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私はいわゆるヒロインらしいが、自他共に認めていないので早々に棄権しようと思う。

作者:カン
私は転生者。

それに気付いたのは、王族貴族の子息令嬢が集まる学園での入学式の時である。

光の精霊の祝福を受け、容貌煌めき後光まで背負っている壇上のイケメン、つまり我が国の王太子様を見た瞬間に思い出してしまったのだ。前世を。そして彼がメイン攻略対象者(ヒーロー)として登場する、某乙女ゲームの全容を。

「………!!」

瞬間、自分のピンクの髪を凝視してしまったのは仕方のない話。だってあのゲームにおいてピンクの髪の持ち主と言ったら…

「ひ、ろ、いん…!?」

私が?

「ないわないわないわないわないわないわ」

そう自分に言い聞かせていた言葉は小さかったはず。それなのに私の言動を注意する声が響いた。静粛に、と。私はそれどころじゃないって言うのに。

「王太子とかその乳兄弟とか次期公爵とか騎士団長候補とか宮廷魔術師長候補とかを相手に何しろと?」

そこで再び注意が入る。が、それどころではない。

「しかもその婚約者達をちぎっては投げ、ちぎっては投げしなくちゃ駄目とか………」

「そこの新入生、静粛に!」

何だか注意が大きくなったが、知った事ではない。私だって静粛に出来るならしたいんだ。

「そこの新入…魔術師科主席、ナナミ・イリエ!静粛に!」

名指しされた気もするが、耳に入ってはこなかった。

………はっきり言ってもいいですか?
私にハイスペック男たちを侍らす趣味はないんです。そしてハイスペック女たちを敵に回して喜ぶ趣味もないんです。ただ地味に生きたい。ただただ平和に過ごしたい。そんな人生目標を持つ私としては、現状が痛過ぎるんです。

大体ヒロインという者は、向上心の塊の女の子とか、正義感の塊の女の子とかがなるものじゃないんですか?そんな前提条件にかすりもしない私には無理。絶っ対、無理。

あぁーもうこれは逃げるしかない。

「あ、私、退学しますぅーーー」

その後、入学式逃亡を図ったが王都から出る直前で捕縛され、学園へ連れ戻されてしまった。…何故だ。たかだか男爵家の小娘ごとき放っておいてくれればいいのに。そう言うと、反省室に一週間入れられてしまった。…何故だ。不本意ながらもヒロインである私の扱いが雑すぎる。




入学式から一週間、諸事情により欠席していた私へのクラスメイトの視線は、冷ややかなものだった。

「まあ、あれだけの大立ち回りをしたから当然じゃないか?」

隣に座る、アベンスター侯爵家の息子は笑いながら言ってきた。彼も攻略対象者の一人で後光を背負っている。

しかし初対面に関わらずフレンドリー。攻略対象者ってのは、コミュ力もハイレベルなのかな?

「うふふ…大立ち回りだなんて、そんな大げさな…」
「ははは…『大げさ』ってレベルじゃないだろアレ。関所ひとつ潰しておいて」
「うふふふ…きっと老朽化が激しかったんですわ。と言うかその事よく知っていますのね。箝口令敷かれてた筈ですが」

国の要所が小娘一人に破壊されたとなると国家的に由々しき問題らしい。だからかなり高レベル、国王・公爵家が動く箝口令だったはずなんだけど、侯爵筋のアベンスターがどうして知っているのだろうか?

疑問の視線を送ると、無言でニッコリ微笑んできて。………うん、この人、要注意人物確定。

「俺はユーリ・アベンスター。仲良くしてよ、ナナミ・イリエ嬢?」
「まあ!光栄ですわ!アベンスター様」
「様いらないし、ユーリって呼べばいい」
「ふふふ。よろしくお願いしますね。アベンスター様」
「………ま、いっか。よろしく、イリエ嬢」

