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第二十一話 イザベラ~支えてくれていた十年~



 気がついたら彼女は、彼と一緒にいた。

 いつ、どこで、どのようにして出会ったのか。そんなことは全く覚えていない。そもそも気にする理由もなかった。

 イザベラがフィリップに大きな好意を抱いている。それは彼女の両親も、よく知っていることであった。

 将来はフィリップと結婚し、一緒に二人で世界中を冒険し、そしていつかお店の手伝いをして支えるのだと語るイザベラに対し、両親も笑顔で応援していた。

 だがそれも全て、彼女が勇者の素質があると分かった瞬間、実に呆気なく崩れ落ちてしまった。

 幼なじみ同士が結ばれるなんて、ロマンティックで良いじゃない。それが急にこう変わったのだ。

 料理人と結ばれるよりも、勇者として名を馳せてほしいと。

 これには、王都からの使いの言葉にも、大きく影響されていた。

 イザベラは勇者として専門的な訓練を受けるべきだ。そのための準備も王都で進めている。だから王都へ移り住んでほしいと。

 そして数年と、レイモンド王子とともに魔王討伐の旅に出てほしいと。

 これを聞いた両親は大いに驚き、そして踊るように喜んた。自分たちの娘が王子様とお近づきになれるなんて、もはや玉の輿も同然じゃないかと。危険な任務を任されることなど、すっかり頭の中から抜け落ちた状態で。

 イザベラが王都へ移り住むことを、両親は本人の承諾なしに了承してしまった。

 もしここで断れば、折角の良い話が全て吹き飛んでしまう。このチャンスを逃してなるモノかと、両親の目は血走っていた。

 結果、イザベラは十二歳の誕生日を迎えると同時に、寝耳に水な話を聞かされることとなるのだった。


『王都へ引っ越すことが決まった。全ては勇者であるイザベラのためだ。明日この村を出発するから、今晩中に準備を済ませておいてくれ』


 イザベラは猛反発した。両親が何を言っても――それこそ怒鳴り散らしても、全く聞く耳を持とうとしなかった。

 しかしフィリップとの会話を経て、イザベラは王都へ行くことに決めた。

 やっと私たちの気持ちが通じたんだという、両親の喜びを無視し、イザベラはとにかく勇者としての役割を、一秒でも早く終えることだけを考えるのだった。


『ようこそ王都へ。イザベラ君。今日からキミはここに通ってもらう』


 王と謁見し、レイモンドを紹介された。その際、レイモンドがとても驚いたような表情を浮かべていたのだが、イザベラは特に気にすることはなかった。

 のちに剣士のクリスティーナも紹介された。同い年の友達ができるということもあり、イザベラは大いに喜んだ。

 しかし、当時のクリスティーナはとても硬かった。剣一筋で、余計な慣れ合いは一切不要だと考えていたのだ。

 それでもイザベラはしつこく友達になろうと接し続け、やがてクリスティーナが折れる形で、二人は友達になった。その結果、徐々にクリスティーナの表情も柔らかさが目立つようになった。

