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未来  作者: 甲斐 秀鴉
9/9

第8話 EMPTY

割と堅い話が続きますm(_ _)m

[翌日]


かなりといえるほど悪い夢を見てから一夜。俺はまた勉強部屋に来ていた。


まだお昼前だが少し眠い。昨日ハデスに諭されたすぐ後に夕飯となったが、問題はその後だった。起こしてくれたハルトに約束通り刀を見せて話していたら、だいぶ遅くなってしまったのだ。

また見たいって言ってたけど何回も見てたらさすがに飽きないか?

いずれにしても今度はもう少し早めに切り上げなくちゃ・・・。


「さて、昨日の続きをしようかの」


ちなみに今日は俺とハデスだけが部屋にいる。内容がハデスの宣言通り昨日の続きだからだ。

まだ起ききっていない頭をどうにか切り替える。

ここから先は俺が特に知りたいところだ。聞き逃すわけにはいかない。


「まずは昨日の質問からじゃ。何故Kが一国を落としたか、じゃったな。昨日話したことで一つの予想はできるのではないかと思うんじゃが、どうかな?」

「Kが落としたのは貧富の差が激しい独裁国家だった。ってことは・・・その歪みを見ていられなかったとか?」

「そうじゃな。その見解が一般的じゃと思う。あの国は当時の世界の縮図に近いものじゃった。彼のおかげでそこで暮らしていた人々が救われたのは確かじゃろうな」


それが一般的な見解ってことは――


「本当の理由は違うのか・・・」

「左様。最も他の国々はそれには気づかず同じような捉え方をしたんじゃ。一部の国々ではそれを彼の気まぐれなどと曲解したりもしていたがの」


でも本当の理由なんて見えてこなくないか・・・?


「彼の本当の目的はの・・・魔法の普及じゃ」

「魔法の普及?」

「彼と世界の戦争が終わった大きな理由は七人の日本人が気づいた魔法の力じゃったな?そのあと世界はどうなった?」

「世界は・・・魔法の力もあって大きな問題が全部解決して、崩壊から免れた・・・じゃあKはそうなることを分かっていた?」

「そういうことじゃ。魔法は彼だけのものではなかった。しかし最初に発見したのは紛れもなく彼じゃろう。そして、その魔法の可能性に気づいたからこそ彼は行動を起こしたのじゃ。自らを悪役としてでも世界を救うために、の」


世界を救う。

言葉にするのは容易いが、実際にやるってのは難しいどころじゃない。

ましてやそれを狙ってやるなんて――


「もしそうだとしたらうまく行き過ぎてるだろ。それに確証はあるのか?普通に考えたらそれに思い至ることはないだろうけどハデスの推測なんじゃ?」

「もちろん、確証はあるとも。なにせ彼と直接話したことがあるからの」

「なっ・・・!」


ハデスがKと話したことがある?

戦場では敵同士で見ただけだってのに?

それにKは三十年たった今でも正体が分からないんじゃ・・・?

驚きと混乱が入り混じって言葉が出ない。


「だいぶ驚いているようじゃの」


絶句する俺にハデスは苦笑する。

そりゃそうだろ爺さん。平然と言えることじゃねぇよ・・・。


「わしが軍医として戦場に赴いたことは話したの?そしてわしの“家族”とも言えた仲間たちはそのほとんどが助からなかった。精神的にも限界が来とったから帰国後に退役して街角で小さな診療所を開いたんじゃ。それから二、三年ほどした頃に彼が訪れたんじゃよ。その時に先ほどのことを聞いての」

「確証ってのに納得はできたがそもそもそんな軽々と話すもんか?Kは世界規模でのお尋ね者だろ?」

「今はかなり話を端折っておるからの。もちろん軽々と、などではなかったぞ」


なるほどな。じゃあKは本当に世界を救うつもりで――


「じゃがの、彼自身はうまくいったとは思っておらんそうじゃ。実は初めて世界に魔法の存在を知らしめてから、かの国を落とすまでには半年以上の期間があるんじゃ。彼曰くこの期間はただひたすら待ち続けていたそうじゃ。他の誰かも魔法の存在に気付いて世界が変わっていってくれることをの。そうなっていたら国を落とすなんぞするつもりはなかったそうじゃ」

「それは・・・理想論が過ぎるだろ・・・」

「そうじゃな。わしもそう指摘したし彼自身それは分かっていたそうじゃ。人は理解できぬ超常の現象が起こったところで感嘆して終わりじゃ。普通自分も、とは思わんしの」

「魔法を見せただけじゃ世界は変わらなかった。だから――」

「左様。国を落とすという一手に出たそうじゃ。世界の縮図のような国を魔法を持って制すことで世界に強い危機感と魔法の可能性を示そうという考えだったようじゃの。結果的にはそれがうまくいきはしたものの、その代償となったものははるかに大きい。もとより怪我の有無に関わらず、魔法が確認されるまでは対峙するつもりで、そのために多くの命を背負う覚悟はしておったそうじゃ。しかし魔法が発見されるまでには短くはない時間が必要じゃった。結局想像よりも犠牲となってしまった命は多くなってしまったんじゃ。最もそのほとんどは兵士で、彼自身から攻め入ることはなく抵抗した結果じゃがの」


