プロローグ
静かに佇む少年の目の前には凄惨な光景があった。
血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血 血
小道いっぱいに血が撒き散らされている。
その血だまりの中に数人の大人と数人の子供が倒れていた。
みんな血にまみれている。
もう誰も呼吸をしていない。
後ろから、むせる音が聞こえた。
誰かがこの光景を見て嘔吐したらしい。
別の誰かの泣き声も聞こえる。
多分自分が守った子どもたちだろう、と少年はぼんやりと見当をつける。
だが、子どもたちのことを軟弱だ、とは思わない。
かわいそう、とも思わない。
少年は何も感じなかった。
感じられなかった。
少年の心は“無”だった。
その右手には血に濡れた刀が固く握られている。
少年の服も顔も血だらけだった。
しかし、少年にケガはない。
全てが返り血だった。
突然、ふぅ、と一息つくと少年は持っていた刀を地面に置き、死体の方へゆっくり歩き出した。
子どもたちと一人の老人の遺体を一つずつ丁寧に両手で抱え、先程置いた刀の傍に並べていく。
老人と子どもたちの死体を移動した後、道には四つの大人の死体が残っていた。
少年は再び刀を手にし、それらを抱えることなく無造作に足で蹴り集める。
先程までの丁寧な扱いとは明らかに違っていた。
しかし、その顔に怒りは見えない。
彼は無表情に作業していた。
淡々と。
その四つの死体を道の真ん中に集めて重ねると、少年の持つ刀が青白く光った。そして、その死体の内の一つに刀で二本の線を刻み込んだ。それは、ひらがなの“く”の字の様に見える。二本目を刻むと同時に線は刀と同様に青白く光り、それと同時に刀は光を失った。
その後、しゃがみ込みその線に軽く触れながら、少年は小さく呟いた。
「〈ケン、燃やし尽くしたまえ〉」
そう唱えた直後、青白く光る二本の線から突然火がつき、集められた死体たちを勢いよく燃やし始めた。
少年は落ち着いて数歩下がる。
周囲に、肉の焼ける嫌な臭いが漂った。
その鼻をつく臭いに少年は顔をしかめる。
死んだ後まではた迷惑な奴らめ、とでも言いたげに。
燃える死体を静かに見つめながら、少年は刀を軽く振りまだ乾いていない血を振り払った。それでも落ちない血を確認して小さく舌打ちをすると、刀は再び青白く光る。光が弱まりやがて消えた後、そこに血は残っていなかった。
そして少年は離れた場所に置いていた鞘に納刀したのち、かすかに青白く光る両腕で子どもたちと老人の遺体を抱えて、自らが守り抜いた子どもたちを連れてその場を去った。
少年が立ち去った後には、撒き散らされた血以外に何も残らなかった。
死体一つ。骨さえも。
ただわずかに灰が散るばかりだった。
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冷えた空気が漂う一室。
窓から入るかすかな明かりしかなく部屋は薄暗い。
そこにいるのは少女と壮年の男の二人のみ。しかしその気配はどちらも常人が感じられないほどに薄い。
静寂の中、それまで窓の外を見ていた少女が小さく嘆息し呟いた。
「やはりこうなってしまったか・・・今度ばかりは外れてほしかったのだがな。どこまでこの世界は彼に・・・」
その呟きには彼女の落胆と失望の念が強く込められていた。
「もっともその発端は私かもしれんがな」
続く呟きは自嘲というよりもどこか自分を責めるようなもので、そこに込められる感情は先のものより強いものだった。
「だからこそ今度は――一人増えるぞ。折を見て迎えに行く。それまでに部屋を用意しておけ」
「仰せのままに」
不意にかけられた少女の言葉に、執事のように後ろに控えていた男は会釈し短く答えた。
後に残るのは再びの静寂。
少女にとってはある意味で決定事項の出来事ではあった。
何故なら少女はこの光景を既に見ていたのだから。
しばしの後、二人の姿は消えていた。
はじめまして。甲斐 秀鴉です。
この小説は、初投稿です!読んでいただきありがとうございます。
初めて書くので、読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
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