私のわたし 1-1
霊峰〈福慈〉に登るのは何度目かな?
二十人程の狩人が準備を終整え出発するところだ。この山は険しく登山には向いていない。と、言われているらしい。私みたいに〈チカラ〉を使える人には関係無いけど……。
「でもよ……本当にいるのかねー?鳳凰様がさー」
「見たってユンが言ってたよなー?あいつ、眼が良かったからなぁ。まあ、行くだけ行ってみようや」
ユン……村の外れに住んでる兄ちゃんか。狩人のおじさん達も久しぶりだけど、おばさん元気かな?
〈鳳凰〉
最近、福慈の周辺で目撃された綺麗な鳥さんだそうだ。狩人のおじさん達は捕まえて京に売りに行くって言ってたか。美味い酒が飲めるって悪党……おじさんが悪い顔で言っている。この間、村に顔を出したのはいつだったっけ……ん?一人だけ登山に向いて無い服装の人がいる。前に村に来ていた教会の人と似た服装だ。違うのは服が綺麗な青なのと……かなりイケメンなところか。目が合うとイケメンがこちらに向かって歩いて来た。
ドキドキしてきた。何だか会ったことがある気がする。胸が……苦しくなって『こんにちは。ニッ』ヘタクソか!『ヘタクソ?』……そのイケメンが見せた笑顔はブサイクだった。胸がスッと何とも無くなった。
「今日は宜しくお願いしますね」普通に話し掛けてくる様子はカッコイイ。笑顔が残念だなんて……勿体無い。無難に『宜しくね』って、言っておく。
「貴方は鳳凰様を見たことがありますか?」イケメンに問いかけられる。この人も鳳凰様が目当てなのかな。そんなに美味しいのかな?
「ふふふ、鳳凰様は昔から繁栄の象徴とされてきました。今回、この福慈にお姿を見せられたと聞きまして、とても楽しみに参りました。美味しくは無いんじゃないかな?」そうなんだね。周りのおじさん達は狩る気、満々だけどね。『ははは』……残念な笑顔だ。教えてあげようかな?でも、傷ついたら嫌だな。そう考えているとイケメンが真面目な顔になった。
「人には捕らえることは出来ないでしょうね。瑞獣様は神なのですから」ズイジュウ……カミ……?
「さぁ、出発するぞー!各自、荷物を持って隊列を組め!行くぞー!」村長の息子の……何だっけ?が指揮を執る。『チカラ持ちの嬢ちゃん、宜しくな』村では力仕事ばかりしてたからか、あだ名が、〈チカラ持ち〉になった。
「チカラ持ち……貴方は〈理力〉が使えるんですか?」リリョク?分からないけど重いものは持てるよ。全身にチカラを込めて岩を掴む。よいしょー!
「……そうですか。君は『ポイっ』えーと、凄いですね!」苦笑いはブサイクじゃ無いみたいだ。やっぱり笑顔が残念なのは帰りに教えてあげよう。
私が先頭になって進む。福慈はあまり人が入らない。この近くに住む様になってから見かけた事はほとんど無い。来るのは村に物売りに来た人が寄るくらいで大体直ぐに帰っちゃう。だからか草木がボーボー、険しいって言われちゃってる。頂上から見る景色は綺麗なんだけどな……。
「……結構キツイんだな。嬢ちゃん、凄いな。息も切れないでピョンピョン登って」うん。空気も澄んでいて気持ちがイイよ。身体を動かすのって楽しいよね!
「村にいた時から思ってたが……ぶっ飛んでるよな?色々と」失礼な村長の息子のナンダッケが声を掛けてくる。チカラを使えば皆んな出来るよ。そういうと首をブンブンと横に振って『出来るわけないだろう!』
と大きな声で言ってきた。
「あれは〈教会〉の訓練された人しか使えないモノだ。それに嬢ちゃんみたいに強いチカラ持ちはなかなか居ないぞ」そうなんだ……じゃあ、私は教会の人だったのかな?何も覚えて無かったからなぁ。そういうとナンダッケは気まずそうに『悪かった』と、言って黙っちゃった。さっきの人に聞いたら、私の事が少し分かるのかな……?
草木を掻き分けて進む。力強い自然の香りの中、頭の中がハッキリとしてくる。上に着いたら笑顔不細工に聞いてみよう。私の事が分かるかもしれない……。
期待に程々の胸を膨らませながら進み続ける……。