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第四話 ドラゴンの肉を求めて



 翌朝、クリスティーナは村の宿屋を後にし、メシ屋への道を歩いていた。

 メシ屋の開店は本来昼頃からなのだが、イザベラが特別に朝定食を用意すると、帰り際のクリスティーナに声をかけたのだった。

 昨晩の料理はお世辞抜きに美味しいと感じたため、クリスティーナは純粋に楽しみにしていた。

 あくまで普通の食事処故に、メニューは普通の域を出ていない。しかしちゃんと美味しさを追求しているとなれば期待度は高い。

 ここまで食事が楽しみなのはいつ以来だろうと、クリスティーナは思った。

 かつて旅をしている間も、色々な国の豪華な食事にありつけるというチャンスはたくさんあった。しかしそこに楽しみがあったかと言われると、微妙としか答えられないのが正直なところであった。


(その原因を作っていたのは、主にレイモンドだったな)


 自分たちは世界を救う勇者パーティである。

 新しい村や町に着く度に、レイモンドが率先してそう宣言していたのだ。

 おかげで人々は、自分たちを特別扱いするのが当然となってしまい、食事も無理して豪華なモノを用意してくれていた。

 無論、イザベラもクリスティーナも、そんなことをしなくても良いとは言った。しかし相手は聞いてくれない。全ては勇者様とレイモンド様のためですと、決まってそう言われるのだった。

 更に――


『お前たちの気持ちはよく分かるが、折角用意してくれたんだぞ? ここは素直に受け取って然るべきだろう』


 と、レイモンドが誇らしげに胸を張りながら言うのだ。

 そもそもお前がしゃしゃり出なければこんなことにはなってないんだよと、何度思ったことだろうか。

 もっとも、クリスティーナがため息をつきたくなる部分は、その出された豪華な食事にもあった。

 確かに出てきた料理は金をかけてるだけあって、見た目はとても煌びやかだ。しかしそこに温かさはない。

 言ってみれば、貴族や王族の輝きを引き立てるための装飾品という感じだった。食べ物を装飾品呼ばわりするのもどうかとは思ったが、やはりどう考えても、そうとしか思えない。

 そこでクリスティーナは、昨晩食べさせてもらったメシ屋の食事を思い出す。

 確かに豪華さだけなら圧倒的に負けているだろう。しかしとても温かく、とても煌びやかに見えた。

 料理そのものだけでなく、提供する環境も良かったのだと思えた。

 この村は小さく、貴族や王族の力も殆ど届いていない。もし王都で経営すれば、どんな店だろうと必ずと言っていいほど、貴族が目を光らせる。メシ屋も決して例外ではなかっただろう。

 フィリップはそれを見越していたのではないか。単に故郷で開きたかったという気持ちが一番だったのかもしれないが、考慮していなかったとは思えない。

 いずれにしても、良い食事処に出会えた。故にクリスティーナは、昨晩の愚かな行為に対し、改めて恥ずかしさが込み上げてきてしまう。


(全く……私はこの数ヶ月間、一体何をしていたのだろうな?)


 どうかしていたとしか思えない。親友が姿を消しただけで、あっという間に自分自身を見失ってしまった。

 まさかここまで自分の心が弱かったとは――自虐的な気持ちに駆られ、クリスティーナは小さな笑みを浮かべる。


(そもそもイザベラを連れ戻したところで、何かプラスになる要素はあるのか?)


 ふと改めてクリスティーナは思った。

 確かに勇者が突然姿を消した、という騒ぎこそあったが、イザベラが魔王を倒したという事実は確かであり、既にそれは世界中で認知されていることでもある。

 ならばこのまま放っておいても、彼女の偉業は保たれるハズなのだ。本人がいなくとも、人々は勝手に話を盛り上げ、それを本か何かに書き記すなりして、後世に残していくことだろうから。

 そう考えてみれば、イザベラがこの村で暮らしていくこと自体、別に何の問題もないのではと思えてくる。本人に未練がないのならば尚更だ。

 幸いこの村はとても小さく、王都からも大分離れており、静かに暮らしていれば存在がバレる可能性も低いだろう。クリスティーナが見つけるのに数ヶ月費やしているのが良い証拠だ。

