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異世界転移も楽じゃない

ゴブリンキラーって!

作者: 溶ける男

気が付くと空を見上げていた。

雲一つない真っ青な空だった。


「…ここは…天国か?」


僕は、自殺したはずだ。

自殺の理由は、大した理由ではない.

ただ死にたくなったから自殺の名所と呼ばれる海に面した崖から飛び降りたのだ。


ビルから飛び降りたのでは、下の人に迷惑がかかるしと思ってあそこを選んだのだがよく考えるとどこで死んでも迷惑は掛かるのだ。


周りを見渡すと一面の草原に舗装されていない道が伸びていた。

これを辿れば何処かにつけるかもしれない。



歩き始めて数分、ソレは現れた。

緑の肌をした中学生くらいの身長をした生き物。

ファンタジー系のゲームなんかに出てくる最弱クラスのモンスター【ゴブリン】らしきものが、棍棒を持ってこちらを威嚇している。


頭の中で?マークが舞っている。

ん?どういうことだ…あれが天使なのか?想像してたのとだいぶ違うが…。

そんな事を考えているとゴブリンが棍棒を此方に目掛けて振り下ろしてきた。


思わず飛びのき何とか躱して距離を取る。

何だ?何なんだ?…天国じゃなかったのかここは?

…。!!

まさか、小説やゲームなんかにある異世界転移ってやつか?

そうなるとこれは、オープニングのチュートリアル的な戦闘になるのか?

って言うか、そんなこと考えてる場合じゃねぇ。

あの攻撃をまともに食らっただけで死ねるわ!


いくら自殺したからって、こんな良く分からん場所で死ねるか。

まずは、対話だ。

そう思い、ゴブリンに話しかける。


「すいません、縄張り?に入ったことは謝りますので、どうか武器を納めていただくわけにはまいりませんか?」


出来るだけ刺激しないように丁寧に言ったつもりだが、


「ギャ、ギャァァァァ!!」


そうですか、言葉は通じませんか。

それでは、逃げますか。


いくら、ゲームなんかで最弱に描かれるゴブリンだとしても素人が勝てるわけがない。

ここは、逃げるが勝ちだ。


そう思い、全速力でゴブリンとは反対方向に駆け出した。

あの背丈なら、そこまで早くないだろうと思ったが自分の能力を過信してました。

アッサリ追いつかれてしまった。


あーっくそ!戦うしかないのか?

武器になるようなものは、そう思い辺りを見渡したのが間違いだった。

周りには、武器になるようなものが無かったし、ゴブリンはのスキを突いて距離を潰して棍棒を振り下ろす。

咄嗟に左腕でガードしたので死にはしなかったが、左腕から伝わる骨の折れる音と激痛にいよいよ終わりが見えてきた。

ゴブリンは「ギャッギャ」と笑いながらとどめの一撃とばかりに大きく棍棒を振りかぶった。


痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!

ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!

死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!

武器!魔法!なんかないのか?力が欲しい!


【ギフト選択を開始しますか?】


痛みに耐えながら、必死で生き延びる方法を考えていると突然頭の中にそんな言葉が聞こえてきた。

よくわからんが、この状況を劇的に変えてくれるギフトってやつをくれ。


【それでは、10800の候補の中からギフトを選んでください】


は?状況を考えろよ!

選んでられるか、検索機能とか無いのかよ!

とにかく今、生き延びるためのギフトってやつをリストアップとか出来ないのか?


【かしこまりました。

 現在の状況を加味いたしますと、2つ候補がございます。

 それではギフトについて詳しく説明をいたします。

 まず…】


そんな場合じゃないでしょ、早くギフトをプリーズ!


【わかりました。

 それでは、1つ目のギフトでの生存確率は50%です。

 2つ目のギフトでの生存確率は100%となりますが、どちらを選ばれますか?】


そんなの100%に決まってるだろ!

50%で死んだら意味ないだろう!


【かしこまりました。

 それでは、ギフトを付加させていただきます。

 後からの変更は出来ません。

 本日はご利用ありがとうございました。】


謎の声との会話が終わったと同時に、自分の体から強烈な光が放たれた。


≪ギフト:ゴブリンキラー召喚を獲得いたしました≫


と先ほどの声とは違うアナウンスが脳内で流れたかと思うと体の中から何かが抜けて行く感覚があった。


ゴブリンは、先ほどの光に目が眩んだ様で数歩後ろに下がった。

その隙に、立ち上がる為に右手を地面につけようとした時、自分が何かを握っていることに気が付いた。

それは、RPG等の初期装備で貰えるような見すぼらしい片手剣だった。

とりあえず片手剣を、杖代わりに立ち上がりゴブリンを見据える。


自然と体が、武器を構える。

ゴブリンは、もう眼が眩んでいない様で先ほどよりも険しい形相で此方を睨んでいた。


えーっと?

整理するとさっきのギフト選択とかいうので、ゴブリンキラー召喚とかいうのを貰って。

そこから出てきたこのショボそうな剣がゴブリンキラーってことでいいのか?

つまり、後は自力で戦えってことか?

…日本人を買いかぶるなよ、剣なんか握ったことないわ!

行き成り渡された武器で、戦えるわけないだろ!

これで、生存率100%ってサギじゃん!

ってそんな事を考えているとゴブリンがすでに目の前に居た。


慌てて剣を振るうと、まるで自分の身体では無いみたいに流れるような動作で,アッサリとゴブリンの首を落とした。

恐ろしく切れ味がいいのか切った感触が伝わってこないくらい簡単にソレは起きた。

斬られたゴブリンの頭も、まだ分かっていないのか何かを言っているように口を動かしながら2,3度弾んだのち動かなくなった。

それを追うように斬られたゴブリンの首の有った場所から噴き出る青色の血に気持ち悪くなり、盛大に胃の中のモノを吐き出しそうになったが,自殺するために食事も摂っていなかった為、吐くに吐けず余計な苦しみを憶えてしまった。


