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死ぬのは巫女!?

 賊から無事に解放された僕たちは、再び幻炎国へと向かって旅をはじめていた。


 僕らは途中、何度も休憩を繰り返した。僕が「休憩したい」と頼んだわけではない。僕のような素人をまたがせて、レイドは走りづらいだろうに……。こうして馬に乗せてもらっている身で、文句なんか言っていられない。けれどもレイドをはじめとして彼らは、僕が何を言わなくても、ちょうどいいタイミングで時折馬を止めてくれた。


「なんだか冷えてきたね……さっき、雨が降ってたからかな?」

 満月だ。この世界にも月があるらしい。いや、月のようで実は違う衛星だったりするのかもしれないけれども。その月らしきものは、ちょうど真上の辺りにある。日本で考えれば、今は真夜中ということになる。

「確かに冷えてきたな。アスナ、休むか?」

「えっ……?」

僕は躊躇した。確かに身体は冷えているし、休憩を何度もとってもらっているとはいえ、疲れも出てきているし、そろそろ瞼も重くなってきたところだった。しかし、僕が賊に捕らえられてロスした時間を考えると、やはり僕から「休みたい」とは言えなかった。

それを察知してかどうかは知らないけれども、先頭を走っていたクレハが踵を返し、馬から降りてとことこと僕たちのところまで歩いてきた。

「レイド、もう夜が遅い。この辺で今日は野宿しましょうか」

「そうだなぁ。冷えてきたし」

先行するセリアスも馬を止め、僕たちのほうに歩み寄ってきた。辺りに明かりはまるでない。本当に月明かりだけだ。こんな真っ暗な中を走ることも、もしかしたら僕のような初心者を連れていると危険も増えるのかもしれない。

「巫女様、休みませんか?」

にこりと笑みを浮かべながらクレハが手を差し伸べてきた。それを面白くなさそうにレイドは見ているようだったが、僕はその手を掴んで、頷いた。

「うん、休みたい」

ようやく本音が口から出た。いっそう目を細め優しい笑みでクレハは僕を馬から降ろそうと身体を支えてくれた。華奢な身体のクレハだが、さすがは男子。僕の身体をお姫様抱っこし、地面へと降ろしてくれた。

「あ、ありがとう」

少し照れてそう言うと、レイドはいっそう不機嫌そうな顔をした。そしてレイドは自ら漆黒の馬から降り、馬の手綱を持ちながら寝床を探していた。

「あの木の下はどうだ」

レイドは、この辺りで一番背の高い木を選び指差した。葉が生い茂っていて、あれなら少しの雨ぐらいだったらしのげそうだ。クレハもセリアスも納得したようで、馬を近くに休ませてから、その木の方へと向かった。

「巫女、寒いか?」

セリアスが気遣って僕の顔色を窺ってきた。僕はえっと……と、言葉を濁した。本当は寒い。けれども、寒いと言ったところで、防寒着があるわけでもないのだから、困らせるだけなのは知っていたからだ。

「その様子は、寒いようですね」

くすくすと笑いながら、クレハは地面に手の平をついて、湿り気を確かめていた。僕の嘘なんか、彼らの前では何の約にも立たなかった。彼らには営業スマイルだってきっともう通用しない。いや、それが本当の僕の望んでいた姿だということを僕はもうは知っているから、僕はただ、まだ慣れないこの感覚をどう処理するかだけを考え後のことは手馴れた彼らに任せることにした。


ここへ来て僕は、自分に正直に生きるということは、自分を偽りながら生きることよりも、難しいことなんだと知った。


「巫女様、一緒になって寝るなんてことは……やはり女の子ですから、嫌ですよね?」

クレハは爽やかな笑顔のまま、そう尋ねてきた。手には湿り気を帯びた土が若干付いている。やはり地面はまだ濡れているようだ。何か敷くものでもなければ、身体が冷たくなるかもしれない。

「いや、みんな一緒で僕は構わないよ」

そういうと、後ろから今まで黙っていたレイドが歩み寄ってきて、木の下に一枚の布を敷いてくれた。レイドの帯紐だった。

「え、ちょっとレイド? いいよ別に、そんなことしなくても!」

僕は慌ててレイドを止めようとしたが、レイドは何を慌てていると言わんばかりの顔で僕を見るなり、僕の名前を呼んだ。

「アスナ、ここへ」

「……だ、そうですよ」

指定席を用意された僕は、これはもう素直にご好意に預かろうとお礼をいい、レイドの帯の上に腰を下ろした。すると、右隣にレイドが、左隣にセリアスが来て、順に腰を下ろして肩を寄せ合った。性別関係なく三人で固まったから、寒さはもう感じなかった。肩をこすり付けあいながら、お互いに暖を求め寄り添い合った。しかし、クレハはそれに交じろうとはしなかった。