 もっとも最初に比べればというだけで、普通の女子と比べればまだまだ固い振る舞いに違いないのだが、それでも十分な成果だろうとイザベラは思った。

 しかし、その一方で――


『やぁ、イザベラ。どこかへ出かけるのかい? 安全のために俺も一緒に行くよ』


 レイモンドの存在がうっとおしいと、イザベラは常日頃から感じていた。

 イケメンな王子様。そして真っすぐ過ぎるくらいに真面目で強い。これだけ聞けばどこが嫌なんだと言われるだろう。

 問題は彼の目だ。自分を見てくる目が、絶対に逃がさないぞと言わんばかりにギラついており、背筋がゾクッとしてしまうほどの狂気を感じるのだ。

 勿論、外見はとても整っていることから、見た目の彼に惚れる女性は数知れず。イザベラはそんな女性たちから、妬みの目で見られることは少なくなかった。


『勇者だからって調子に乗りすぎよね』

『王子様にあんな冷たい態度を取るなんて……何様のつもりよ!』

『きっとチヤホヤされて、私たちのことを影でクスクス笑ってるんだわ』

『大丈夫よ! 良い気になれるのも今のうちなんだから』

『えぇ、化けの皮が剥がれない日なんてないもの』

『レイモンド様も、早く目が覚めてほしいわ』


 こんな感じの声が、至るところから聞こえてくる。そしてその度に、イザベラはため息交じりに思うのだ。

 アンタたちこそ、本当に彼の姿をちゃんとしっかりその目で見ているのか、と。

 もっとも、世の女性たちがそう思うのも無理はなかった。

 レイモンドは基本的に、女性に対して平等に優しく、平等に笑顔を絶やさないでいるのだ。イザベラからすれば、薄気味悪い笑顔にしか見えなかったが。

 それでも女性たちは、王子様から優しくされたと舞い上がる。そしてお姫様になったつもりになり、完璧な男性という幻覚を見せつけられているのだ。

 イザベラは背筋が震えた。断じて引っ掛かってはいけない。彼になびくのは危険すぎると。

 同時に思い浮かべた。故郷に残してきた幼なじみのお兄ちゃんの姿を。


『見ろよイザベラ。今日は珍しい山菜を手に入れたぞ!』


 料理屋さんを目指している純粋な目。子供っぽい部分もあるが、それもまた彼の良いところだと断言できる。

 実際接してみると、素直になれなくてついキツく言ってしまうことも多かった。実にもったいないことをしてきたと後悔している。

 もしも最初から素直になっていて、みっともなく泣きついていれば、この状況は変わっていたのだろうか。

 もしかしたらフィリップが、自分を連れて逃げてくれたのではないだろうか。


(……ないわね)


 イザベラは自分で浮かべた考えを自分で否定する。そもそもフィリップらしさが全くない。こればかりはあり得ないな、と。

 しかしながら、心のどこかで期待していることも確かであった。そう思ったイザベラは、思わず笑ってしまった。

 どんなに離れていても、自分はフィリップに支えられているのだと。

 そしてそれは、魔王討伐の旅に出てからも変わらなかった。いや、むしろ思いは募る一方だといっても過言ではない。

 そんなある時のこと、イザベラにとって、色々な意味で一生忘れられない出来事が起こるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 とある町のギルドに立ち寄った時だった。イザベラはギルドマスターから、衝撃の知らせを受けとった。

 イザベラの両親が、不治の病に侵され、帰らぬ人となったのだ。

 両親は娘に手紙を遺していた。イザベラはギルドマスターからそれを受け取り、中を開いて読んでみた。

 そこには確かに、イザベラへの想いが綴られていたのだが――


『イザベラへ。アナタがこれを読んでいる頃、きっと私たちはこの世にいないことでしょう。しかし私たちは心の底から信じています。必ずや勇者として、課せられた大いなる使命を果たし、世間にその名をとどろかせることを。偉大なる勇者の親となれたことを、本当に嬉しく思います……』


 便せんに書かれた内容を読み終わったイザベラから、表情は消えていた。

 意味は確かによく分かる。勇者に向けられた手紙としても、恐らくこの上なく正しいのだろう。

 しかしイザベラは、ちっとも嬉しくなかった。これではまるで、自分がイザベラではなく、勇者という名前にかわったようではないか。

 筆跡からして、間違いなく両親のモノであることは明白であった。

 もはや涙は出なかった。代わりに深いため息が出てきた。両親の愛とは、一体何だったのだと、本気で問いかけたくなっていた。

 もしもイザベラが、生まれた時から勇者として扱われ、大きな使命を果たすことを前提に育てられたならば、もしくは最初から勇者という言葉に意欲を見せていたとすれば、また違った気持ちになっていたのかもしれない。