 加えてフィリップやイザベラには、後ろ盾も完備されている。本人たちがそれに気づいているかどうかはともかくとして。

 既にクリスティーナ自身、イザベラを連れ戻す考えは全くなかった。

 王都へ戻ったら、イザベラはどこにもいなかったと王に報告するつもりでいた。勿論、この村での出来事を全て伏せた上でだ。

 しかし物事は、そう簡単にはいかないだろうと、クリスティーナは思っていた。


(王都側がどこからか嗅ぎつけてくる可能性は否定できない。イザベラを連れ戻したいという声は大きいからな。特に王とレイモンドがその筆頭と言える)


 少し冷静になって考えてみれば、すぐに分かることだ。王は偉業を成し遂げたイザベラの存在を、とことん利用するつもりなのだ。

 自分たちの国には勇者がいるんだぞと、周囲に自慢したくてしょうがない。要はそういうことなのだろう。

 そしてレイモンドについては、もはや考えるまでもないことであった。彼は魔王討伐の旅立ち前から、ずっとイザベラに恋をしているのだ。

 彼がどれほどイザベラにアタックしてきたのかは、クリスティーナも傍で見ていてよく知っている。魔王を倒した暁には、勇者である彼女と結婚して子を成し、皆から祝福されながら暮らしたいという人生設計を抱いていることも。

 そのことをレイモンドは、イザベラに直接話したことは何度もあった。その度にイザベラは容赦なく突っぱねていた。そんなつもりは一切ないと。

 完全に脈はないなと、クリスティーナは思っていた。しかしレイモンドは、これっぽっちも諦める様子は見せていなかった。


『魔王を倒すまでに、必ずキミを僕のほうに振り向かせてみせるよ』


 そんなレイモンドの言葉を、果たして何度聞いたことだろうか。

 既にイザベラは幼なじみのフィリップと結婚し、メシ屋の女将として幸せな人生を歩んでいる。果たしてレイモンドがこのことを知ったら、どのような行動を起こすのか。

 試しに想像してみた瞬間、クリスティーナは思わず頭を抱えてしまった。


(やはりこのことは絶対に伏せておこう。面倒事は起こらないに限るからな)


 怒り狂って王宮の兵士たちを集め、この村を総攻撃しかねない。そんなことをすれば王都は終わりだ。フィリップやイザベラもそうだが、なにより彼らに協力している人々が黙っているワケがない。


(下手をしたら魔王討伐以上の大戦争になる。想像しきれない恐ろしさだ)


 大聖堂の法皇、大規模商隊の頭、そして剣王と呼ばれし青年。

 クリスティーナが知っているのはこの三人だけだが、他にもたくさん大物が常連客として訪れているのではと、そんな気がしてならなかった。

 いずれにしても、事は荒立てないに限る。そう強く思いながらクリスティーナはメシ屋の前に差し掛かった。

 すると、入口の引き戸に張り紙がしていることに気づく。


『都合により数日間、臨時休業させていただきます――――店主フィリップ』


 確かにそう書かれていた。

 もしかしてイザベラかフィリップのどちらかが急病にでもなったのか。しかし、昨日の様子からして、二人とも無理をしている様子はなかった。

 そんなことを考えていると、目の前の引き戸がガラガラと開かれる。


「あ、クリスティーナ!」


 昨日と同じく元気そうな笑顔で、イザベラが出てきた。


「おはよう。朝ごはんの用意はしてあるよ。早く入って入って!」

「え、あ、う、うん……」


 イザベラに手を掴まれ、そのままなすがままにクリスティーナは店の中へと入っていくのだった。



 ◇ ◇ ◇



「ドラゴンの肉? それをこれから取りに行くというのか?」


 フィリップ特性の朝定食を堪能しながら、クリスティーナは表の張り紙について尋ねていた。

 この村から数キロ先に山があり、そこにドラゴンが出没しているというのだ。そのドラゴンを退治し、大量の肉を剥ぎ取ろうというのが、前々から二人で計画していたミッションだったらしい。


「本当はもっと前に行く予定だったんだが、天気が安定してなかったせいか、ドラゴンが姿を消していてな。ずっと先延ばしになってたんだ」

「昨日の朝、旅の商人さんがドラゴンを見かけたって教えてくれてね。それで急きょ行くことになったの」

「そ、そうか……なるほどな。しかし大丈夫なのか? ドラゴンを狩るのはそう簡単なことじゃないだろう? それに毒を持っているのが大半だというし……」


 クリスティーナの心配はもっともだと、イザベラもフィリップも思っていた。

 ドラゴンは単純に力が強いというだけでなく、その固い爪や尻尾には毒が仕込まれていることでも有名なのだ。勿論全てのドラゴンがこれに該当するワケではないのだが、まず毒があって然るべきだと判断するのが基本となっている。

