宝石のなる木
とある貧しい農村に、見知らぬ旅の仙人がやってきました。
ものはあまり持っていないし、質素な格好をしていましたが、いつも笑顔でにこにこ。
その仙人は、村の人にさまざまな楽しいお話を聞かせました。
そして、豊かになるいろいろな方法を教えてくれました。
「いつも気分よくしていなさいよ。」
「きれいでうれしい言葉をしっかり使っていると豊かになるよ。」
村の人たちの中には、
「へえ、楽しい話もあるもんだ。ほんまかいなあ」と、興味津々でにその話を聞き入る人もいれば、
「はあ、そんくらいでお金持ちになれたら苦労はせんわ」と、難しい顔でいぶかしげに聞く人もいました。
そうして7週間がたちました。
「本当に長いことお世話になったねえ。ありがとう、ありがとう。
さて、それでは私はそろそろこの村を去りたいと思います。」
一番、その仙人の近くにいてお話を聞いていた一郎が言いました。
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうごぜえました。
寂しくなりますが、
仙人様、あなたがいなくなってからも、あなたの言いつけをしっかり守りますけえ。」
周りで話を聞いていた、次郎が言いました。
「本当に楽しいひと時を過ごさせてもらいましたわ。
そこまで言うなら、ためしに、あなたのいうことをやってみようかいな。」
その遠くで、その仙人のお話を聞いていた三郎がいいました。
「仙人様、ありがとうございました。
とてもいい話を聞けてうれしかったです。
また、ぜひ来てください。私たちを励ましてくだせえ。」
残りの人は口々に言いました。
「それよりか、仙人っちゅうくらいだから、なんかねえ、
いまいちよくわからんそういう一銭にもならん話をされるよかはねえ、
食べ物なり、お金なりええもんを仙術で出せん買ったもんかいねえ・・・。」
「それでは、」
仙人が口を開きました。
「別れる際にね、この村のみんなにプレゼントがあります。」
村中の人々は、
「やったああ!」と大喜び。
「宝石」
「ええ!本当かいな!そりゃすごいべ!!」
「・・・のなる木」
ここまでくると、もう、信じられないというような反応と、うれしすぎて天にも昇るような人たちが騒ぎ立てました。
「本当ですよ。
では、いる人。」
村のすべての人が、まっすぐに手を挙げました。
「焦らない、焦らない。
しっかり全員分のはあるから。」
村中の人たちが、しんしんと見入る中、
仙人は、小さな手のひらほどの袋を懐から取り出しました。
そして、その袋の中から、いくつぶものキラキラと輝く種を手のひらに開けて言いました。
その種は、ほかのどんな種よりも小さい、ゴマよりも小さく、まるで砂粒に近く見えないくらいのものでした。
けれども、たしかにほのかに光を放っていました。
「さあ、これが、宝石のなる木の種だよ。」
そこに、喜びの声はありませんでした。
「はあ、こんな見えないようなものが」という驚きと、
「なんだあ、期待させておいて」というため息と、両方の声が上がりました。
村人の何十人かは、受け取らずに帰っていきました。
あとの村人は、「まあ、一応」とその小さいけれども輝く粒を一粒ずつもらってそれぞれ家に帰っていきました。
仙人がその村から立ち去ってから、
多くのその光の粒をもらった村人は、その粒のことを忘れるか、
あるいは、商人に売ってすぐお金にしてしまいました。
多くの村人は、そのことを知り、われさきにと、その光の粒をお金にかえて喜びましたが、
一週間もしないうちに使い切ってしまい、
「ああ、よかった。得した。」と喜んだはいいですが、それっきりでした。
さて、仙人の話を少しは聞いていた三郎は
ほかの村人とは違って、光の粒を植えました。
一週間しないうちに、小さな芽が出てきました。
