1話
朝8時過ぎ。エリはもぞもぞと目を覚ました。
とても怖い夢を見ていた気がする。ひどい寝汗だった。
パジャマの裾がめくり上がり、汗で足がシーツと張り付いていた。カビの根をゆっくりとはがすように、エリはゆっくりからだを起こした。
床に投げ捨てられた服。片付けられていないままのマンガ。ティッシュ箱。中途半端な角度で放置された椅子。転がったままのクッション。
何もかもが昨夜寝る前に見た景色と何も変わらなかった。
見慣れた自分の部屋。今の自分が、昨日の自分の続きであることの証明だ。
毎朝、相も変わらない自分が始まったことに嫌気がした。散らかった部屋は、なるべく見ないようにした。
エリはこの春から浪人中の18歳だ。いつのまにか親が決めていた予備校に通っている。
普通の学生より朝が遅く、エリが起きた時にはとっくに出勤・通学ラッシュの時間になっている。
エリは目が覚め時に外から聞こえる雑踏が好きだった。
車のエンジンの音。小学生の無邪気で大きな声。ガチャガチャと楽しげな音を出すランドセル。人々の話し声。
外が騒がしく、自分がゆっくりと起き出す時は、過ごしだけ良い身分になれた気がした。家族が出かけた後に起き出すことも多かった。
この日はすこし目が覚めるのが早かったようだ。