 しかし彼女は、最初から勇者に対する興味も意欲もなかった。厳しい修行を積んだのも、あくまで早く勇者の仕事を終えたかっただけ。人々の期待など、最初からどうでもよかったのだ。

 だからこそ、こうして両親からの手紙に対しても、喜びを得られなかった。

 心の底からずっと願っていたのだ。

 もしも勇者が辛ければ、逃げ出しても良いと。魔王を倒したら、勇者という名の鎧を脱ぎ捨て、普通の女の子に戻りなさいと。

 両親からそう言ってほしかった。しかし叶わなかった。

 イザベラの中に、激しい後悔の波が押し寄せる。もっとワガママを言っていれば良かったのではないか。もっと言いたいことをちゃんと言っておけば良かったのではないかと。

 気がついたら、イザベラは一人になっていた。いつギルドマスターの部屋から出てきたのか、全く思い出せなかった。

 クリスティーナも心配しているだろう。レイモンドも周囲の迷惑を考えず、血眼になって探しているかもしれない。

 けど、動けなかった。座り込んだまま立ち上がれなかった。泣こうにも涙が全くでなかった。

 一体自分は何者で、何がしたいのか、全く分からなくなっていた。


「おーい、どうしたんだ? 何かあったのか?」


 声をかけられた。青年の声だ。どこかで聞いたような気もしたが、振り返る気にもなれなかった。自分のことなんて放っておいてほしい。そう思っていた。

 しかし――


「って、あれ? もしかしてイザベラか?」


 その問いかけに、イザベラは目を見開いた。そして振り返ると、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。


「フィリップ……」

「おう、久しぶりだな。お前もこの近くの町に……って、何かあったのか?」


 イザベラの精神的に参っている様子に、フィリップは戸惑いを覚えた。そのまま放っておくこともできず、腰を落ち着けて話を聞くことにした。

 フィリップにならと、イザベラも若干表情を落ち着かせながらも、ポツリポツリと語っていく。

 粗方聞き終えたフィリップは、長めの息を吐きながら空を見上げた。


「なるほどなぁ……まさか親御さんが亡くなってたとはな……」


 顔見知りではあるためか、フィリップもそれなりにショックを受けている様子ではあった。

 しかし今はそれ以上に、イザベラのことが気がかりだった。

 とはいえ、自分が言えることなど、殆どないに等しい。これはイザベラが自分でなんとかするべき問題なのだ。下手に介入しても本人のためにはならない。

 だからせめて、フィリップは明るい声で言うことにした。


「まぁ、お前がどんなことで悩もうが勝手だが、せめて俺との誓いを破るようなマネだけは止めてほしいもんだな」

「誓い?」


 首を傾げるイザベラに、フィリップは忘れちまったのかと、呆れるように笑う。


「村を出る前、ハッキリと俺にいっただろ?」


 フィリップは落ち着いた表情で、イザベラを見据える。


「ちゃっちゃと勇者の仕事を終わらせて、必ず俺のところへ帰って来るってよ」

「っ!!」


 イザベラは目を見開いた。そう言えば確かにそんなことを言った。

 なんでそんなことをずっと忘れていたのだろうか。それだけ精神的に参っていたということなのか。

 同時に、イザベラはフィリップに対して、改めて思った。

 フィリップの姿が、前に比べて大きくなっているような気がしたのだ。

 むしろ出会う度に大きくなっている気がする。堂々としていて強くなっていた。故郷にいたときに比べると、明らかにたくましくなっていた。

 果たして今の――目の前の彼に抱きしめられたら、自分はどうなるだろうか。

 離れたくなくなる可能性が高い気がする。そして思わず言ってしまうのだ。このまま私を連れて逃げてと。


(全く……何バカなことを考えてるんだろ?)