何故か攻略対象者であるアベンスターと仲良くなってしまった。が、よしとしよう。………敵に回すと怖そうだから。




入学式から半年たった。
私は攻略対象者の婚約者から可愛らしいイヤガラセを受けている。

関所を壊した件については綺麗に揉み消されていたので、ご令嬢は私を怖がる事なく、イヤガラセをしているようだ。

でも…アレだね。バケツの水をかけられた所で乾かせばいいだけ。モノを壊されたら直せばいいだけ。階段から突き落とされたら華麗に着地すればいいだけ。

正直、飼い犬に手を嘗められてる程度のイヤガラセで、私としては味気なさ過ぎる。

「飼い犬…イリエお前それ、あの子には絶対に言うなよ。いくら何でも気の毒すぎる」
「言わないよ、アベンスター。私そこまで酷い人間じゃない」

今日も悪友アベンスターと昼食をとる私。習慣化した二人でのランチタイムは、彼の婚約者の逆鱗に触れるものであったが、どうしてもやめられないでいた。なぜなら…

「ナナミ・イリエ!今日こそ僕と勝負しろ!!」

最近、次期公爵がうざ…面ど…邪魔…、どうしよう、どう取り繕ってもいい言葉が出てこない。

「って位面倒だから、アベンスター?ちょっと相手してあげて」
「無理」
「即答過ぎでしょ(笑)それに笑い過ぎでしょ(笑)」
「だって面倒だし」
「ですよねー(笑)」

私とアベンスターはこれが通常運転。

「ひ…酷いっ!」

真っ赤になって涙ぐむ次期公爵もこれが通常運転。

私とアベンスターが二人でイジると、構ってちゃんな次期公爵の可愛いさが爆発するのだ。だから止められない、二人(+1)でのランチタイムは。

やばいなー顔がにやけるー

「イリエ、顔が気持ち悪いよ?」
「わかってる!」

にやにやが止まらない。そんな私達のやりとりに入れず戸惑う次期公爵。

「な…何なに?何なんだ?何二人だけで分かりあってるんだ!?」

どうやら羨ましいらしい。
頬を膨らませて拗ねる様は、愛らしいとしか言えないがっ!

「次期公爵様は、可愛いなーと思って。ねぇ?アベンスター?」
「俺に振るな。変な噂が姉の耳に入りでもしたら立ち直れない」

アベンスターのシスコン発言はいつもの事。
そう言えばゲーム内での彼は、姉を始めとする家族全員を恨んでいた。
幼い時、庶子としてアベンスター家へ入った彼を待ち受けていたのは、酷い無関心と虐待だったから…と、そんな設定を思い出しながら問いかける。

「アベンスター?次期公爵や王太子と一緒に私とイチャつく気ある?」
「それは、どんな地獄だ」

一瞬にして凍りつく程の視線を投げられてしまった。ちょーう、こわーい。

だが、よい兆しだね。
自力で私のハーレム要員から抜け出してくれたアベンスターは、私にとっての希望の星である。ポンとその肩に手を乗せ、親愛の念を送っておく事にした。

「私としても貴方みたいな変わった人、友人としか思えないから安心して?」
「………お前、人の事言えないからな?」

大概お前も変わってるからなっ!?と言われるが、そんな事は無いと思う。

「だって私、ヒロイン様だしー」

アベンスターだけでなく、次期公爵からも哀しい目で見られてしまった。
その瞬間、私のヒロイン力って底辺なんだなーと改めて感じた事は言うまでもない。




しばらく次期公爵をアベンスターと二人でイジるだけの日々が続いた。件の可愛らしいイヤガラセとか、アベンスターのシスコン発言が変態の域に達し始めたとか、次期公爵のデレが神、といったささやかな変化はあったものの、基本的に静かな日常を過ごしていた。

表向きは。

裏を見ると、何やら王太子暗殺とかが計画されたり未遂に終わったりしていたそうだ。
大変だね、上流階級って。王太子もゲームではヒロインの尻を追いかけ回していただけなのに、現実だと色々あるんだね。

「本当、暗殺撃退とか超お疲れ様ですー」
「ちょ!ナナミ!!この方、王太子殿下だよ!次の王様なんだよ!?何だってそんなにフランクなんだ!?」
「焦る次期公爵様にキュンキュンしちゃうー」
「………もうっ!」

そう、今私の目の前には、焦り照れる次期公爵と王太子が。
乳兄弟はお茶を淹れながら睨んでくるが、スルーさせていただきます。

「まぁまぁ落ち着いてお茶でも飲んでくださいよー」
「それ、ナナミの言葉じゃないからね?本来殿下が言うべき言葉だからね!?」

そんな私たちのやりとりを見て、王太子と乳兄弟は目を見張っていた。曰わく、彼らの前での次期公爵は冷静沈着なのだと。

失笑。

「ナァナァミィ~~~!!」

唸っても可愛い次期公爵は置いておいて、王太子に視線を向ける。
久々に見る光の精霊の祝福は目に眩しいものがあるね。

眉間を寄せ手で眩しさをカバーしていると、この行動の真意を聞かれた。

「…や、まあ、王太子様の後光が、この近距離ではキツくてですね」

ほぉ…と王太子は納得しているが、何なんでしょうね。
あなたは眩し過ぎます、そう言われて納得しているような男をメイン攻略対象者(ヒーロー)と私は認めない。
心の中でダメ出ししている私に、爆弾発言をしてくる王太子。