「やったぞ」と思ったのですが、ほかの村人がその得たお金でどんちゃん騒ぎをしているのを見て、「そっちの方がよかったかな」なんて思いました。
そのうち、三郎は、仙人のいいお話のことも忘れて、そして、せっかく芽を出した種も、雑草に囲われて、見分けがつかないようになってしまいました。
三郎は、しばらくして、宝石がなる木の光の粒のことを完全に忘れ去ってしまいました。
さて、周りで話をきいていた次郎も、三郎と同じようにしっかりと光の粒を土に植えて、同じように小さな芽が出ました。
次郎は、しばらく、一生懸命水遣りをしていました。
すると、どんどん育ってきて、それなりの植物に成長してきたではありませんか。
「いつ、この木が育って、宝石をつけるのだろうか。」
次郎は自信満々で水遣りをしていました。
ところが、隣から、別の村人たちが、「次郎さんや、もっと手っ取り早く稼ぐ方法を見出したしましたぜ。さあ、こっちおいで、おいで。」と、別の種や肥料を次郎に渡して植えるように言います。
「それもいいかな」と、その種と肥料を植えたらどうでしょう。
あっという間に、芽が出て植物は成長して、儲かるようになりました。
しかし、
あっという間に、土は栄養を失い、別のトゲトゲした草が茂ってきて、宝石の木の手入れが難しくなってきました。
そこに、周りの村人たちが言います。
「宝石のなる木なんて嘘だべ嘘だべ。
誰かほかに、宝石なんぞつけた奴がこの村におるかいね。おらんでしょうが。
バカ正直に、宝石のなる木なんて育てとる奴はお前と一郎くらいじゃ。その木はほっとかれたがええど。」
そういって、次郎を冷やかすものですから、いよいよ次郎も折れて、
「ああ、そうかもしれんなあ。諦めるか。」と、
その木の世話をやめて、別の新しい植物を植えて育てるようになりました。
さて、
最後に、仙人の話を一番よくきいていた一郎ですが、
こちらも、宝石の種を植え、芽が出て、順調に育ちました。
村人が、誘ってきます。「一郎さんや、この種や肥料、試してみてはどうかね。」
収穫もありましたが、茨も生えてきました。
それでも、一郎は、茨をせっせと取り除き、肥料も使わないで、
宝石の木をしっかり世話し続けました。
村人が冷やかしてきます。
「宝石がなるとか、一郎さんやお前は本気で信じておるのかね。
この村では、もう、三郎も次郎も、そんな木は育てるのをやめちまったよ。
そんなバカなことをやっておるのは、たった一人、お前さんだけだ。」
一郎は、そんな声には耳も傾けず、仙人の言われたことを思い返して、笑われながらもその木を育て続けました。
こうしていよいよ長く、寒い冬が訪れました。
村人は皆、わずかな作物で冬をしのぎました。
冬の寒さと厳しさは、一郎にも次郎にも三郎にも、すべての村人に同じく訪れました。
さて、そうして、春が来ました。
どうでしょう。
そこには、驚くべき光景が一郎の畑に広がっていました。
一郎の家を覆うほどのおおきな木が、すべての枝という枝にまばゆく輝かんばかりの宝石をつけているではありませんか。
その輝きは一郎の家や周りを照らしてまるで宮殿のようになっていました。
地面には、零れ落ちた宝石が散らばるまでです。
一郎ひとりのおかげで、その村全体はたいそう栄え豊かになりました。
村人は、こぞってそれを見て、うれしさと、悔しさと入りまじった、とても複雑な気持ちでした。
「ああ、おれもあの種を育てることさえしていれば、簡単に一郎のようになれたのに。」
とうらやましがり、悔しがりましたが、
もはや覆水盆に返らず、です。
さて、来年も仙人は来るでしょうか。
そして、もし、光の粒を貰ったとしても、次の収穫まで一年待たなければなりませんよ。
あなたのもとにも、
いつどこにその仙人がきて、どんな形で、光の粒をくれるかはわかりませんよ。
そのときに、あなたはどうしますか。
◆おしまい