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グリモワール『ユニヴィ』  作者: 夕暮時人
災厄の魔女‐アリィ・フォルトゥナの生涯
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災厄の魔女‐アリィ・フォルトゥナ

date/XX/XX/XXXX

place-????


 思い起こせば、私の一生は波乱に満ちている。いや、いたと言うほうが正しいのかもしれないが。

 ただの農家の娘であった私がいまや当代一の魔女であり、人族の長どもによれば世界の敵らしい。

 実に馬鹿馬鹿しいと思う反面、馬鹿にできない現実が実に億劫だ。いや、私も年をとったということだな。伊達に顔中皺だらけではない。

 

 さて。何故私は世界の敵なのだったか。有り体に言って思い当たる節が多すぎて、どのあたりを問題にされているのかいまいちわかっていない。とある王族を一族郎党皆殺しにしたことだろうか?あるいは、愚かな民衆を魔術の生贄としたことか。いや、とある土地を焦土に変えたことかもしれない。…やはり心当たりが多すぎるな。まぁ、考えるだけ無駄だろう。


 一月ほど前に今居る隠れ家に引越してきたわけだが、これが実に秀逸であった。私自身が身動きをとりやすく、且つバレ難いという立地。広すぎず狭すぎない空間。そして静寂。実に優秀である。…いや、あった。


「お師匠様!やっと見つけたのです!さぁリリに魔術を教えるのです!」


 この、小うるさい自称私の弟子とやらがここを見つけるまでは。

 綺麗なオッドアイがしっかりと私を捉えている。どうだ!と言わんばかりだ。


「うるさいね。私は弟子をとった覚えなんかないよ。さっさと家に帰りな」

「いいえ。いいえ!リリは帰りません!リリを証明するのです。しなきゃいけないのです!お師匠様は災厄の魔女などではないと!それにリリの帰るところはお師匠様が居るここです!だから、リリはおうちに帰ってきたのです!」


 ない胸を張って主張されてもね。とはいえ、よくもまぁここを見つけたものだとも思う。事実、私を血眼になって探しているであろう人族たちは誰一人ここにたどり着けていない。だがこの娘、リリはたどり着いてみせた。

 やれやれと思う。私は残り少ない時間を一人で過ごす予定なのだ。だからこそわざわざ隠れ家の引越しも行ったのだが。どうやらその計画も頓挫したらしい。


「いいかい小娘。私は確かに災厄の魔女だ。だから私が災厄の魔女じゃないなんて証明はできやしない。数多の人族を。数多の生物を私欲のために使った事実があるのだから。」

「違うのです!確かにお師匠様はいろんな人たちを犠牲にしたのかも知れないです。でもそれは必要なことだったです!リリは知ってるです。お師匠様が本当はまだ若いことも。ずっとずっと泣いてることも!一番犠牲にしてるのはお師匠様自身だってリリは知ってるです!そんなお師匠様が意味のないことなんてしないのです!だから。必要だったんですよね?」


 正直に言って私は驚いていた。泣いてるかどうかは知らないが、何故この娘は私を若いと言ったのか。壁にかけている鏡で自身の姿をみれば、そこに写っているのは、確かに老婆である。災厄の魔女の伝説はすでに80年近いのだ。つまり、災厄の魔女は少なくとも80をこえた老婆であるというのが常識のはず。


「小娘。確かに私はまだまだ現役だと思ってるがね。齢80をこえてる老婆を若いとは言わぬだろう?さて、体調も良くないからね。さっさと帰っとくれ。あーそれから、どこかの王族にでもこの場所をおしえると良い。死ぬ寸前の災厄がここに居るとね。」

「…違うです。リリは知ってるのです。お師匠様は災厄の魔女であってそうじゃない。ううん。災厄なのはお師匠様じゃなくてリリ達だったって。…また明日来るのです。何か食べたいものとかないです?」

「そんなものないね。二度と来るんじゃないよ。」


 小娘は隠れ家を後にした。

 だが、知ってるとはどういうことだろうか。

 そこで私はふと思い出したのだ。

 小娘の目はオッドアイだった。それも碧と紅の。


 私は引き出しからひとつの本を取り出す。 

 


 

―我が生涯をここに記す。-




 実に簡素な表紙にはそう書いてあった。


 厚さ5センチほどのその本を見つけた時、私はまだ何も知らないただの小さな女の子だった。

 仲の良いお父さんとお母さんをずっと見てきて、私もいつかは素敵な男の子と結婚して、可愛い子供に囲まれて生活したいなんて夢を思って。



でも、そうはならなかった。

そうすることはできなかった。

思い描いていた自身の未来が変わるのは必然だった。



見つけてしまったのだから

この本を




 ある思いを念じながら運命の書を開く。

『我輩の最後は赤と緑の目をした少年が見取ってくれるようだ。できれば、女子がよかったのだがな。まぁ贅沢は言うまい。………月並みだが、我輩のようにはなるな。後のよ』


 また別の思念で書を開く。

『と、ここまで長々と書いてきたがどうやら私もここまでのようだ。亡霊たち同様、赤と緑の目をしたものが私の前に現れたのだから。………結局私も亡霊入りだ。いいか、私のようになるなよ』


 そして今まで一番思い続けてきた気持ちを胸に三度書を開く。

『なんなんでしょうね。本当に。私はどうしてこうなってしまったのかしら。いえ、嘘ね。私はやりたいことをやった。たとえそれが仕組まれたことだったとしても、私は自ら選んでここにいる。そうだ運命なんてない。いえ、それも含めてやっぱり運命なのかしら。あー答えなんて出るわけないし。いえ、答えはもう出てるのよね。だってもう私のもとにもう紅碧の目をした若者が居るんだもの。だからね。………私のようになっちゃだめだからね?』


 乾いた笑いしか出ない。

 どれも最後は「私のようになるな」だ。

 そして私も例に漏れず、亡霊の仲間入りということなんだろうなこれは。


「そうか。紅碧の目…私にも訪れたのか。で、あれば…」



私もここに記さなければならない。

かつての奇人がそうしたように

かつての偉人がそうしたように

そして…

私の日常を変え

私の意識を変え

私という意義を決定づけた。


かの本の筆者達のように


―我が生涯をここに記す―

初投稿です。

皆様初めまして。


今のところシステム関係とかがイマイチよくわからない状態なので、探り探りやっていこうと思っています。そのため、改訂や編集等を何度か行うかもしれません。


投稿ペースですが、1~2日ペースで投稿していく予定です。(次話明日予定)

レビューや感想、アドバイスなどいただければとてもうれしいです。これから作品ともどもよろしくお願いします!

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