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DEFENDER-06



 * * * * * * * * *




「……バベル、落ち込むな。仕方ねえだろ、召喚士がいねえんだから」


「僕を呼びたいって人、いないのかな……」


「馬鹿な事言うな、あのステアがお前の事をすげえって褒めてたんだぜ? 召喚士がいたなら、今頃土下座して召喚させてくれって言ってるさ」


 エンキ達がキリムとステアを連れて戻ってきた後も、まだバベルのクエリは受注者がいなかった。


 ステアはキリムがいない戦闘を拒否したため、キリムも一緒について来ている。宿の周辺は夜になった頃。新規のお客さんは少なくとも現地時間で明日の夕方まで来ない。


 念のため「1番マシ」なディンに留守番を任せたというが、彼は最低限の掃除と洗濯くらいしか出来ない。怪しい薬を売らないだけマシという判断だ。


「あ、えっと……バベルくん、固有術は考えたんだよね。協会の記帳では召喚士が4人滞在中って事になってたし、魔窟に行ってみよう」


「たかだか数か月召喚されていないだけで何だ。俺は1年以上呼ばれなかった事もある」


「それ、ステアが旅人とまったく交流しなかった事にも原因があると思うけどな」


「おいらはエンキ以外から召喚された事がなかったんだ。大丈夫だよ」


 クラムが金を出して依頼を掛けるなど前代未聞。旅人協会は、それはもう心の底から驚いていた。そもそもバベルの情報は共有され始めたばかりで、職員は殆どがバベルの名前も見た目も知らない。


 アイカとバベルでは話にならず、結局キリムが到着した後で事情を説明した。


 協会も「あのキリム・ジジ」が来たとなれば、大騒ぎだ。バベルが新しいクラムである事も認知され、町内には召喚士への依頼という放送も流れた。


 だが、肝心の召喚士がいない。


「町が把握している元旅人や子供ならいるんですが……資格を返上したお爺ちゃんお婆ちゃんとか、4歳の男の子とか」


「4歳? 召喚だけで霊力切れ起こしてぶっ倒れるだろ……その爺ちゃんってのはどうなんだ」


「足腰は丈夫らしいですけど、その、最近『なかった事を思い出す』ようになったとか」


「そりゃ厳しいな。召喚士ギルドの職員も来れそうにないか?」


「ノウイの召喚士ギルドは、職員不足で1人しかいないんです。閉めさせるのも……」


 エンキが受付で色々と粘ったが、バベルを召喚出来そうな者は結局いなかった。そろそろアイカの父親の救出を急がなければならない。一行はバベルを宥め、魔窟に向かおうと促す。


 その時、管理所の大きな扉が開き、旅人が数人入って来た。足具の踵が石の床をコツコツと打ち、続いて重い装備の金属音が響く。


「駄目だこの剣。全然掘り出し物なんかじゃなかったぜ。あの商人とんでもねえな」


「なんか期待外れだったよね、この町」


 魔窟帰りだろうか、男女5人のパーティーは愚痴をこぼしながら受付に向かう。見た目からして剣盾士、槍術士、斧術士、攻撃術士に治癒術士だろうか。


 黒い膝までのローブに革のブーツを履いた攻撃術士風の女が、受付で不満を言いながら報酬を受け取る。色黒で黒髪。頭には犬のような耳がある。犬人族もまたラージ大陸では珍しい。


「ねえ、あんたらさあ、あの素材市とかいうの取り締まった方がいいんじゃない? 見た目だけで使い物にならない剣とか売りつけてるけどいいの?」


「ゴーンの装備屋さんは誠実だったよね。変なもの売らないもん。等級が低い奴はもっと相当レベルの経験を積んでから来いとか、装備代は命に払ってると思えとか」


「あーあ、ちゃんと店で買えばよかった。有名な工房あったじゃん、何だっけ」


 剣盾士の男は欠けた片手剣を職員に見せ、これで幾らだと思うかと訴えている。


「エンキ、なんだか結構困ってる人多そうだね」


「ああ、そうみたいだな。旅人が困るのは鍛冶師として見過ごせねえ。俺とワーフ様で選別してやるか……宿に向かうのが少し遅れるけど、いいか?」


「ディンも半日くらい大丈夫だと思う。大丈夫じゃなかったら……って伝えてるし」


 素材市の商人の意識はどうにも低いらしい。金が稼げなければ次の土地へ流れるだけ、客は一見さんばかりだから責任感など最初からない。残念ながらそんな商人が集まりつつあった。