 と思いつつも、イザベラはその考えを何故だか振り切れないでいた。

 そこに――


『遠慮することはねぇ。むしろここでそれをすれば、全てから解放されるぞ!』


 悪魔のささやきが聞こえてきた。黒い羽根とツノと尻尾を持つ、デフォルメされた小さな見た目男の子のそれが、脳内でイザベラに呼びかける。

 正直、イザベラはかなり揺れ動いていた。

 解放される。その言葉をどれほど待ち望んだことか。もう勇者として活動しなくていいのであれば、乗せられるのも悪くない。イザベラは割と本気でそう思えてしまっていた。

 しかし――


『それは絶対に良くないと思います!』


 反対側から待ったがかけられた。

 白い羽根と頭の上に輪っかを浮かべている、デフォルメされた小さな見た目女の子のそれが、脳内でイザベラと悪魔に向かって叫んできた。

 やっぱりそうだよね。ここで投げ出すのは流石に良くないよね。そんなふうにイザベラが思ったその時だった。


『むしろ勇者らしく、ここは正々堂々と胸を張って告白するべきです!』


 いやいや、天使ちゃんも何を言ってるのだ。イザベラは心の中にはびこる天使に思わずツッコミを入れてしまう。

 フィリップのことが好き。それは確かだ。今更強がっても仕方がない。

 天使と悪魔が同時にささやいてくるだなんて、一体どれだけ自分は、彼のことが好きなのだろうか。

 イザベラは自分に対して呆れつつ、軽く深呼吸しながら、改めて決意した。


(やっぱり投げ出すことはしたくないね。こうなったらもう、本当にちゃっちゃと魔王を倒して帰ろう!)


 両手の拳を握りながら、イザベラはニヤリと笑う。脳内の天使と悪魔が驚くのも気にせず、イザベラは思考を巡らせる。


(そして勇者の全てを捨てて、フィリップの元へ帰るんだ。そこで勢いに乗せてプロポーズ。ムードなんかどうでもいいよ。結婚しちゃえばこっちのモノだし♪)


