私のわたし 1-2
……まだ着かないのか……何番目かを歩いているオジサンがボヤいてる。今は半分位だよ。そう伝えてボヤキオジサンを絶望させる。
「こんなにキツイのか……これで居なかったらユンの奴、ぶっ飛ばしてやる……」そういうオジサンからは元気は全く感じられない。美味い酒が飲める!って、言ってたオジサンなんかはオバケみたいな顔をしている。
休んで行こうか?そう聞くと誰もが『休まなくていい』って、怖い顔で答える。狩人としての自尊心が、逃げられる前に捕まえたい、大物を捕まえたい、モテたい、という気持ちが後押ししている様だ。
草木の葉擦れや湧水のせせらぎが耳に心地良い……。下を向くとオジサン達の『ハア、ハア』という喘鳴ばかりだからなぁ……お、教会の人は疲れた様子も無く登っている。やっぱりチカラが使えるんだな。目が合うと『ニッ!』って笑ってきた。……話し聞くの辞めようかな?って、思うのに十分過ぎる位ヘタクソだった。
「頂上が見えて来たぞー!」ハアハアオジサン達がワーワーオジサンになった。皆んなの表情には笑顔が見られ、活気も出てきた。けど……私は不安な気持ちになってくる。
頂上から白っぽい光が見える。周りが赤く染まってくる時に、こんな明るい光が見えるかな?……何かあるよね?鳳凰様……なのかな?
近付くにつれて焦燥感が強くなってくる。オジサン達の喧騒とは裏腹に気持ちが暗く、脚が進まなくなってきた。
行きたくない。何で?分からない……嫌だ。けれど、オジサン達に後押しされて登り続ける。
「やった〜!着いたぜ〜!」前から三番目のオジサンが大声を出す。頂上付近でも草木は多く、結構広い。オジサン達が景色を見ながら『幸せだなぁ……僕は山にいる時が……』とか言ってるけど、私の不安な気持ちは一点から放たれる白い光を見て強くなった。
鳳凰……こんなに沢山の人が来たのに逃げることも無く、雄々しく立っている。こっち……と、いうか私を見ながらジッと動かない。その眼光と全身から発せられる光は、私に『逃げるな』そう言っている様に感じられた。
「皆んな揃ったか?じゃあ、三人組をつくれ!散開して、鳳凰様を探せ!」
え?あそこに居るよ?と、伝える間も無くオジサン達はバラバラに動き始めた。……見えて無いのかな?あんなに強い光なのに……一人、鳳凰に近付いて行く人がいる。……教会の人だ。
笑顔不細工は鳳凰の近くに行くと跪いて話し掛け始めた。鳥に話し掛けるイケメン……変な絵面が私の不安感を揺さぶってくる。逃げたい……けど、脚が、動かない……!
笑顔不細工が振り返る。私を真顔で見つめた後、立ち上がり、近付いてきた。
胸が苦しくてなってくる。涙が溢れてきた。何でか分からないけど、懐かしい、嬉しい、御免なさい……色々な気持ちが湧いてくる。イケメンが愛の告白をしてきそうな状況だけど……笑顔が不細工だからかな……?
正面に来たイケメンは真顔で告白してきた。
「申し訳ありませんが、少しお休み下さい」失礼しますとイケメンが腕を伸ばした瞬間、……私は空を飛んでいた。
眼に映ったのは剣を持った腕を水平に伸ばしているイケメンと……血飛沫をあげている……首が無い人。あれ、私の身体じゃない……?
私……?が地面に引き寄せられる。ドンって、ぶつかったけど……痛みは……感じ、無い、や。
「鳳凰様、宜しくお願いします……」その声を最後に私の意識は暗闇に包まれた。
イケメンからの死亡通知は断れなかったみたいだ……。