そして、剣が一際大きく光ったと思うとゴブリンの体が消えた。

それと同時に、左腕の傷が治ったのだ。

骨が折れて筋肉も潰れていたのが,嘘のように再生した。

状況から考えると、如何やらこの剣の力のようだ。

剣のことが気になって様々な角度から眺めていると突然、透明なウインドウが現れた。


ゴブリンキラー

ゴブリンを殺す為だけに能力を特化した魔剣。

その為、ゴブリン以外を斬ることは出来ない。

能力:1.対ゴブリン時に身体機能を強化。

   2.対ゴブリン時にオートアシスト機能により体の動きをサポート。

   3.殺したゴブリンの命を使い使用者の負傷・体力・魔力等を回復する。

   4.ゴブリンを殺した際に得られる経験値が1.5倍になる。

   5.ヒ・ミ・ツ(200/1)


と書かれていた。

とりあえず、分かったことはゴブリンに対してのみ無双出来る剣のようだ。

そして、この世界はゲームの様にレベルとかが存在するのだろう。

マジかぁ~、異世界転移とか無いと思ってたのに…てか、腹がすいたな。

吐き気による気持ち悪さが治まると急激にお腹がすいてきた。

とにかく今は、食べ物を得るためにも人里を目指す必要がありそうだ。


剣を抜き身のまま持ち歩くのもどうかと考えていると、剣が淡い光を纏ったかと思うと光の粒になって右手の中に吸い込まれるようにして消えた。

それから、何度かゴブリンキラーを召喚したり消したりを繰り返し間隔を掴んだ後、先ほどまで進んでいた道に戻り、この道が出来るだけ早めに目的地に着くことを祈りながら歩き出したのだった。



歩き始めてから1時間、5km位は進んだかな?

もう喉が渇いてヤバいです。

そんな事を考えながら、それでも止まる訳にはいかず歩いていると前の方で煙が上がっているのが見えた。

人だ!多分人がいるはずだ!

そう思って、駆け出した。


近づくにつれて、明らかにただでは済まなそうな音が聞こえてきた。

何か争うような声と何かがぶつかる音だ。

頭の中では警鐘が鳴り響いているが、どうせこのまま人に合わなければ野垂死にだ。

駆けつけるとそこには、10匹のゴブリンに襲われている3人が居た。

見た目は皮の鎧に片手剣と盾を持つ男とシーフっぽいの男、そして胸の主張が激しい女性が一人と言う構成だった。

女性を守るように立ちまわる男2人ではあるが、多勢に無勢で押され気味だ。

言葉が通じるかは不安であるが、そうしている間にも全滅する可能性もある。


「助太刀は要りますか?」

「あぁ!頼む!」


3人を逃がさないように取り囲んでいるゴブリンの群れに向かって駆けだした。





「助かったぜ、ありがとよ」

「助かったっス」

「ありがとぅございました~」

「いえいえ、どういたしまして」


ゴブリン達を退けて挨拶をする。

どうやら、言葉は通じるようなので軽く自己紹介を済ませた。

片手剣の男がガルフ、シーフがスピンで女性がマームというそうだ。

彼らは、冒険者ギルドに所属する冒険者のようでパーティで依頼の薬草を採取に来た帰りにゴブリンに襲われたそうだ。


「いやぁ、あんた強いな!

 でも、なんだってそんな街中に居るような恰好でこんなとこに居るんだ?」

「ん?まぁいろいろ事情がありまして」


今あったばかりの人にすべてを話すわけにもいかない、と言うか自分自身何もわかっていないのだ。

とりあえず、町まで同行する許可をもらって一緒に歩いた。


情報収集がてら雑談をしながら歩くこと2時間、ようやく町に到着した。

身分証明を持たない僕のせいで門を通るときに若干問題が発生したが、ガルフたちのお陰で何とか町のんかに入ることが出来た。

そのまま冒険者ギルドに登録をして、はれて冒険者の仲間入りを果たしたのだがそれからが大変だった。


お金を持っていない事は、門の一件でガルフたちにバレていたので、取りあえず一晩彼らの世話になり、次の日からは冒険者ギルドでお金を稼ごうとしたのだが、ここでの依頼は基本的に討伐系がメインな様で、珍しい薬草の採取なんかはある程度の知識がないと受けさせてもらえないし、普段使う様な薬草は近くの農家が栽培しているのでわざわざ自生しているものを採取する必要が無いそうだ。


そこで討伐系の依頼を受けようかと思ったのだが、手元の有る武器ははゴブリンキラーのみだ。


討伐依頼には、討伐証明部位を納品する必要があるのだが、ゴブリンキラーで倒したゴブリンは例外なく3つ目の能力で死体が残らないので剥ぎ取ることが出来ないし、他のモンスターを斬ることは出来ないので使えない。


其れでも何とかなるかと思いこの辺りでは食用にも使われる、鶏とウサギを足して2で割った様な外見のピコタという鳥?を狩りに行ったのだが、結果は散々だった。


ゴブリンの時に感じるような、アシストは無く完全に自分の体でのみの動きでは、素早く動くピコタを捕らえるのは一苦労で、結局一日かけて得られたのは、宿代程度で装備を整えると言うようなことは出来なかった。


宿では、朝と夜に飯が出るので何とか死にはしない程度の生活が出来るのだが、そろそろ来ている服がヤバい気がする。

気温がそこまで暑くも寒くもない気候なので助かってはいるが、町の外で魔物と対峙するとどうしても汗をかく、せめて上着の一つでも手に入れて着まわせるようにしなければと言う思いに駆られる。

服は手洗いで誤魔化しながらの生活が一週間ほど続いてこの世界にも少し慣れてきたのだが、生活環境を好転させる手段を未だ見つけ出せないでいた。


こうなったらこの世界の先輩に何かしらアドバイスをもらう必要がある。

と言う訳でガルフたちが泊まっている宿に尋ねることにした。

この時間なら朝食を食べているはずなので、食堂へと向かうと丁度3人で机を囲んでいたので挨拶を済ませると


「おう、苦労しているようだな」

「どうも、やっぱりわかりますか?」

「服装も変わってないみたいだしな、着替えを手に入れるのもままならねぇってのは分かるな」

「そうなんですよ」

「相談に乗ってやるから、取りあえずお前も食ってけ奢ってやるよ」

「いいんですか?」

「ああ、かまわん」


今日は彼らと会うために、宿での朝食を抜いてきたのでありがたい申し出だった。

お礼を言って、同じものを注文して食事を済ませると泊まっている部屋へと案内された。


「さてと、食堂じゃ話せない様なこともあるかもしれんからな。マーム頼めるか?」

「だいじょうぶですよ~」


マームさんはそう答えるとともに杖を掲げた。

すると、杖を中心に薄い緑色の膜の様なものが広がっていき部屋全体を包んだ。


「これは?」

「防音結界って言ってな、中の音が外に聞こえないようにする結界を張ったんだ。

 これで唇を読まれない限り、話が漏れることはない」

「へぇ、便利なものですね」

「それじゃ、本題に入るぞ。お前、ギフトは何を持ってるんだ?」


突然のその質問に思わず構えてしまった。

ギフトって異世界転移者独自のモノじゃないのか?