 自然と笑い声が漏れ出ていた。天使と悪魔は、気がついたら姿を消していた。

 これ以上関わらないほうが身のためだと判断して消えたのだが、イザベラはそれに気づくことはなかった。


「フィリップ」

「ん?」


 イザベラは立ち上がり、フィリップを見下ろしながら――


「ありがと。私、もう少し頑張ってみるね♪」


 スッキリとした表情で笑った。それに対してフィリップも笑みを浮かべ、頷きながら握手を交わした。

 村で別れたときと同じく、頑張ろうぜと言う言葉を乗せて。

 そしてイザベラは改めて気合いを入れ直し、クリスティーナとレイモンドの二人を連れ、魔王討伐の旅を再開した。

 そんな彼女の様子に、二人は感動していた。


「流石はイザベラ! 親御さんの死を乗り越えるとは……勇者として天晴れだ!」

「無理しなくてもいいんだぞ。辛くなったら、遠慮なく俺の胸で泣くがいい」


 そんな二人の言葉に、イザベラは苦笑いを浮かべるばかりであった。



 ◇ ◇ ◇



 それからのイザベラたちは順調に旅を進め、魔界へ突入し、なんやかんやあって最終決戦へ赴くことになる。

 またしてもそこでフィリップの姿を見たときは、もはや運命ではないかと、本気で思ってしまった。

 更に、自分がとんでもない人間に仕えていたことも知ってしまった。

 勇者という存在は、あくまで王の駒だ。王が世界的な地位を手に入れるべく、自分たちを使って魔界を制圧させようとしているのだ。

 そのために、何の罪もない魔王を討ち取らせようとしていた。なによりフィリップの親友を、ずっとこの手で倒そうとしていた。

 接してみてよく分かった。ゼビュラスは平和を望む、とても良い魔族だと。

 フィリップから提示された作戦に、イザベラは二つ返事で受けた。

 魔王は敵だという王の言葉と、友達を守りたいというフィリップの言葉。このどちらを取るかは、イザベラにとって考えるまでもなかった。

 そして、イザベラたちとゼビュラスの最終決戦は、フィリップの描いたシナリオ通りに事が進んでいき、やがて本人たちしか知らない大成功を収めるのだった。

 イザベラたちは王都へ帰還した。数年ぶりに見るその光景は、やはり懐かしさを覚えてならなかった。

 人々から大歓迎を受けつつ、イザベラたちは王の間へと向かった。そして久々に王と再会し、そこでイザベラは堂々と宣言するのだった。


「私こと、勇者イザベラは、今日この瞬間を持って、勇者を引退しまーす!」


 王の間はしんと静まり返った。王だけでなく、クリスティーナもレイモンドも、そして他の兵士たちも皆、彼女が何を言っているのか理解できなかった。

 イザベラは誰の返事を待つこともなく、聖剣とマントを外して床に置き、王の間から飛び出していった。

 数秒後、王の間から怒声が聞こえ、兵士たちの叫び声が聞こえた。

 人の目をかいくぐりながら鎧を脱ぎ捨て、どこからか回収したらしきボロボロのローブを身に纏う。更に脱ぎ捨てた鎧を囮にして、追いかけてくる兵士たちの目を欺き、イザベラは上手いこと王宮から脱出することに成功した。

 ちょうど王都から、一台の大きな馬車が出発しようとしており、イザベラは旅の冒険者を装ってそれに飛び乗った。

 町の兵士たちも王宮のほうへ駆けつけており、王都の出入り口が手薄状態となっていたことも、イザベラの脱出を助けるキッカケに繋がっていたのだった。

 やがて手頃な場所で馬車から降ろしてもらったイザベラは、数日間の旅を経て、故郷である村へと帰還した。

 ちょうどフィリップがメシ屋を開業しようとしており、無事逃げおおせていた魔王ゼビュラスが、新たにビューと名乗り、メシ屋の従業員となっていた。

 イザベラは一瞬、先を越された気分になったが、自分の場合はそうじゃないと言い聞かせ、フィリップに言った。


「フィリップ。今すぐ私と結婚しなさい。異論反論は認めないわ!」


 そのプロポーズは見事成功し、イザベラはメシ屋の女将になるのだった。

 毎日が幸せだった。今までの魔王討伐の旅は何だったのだと思いたくなるくらいであり、もう一生この生活を続けていたいと、そう思えてしまう。

 しかしながら、そう簡単に事が運ばないことも、薄々分かってはいた。できれば穏便に済ませたかったが、残念ながら面倒な事態となってしまった。

 レイモンドの策略にハマり、王都へ連れてこられた。

 そして今、王都は大混乱に満ちている。兵士からの報告で、フィリップたちが乗り込んできていることは明白だった。

 二本の長包丁で、次々と兵士たちが倒されているという言葉からして、まず間違いないとイザベラは心の中で断言する。


(フィリップも来てくれたんだし、私もそろそろ動き出さないとね!)


 イザベラがそう思って立ち上がった瞬間――王の間の扉がバァン、と開いた。


「何奴だ!」


 王は玉座に座ったまま、扉を開けた人物を見据える。しかしその人物は、王の問いかけを完全にスルーしつつ、堂々と挨拶もなしに乗り込んできた。

 キョロキョロと見渡すその仕草は、まるで誰かを探しているようであった。

 そして――


「……おぉ、イザベラ。無事だったか」

「フィリップ!」


 まるで近所に出かけた先でバッタリ出くわしたような口調に、イザベラは嬉しそうな笑顔を浮かべ、愛しの旦那に抱き着こうとする。

 しかし、もう数センチというところで、それが叶うことはなかった。


「イザベラに手を出すな! この薄汚い悪党めが!!」


 放たれた罵声に対し、イザベラは忌々しそうに振り返る。そこには顔を真っ赤にして怒りを燃やすレイモンドが、宝剣を抜きながら睨みつけてきていた。



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