「ああええよ。旅人さんなら出身地でええ」
「はあ……」
1人で心細ければ、5人までチームを組んでくれる仲間を見つけてもいいのだという。対戦、技術部門との掛け持ちは不可。強過ぎる人がどうせ賞を攫って行くとなれば、参加者が減ってしまうからとの事だった。
「ステア、登録終わったよ」
「見ろ。人の事には疎いが……あんな奴らが討伐に参加できると思うか」
「えっと、子連れの……主婦?」
「お前にもそう見えるか。装備を脱いでいるだけかもしれんが、武術や魔法の上級者には見えんな」
キリムの数人後に並んでいたのは、白く丈の長いワンピースを着た女性、それにまとわりつくように裾を掴む子供たちだった。子連れの旅人など滅多にいない。この町の住民だろう。
「町民でも戦えるような、楽な討伐なのかも」
「そうだろうな」
気になりながらも、キリムとステアは広場を出て宿に向かおうとする。町の案内板を探していると、広場の出口にある木造の家の前で、小さい子供たちが「お店ごっこ」をしているのが目に入った。
露店が並んでいる事に影響を受け、自分達も何かしたくなったのだろう。