「えーっと、ギフトですか?」

「まぁいきなりだと警戒するわな。

俺は【魔法剣】っていう魔法属性を武器に纏わすことの出来るギフトを授かっているんだが、お前の戦闘を見た限りだと戦闘系のギフトを持ってると思うんだが、その割には金欠で苦しんでるみたいだから気になってな。

大丈夫だ、ここで言った事を他で漏らすほど俺たちは腐っちゃいねえから」


なんだ、ギフトって転移した人限定のチート能力じゃないのか。

しかも、ガルフさんの【魔法剣】とか使い勝手良さそうだな。

それに引き換え…。


「ゴブ…【ゴブリンキラー召喚】です」

「へ?なんだそりゃ?」

「えーっとですね、これを召喚する能力です」


そう言って、右手の中にゴブリンキラーを召喚した。

相変わらずの何の装飾もされていない無骨な剣が手の中に現れた。


「なるほど、武器を召喚出来るのギフトってことか。

 しかしそんな名前のギフト聞いたことがねぇな、レアかユニークってやつか?」

「どうなんですかね?」

「持ち主が知らねぇことは俺にもわからねぇ」

「ですよね」

「それで、どんな能力なんだ?」


3人にゴブリンキラーの能力を説明した。

当たり障りのない部分の能力を説明したところ、3人とも押し黙ってしまった。


「「「……………。」」」

「…?どうかしましたか?」

「おう、すまねぇな。まさかそんな能力を持った武器を召喚できる能力があるとは…な。

 間違いなくユニークになるだろう、そんなのが沢山いたらゴブリンなんて絶滅してるはずだ。」

「ただ、これで初めて会った時と現状の説明が付くっス。

 あんさんの力が酷くちぐはぐな感じがしたのは、その武器のせいだったんすね」

「でもぉ、それだと~、この辺りの依頼ではお金を稼ぐことが出来ないと言う事じゃないですか~?」

「やっぱりそうですか…。」

「そうだな、ゴブリンに対してのみ強いって言ってもなぁ、ゴブリン1体の稼ぎなんてしたかが知れてるしな。それすら受け取れないんじゃ生活にならんわな。」


詰んだ。

異世界に来てギフト貰ったのはいいけど、ゴブリン特化の能力だけでこの世界乗り切るなんて無理か、やっぱあの時50%の方を選ぶとか、もう少し考えてギフト決めとけばこんな事にならなかったかもしれんのに、全てはのん気に歩き回ってた自分のせいか。

大体、あの時体から光が出るの知ってたら、もっと他の選択の余地が有ったと思うし50%でも余裕でゴブリンを倒すことは出来たはずだ。


こうなったら、どこかの店で雇ってもらうしかないかなぁ。

でも僕みたいな、この世界について何も知らない人間雇うくらいなら現地人雇うだろうし、僕が店の立場なら絶対そうするわ。


こんな事ならもっと、異世界で役立ちそうな雑学系の知識でも頭の中に入れとけばよかった。

後悔先に立たずとはよく言ったもんだ。



「おーい、聞いてるか?」

「すいません、聞いてませんでした。」

「まぁ、落ち着け。そんなお前におすすめの依頼が有るんだ。」

「なんですか?」

「これだ!」


ガルフさんは、そう言って1枚の依頼書を取り出した。


ゴブリンの集落鎮圧依頼 難易度:黄

我がコルベ村付近にゴブリンの集落が発見されました。

ゴブリンの数が増えすぎる前に集落の鎮圧をお願いいたします。


成功報酬 金貨5枚


なるほど、こういう依頼もあるのか確かにこれなら一々討伐証明を剥ぎ取らなくても集落さえ潰してしまえば、報酬が貰える。

しかも金貨5枚だ。金貨1枚が大体100万円くらいの価値だからこの辺りでちまちまピコタを狩ってるよりは断然稼げる。

しかし、難易度:黄と言うのが曲者だ。

ギルドにはランクと言うのが有って、何故か赤橙黄緑青藍紫と虹の7色と金色で沸けられている。赤に近づくほどランクが高くなりそれを超えりる偉業をなしたものは金色になるんだとか。

これは、ギルドカードの色に反映されるため依頼を受ける時に同じ色か一つ上の色までなら依頼を受けることが出来るようになる。

登録したばかりの僕は当然一番低い紫色のギルドカードの為難易度:藍以上を受けることは出来ない。



「えーっと、難易度:黄ってなってますけど?」

「そうだな」

「そうだなっじゃなくてですね、僕はこの間登録したばっかりだから難易度:藍までしか受けられないんですけど?」

「それは、俺たちが同行するから問題ない

 これでも一応緑色だからな」

「でもこの間、10匹程度に手こずってたじゃないですか。

 集落となると下手したら100超えるんじゃないですか?」

「あの時は、貴重な薬草を持っていたからちょっと手こずっちまったが、普段なら楽勝だ。

 それに、出来立ての集落なら2~30匹ってところだ。

 それくらいならお前1人でも何とかなるんじゃないか?」

「たしかにそうかもしれませんが…あ!