歪んだ世界を正すために自ら悪役となり、多くの命を背負い。

その選択の果てにK自身が得たものは何もないはずなのに――


「彼にとってその選択に意味があったのか。彼は何も得なかったのか。それを決めるのは傍観者であるわしらではない」


また気づかぬうちに声にしていたらしい。

たしかに考えても結論なんて出ないことで、今知るべきはそこ(・・)じゃない。

何故未だにKは悪役なのか。

方法に問題があったとはいえ、それまで虐げられていた人々を救ったことに間違いはない。

彼が意見を述べることがなかったために真意は伝わってはいないが、それにしても極端すぎる。

そう・・・殺人鬼(Killer)の名が独り歩きしすぎている気がする。


「Kが未だに悪役なのはあいつら(・・・・)が情報統制しているから・・・?」

「いかにも。その方がEMPTYにとって都合がいいからの。世界を危機に陥れた(・・・・・・)Kとそれを防ぎ世界に安寧をもたらした(・・・・・・・・)彼ら。正義はEMPTYにあり。・・・などという三流芝居のような陳腐な構図じゃな。最も自らが正義の代行者であると喧伝するのには適しておるがの」


あいつら(・・・・)――EMPTYについて語るハデスの言葉はいつもより冷酷だ。

残念ながら同情の余地なんてないが・・・。


「さて、ここからはEMPTYについて語ろうかの。EMPTYと呼ばれるあの組織には本来、正式名称がないのは知っておるの?外から見た活動内容が、『テロを起こす可能性と能力のある、反抗的な意思を持つ魔法使いを排除し、若者を導く』ということ。そして名前がないことから“EMPTY(空っぽ)”と呼称されておるんじゃ。最も若者を導く先が平和な未来なのか、あるいはEMPTYへの恭順なのかは怪しいところじゃがの」

「反抗的な意思を持つ魔法使いの排除っていうけど、その意思はどうやって確認するんだ?あからさまに公言するような奴はいないと思うんだが・・・」

「秘密警察のようなもんじゃな」

「秘密警察・・・?」

「あぁ。一昔前のことじゃがの、一部の国家では社会主義という体制がとられておった。この主義自体の理念は非常に素晴らしいものじゃが実現は難しいものでの。この体制をとった国家の多くが組織したのが秘密警察じゃ。正式には保安省として組織されたものがほとんどじゃが、職務内容はテロ等の対策に留まらず国民の監視まで行っていたそうじゃ。しかし一組織のみで全国民の監視など到底不可能じゃろう?カメラなどの機械に頼ろうにも穴はできてしまうし、そのすべてを確認するにしても無理があるからの。そこで取った方法が大勢の非公式協力者の存在じゃ。彼らは市民として生活の中に紛れ込んで盗聴や密告をしていたんじゃ。そして今この国にも間違いなく密告者は存在しておるじゃろう」


密告者の存在、か・・・。

方法としてはなかなかにえげつない気はするが、自国民によるテロや反逆を防ぐには合理的な手段だろう。


「魔法による監視ってことは?」

「確かに魔法は説明のつかない超常の現象じゃがの、それでもやはりできないことはあるもんじゃ。仮にできたとしても魔力供給の段階で無理が生じるじゃろう」

「そうか・・・」

「最善は外で口を滑らせぬことじゃ。相手が自分のよく知る存在であってもの。ヒロキもいずれは外で自立することになるからの。そのときはこのことを心に留めておきなさい」


俺の父さんと母さんを殺したのもあいつらだ。・・・ってことは反逆の可能性があるってことで密告されたってことか?

そしたら二人は――


「なぁ、ハデス――」

「ヒロキ、聞きたいことは分かるがその話はまた後にじゃ。今はまだ早い。今は学び、力を得ることに専念しなさい」


今はまだ、か。ってことはハデスは真相を知っているってことか?

確かに二人を殺された時の記憶を見られはしたがそこまで分かるものなのか・・・?

ようやくEMPTYの名前が出せました。ちなみに、

an organization to Eliminate the Magician who have Potential and Treasonable ill,and to lead Young people ――(反逆の意思とその能力を有する魔法使いを殲滅し、若者を導く組織)

の略となっています。英語が苦手なうえに割とこじつけ気味に単語を用いたので、英語的には滅茶苦茶な可能性ありです(笑)

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