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これでも魔女です。

「ぁぁあああああー!!絶対に許さないからな覚えてろこのクソ雲ぉぉおおおおおー!!」




徐々に遠くなっていく雲に中指を立て、急いで言葉を紡ぐ。浮遊、シールド展開、衝撃吸収付与。

浮遊で落下速度を軽減させ、シールドを展開させ衝撃吸収を付与させることで地面との衝突を軽いものにする。

優秀な魔女であれば浮遊を唱えるだけで落下を免れるが、私は平々凡々のためいくつかの魔法を併用しなければ地面と衝突して重傷、最悪死ぬ。




まあ、結局背中から地面にこんにちはする事実は変えられないんですけどね。




「痛い。痛すぎる。えーっと傷薬…って割れてるじゃん!」




背中から落ちたため、背中全体が痛む。パッと見軽い打撲だけだろうと、持ち物の中から傷薬の入った小瓶を取り出そうとして割れているのに気づく。

仕方ないかとため息をつき、痛覚軽減と口にすれば少しだけ楽になった。上を見上げれば悠々と降りてくる白い塊。腹立たしいことこの上ない。




クーは先祖代々私達と共に在る眷属?的な存在である。ご先祖様が創り出したとか、雲に魔法をかけて自我を持たせたとか持たせてないとか。

詳しくはわからないが、とにかくクーは私達一族に仕えている。悪戯好きなご先祖様に似てこうして悪戯を仕掛けるのが玉に瑕だが、移動手段として便利なので助かっているのは事実。




「おいこらクー、私危うく死にかけたんだけど?少し寝るって仰向けになった途端に落とすとかなに?え?本当に死にそうだったら助けてる?自力でなんとかできるって判断したから落とした?

いやまあ何とかなったけど…でも騙されないからな!そう言って上手いこと逃げようったって無駄だ!お前なんか密閉空間の刑だ!!」




やれやれと言った感じでフルフルと左右に揺れるクー、そっちがその気ならばと空き瓶の蓋を開けて収納と叫べばクーは徐々に瓶に吸い込まれていく。

ギョッとしたように体が膨張し、吸い込まれてたまるかと必死に前進する




ふははは残念だったな!お前を閉じ込めるためだけにこれだけは練習しまくったんだよ!




抵抗虚しくクーは瓶の中に吸い込まれ、吸いきったら蓋を閉める。傍から見れば白塗りの瓶にしか見えないが、中に入っているのは雲である。




「しばらくそのままね。はー…街まで徒歩か。地味に遠いんだよなぁ、この辺なんか出るとも聞くし」




ガタガタッと瓶が揺れる。また落とされるかもわからん恐怖に晒されるくらいなら歩いた方がマシ、なのでお前はしばらく窮屈な思いしてろクソ雲。

カバンに瓶(inクー)をしまって、歩き出す。街はここからだと大体徒歩三十分、クーが悪戯さえしなければ今頃街について買い物してる予定だったのになぁ。




しばらく歩いてると草むらがガサガサッと揺れた。思いきり肩が跳ねたが、誰かに見られたという心配もないのでひとまず草むらを注視する。

小動物か何かだろうか。万が一に備えて身構えていると、隠れていたそれが飛び出してきた。真っ白な毛に覆われた耳の長い小動物、ウサギ!