 もしかして初めからそれが目当てで相談を受けてくれたんですか?」

「そんなわけないだろ、ギフトのことを聞くまではそこまで極端な力が有るなんて知らなかったしな。

 まぁ大体こういう依頼は、もう少し人数集めてやるのが普通でなあれくらい戦えるなら数合わせにどうか?くらいに思ってただけだ」

「まぁそれならいいですけど、それで報酬はどう分けるんですか?」

「そうだな、普通なら均等に割るんだが、今回はお前が金貨4枚で俺たちが1枚だ」

「騙されてる気がする」

「ガハハハハ、目の前にしてそれを言うか、お前冒険者に向いてるよ。

 大丈夫だ2人共了承済みだし、人数集めてやった場合なんて実際これより低くなるんだぜ」

「わかりました。でも気が変わったとかで後ろから刺すとか無しですからね」

「大丈夫だ、そこまでのリスクを負うほどの大金でもないしな」

「そうですか、一応信用しておきます」

「そうしてくれ」

「ところで、実際問題4人で達成する見込みはありそうなんですか?」

「まぁな、なんとかなるだろ。後は実際行ってみない事にはわからん」

「そんな適当な」

「そもそもゴブリン一匹一匹はたいしたことない、駆け出しの冒険者でも狩れる程度だからな。

 だが集落となると話は別だ。

 奴らは高い繁殖力を持ってやがるから時間がたてばたつほど集落の規模は膨れ上がる。

 依頼の発行日から見るとまだまだ小規模だと思うから何とかなるだろ」

「なんかそのセリフ、フラグっぽいっすね」

「フラグ?なんだそりゃ」

「いえ、こっちの話です」

「よし、それじゃこれからコルベ村に出発するから準備を済ませて北門に集合だ」

「え?今から行くんですか?」

「ああ。コルベ村は歩いて半日程度かかるかかるからな早くいかねぇと日が暮れちまう」


そのあとは、流されるままに準備を終えて北門に向かう。

取りあえず、防具だけでもと緊急用にと貯めていたお金を使い皮の胸当てなど急所を守れるようなものを購入した。


「おう、それらしくなったな」

「どうも、今日はよろしくお願いします」

「ああ、まぁ本番は明日になると思うがな」

「それじゃ、出発するっス」

「よろしくお願いします~」


てっきり歩いていくのかと思っていたが、体長2m位のダンゴムシが引く荷馬車で行くようだ。

この巨大なダンゴムシは魔物の一種なのだが、大人しく飼いならすことである程度の意思の疎通が出来るようになるそうで、移動の際の馬代わりに使ったり畑を耕したりと便利に使われているそうだ。


「そろそろいいっスかね」


門をくぐり町から少し離れたところで、スピンがそう言ってダンゴムシに鞭を入れると丸まって転がり始めた。

先ほどまでは、歩くのと同じくらいのスピードだったが、現在は時速20Kmくらいは出てそうだ。

舗装されていない道を荷馬車がガタゴト揺れながら進むのですっかり酔ってしまい、少しでも楽になろうと荷台に横にならせてもらう。


「すいません、迷惑かけてしまって」

「ガハハハハ、初めて乗る奴は大体そうなるから気にすんな」

「これを噛んでいたら少しは楽になりますよ~」


マームさんがそう言って、よくわからない葉っぱを渡してくれた。

表面を少し指でこすって匂ってみるとミントの様な香りがした。

恐る恐る口に含んで噛みつぶすとさわやかな香りが鼻に抜けて少し楽になった。


「ありがとうございます」

「もう少ししたら着きやすから、そのまま寝ててくださいっス」

「それじゃ、お言葉に甘えて」


それから揺られる事3時間ほど、太陽が天辺に到達するころ目的地のコルベ村に到着した。


「それじゃ、オレは村長の所に到着の挨拶して来るから昼飯でも準備しといてくれ」


そう言ってガルフさんが一番大きな家に向かった。

こういった村には、食事が出来るような店が無いようで代わりに緊急の依頼でやってくる冒険者の為の簡易の家が建てられているそうで、持ってきた材料などを自分たちで調理するようだ。


迷惑かけっぱなしだったので、昼飯の準備を買って出た。


「本当に出来るんすか?」

「ああ、これでも一人暮らしが長かったから簡単な物なら出来るよ」

「それじゃぁ、お願いしますね~」


そう言って昼飯用の材料を渡される。

メインの材料は、干し肉とパンだ。

干し肉は、保存の為か塩が結構きつめの味付けになっていてそのまま食べるのはつらい。

パンは、まるで石の様な硬さで本当に食材か疑わしい。


これは、冒険者たちの遠征用の食材で水で戻した干し肉のスープでパンをふやかしながら食べると言うことをギルドに登録したときに受付で説明されたので、試しに一度食べてみたがとってもおいしいと言えるものではなかった。