 加えて炎を吐くなどの遠距離攻撃も凄まじいため、軽い気持ちでドラゴン狩りに挑むのは自殺行為であり、これもまた、冒険者の基本の一つでもあるのだ。

 イザベラもフィリップも、目的は違えど世界を旅していたことは確かなため、そのことを知らないとは思えなかった。なのにこの二人は、まるでちょっと遠くへ買い出しに出かけるみたいなノリで言うモノだから、流石にクリスティーナとしては不安に思わずにはいられなかった。

 そんな彼女の様子を察したのか、フィリップは手のひらを上下に振りながら小さく笑う。


「大丈夫だよ。今回狙うドラゴンに毒がないってのは調査済みだ。それに狩りのほうも心配はいらない。俺とイザベラならむしろ楽勝さ」

「そうそう。だからクリスティーナも楽しみに待っててね。ちゃーんとドラゴンの肉をたくさんご馳走してあげるから。もっとも仕込みには時間がかかるから、すぐってワケにもいかないけどね」


 フィリップもイザベラも笑顔で言う。無理をしている様子は全くない。それでもクリスティーナは、流石に正気かと疑ってしまう。

 大型のドラゴンを相手にする場合、普通は複数の冒険者パーティが組んで、あらかじめ作戦を綿密に立ててから挑むモノだ。ましてや楽勝などと楽観視することはまずあり得ない。

 それをたった二人で、しかも明らかに楽観視しているとなれば、どうかしていると思うのが普通だ。

 イザベラの力が未だ健在であるならば、確かに成功の可能性はあるだろう。しかしそれならそれで、クリスティーナからすれば許しがたいことであった。

 フィリップがイザベラの力をアテにしている。自分の嫁を単なる都合の良い道具扱いするなど、断じてあってはいけない。

 勿論、この考えは流石にあり得ないだろうとも思う。イザベラがそんな男の酷い部分を見抜けないとも思えないし、フィリップがそこまでクズにも見えない。

 それでもやはり、イザベラの親友として心配せずにはいられなかった。


「一つ相談なんだが……そのドラゴン退治、私も同行させてもらえないか?」


 クリスティーナは箸を置きながら、フィリップたちにそう頼んだ。二人がどうやってドラゴンを退治するのか、実際にこの目で確かめなければならないと、クリスティーナは思ったのだ。

 彼女の言葉にフィリップは一瞬ポカンとしたが、すぐになんてことなさげな笑みを浮かべる。


「あぁ、別に良いぞ。イザベラも良いだろ?」

「もっちろん♪ クリスティーナとまた一緒に冒険が出来るなんて楽しみだよ」

「そうと決まれば早速、持っていく水と食料を一人分足さないとな」

「あ、それ私やるよ」


 未だ戸惑いが消えないクリスティーナをよそに、フィリップとイザベラは楽しそうに準備を進める。

 クリスティーナの分の水と、弁当のサンドイッチを準備。そしてクリスティーナが済ませた朝食の後片付けを手早く済ませ、三人はメシ屋の外に集まった。


「よーし、じゃあ準備は良いか?」

「バッチリです♪」

「も、問題はないが……いささか食料が少ないように思えるのだが?」


 クリスティーナの疑問に、フィリップが空を仰ぎながら答える。


「そんなに遠くまで行くワケじゃないからな。途中には川もあるし、魔物狩りでもして調達すれば大丈夫だろ」

「そーそー。前の私たちの旅も似たようなモノだったじゃん」


 肩をポンポンと叩きながら、イザベラが明るく務める。そんな二人の様子に、クリスティーナは軽く脱力しながら言った。


「……まぁそうだな。私はあくまで飛び込みの客人。二人の意見には従おう」

「そんなに固くならんでもいいだろ。楽しく行こうぜ」


 フィリップの言葉を聞いたクリスティーナは、むしろどうやったらそんなに楽しくできるんだと、心の底から問いただしたくてならなかった。

 しかしそれをしたところで、どうにもならないような気がしたため、とりあえずここは黙って従っておくことに決めた。


「では気を取り直して、しゅっぱーつ!」

「おーっ!」

「おっ、おー……?」


 フィリップとイザベラがノリノリで声を上げ、クリスティーナが戸惑いながらもなんとか二人に合わせようとする。

 そして、完全にピクニックに行くような感覚で歩き出す二人の後を、慌てて追いかけ出すのだった。



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