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第十六話 メシ屋から消えた嫁



 ある朝、いつも通りフィリップたちは、メシ屋の開店準備をしていた。

 店内と店回りの清掃。食材の確認。それが終わったら、日替わりメニューの設定と下ごしらえを行う。

 フィリップが厨房での作業、ビューが外の整備、そしてイザベラが倉庫から備品の整理と調達。至って何も変わらない、普段どおりの光景であった。

 しかしフィリップは、今朝からどうにも気分が良くなかった。

 体調不良というワケではない。妙な胸騒ぎがする。ここ数日ピカピカに晴れていた空模様が、今日に限って薄黒い雲にビッシリ覆われているのも、雰囲気の悪さに拍車をかけていた。

 キリの良いところで下ごしらえを中断し、フィリップは窓から外を見上げる。心なしか今朝起きた時よりも、雲の色が濃くなっている気がした。いつでもどしゃ降りが起きても不思議ではないくらいに。

 それでもメシ屋としてするべきことは何も変わらない。そう気持ちを切り替え、フィリップは下ごしらえの作業に戻ろうとした。

 その時――


「フィリップ」


 店内を箒で掃いていたビューが、ピタッと手を止めながら呟くように言う。


「何かが近づいてくる。それも集団で一直線に」

「……まさか?」


 ある人物を想像したフィリップが声を上げると、ビューが頷く。同じ予想をしていることが分かる。

 そして、ちょうどこの場にいない人物のことを思い出す。


(イザベラ……確かアイツはまだ倉庫に……)


 そんなに手間がかからない作業のハズが、まだ戻ってきていない。いくらなんでも遅すぎると思った瞬間、最悪の展開を予想してしまう。


「っ……しまった!!」

「フィリップ?」


 脇目を振らず、フィリップが表へ飛び出す。そこには――


「やぁ、罪人諸君。見てのとおり、俺の嫁は取り返させてもらったよ」


 たくさんの兵士を引き連れたレイモンドが立っていた。そしてその傍らには、後ろ手を組まされる形で捕らわれている、イザベラの姿があった。


「フィリップ……ごめん」


 深くだと言わんばかりに唇をかみしめながら、イザベラが呟いた。

 そして程なくして、黒装束を身に纏った数人の者が現れる。


「ご苦労だったな。任務は完了だ」

「はっ!」


 レイモンドの言葉に、リーダーらしき者が一言返事をすると、黒装束の集団は瞬く間に姿を消す。そして呆然とするフィリップとビューに、レイモンドがニヤニヤとした笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「どうかね? これが我が王都の隠密隊の実力さ」

「……聞いたことはあるな。実際に見たことなんてなかったが」


 王都には普通の騎士たちとは別に、偵察や追跡、戦いのサポートを人知れず担う裏方チームが存在し、通称『隠密隊』と呼ばれている。冒険者の間でも話題に上がることが多く、隠密隊への入隊を目指している者も少なくない。

 人知れず仕事をすることが基本なため、実際にその姿を見た者は極端に少ない。それ故に、情報収集やツテを辿ることも難しく、入隊が極めて困難であることもまた確かなのであった。

