リュート・アストロフの回想
弟になったリュート視点です。
僕の名前はリュート・アストロフ。今日からこのアストロフ家の後継者として義父とその一人娘と共に生活をすることになった。理由は簡単、亡き妻を愛するアストロフ侯爵家当主が後妻を迎えないため、家を継ぐ人間がいなくなりそこで遠縁である僕に白羽の矢が立ったのだ。まあ、どうせあの家にいても家督が継げるわけでもなかったし、こちらの方が位も随分と高い。寧ろ喜んで付いてきたようなものだった。
アストロフ侯爵は僕に優しく話しかけてくれた。自分の父親と比べてもその差違は明らかで、育ちが違うとこうも性格が変わるのかと感心した。あの父親の血を引いていると思うと、とても嫌な気分になる。
侯爵家を実際に見て唖然とした。とても大きく綺麗だったからだ。これが将来僕のものになると思うと意図せず口許が弛んでしまう。義父には気に入られたが娘の方はどうだろうか。僕の将来の為に娘の方も懐柔しておくべきだろう。僕は大人しい他所から連れてこられて不安いっぱいの少年を演じることにした。これをすれば大体の大人は騙せるし、自分の容姿は自覚している為それを有効に活用させてもらう。
義父に呼ばれ書斎に入ると、そこには天使がいた。きらきら光る金色の巻き毛とアメジストに勝る輝きの大きな瞳を煌めかせた少女が、僕を見て微笑んでいたのだ。彼女が話すたびに鈴が転がるような音色が流れる。この時僕は演技なんて忘れて素で動揺してしまった。
義父は彼女に僕を引き取った経緯を簡単に話す。反対されるかもと思ったけど、彼女はそれは当然だと簡単に僕を受け入れてくれた。たったそれだけのことがとても嬉しかった。弟として見られることは些かショックを受けだが僕らは血もほんの少ししか繋がりはないんだ。言ってしまえば彼女と結婚することだって可能だ。そんなことを考える辺り、僕は彼女に一目惚れをしていたのだろう。
彼女が一旦部屋に戻ると退室していった隙に義父に尋ねた。
「義父上、もし僕が望んだら、クラリーチェと結婚できますか?」
僕の言葉に義父は驚きで目を開く。冗談ではないですよ?本気も本気です。
「いや、リュートだけの意志では難しいだろう。僕はクラリーチェが幸せになる人と結ばれてほしいからね」
亡き妻に良く似た娘を溺愛しているから、彼女が他所に嫁がないでいることに賛成するかと思いきやそこは現実的だった。
「そうですか・・・ならばクラリーチェが僕を好きになってくれればなんの問題もないですね」
「う、うむ・・・」
言質は取った。時間はまだまだあるんだ。これから僕が弟ではなく男なんだと知ってもらえばいい。
最初は次期侯爵の座に目が眩んだけど、一瞬で目的が彼女に変わってしまった。
「どうかしたのお父様、リュート」
いつの間にか戻ってきていた彼女はドアに手をあて首を傾げていた。その姿がとても愛らしく僕だけに見せてほしいと思う。
「なんでもないよ。僕もクラリーチェと同じ学校に通うからその話をしていたんだよ。ね、義父上」
「そ、そうだな。来週から行けるように手配しよう」
そう言うと、義父は直ぐに書斎から退出する。
「一緒に登校出来るのですね!嬉しいです」
「うん、僕もとても嬉しい」
これからはずっと一緒だからね?とりあえず当面はクラリーチェに近寄る虫の排除に専念しようかな。
強欲なリュートは天使クラリーチェにノックアウトされました。ヒロインに出会う前にクラリーチェ信者第1号になったのでヒロインなんて歯牙にもかけません。