ただ、コストパフォーマンスはよくて昼飯の時には大活躍するのだが、どうしても好きにはなれなかった。

そこで、味を改善するべく市場で調味料を買いあさって試した結果、満足のいく味にすることが出来た。

ただこの世界の調味料は、とにかく高いのでそう言った研究をしたこともあり装備もまともに買えないと言う事態に陥ったのは言うまでもない。


とにかく、今ここでその成果を表す時が来たのだ。

かまどに火を入れて、鍋を温めて薄く油を引き、ニンニクの様な香りと味のするガスルと言う見た目はジャガイモの様なものを細かく切って乾燥させたものを投入する。

ジュっと言う音と共に香りが部屋に広がっていく、そこへ少し小さめに切った干し肉を入れて炒めた後、水を入れて煮立つのを待つ。

煮立ってきたところで、胡椒のような匂いのする葉っぱを千切り入れて火から鍋をはずし仕上げに、ブレンドした調味料を1さじ加える。

硬いパンをスライスして軽く焼き目を付けたところで、ガルフさんが入って来た。


「おう、いい匂いがするな」

「丁度出来たんで、手を洗って座っててください」


お皿にスープを均等に注いで机に並べ、真ん中に焼いたパンを盛ったお皿を置いて完成だ。


「やけに手が込んでるじゃねぇか」

「今日は迷惑かけっぱなしなんで少しでもお礼をと思いまして」

「ウマそうでやんすね」

「えぇ、いつもと同じ材料とは思えませんわ~」

「ささ、冷めない内にどうぞ」


そう言って、パンを1枚とりスープに浸す。

パンは焼くことで少し硬さが和らいで、食べやすくなるし香ばしい匂いが食欲をそそる。

スープを一口飲んで、パンを齧る。

うん、美味い、今日もいい出来だ。


「…うめぇ」


ガルフさんが小さくつぶやいた、如何やらお口に合ったようだ。

3人はあっという間に一杯目を食べ終えたかと思うと、鍋に残っていたスープを奪い合うようにしてたいらげてしまった。


「お口に合ったようで良かったです」

「…おう、見苦しいところみせちまったな」

「いえいえ、そこまでして食べてくれたら作った甲斐が有りました」

「ズルいでやんす、4杯も飲むなんて」

「そうですわ、私は2杯しか飲めませんでした」

「すまんすまん、あんまりうめぇもんだからついな、つい」

「晩飯も作りましょうか?」

「「「是非お願いします」」」


3人に口をそろえて頼まれたので晩御飯も作ることになった。

そのあとは、村長に聞いてきた大まかなゴブリンの集落の位置を地図で確認して、偵察がてら森に入ることとなった。



「多いですね」


森に入って1時間、ゴブリンを間引きながら進んでいると集落を発見した。

集落の中に居るゴブリンの数は100を軽く超えるほどの規模で、周囲は木で出来た柵で囲んであり門には見張り台まであり、此方から攻め入るのは中々難しそうだった。


「やべぇな、大分知恵のある奴がリーダーのようだ。」

「そうなんですか?」

「ああ、こりゃ急いで増援呼んだ方が良いな。下手したら難易度:橙まで行く可能性すらある」


出来るだけ気付かれないように集落を離れて村に戻る。


「スピン、町に戻って増援呼んできてもらえるか?」

「良いでやんすが、ガルフはどうするでやんすか?」

「俺は、最悪の場合を考えて村に残る」

「そうでやんすか、じゃ早いところ戻ってギルドに報告してくるっス」

「頼んだ」


スピンが街へ向けて走り出すのを見送った後、ガルフさんに問いただす。


「それで、実際どうなんですか?」

「わからん、普通集落と言っても横穴に群れで住み着く程度なんだが、まさか村を作るほどとなると想像もつかん」

「増援の方は、間に合いますかね?」

「早ければ夜には、此方につくと思うがそれまで奴らが大人しくしている保証はないな」

「そうですか。因みにそれって一番最悪なパターンですか?」

「いや、一番最悪な…」

「ストップ、止めましょう。そんな事を言って本当になったら困りますから」

「そうだな」


ガルフさんは、偵察で得た情報を村長に伝えてこの後の方針を決めてきたようだ。

そして僕は、少しでも生存確率を上げるためガルフさんに剣術の基礎を今更ながら教わったり、マームさんに魔法について教えてもらった。


対ゴブリン以外では、てんで素人な僕にガルフさんが苦笑いしながら剣の握り方から教えてもらい、木剣を使っての打ち合いを何とかこなせるようになった。

魔法に関しては、ギフトが無くても使えるそうなのだが有ると無いととでは威力に雲泥の差が出来てしまうのでギフト持ち以外で魔法メインに戦う人は稀だそうだ。

僕は、【ゴブリンキラー召喚】と一応召喚魔法?に属するのではないかと思われるギフトなので魔法適正も有ると思い4大属性の基礎魔法を教えてもらうことにした。

その結果わかったことは、魔力はあるが属性魔法は使えないと言う事だった。

普通、ある程度魔力があれば、威力はどうであれ発動するそうなのだが全く反応しなかった。

魔法が使えれば、普段の依頼は魔法で解決すると思ったのに残念だ。


それでも、体内にある魔力の感覚はゴブリンキラーを召喚するときの感覚でなんとなく分かるのでそれを操作することで何らかの魔法が使えないかと現在絶賛奮闘中である。


そんな事をしているとあっという間に夕方を迎えた。

晩飯の支度の為に部屋に戻り調理を始める。

昼と同じスープに村で作られていた、キャベツの様な野菜を少し分けて貰って投入した。


食事を終えて食器を片付けてい居る際、ふと窓の外を見ると森の方から大量の松明の様な明かりが見えた。


「ガルフさん!」


慌ててガルフさんを呼ぶ。

窓の外を見たガルフさんの顔色が変わった。


「溢れやがったか」

「どういうことです?」

「ゴブリンの集落では、養える限界があるんだ。

 それを超える数まで増えたら食料を求めて周りの生き物を襲いだすんだが、それを溢れるっていうんだ」

「ヤバいじゃないですか、明らかにこっち向かってきてますよ」

「こうなったら、増援が来るまで持ちこたえるしかないな」

「そうですね~、私もまだ死にたくないので精いっぱい抗って見せますわ」


コルベ村の人たちには、予め村長の家の地下に作った簡易シェルターに避難してもらう事で話はついている。


各々家に立てこもられたらこの人数では守り切ることは出来ないという判断があった為だ。

出来るだけ家に被害が出ないようにしたいが、まずはゴブリンを撃退することに成功しなければ意味がない。


作戦は簡単だ。ガルフさんとマームさんがディフェンスで僕がオフェンス。

ゴブリンの群れを見据えてゴブリンキラーを召喚する。

現れた剣を右手に握ると全能感に全身が包まれ今までで一番気分が高揚していくのが分かる。

群れの先端が、コルベ村に入るとともに僕は、獣の様な雄たけびを上げながら突っ込む。


風を切り割いて群れの先頭を歩く1匹の首に狙いを定めて剣を振るう。

其の儘、後ろに居たゴブリン2、3匹まとめて首を撥ねて群れの中に切り込んでいく。

ゴブリンはギャァギャと鳴きながらこちらを囲む様に円形の陣が出来、そこへ5,6匹が順番に入っては来て襲い掛かってくる。

下っ端たちはバカで助かる。如何やらこちらの体力切れを待っているかのようなその振る舞いに内心ほくそ笑みながら確実に数を削っていく。


2,30匹屠ったところで奴らも気が付いたらしい、此方の異常性について。

殺したゴブリンの死体は残らずゴブリンキラーに吸収されてこちらを回復し続けるので精神的な疲弊以外は誤魔化せる。

更に最適なアシスタント機能により後ろからの攻撃も確認することなく避けることが出来るので今の所致命傷は受けていない。

取り囲んでいた輪が縮まり、数でもって押しつぶしにかかってくるゴブリン達をその場でしのぎ続けること1時間、すでに数えきれないくらいのゴブリンを倒したはずなのにその数が減る気配すらない。