 フィリップも冒険者ギルドで話を聞いて知っていただけに過ぎず、ビューに至ってはなんとなく名前を聞いたことがあった程度に過ぎない。

 よって普通に驚いて反応が出来ないのも、何ら無理のない話なのであった。


「いよいよキサマらも年貢の納め時だ。俺の愛しき妻イザベラを、こんなみすぼらしい村に閉じ込めた罪は重いぞ」


 レイモンドの言葉からして、どこまでもフィリップたちに非があると思い込んでいるのは明白だった。

 すぐにでも動きたいところだが、イザベラがいる以上、迂闊に手を出すわけにもいかない。しばらく様子を見るしかないかと、フィリップとビューは思った。

 そんな中、イザベラは忌々しそうに表情を歪めながら、レイモンドを見上げる。


「アンタ……どこまで落ちぶれれば気が済むのよ?」

「そんな怖い顔をするなイザベラ。折角の美人な顔が台無しじゃないか」


 答えになってない答えを返すレイモンド。その優越感に浸っている表情は、イザベラの苛立ちを更に募らせる。


「私を捕まえてどうするつもり?」

「決まっているだろう? このまま王都へ連れて帰るのさ。そうしたらすぐにキミと俺の盛大なる結婚式が待っている。実に楽しみだとは思わないか?」

「ぜんっぜん思わないわよ! 私はフィリップのお嫁さんなのよ? またすぐにでも逃げ出してやるわ! それこそ何度でもね!」


 どこまでも否定してくるイザベラに、レイモンドは肩をすくめながら笑う。まるで小さな子供のワガママを見ているような視線とともに。


「ふぅ、できればこの手は使いたくなかったんだが……おい、アレを出せ」

「はっ!!」


 兵士が一本の長剣を取り出した。イザベラはそれを見て目を見開いた。


「それって……まさか、クリスティーナの……」

「ご明察。これはクリスティーナの愛用している剣だよ。彼女が俺たちに歯向かってきたもんでね。今はしっかり捕らえて牢に入れてあるのさ。ところで……」


 レイモンドは目を閉じ、まるで一人語りのような素振りで続ける。


「クリスティーナは立派な反逆の意志を見せた。これもまた重罪に値する。しかしながら元は仲間でもあるからね。キミの顔に免じて、国外追放で見逃してやろうかとも思ってるんだが……」


 そして目を開けたレイモンドは振り返り、呆然としているイザベラを見ながら笑みを浮かべる。


「キミがこのまま王都へ来ないと、俺としても彼女を見逃す理由がなくなってしまうんだよ。となれば当然、生かしておく理由もなくなるワケだから……後は言わなくても分かるだろう?」

「……っ!」


 顔をしかめるイザベラに対し、レイモンドはどこまでもニヤニヤと笑っている。

 その様子を見ていたフィリップは、深いため息をついた。


「要するに人質ってことか……全くエゲツないことするもんだな」

「キサマ、誰に向かって口をきいている?」


 憎悪に満ちた表情で、レイモンドがフィリップを睨みつける。もはや今しがた浮かべていた笑みは、影も形もなくなっていた。


「人の嫁を奪うことしか能のない庶民が、この俺に口出ししてんじゃねぇよ!」


 そう叫ぶレイモンドだったが、フィリップもビューも言葉が響いてきている様子は全くなく、ただどこまでも呆れ果てた表情を浮かべていた。

 どう考えても奪っているのはアンタのほうだろと、フィリップはそう言ってやりたかった。しかしここで言っても意味がない。余計に面倒が増えるだけだということは目に見えている。だからここは黙っておいたほうが得策だろうと。

 その気持ちは、フィリップもビューも一致していた。反抗を試みていたイザベラもまた、これ以上は何を言ってもムダだと悟り、口を紡いでいる。

 しかしながらレイモンドは、そんな彼らの反応に対し、またしても都合のよい解釈をするのだった。


「ハッ! もう言葉が出なくなったか。所詮はザコだったようだな!」


 歪んだ笑みを浮かべ、優越感に浸るレイモンド。それに対してフィリップたちの表情は変わらず、呆然としたままであった。

 それを見たレイモンドは笑みを消しつつ、今度は深いため息をついた。


「俺はこんなザコどもにイザベラを奪われてしまったというのか。魔王を倒して大いに浮かれていた証拠だな。流石に反省しなければなるまい」


 それを聞いていたフィリップは、体中が疲労感に包まれていくのを感じた。自分の嫁が連れ去られそうになっているというのに、こうも微妙な雰囲気になるのもどうかなぁと思いながら。