「可愛い…おいでー、怖くないよー」

「小娘が気安く話しかけんな」

「うわ喋ったっていうか声ひっく!見た目詐欺もいいとこだな!?」

「あぁん!?噛み砕いて川魚の餌にしてやろうか!?」

「こわっ、というか声低すぎてイメージ崩れる!もしかしてなんか出るって喋るウサギのことだったの!?」




喋るにしてももっとこう、可愛らしい女の子声のイメージなのに低くてしっぶい声だと誰が想像できただろうか。そりゃあ“何か”が出るって噂されるわな。

今まではこのウサギが喋ってると思わなかったから、“何か”がっていう噂だったのだろう。今度から低音ボイスの喋るウサギが出るって言おう。




「おい、それより何か食い物を寄越せ。さもなくば…」




肉食獣みたいに牙をチラつかせるが、正直可愛いとしか思えない。




「残念ながら何もありません。むしろこれから買う予定だったし。あ、雲でいいならあるけど」

「蜘蛛は食わねぇよ」

「っていうか草食動物なんだからその辺の草でも食べればいいのでは?アイタッなんで!?」




脛に頭突きされた。脛はダメ、脛はダメだよ…




「俺はグルメだからな、この辺の草はあまり美味しくねぇ。街に行くならニンジン買って俺に献上しやがれ」

「そのドヤ顔腹立つな」

「いいから買ってこい」




さっさと行けと言わんばかりに前足でてしてし叩いてくるウサギ。




「いや、無理ですけど」

「は?」

「知り合いでもないのに初対面でいきなりガンつけられて、挙句ニンジン献上しろとかどう見てもカツアゲですありがとうございません」




なんで見ず知らずの他ウサギのためにわざわざ自腹切ってまでニンジン買ってやらなきゃならないの?代わりに何かくれるならまだしも何も渡す気ないよね。




「……フンッ」

「いったい!だからその頭突きやめて地味に痛い!」

「生意気言うからだろうが」

「というか、可愛らしいウサギが実は怖いとかそういうキャラはもう間に合ってます!!某地獄の獄卒ウサギとか某オオカミ2匹従えてるボスうさぎとか!!」

「お…俺は二番煎じじゃねぇ!!」

「二番煎じどころじゃないからね?そういうわけでさよならー」




急にどもりだしたウサギは放置してさっさと歩き出す。これ以上付き合ってたら遅くなっちゃうよ




「待ってくれ、一本だけでいいから人参をくれ」

「メリットがないのにあげる意味ある?」

「っ、じゃあ仲間になってやる!!喋れる分、意思疎通は完璧だし偵察も得意だぜ!」




そこまでして人参食べたいのかこのウサギ。仲間って言っても、もう眷属枠でクーがいるしな。どうしたものか。

そういえば毛むくじゃらになる魔法があったっけ、それ使えば更にモフモフなウサギを堪能できるのでは…?




「わかった。それじゃあ名前教えて」

「…ねぇよ」

「ないの?」

「生まれてこの方、ウサギ以外の呼び名はねぇ」

「じゃあ私がつけるね。うーん、うさ子とかどう?」




無言のまま脛に頭突きされた。だからそれ痛いんだってば!!




「そもそも俺は雌じゃねぇ」

「あぁうん、そうだよね…見た目可愛いけど声がまさに雄だよね。じゃ、うさ男でぇぶしっ!」




顎に頭突きされた!いや確かに安直すぎるかなって思ったけど!




「お前、ネーミングセンス悪いな」

「ぐっ」




事実だから言い返せない。くそー…顎がヒリヒリする。




「うーん、あ、ツクヨって名前は?」

「ツクヨ、ツクヨか。まあうさ子だのうさ男よりはマシだな」




気に入ったのか、自分の名前を呟いた後にフヒヘヘみたいな変な笑い声が聞こえてきた。




「で、お前の名前は?」

「私はカキア、よろしくね」

「俺の方がいい名前だな」

「うわ腹立つその顔」




器用に口に前足を当てながらプークスクスと笑うツクヨ。というかどんだけ名前気に入ったんだ。褒められてるのか貶されてるのかよくわからないな。




「んん、気を取り直して。名前決まったし次は契約だね」

「契約?」

「そう。眷属になるなら契約が必要だよ。私だけの眷属になるのか、一族の眷属になるかっていう」

「ちょっと待て。眷属って何の話だ。俺は仲間になるとは言ったが、眷属になるとは言ってねぇ。つーか、そもそも眷属ってのは魔女特有のあれだろ」

「こう見えても魔女ですけど」

「は?」




おい待てなんだその、このちんちくりんが魔女?みたいな顔は。




「一部を除いて魔女は衰退の一途を辿ってるし、驚くのも無理ないけどね」

「本当に魔女なのか?」

「本当だよ。転換!!」




ツクヨに手をかざして呪文を唱えればボフンと煙に包まれて、体に変化が現れる。




「一体何を…え、は?なんっじゃこりゃー!?お、俺の声が!!あーっ!!しかも俺の息子がいねぇ!!」

「わーい可愛らしい声。それ以外だと全然変化がわかんない」




転換は性別を反転させる魔法、解除しなくても一日経てば戻るんだけど。私にはウサギの雌と雄の違いがわからないよ。

かろうじて声が可愛らしい女の子の声になったからわかる程度だ。ツクヨ本人(本兎?)は性別が変わったことにすぐ気づいたっぽい。




「解呪」

「戻っ…てねぇよ!!俺の息子は戻ってきたが声がそのままじゃねぇか!!」

「いいんじゃないそのままでも。可愛いよ」




嫌がらせを生きがいとしていたようなご先祖様だからなー、解呪したと見せかけて一部だけ戻さないとか抜かりないな。

一日経てば戻るからと告げた途端、脛と顎に連続突きされてその場で悶絶するはめになってしまった。文句はご先祖様にどうぞ!!


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