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未来  作者: 甲斐 秀鴉
5/9

第4話 ミナミ

[翌日]


「ん・・・」


目が覚めた。目に入る光が眩しい。

ここは・・・どこだ?

広めの部屋にあるベッドに俺は寝ている。部屋もベッドも俺の部屋のものじゃない。

思わず首を傾げる。


「あ・・・。そうか。ハデスに拾われたんだったな」


ようやく思い出した。

ゆっくりと身体を起こす。あんなこと(・・・・・)があったのに、痛みはおろか傷や疲労さえも全く残っていない。ハデスの魔法がしっかり働いていた。


「うっ・・・」


頭痛が突然きた。心臓の鼓動が早くなっているのが分かった。

原因は昨日のことを思い出したからか?

落ち着け・・・大丈夫だ・・・。

冷静になろうにも冷静になれない。むしろ自分がそうなっていることに、無意識に焦る。上手く呼吸ができない。

そのまま身体がベッドに倒れるが、そんなことでは治らなかった。

脳が酸素を寄越せと叫んでいる。


その時、ドアがノックされた。


「ヒロキ〜。起きてる?」


ミナミか・・・。何とか返事をして・・・


「――――――」


声が出ない。


「ヒロキ〜」


またミナミが声をかけてくる。

それでもやはり声は出なかった。


「ヒロキ――」


マズイ。意識が朦朧としてきた・・・。ミナミの声もはっきり聞こえない・・・。視界も霞んできた。

ぼんやりとした意識の中、最後に見たのはミナミが部屋に入ってきたところだった。

倒れている俺を見て、ミナミの表情が焦りに変わった。


「〈――――――〉」


何か言葉を発するとともにミナミの右手が青白く光り、俺の方に向く――。

そう思った時、意識が急にはっきりした。これは・・・ハデスの時と同じ感覚か?


でも、おかげでまともに呼吸ができるようになった。

ゆっくりと深呼吸をする。


「ヒロキ!大丈夫?ちょっと待ってね」


そう言ってミナミは、部屋のテーブルに置いてあったコップを取り、小さく唱えた。


「〈ラグズ、水を満たしたまえ〉」


コップに突然水が入った――というより現れた。

コップのふちギリギリまで入っていて溢れそうだ。


「はい。飲んで」

「あ、ありがとう」


渡してくれたコップを素直に受け取っておく。

ようやく落ち着いた。

はぁ、と俺がため息を吐くと、ミナミが話しかけてきた。


「どうしたの?過呼吸になってたけど」

「少し・・・昨日のことを思い出しててな。そしたら苦しくなってな。やっぱり嫌なことは忘れた方がいいな!」

「何があったの?」


無理に明るく答えたが、俺がぼかそうとしたことをミナミは反射的についてきた。

だが、俺はそれに言葉を返せない。


「あ、ごめん・・・。言いづらい・・・よね。無理に言わなくてもいいよ。みんな何かしらの秘密は抱えてるし、私だってそうだし」


そう。ハデスも言っていたがミナミにだって抱えているものがあるのだ。俺だけじゃない。俺一人で抱え込んでも意味なんてないんじゃないか?


少しの沈黙の後、ミナミは突然立ち上がった。


「あ、えーっと、朝食作らないと。先に行ってるね」


おそらくミナミなりに気を遣ってくれたのだろう。そのまま部屋を立ち去ろうとする。

でも、それじゃダメだ。言うならこのタイミングしか――


「ミナミ」


静かに呼び止める。ミナミは、ちゃんと止まってくれた。

大きく息を吸ってようやく言葉を紡ぐ。


「俺は・・・両親を殺された」


俺の突然のカミングアウトに驚いているのか、ミナミは言葉を返さなかった。


「みんなには黙っていてくれないか?ハデスは知ってるけど、聞いて楽しい話じゃないしな」

「・・・なんで」

「え?」

「なんで私に話したの?」


よく見るとミナミは少し肩を震わせていた。後ろを向いているから表情は見えないが、多分怒ってるだろうな・・・。


「ごめん。こんな話、聞きたくなかったよな」

「違う。・・・なんで、思い出すだけでも辛いのに、私に話したの?みんなにだって黙っておこうとしたことをなんで私なんかに?」

「それは・・・」


とりあえず怒っていなくてよかった。

でも、理由を聞かれても俺自身分からない。

さっき助けてくれたから?・・・違う。

新しい“家族”だから?・・・違う。

会ってまだ短いけど信用できそうだから?・・・違う。

じゃあ何故――?


「ごめん。自分でも分からない。でも、ミナミには隠し事をしたくない、って思ったんだと思う。・・・一つしか違わない、年の近い“家族”だしな」


できる限り明るく言う。俺のせいでミナミが負い目なんて感じないように。


「そっか・・・。話してくれてありがとう・・・でいいのかな?いや、ありがとうは違うか・・・」


そう何故か考え込むミナミを見ると自然と笑えてきた。

俺がクスクスと笑っているのを見てミナミもつられて笑った。


「ようやく笑ったね。その方がヒロキには似合ってるよ。お礼としてはなんか変だけど・・・私の秘密も今度教えるね。それじゃ、朝ごはん食べよっか。みんな待ってるよ」


そう言ってミナミは部屋を出ていった。俺もその後をすぐに追いかける。

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