 するとようやく、レイモンドのほうで動きが起こった。


「おい、お前と……それからお前!」


 指名されたのは髭を生やした二人の兵士。フィリップよりも、十くらいは年上と言ったところだろうか。


「あの二人を縛り上げろ。それからしばらくの間、見張りとして務めを果たせ。後で王都から迎えの馬車をよこす」

「はっ!」


 二人の兵士は敬礼したのち、手早くフィリップとビューを後ろ手を組ませる形で縛り上げ、続いて座らせながら足首もしっかりと縄をかける。

 フィリップたちは特に抵抗せず、完全にされるがままであった。無理に足掻いたところで切り抜けられる状況でもないことは、火を見るよりも明らかだからだ。

 やがて身動きが取れなくなったフィリップとビューを見下ろしながら、レイモンドは再びニヤついた笑みとともに見下ろしてくる。


「お前たちの悪だくみもこれまでだ。せいぜい深く反省することだな」


 そう言ってレイモンドが踵を返したその時、フィリップがハッキリと言った。


「待てよ。別れぐらいさせてくれてもいいだろう?」

「……ふんっ、一言だけだ」


 レイモンドは忌々しそうに言うと、フィリップがイザベラに視線を向ける。

 そして――


「っ!」


 力強くニッと笑い、イザベラは目を見開くのだった。

 そしてフィリップは目を閉じ、もう済んだと言わんばかりに黙り込む。レイモンドもワケが分からなさそうにため息をつき、そのままイザベラや兵士たちとともに馬車へと乗り込んでいった。

 二人の兵士が敬礼する中、馬車は勢いよく走り出していき、やがてすぐに見えなくなった。



 ◇ ◇ ◇



 快調に走り続ける馬車の中で、レイモンドはニヤニヤと笑っていた。

 まるでイタズラを仕掛けてきた子供のようであり、イザベラはどうにも嫌な予感がしてならなかった。


「ふっ……今頃あの村は、俺が残してきたプレゼントを堪能しているだろうな」


 レイモンドの踊る口調に、イザベラは顔をしかめる。


「何をしたのよ? アンタが素直に贈り物をするとは思えないんだけど?」

「キミが知る必要のないことさ。そんなことよりも今は、俺との結婚を楽しみにしていておくれ。キミだけのために豪華なドレスを用意しているんだ」


 優しく諭すような口調で語り掛けるレイモンドだったが、その言葉はイザベラにはちっとも響いていなかった。

 いま彼女が考えていることは、言うまでもなくメシ屋とフィリップたちのこと。何かしらの仕掛けをレイモンドが残してきたことは明らかだと、イザベラは確信に近い感じで思っていた。

 何を仕掛けたのかは分からないが、フィリップたちを不幸にさせるような何かであることは確かだ。しかしイザベラは何も聞かなかった。聞いたところでまともな回答は返ってこないだろうから。

 イザベラはギュッと握り締めた手を胸に当て、フィリップたちの無事を祈る。むしろ絶対に大丈夫だという自信があった。

 フィリップもビューも強い。多少の危険など乗り越えてしまう。あの最終決戦でさえも、裏でしっかりと糸を引いていたくらいなのだから。

 なにより、別れの一言と称して見せてきた笑み。怯えも恐れも一切ない、驕りなども一切感じられない、強者の笑み。さも当たり前のように、この状況を打開してやると言う態度。

 フィリップの嫁として、不安に思ってしまった自分が恥ずかしいと、イザベラは感じていた。


(私はフィリップとビューを信じてる。だから私もしっかりしなくっちゃ!)