「ところでナナミ嬢?私の恋人になりませんか?」
「え、無理」

即答した私を睨む乳兄弟、凝視する次期公爵。王太子は大笑いしていた。
滲む涙を拭いてから、次の瞬間真顔を向けてくる。

「それでは言い方を変えますね。ナナミ・イリエ、王太子たる私が命令します。私の恋人になりなさい」
「……理由を聞いても?」
「あなたが知る必要はありません」
「………………チッ」

この日私は王太子の恋人となった。攻略する気もなければ、一ミリの好意も感じられない。それなのに何故か王太子エンドへと近付いている。…何故だ。誰か教えて。

「………と言う訳で大所帯のランチタイムとなっている訳です」

アベンスターに事情を伝え、自分の周りを見渡す。アベンスターと次期公爵はこれまで通りとして、王太子(イケメン)乳兄弟(イケメン)と少し離れた木陰からこちらを見守る宮廷魔術師(イケメン)がいる。

既に逆ハー感が半端ない。が、内情は違うからね。
これ、命令ですから。国家権力への服従ですから。

そうして王太子と昼食を共にするようになってから、イヤガラセの趣向に幅が出てきた。一部の令嬢が毒物に手を出し始めたのだ。………まあ、一部っていうのは王太子の婚約者なんだけど。

元凶である王太子に毒物云々と共に苦情を伝える。すると満面の笑顔で「さすがナナミです!こんなに早く鯛を釣ってくれるなんて!!」と喜んでいた。

意味が分からない。鯛って何?私、釣りをした覚えはないんだけど…

「あなたは強いのに馬鹿な所がいいですよね」

よい笑顔を送ってきた。本人的にはこれで誉めているつもりらしい。モヤァ~としてきたので、まぁまぁ落ち着いて…とやる気のない対応をしてきた次期公爵の頭を撫で回しておく事にした。

「…っえ!ちょっと、ナナミ?………んもう、何なのさ」

………構ってちゃんの真の可愛さとは構った後に出現するものである。
「んもう」って何ですか「んもう」って。
頬染めながらはにかむとか………次期公爵よ、あなたのデレだけが今の私の癒やしです。

癒やしを堪能した後、落ち着いた私は小さくため息をつく。
それに目敏く気づいたのは王太子だった。

「ナナミ、どうしたのですか?」
「ん~~~?いや、何かさ、自分の将来が不安で」
「将来、ですか?」
「無意味にイケメン侍らしてるだけの私に真っ当な将来が来るとは思えなくて」
「あなたは何も気にせず私に任せておけば大丈夫ですよ。………………悪いようにはしませんから」

王太子から底無しの悪人臭が…

私は静かに耳を抑え、目と口を閉じた。
不安要素しかない私の将来が闇色に塗りつぶされた瞬間だった。




「っこの、泥棒猫っ!」

只今、王太子に婚約破棄を突きつけられた令嬢様に睨まれています。それに加え古式ゆかしい文言(もんごん)を投げ掛けられたモノだから………

「にゃ…にゃ~ん?」とりあえず鳴いておいた。

その後、王太子以外の4人の攻略対象者も、各々の婚約者へ婚約破棄の申し入れを行った。
理由は私への度重なるイヤガラセ。…って、ちょっと待ってよ。

イヤガラセの内容聞いて心配しないだけでは飽き足らず、腹抱えて笑ってましたよね?「この毒物使うとか、えらい時代錯誤ー」とか妙なツッコミまで入れてましたよね?