そんな戦闘の最中、何度か自分の中で何かが弾けると共に力が湧き上がってくる感覚が何度かあった。

多分これがレベルアップの感覚なのであろう。

ただ、自分のレベルが幾つなのかを調べる方法は今のところ発見されていないらしい。


ゴブリンキラーの能力により、体力は常に全開ではあるが、こんなに長い間戦ったことが無い為注意力が落ちてきてゴブリンの攻撃を被弾することも増えてきた。

それでも、ケガした先から回復していくので徐々に緊張感が失われていくのが分かる。

しかし、戦いをやめるわけにはいかないので体が動く限りゴブリンを殲滅することだけに集中する。




ヤバい、痛い、死んじゃう。

今僕の腹部を槍が貫いている。

それは、群れの中から突然やって来た一回り大きなゴブリンが繰り出した一撃を避けることが出来ずに喰らってしまったからだ。

明らかに、致命傷の傷から大量の血が噴き出す。

ここぞとばかりに殺到してくるゴブリンが迫る。

意識が痛みで朦朧とするが、ここで死ぬわけにはいかない。

刺さった槍を掴み引き抜くと激痛が体を駆け抜ける。

其れだけでもショック死してしまいそうだったが、何とか意識をつなぎとめて迫ってくるゴブリンの首に剣を突き刺す。

今は兎に角、回復の為にもゴブリンを殺す必要がある。

穴の開いた腹部を左手で抑えて内臓がはみ出さないようにして、残った右手でゴブリンを殺す。

ゴブリンを3匹くらい殺したところで腹部の傷が完全に治り元通りに動けるようになったのだが、相変わらず一回り大きなゴブリンには後れを取っていた。

どうやら、奴の大きさは個体差などではなくゴブリンが進化した別の生き物なのだろう、だからゴブリンキラーの能力が完全には適応されずアシストが働かない為、素の能力で対応せざるを得ないのだと思う。

事前に、ガルフさんに剣術を教えてもらっていなければ捌くことも出来なかったかもしれない。

そして、そんな個体が3匹追加されたのだ。


1匹でも手こずっているのに、ここにきて追加とか死んでしまう自信がある。

もうこうなったら、相手にしないに限る。

逃げるように囲んでいたゴブリンの方に駆け出して取りあえず数を減らしていく。

早く増援が来てくれないと死んじゃいますよ。

上位個体から逃げ回りながら群れ中を駆けまわりゴブリンの命を刈り取る作業を続けた結果、ゴブリンの数は最初と比べると10分の1まで減ったと思う。

ただ今は、量より質の状態になってしまい上位個体が大量に残ってしまっている。

こうなったら、奴らを倒さないと先に進めない。

数が減ったことで、疎らとなった群れの中で孤立していた上位個体に切りかかる。


やはりアシストは効いていないようだ。

明らかに力負けしているのが分かる。

それでも、他の奴が現れる前に倒してしまわないとこちらが殺される。

力が欲しい。

ゴブリンを前にした時の様な、全身を流れる力が有ればこいつを倒せるのに。


…!そうだ!魔力はあるんだ。

攻撃に耐えながら、体の中に魔力を無理やり流し込んでいくが指の先から漏れ出すだけで体への変化がない。

違うこんな感じじゃない、アシストがあるときはもっと全身を巡る感じだったはずだそのためには…血液だ。

今度は、心臓に魔力を集めるそこから血管に流れて行くイメージを作り上げて魔力を操作してみると、今度は、成功のようだ。

流石に、ゴブリンキラーの効果と同じとまではいかないが多少の能力上昇が感じられる。


これにより鍔迫り合いで負けることが無くなり、有利には運べなくても互角の戦いが出来るようになった。

それでも技量は相手の方が上なようで徐々に押し込まれていく。

このままでは負けるのが目に見えているので、手段を変える必要が有った。

一旦距離を取り、ゴブリンキラーの召喚をやめると素手で上位個体に向かって迫る。

槍の攻撃を避けて懐に入ることが出来ればこちらの勝利も見えてくる。

被弾覚悟で突き進み、槍を掴むことに成功した。

すかさず引き寄せるように引っ張ると上位個体は、槍から手を放して殴りかかって来た。

槍を投げ捨てて、格闘戦にもつれ込む。

迫る拳をかいくぐるようにタックルをかまして、もつれ込む様に倒すとマウントポジションを取り、暴れる上位個体の頭を左手で抑えつけて再度召喚したゴブリンキラーを右手で胸に突き刺す。


数秒苦しそうにジタバタとした後、動かなくなったソレが光になってゴブリンキラーに吸い込まれた。


≪進化条件を満たしました。これよりゴブリンキラーの進化を始めます。≫


突然頭の中に声が流れたかと思うと、ゴブリンキラーが光り出した。

光が治まるとゴブリンキラーの見た目が、少し上等なものに変わっていた。

ゲームで言うとはがねの剣くらいに変化した感じだ。


ハイ・ゴブリンキラー

ゴブリン種を殺す為だけに能力を特化した魔剣。

その為、ゴブリン種以外を斬ることは出来ない。

能力:1.対ゴブリン種時に身体機能を強化。

   2.対ゴブリン種時にオートアシスト機能により体の動きをサポート。

   3.殺したゴブリン種の命を使い使用者の負傷・体力・魔力等を回復する。

   4.ゴブリン種を殺した際に得られる経験値が1.5倍になる。

   5.ヒ・ミ・ツ(1000/1)


よくわからんが、今までゴブリンのみだったところがゴブリン種となっているのでゴブリンと名の付くものに対して今までと同じような効果が見込めるようになったようだ。


それからは、先ほどまでの苦戦が嘘のように上位個体を倒すことが出来て遂にゴブリン達が敗走を始めたので、此方も村へと戻ることにした。


村に戻ると襲われた形跡が有ったが、人的被害はなかったそうだ。

ガルフさんに合流して撃退の報告をする。


「ふぅ、何とかしのいだな」

「そうですね」

「もう魔力が無いですわ~」


そう言って地面にへたり込むマームさんを何とか立たせて、撃退したことを村のみんなに知らせるため村長の家に入るガルフさんを見送って僕も部屋に戻りゴブリンの血の付いた体と服を洗うため脱衣所へと向かった。