 イザベラがそう強く決意する中、馬車は段々と王都へ近づいていくのだった。



 ◇ ◇ ◇



 村のメシ屋の前に、一つの結界が広がっていた。その結界の中には、二人の兵士たちが持っていた武器が粉々になって閉じ込められていた。

 二人の兵士や、様子を見に来た村人たちは、青ざめた表情を浮かべていた。

 そしてフィリップも、呆然とした表情で冷や汗を流しながら、結界を張り巡らせているビューに話しかける。


「……こりゃ毒ガスだな。それもかなり強力っぽいけど……」

「強力なんてもんじゃないよ。下手したらこの村が一瞬で壊滅状態になってたさ」


 ビューが魔力を発動させながら、涼しい表情で淡々と答える。


「もう少し待っててね。毒ガスは順調に浄化しているから。この村が壊滅するってことも絶対にないよ」


 大き目の声でビューが言うと、あちこちで安心する声が聞こえてくる。そんな中フィリップは、改めてレイモンドたちが去っていった時のことを思い出した。


「全く、爆弾を残していくなんざ、エゲツないことするもんだよな」


 しかもその爆弾は、二人の兵士が携えていた武器に仕込んであったのだ。

 レイモンドたちが村を去ることを見計らい、時限式となっていた爆弾が作動し、爆発して大量の毒ガスが発生する仕組みとなっていた。

 二人の兵士はそのことを全く知らされておらず、まさか捨て駒にされていたとはとショックを受けていた。

 それでもこうして皆が無事だったのは――


「しかしまぁ、アンタらに良心があって良かったよ。おかげで命拾いをした」


 そう、二人の兵士のおかげだと、少なくともフィリップは思っていた。

 馬車が見えなくなったところを見計らい、兵士たちがフィリップとビューを開放したのだ。本当はこんなことをしたくなかったのに済まないと、心の底から申し訳なさそうに謝りながら。

 そして自由になった瞬間、ビューが二人が携えている武器に目を付け、そして表情を険しくした。

 ビューが二人の武器をぶんどり、それを即座にまとめて投げた。更に武器の周りを覆うように、ビューが魔法による結界を発動する。

 すると次の瞬間、武器が暴発したのだった。同時に紫色のガスが噴射され、瞬く間に結界の中が、ガスで充満されていき、あと数秒遅ければ、全員がお陀仏となっていたことが見て取れた。


「ホント、間に合ってよかったよ。さっきから魔力自体は感じてたんだ」


 ビューが小さく笑いながら言ったところに、フィリップが話しかけてくる。


「よく怪しいって分かったな?」

「時限式の魔力は、他のと違ってかなり特徴的なんだよ。だからすぐに分かった」


 そして目の前の霧が、すっかり透明化してきたことを確認し、ビューの表情が穏やかとなった。


「よし、これでもう大丈夫!」


 ビューが結界を解除する。そこから出てきた空気は、何事もない綺麗な普通の空気であった。

 完全に毒は浄化されたことを示しており、村人たちも兵士たちも安心したような笑顔を浮かべる。


「本当に済まなかった。私たちも嫌な予感はしていたんだが……」

「まさか私たちを捨て駒にするとは……いくらなんでも、それはないだろうと信じていたのに……」


 二人の兵士が兜を脱ぎながら涙を流す。

 年齢に反比例して衰える体力には逆らえず、引退を決意していたところに、レイモンドから声をかけられた。

 お前たちに最後の仕事をくれてやる。そう言われたときは、レイモンドが自分たちの事情を察し、わざわざ声をかけてくれたのだと喜んでいたのだ。

 しかしそれは勘違いだった。彼は二人に、最後の仕事という名の爆弾役を担わされていた。たまたま自分たちに白羽の矢が立ったのか、それとも事前に調べていて捨て駒に仕えそうだと思ったのか、そこまでは流石に分からない。