そう言おうとしたら、王太子に止められた。………凄いね、攻略対象者って。笑顔で睨むなんて表現力を標準で装備してるんだね。

私は再び耳を抑え、目と口を閉じた。

………うん。もう、ど~にでもなぁ~れ。




断罪イベ終了後、私の身辺は静かになった。  


第一の理由はビジネスハーレム解散にある。私を恋人にした王太子の狙いは、婚約破棄にあったらしい。

「そんなに婚約者様が嫌だったんなら、私を出汁にする事なく破棄くらいすればよかったのに…」
「何を言ってるんです?私は彼女を心底愛してますよ?」
「はあ?じゃあ何でわざわざ婚約破棄なんて…」
「翼を無くした天使がどう足掻くか見てみたいじゃないか…」

そう言ってうっとりと物思いに耽る王太子は、ガチの病んでr………。詳しく聞くとR指定が入りそうなので、この件はこれ以上掘り下げない事に決定する。

「賢明な判断です」そう乳兄弟に誉められた。初の快挙である。


第二の理由はアベンスターが消えた事にある。

断罪イベと同日に家の不祥事が発覚した彼は、愛しの姉君共々学園除籍となったのだ。上層部より爵位取り上げという処分を受けたようだが、最後に会った時「俺は愛に生きる男だから!」と、いい顔で(のたま)っていたので特に心配はしていない。

本当に変わった友人である。


第三の理由は構ってチャンが大人しくなってしまった為である。

「ねーねー次期公爵様ー」
「………」
「ねーってばー」
「………」
「おいこら、次期公爵。人がせっかく可愛い子ぶってあげてるのに無視ですか?あぁん?」

思わず胸ぐらを掴んでしまっていたため、目の前には土気色の顔色をした次期公爵様が。

ナナミ、失敗☆

激しく咳き込む次期公爵の目には涙が…さすがに良心が痛んできた。
息が整ってきた彼は、スッと目を細め話し始める。

「ナナミはユーリ・アベンスターが居なくなって寂しいのか」

疑問ではなく確定。しかも呟くような言い方だった。その(ほとばし)る哀愁に私は彼の心を理解する。

「次期公爵、寂しいんだね。構ってくれる人が1人居なくなって………構ってちゃんキャラとしては凄い痛手だよね」
「はぁ?ナナミ何言ってんだ?」
「でも大丈夫!これからは私が2人分構ってあげるから!ね?寂しくないからね??」
「は、はぁぁぁ!?何言ってんの?何言ってんのぉ??」
「真っ赤になっちゃって………そんなに照れなくてもいいじゃない。大丈夫。次期公爵の言いたい事、私はちゃーんとわかってるから」
「………全っ然、解ってない。………僕はただ…ナナミが………」

声が小さすぎて聞こえなかった。が、いじける姿がまた可愛い。
いじける=頭グリグリ催促と心得ている私は、すかさず彼の欲求を飲んだ。
ブーブー膨れるその頬がまた可愛い…と触れようとしていた手をとられる。

「………クリス、だから。僕の名前」
「………」

目の前に真っ赤な、でも真面目な顔が…私とした事が一瞬言葉に詰まる。

「も、もしかして…僕の名前、知らなかった?」
「え~とぉ………テ、テヘ☆」
「はぁぁぁぁ」
「ごめんね。あ、でも今覚えたからさ、クリス!いい名前だよねっ」
「っな!……な!い、いきなり呼び捨て!!!………ま、まぁナナミだから許すけど」

これ以上無いって位真っ赤になってしまった。
私が乙ゲーヒロインだったら、確実にクリスたん推しである。

…………まてよ?

「私、ヒロインじゃなかったっけ?」

色々不本意な事が重なり過ぎて忘れていたけれど、私はれっきとした当乙ゲーヒロインである。
最初はヒロインなんて………ケッ。と思っていたけれど、頑張ればクリスたんとの魅惑エンドを迎えられるのならば、美味しい事この上ない。

心が決まった私はスッと姿勢を正し、美しく手を挙げる。

「私、ナナミ・イリエは、クリスたんルートを爆進する事をここに誓います」
「くりすたん?………るうと?何言ってるんだ?」

疑問顔のクリスたんに答える事も出来ず、ただ伝える。

「クリス!私、頑張るからね!」
「う!うん!!が、頑張って!!!ナナミ!!」

うっすら照れている理由を聞けば「まだ名前呼ばれるの慣れてなくて……恥ずかしい」だそうだ。

とりあえずヒロインの肩書きはクリスたんにあげよう。そして私はヒーローになろう。

早々にヒロインを棄権した私が、この世界で一番の魔術師として名を馳せ、この世界で一番の鬼嫁と呼ばれるようになったのは、これから5年後の事である。





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