冒険者用の家には、薪で焚くタイプの風呂が付いていたので井戸から汲んできた水を戦闘前にはっておいたのだ。

後は、風呂が沸くまでタライに入れた水で服を洗えばいい。

パンツ1枚になり風呂焚きのため外で火の番をしながらじゃぶじゃぶと服を選択していると村長の家からゾロゾロと村人たちが出てきた。


被害状況を確認していた、やはり森に近い家程被害を受けているようでそう言った家からは、少なからず非難の目を受けることになったが、こういうのはどこかに怒りをぶつけないと前には進めないんであろうと思い、取りあえず余計な人目につかないように、お風呂も沸いたようだし服を洗い終えて、部屋へと戻る。


服を干して風呂に入る。

お湯をかぶり体の隅々まで洗ったが、ゴブリンの血の匂いが取れた気はしなかった。

それでもさっぱりとしたので風呂を出て体を拭いて、パンツ1枚のままベットに倒れ込むようにして眠りについた。


それから何時間寝たのかは分からないが、家の外がガヤガヤと騒がしくなっった音で目が覚めた。

家からでて、外を伺うと大勢の冒険者が到着していた。

まだ夜は明けていないようだったが、薄らと明るくなり始めていた。


「おう、起きたか…ってなんて格好してる」

「へ?」


視線を自分の体へ移すとパンツ1枚履いただけの格好だった。

そう言えば寝る前に服を干したままだったんだ。

慌てて家に戻り、大体乾いた服を着こんで外へ出た。


「すいません、お見苦しいモノを」

「それでな、ゴブリンの本隊と戦ったお前に詳細が聞きたいと、こいつらが言っててな。

 話してもらえるか?」

「わかりました。と言っても大したことは分かりませんのであんまり期待しないでくださいね」


そうして昨夜の戦闘でのゴブリンの数と上位個体が居たことを話した。


「ハイゴブリンまで居やがるのか」


集まっていた冒険者の誰かがボソッと言ったのが聞こえた。

多分上位個体を指すのだと思う。


なんでも、ハイゴブリンに進化した個体には魔法が使えるモノもいるようで討伐難易度がかなり上がるそうだ。

そして、普通の集落ではハイゴブリンをリーダーとして群れを形成することが多いらしくそれが複数いると言うことは、更なる上位個体が居る可能性があるのだとか。


そのあとは、どうやってそれほどの数を倒したのだとか死体をどこにやったとか聞かれたが、そこは企業秘密と言うことで答えなかった。

なぜ死体について聞かれたのかと思い聞き返すと、魔物の体からは魔石と言うのが取れるそうなのだがハイゴブリンからはそれなりの値段になる者が取れるそうなのだ。

ゴブリンからも取れるが、クズ石扱いで大したお金にはならない。

それでも、100匹を超える数のクズ石とハイゴブリンの魔石数十個が有ればかなりの稼ぎになるのだが、残念ながら倒した死体は片っ端から剣が吸収してしまうので魔石を手に入れることは出来ない。


そのあとは、今日の打ち合わせになった。

夜が明けてから、ゴブリンの集落を襲撃すると言う事なのだが、僕が倒すと魔石が手に入らないと言うので、ヤバくならない限り参戦しないようにと言うことになった。

と言うのも、増援で駆けつけた冒険者に払う追加報酬がないので倒したゴブリンの魔石は各自の物と言うことに決まった為だ。

そうして、数名が見張りに立ちながら夜が明け決戦の日が幕を上げた。


ゴブリンの集落は、まさしく蹂躙と言う言葉がぴったりなくらいの惨状となっていた。

魔法の使える冒険者たちの放った一撃で、集落を囲む柵が吹き飛ばされて門も意味をなさなくなり放たれた火に焼き出されたゴブリン達が武器を持って応戦する。

むせ返るような血の匂いに思わず吐き気がする。

僕が倒した場合は、死体が消える為最小限の血しか流れないのだが、彼らが倒すとそう言う訳にはいかない。

死体が積み重なりその下には血だまりが出来て行く。

そこに剥ぎ取りをメインとした冒険者が、ナイフを胸に突き刺して魔石を取り出せば更に血が流れる。

そんな地獄絵図のような光景に突然大きな音が響き渡った。


そこへ現れたのは、5mはあろうかと言う巨体のゴブリンだった。

魔法使いの様な恰好をしたハイゴブリンを数体引き連れて現れたソレは、冒険者たちに向けて大きな咆哮を上げた。

その咆哮を近くで受けた冒険者数名が、腰が抜けたように地面にへたり込むとそこに目掛けてハイゴブリンの放った火球が降り注ぐ。

其れだけで、戦況は一変した。


先ほどまで優勢だったのが嘘のように瓦解した冒険者たちが仲間を背負い此方に引き上げてくる。

どうやら出番のようだ。

ゴブリンキラーを召喚して彼らとすれ違い、ゴブリン達を食い止める。

迫りくる魔法を避けつつハイゴブリンを光に変える。

遂に大ゴブリン1匹になった。

そいつは忌々しそうにこちらを睨みつけた。


「イマイマシイ

 キサマガ、イナケレバ、我ノ国ハ滅ビナカッタ」

「それはお互いさまでしょ?貴方達が襲ってこなければ、こちらもこういった手段を取らなかったかもしれませんよ。

 例えば、村で農業について教えを乞うとか、狩で得た獲物を物々交換するとかそう言った手段で食料の調達をすれば違った未来になったかもしれません」

「フン、ソンナハズハナイ。

 人間タチハ、自分タチ以外ノイキモノノ知性ヲ認メヌデナナイカ」

「そうかもしれませんね、それでどうします?

 このまま戦って、一族の無念を晴らすため戦いますか?