 確かに命は拾えた。しかしもう自分たちは死んだ者として扱われているだろう。そう思った二人の目からは涙が零れ落ちる。

 流石にこっちからも何も言えないと、フィリップが思っていたそこに、村人たちをかぎ分けてくる人物がいた。


「どうやら、危機は脱したようだな」


 声をかけながら姿を見せたのは、昨夜遅くまでメシ屋にいた客であった。予想していなかった登場に、フィリップが目を見開いた。


「あれ、法皇様? 昨夜の遅くに大聖堂へ帰ったんじゃ……」

「そのつもりだったのだが、美味い朝メシを食ってからでも良いかと思ってな」

「つまり宿屋で一泊してしまったと?」

「そういうことだ」


 フィリップの問いかけに、法皇がニッと笑いながら答える。そして、泣き崩れている二人の兵士に視線を向けた。


「それにしても、今回は本当に兵士たちに助けられたな。もし彼らに良心がなかったとしたら、それこそお前さんたちは……」

「いや、それならそれで、多分大丈夫だったと思うよ」


 フィリップはメシ屋の建物の上を見上げる。すると屋根の上から、人影が一つ飛び降りてきた。黒装束を着たその人物は、一足先にフィリップたちの前から姿を消したハズの人物でもあった。


「やはり気づかれていましたか」

「まぁね。アンタたちからも、悪い気配は感じなかったからさ。もしかしたらって思ってたんだよ」


 すると建物の影から、次々と黒装束を身に纏った人物が姿を見せる。レイモンドの指示に従っていた隠密隊のメンバーが集結した。

 隠密隊のリーダーらしき人物が、フィリップに話しかける。


「此度は貴殿の奥方を連れ去る協力をしてしまい、深くお詫び申し上げる。しかし分かってほしい。我々は貴殿らと敵対するつもりは一切ないと。むしろ我々が敵と見なしている相手は……」

「レイモンド……いや、正確に言えば、今の王家そのものということか?」


 割り込むように問いかけてきた法皇に、リーダーらしき人物は頷く。


「今のレイモンド王子は、完全にイザベラ殿のことしか頭にありませぬ。そこを利用すれば、我々の目的も達成できると踏んだ」

「なるほどね。それで俺たちを利用したってワケだ。まぁそれは別に良いとして、味方が増えるならありがたいわな」


 表情を崩すフィリップに、隠密隊は揃って息を飲んだ。そこにビューが苦笑交じりに問いかける。


「はは……またえらくアッサリとしてるね」

「別に変なことじゃないだろ? 大きな目的を達成するために、利用できるもんはなんでも利用する。むしろ当たり前のことじゃないか」

「確かに」


 魔王討伐のときを思い出しながら、ビューは頷いた。


「ところで、これからどうするのさ?」

「考えるまでもないさ。だから……」


 フィリップが改めて表情を引き締め、周囲を見渡しながら切り出した。


「法皇様、隠密隊の皆さん、そしてビュー。改めて俺からお願いがあります。俺は大事な嫁さんを、どうしても取り返したいんです。なので……」


 そしてフィリップは、ゆっくりと頭を深く下げながら――


「どうか俺に、力を貸してください」


 ゆっくりと落ち着いた声で、ハッキリとそう申し出るのだった。


「良かろう。ここは一つ、ワシの力を見せてやろうぞ」


 まず最初に法皇が、ニヤリと笑いながら頷いた。


「さてさて、これから忙しくなるぞ。済まんが馬車を一台出してくれ。他の知り合いにも声をかけねばならんでな」

「はい!」


 法皇に声をかけられた村人が、勢いよく返事をしながら馬車の調達に走り出す。

 そして――


「我々も動きましょう。何か掴みましたら、すぐにご報告いたします」


 隠密隊のリーダーらしき人物がそう告げると同時に、黒装束の団体が消えた。どうやら協力してくれるらしく、フィリップは戸惑いながらも嬉しく思った。

 他の村人たちからも、何かあったら声をかけてくれと言われ、ひとまずその場は解散となった。

 人がいなくなって静かになったところで、ビューが話しかけてくる。


「流石は旦那様。結構カッコいいじゃん」

「当然だろ。もう十年前とは……事情が全く違うんだ」


 軽い口調のビューに対し、フィリップの表情は引き締まっている。静かながらも確かな怒りが宿っているのだと、ビューは悟るのだった。



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