 ワーフとエンキはアイカを連れ、受付の5人に声を掛けに行く。


「キリム、ステア! 後頼んだぞ! バベルも魔窟で召喚士を見つけとけよ!」


「うん……」


「行こう、召喚される事より誰かを守る事だよ。そんな信頼の積み重ねがバベルを求める声に繋がる」


「あの者らの話を聞いただろう。信頼されなければどうなるか」


 キリムとステアの言葉に励まされ、バベルにもようやく力強い眼差しが戻る。3人はまず魔窟の入り口に飛び、そこから目撃情報を集めつつ下層を目指すことにした。


「キリムさん! ちょっと待って下さい!」


 ステアが瞬間移動のため、キリムとバベルの肩を掴んだと同時に、職員の声が響いた。エンキとワーフも手招きをしている。


「何か、あった?」


「おう、待ち人来たるってとこだ」


「バベル良かったね、朗報だよ! この人は召喚士さんなんだ!」


「え?」


 バベルの目が輝く。黒いローブを着た犬人族の旅人は召喚士だったらしい。召喚士は状況が分からず、子供のような外見のバベルに首を傾げている。


「あの、僕のクエリを受けてくれるの?」


「確かに召喚士だけど……え? クエリ? あたし達、今魔窟から戻ってきたところなんだけど……ちょっと、ちょっと待って! まさかキリム・ジジさん!?」


「あ、はい。こっちはステア、こっちがバベル」


「やっぱり! ああ、ワーフ様は見た目で流石に分かったけど、伝説のあるべき主従の方々とこんな所でお会いできるなんて! ナターリア・ベスパです」


 ナターリアはニッコリと笑い、エンキ、ワーフ、それからキリムとステアとも握手を交わす。ただ、協会にはチラリと寄るだけ、殆ど魔窟に籠っていた彼女にもまた、バベルの情報が入っていないらしい。


 握手をし、微笑みながらも困惑している。キリムが事情を話せば、ようやくバベルがクラムなのだと理解してくれた。


「まさかクラムからクエリを出されるとは思わなかったけど……分かりました。お受けします。ふふっ、これは皆に自慢できる」


 ナターリアは面白そうに笑う。クラムのクエリを受けた召喚士など、未だかつて存在しない。旅人として一目置かれる存在になるのは間違いない。


「急を要する。仲間をゾロゾロと引き連れていく余裕はない。他の者は待っていろ」


「え、あたしだけ? 大丈夫かな……」


「あの……等級は幾つですか?」


「等級は5になったばっかり。10階層まで降りた事はあるけど……」


「問題ない。アイカの父親も深くに到達できたとは思えん」


 仲間は心配しているが、事情が事情だけに仕方がないといった表情だ。おまけにようやく魔窟から帰って来れてクタクタだというのに、これからまた魔窟を探索する気力も体力もない。


「ナターリア、本当に大丈夫?」


「ええ。霊力切らしてでも力になる。お嬢ちゃん、必ず探し出すからね」


 ステアはキリムとバベル、それにナターリアまで抱え込んで瞬間移動する。仲間達もアイカも、もう出来る事はない。後は待つだけだ。


「さーて、ワーフ様。こっちはこっちの仕事をしましょう。元凶は素材市です。えっと、あんたらどこの露店で武器を買ったか分かるか?」


「あ、はい……」


「ったく、目利き出来ねえうちは出所の分かんねえ武器を買うなよ、自己責任ってやつだ」


 エンキが剣盾士の男に注意すれば、男は恥ずかしそうに頭を掻く。


「あ! そうだ、ニキータを連れて来よう! ニキータならきっと今の素材市を掻きまわしてくれるよ」


「商売の神……いいかもしれませんね。召喚士ギルドにお願いしてみましょう! 神妙にしていても事態は変わらねえ、こっちは面白くなりそうだ」

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