 敗れると全て何くなってしまいますが。

 もし、今後人間と関わらないと言うのであれば、見逃してあげることも出来ますよ?」

「コタエハモウ決マッテイル。モハヤ我ニ帰ル場所ナドナイ。決着ヲ付ケヨウゾ」


そう言って、大ゴブリンはその巨体でも大きく見える大剣を構えなおした。

大ゴブリンが、思い切り大剣を振り下ろす。

流石に受け止めることは出来ないので、避けると大剣が地面に激突する。

ドゴッという大きな音と共に地面に小さなクレーターが出来上がる。

どんな力してやがる。

戦慄を覚えながらこちらも行動に移る。

出来るだけ素早く動きながら、足間接に攻撃を集中する。

こういうモンスターの攻略の鉄則だ。

出来る限り動きを封じないと一撃で此方は死んでしまうであろう。


戦闘を開始して30分くらい経過した。

巨大な武器は、どうしても動きが単調になりがちだし動きも読みやすい。

それでも、ギリギリで躱すと凄い風切り音と共に襲ってくる暴風に巻き込まれそうになったため、大げさに躱さないといけない。

そして、ついに何度も執拗に攻撃した左膝が壊れた。

ブチッという肉が千切れるような音がしてバランスを崩して倒れ込んだすきに武器を持っていた右腕を斬り落とすことに成功した。


斬られた腕を左腕で押さえながら、片膝で立つやけに澄んだ目で此方を睨む大ゴブリン。


「我ノ負ケノヨウダナ。サァ首ヲハネルガイイ。」

「すまんな」

「フン、アヤマルデナイワ。最後ニ面白イ相手ト戦ウコトガ出来タ。

 …ソウダ!、一ツ頼ミヲ聞イテクレヌカ?」

「なんだ?」

「我ヲ殺ス、ソナタノ名前ヲ教エテホシイ」

「神原龍也だ」

「ソウカ。

 デハ、タツヤサラバダ。」


大ゴブリンはそれ以上語るつもりはないとでもいうかのように瞳を閉じた。

僕は、ゴブリンキラーを思いっきり首に目掛けて振り下ろした。


大ゴブリンの首はコロンと地面を転がったかと思うと光になり体と共に剣の中に吸い込まれていき、大きな大剣だけがその場に残った。


その瞬間、周りで様子を伺っていた冒険者たちが一斉に歓声を上げた。


そのあとは、剥ぎ取り終わった死体を集めて火を放ち燃えカスを穴に埋めてゴブリン達の墓を作った。

冒険者たちからは、なぜそんなことをするのか?と変な目で見られたがこれはある意味自己満足なので強要する気はなかった。

大ゴブリンが使っていた大剣は珍しい金属で出来て居たそうなので応援に駆け付けた冒険者たちで分けて貰うことにした。

そして、集落の中を物色しだしたので、こっちは村に残してきたものを取りに行くため一旦彼らと別れた。


「よかったのか?」

「なにがですか?」

「あの大剣だよ。ありゃフラム鋼で作られた一品だたんだぜ。

 売りゃあ、金貨10枚くらいには成ったはずだ。」

「そうだったんですか、まぁいいんじゃないですか?

 こっちは、依頼の報酬の貰えますし、でもそうなるとガルフさんの取り分がやけに少なくなってしまいますね」

「お前は本当に甘ぇな」

「え?」

「これだ」


そう言って、ガルフさんが取り出したのは魔法を使うハイゴブリンの持っていた杖だった。


「みんな、あの大剣に夢中で気が付かなかったようだが、この杖に嵌ってる魔石に色が付き始めてるだろ?」

「そう言えば、ほんのり赤い気がしますね。」

「ああ、これはな1つの属性のみ使っていると起きる現象でな。

 こういう魔石は、色の付き具合にもよるが同じサイズの魔石の10倍~100倍くらいの値段で取引されるんだ。」

「へ~、そうなんですか。」

「何だその気の無い返事は、それが4本だぞ。軽く見積もっても金貨20枚くらいにはなるぞ」

「え?魔石ってそんなに高いんですか?」

「ああ、最後の大ゴブリンの魔石が手に入ればよかったんだが、それは命あっての物種だ。」

「そうですか、じゃぁ今回一番稼げなかったのは、僕ってことになりますか。」

「そうだな、一番大変だったのにな。ガハハハハ」


知らなかったらよかった現実にしょぼくれながら家に戻る。

ゴブリンの集落が無くなったことを村長に報告して後はギルドで報酬を受け取るだけだ。

そのまま、ふて寝しようかと思っていたのだが、事件はそのあと起きたのだ。




「はい、お替わりお待たせしました。」


そう言って、お皿に干し肉のスープを注ぐ。

俺もオレもと殺到する人たちを捌きながらため息を一つする。


なぜこうなったかと言うと、増援を呼びに行ったスピンが此方へ向かっていた帰りの道中で晩飯が食べれなかった愚痴を彼らにしてしまったことだ。

当然のごとく、彼らも遠征先では不味いスープとパンで我慢しているのでその話に食いついた。


それでも、ゴブリンの集落を鎮圧すると言うことですっかり忘れていたのだが、成功して村に戻ってきたところで誰かが思い出してしまったのだ。

そこからは、成功を祝っての宴と称した宴会が開かれる運びとなり、村人も併せての大イベントとなった。

さっと人数分を作って終わる予定が、すでに5回目の調理になる。

村で祭りなどをするときに使うらしい大きな鍋に5杯ってどれだけ飢えてるんだ。

そう愚痴りながらも、村から提供してもらった玉ねぎの様な味のする野菜を加えて味だけはかなり満足いく仕上がりになってしまったのがいけなかった。

そのあとは料理教室のような状態になり、村人を始めパーティの中で料理を担当する冒険者に調味料のレクチャーなんかをして何とかバトンタッチすることに成功した。


「疲れた」

「おつかれさん、これお前にってあいつらから」


そう言って、お金の入った袋を渡された。


「何のお金ですか?」

「メシ代だとよ」

「でも、材料は持ち寄りですよ?」

「いいから貰っとけ、払いたいって思えるくらいうまかったんだろ」

「ありがとうございます」

「こっちこそな、お前のお陰で楽しんでるよ。ありがとよ」

「え…!失礼します」


不意に目頭が熱くなるのを感じて、慌てて席を立ちあがり家に入るとベットに横になった。

誰かに感謝される事って最近なかった気がする。

こんなにうれしい気持ちになるなんてすっかり忘れてしまっていた。

そうして僕は、眠りについた。


これが、僕こと上原龍也がこの世界で初めてのした冒険の記録である。


如何だったでしょうか?

仕事中になんとなく思いついた設定で書いてみました。


誤字脱字・感想などありましたらよろしくお願いします。

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