「クレハ、クレハもおいでよ。寒いでしょう?」

クレハはひとり、木の外に繋いでいる馬のところに居た。そしてそこで首を横に振りながら、馬の毛並みを整え応えてくれた。

「私のことは気にしなくていいんですよ。私は馬の見張り役をしていますから」

「そ、それはダメだよ! それじゃあ、交代に休もう?」

僕がそういうと、セリアスは「まぁ、まぁ」と僕の頭を撫でた。

「クレハの役割だ。それを奪ってやるなよ、巫女。それに、巫女に神に国王と肩並べて寝る臣下がどこに居る?」

言われてみればそうかもしれないけれども、この中で一番疲れているのはおそらくクレハだ。だって、賊と争っていたときだって、クレハひとりで手下の相手をしていたのだから。剣の達人であったとしても、疲れているに決まっている。それを、今更になって地位やら権限やら持ち出して、ひとりだけ萱の外に置いておくなんてこと、僕には耐えられなかった。

「やっぱり、ダメだよ……セリアスの言うとおりかもしれないけど、クレハだって、一緒に旅をしている仲間だよ?」

「じゃあ、馬の世話はどうするんだ」

口を挟んできたのは、今までずっと静かだったレイドだった。レイドは、意地悪でこんなことを聞いてきたわけではない。それは、目を見れば分かる。

「眠っている間にまた賊が出てくるかもしれない。馬を盗られるかもしれない。だったら、誰かひとりが見張り役に立つのは、自然な流れというものだ」

セリアスの言い分も、レイドの言い分も、ごもっともだった。そして、そうなるとしたら見張り役になるべくものは……やはり、クレハなのかもしれないと、僕の中でも悲しいけど思えてきてしまったんだ。

「巫女様、お気遣いありがとうございます。けれども、本当に大丈夫ですよ、私なら。武官ですからね」

僕は申し訳なさがこみ上げてくるのを感じながらも、「わかった」と告げた。するとクレハは満足げに笑みを浮かべた。これが自分の役目なんだということを分かりきっているかのように。


兵士って、こういうものなのかな。


身分の差って、こういうことなのかな。


こんなことで、本当に平和って築けるのかな。


僕は、そんな不安に駆られながら一度頭を整理しようと目を閉じた。目指すものはこの国、幻水国と敵対する幻炎国との争いを食い止め、世界平和を導くことだったはずだけど、もっと根本から変えていかないとダメなんじゃないかなと思い始めた。


「巫女、まだ起きているか?」

声をかけてきたのはセリアスだった。僕は目を開け、セリアスのほうを向いた。この至近距離でこの美貌……一般市民の女子高生からしたら、堪らないものだ。

「うん、起きてるけど……どうかしたの?」

セリアスは笑うと子どもっぽさが表れると思った。笑みを浮かべたセリアスは、ぐぐっと僕の方により肩を寄せ、耳打ちしてきた。

「巫女と話がしてみたかったんだ。お前が眠るまで、話に付き合ってくれよ」

そういえば、昼間も僕に聞いてみたいことがたくさんあるとか言っていたようなことを思い出した。僕は快く返事をし、とりとめもない話から、今後の国の行く末なんてものまで、色々な話をした。中でもやはり、セリアスは僕の住んでいる世界のことを、とても熱心に聞きたがっていた。だから、僕はセリアスが尋ねるものに関して知っていることを、色々と話したんだ。その様子を、レイドとクレハは黙って見守っていた。

「ほぅ……巫女の国では戦争がないんだな?」

「う~ん……正確に言えば、昔は戦争をしていたんだ。だけど、今は非核三原則とかあるし、平和憲法っていうものもあるし」

「ヒカクサンゲンソク?」

セリアスは、首を傾げて聞き覚えのないその単語を反芻した。僕は、この国には「戦争」があるけれども、「核」はないんだと思うと、どちらが平和なのかと、疑問符を頭に浮かべた。

「うん、それは平和への誓いだよ」

「平和なぁ」

セリアスは、顎に手を当てて、何やら考えているようだった。一国の若き王。僕は、このときセリアスが何を考えているかなんて、想像もつかなかった。僕みたいな一般人なんかが、想像出来るはずもないと思った。

「巫女は、平和中毒だな」

「中毒?」

「悪い意味じゃない。俺も、平和な世というものを、見てみたくなった」

その言葉を聞いて、僕は目を見開いた。


 伝わってきている。


 僕の思想、僕の願い。


 平和への、想い。




そうしているうちに夜はますます更け、気づけばいつの間にか眠っていた。




朝を迎え目を覚ました頃には、もうすでにみんなが起きて僕のことを待っていた。僕はレイドの肩に頭を乗せ、眠っていたらしい。神様の肩を借りるなんて、いよいよいい度胸になってきた。

「おはようございます、巫女様」

「あ、おはよう」

クレハだ。クレハは結局、一睡もしていないのだろうか。身体が心配だった。しかし、妙なテンションでもないし、少しは休んだのだろうか。

 だってほら、徹夜明けの朝って、何だか変なテンションになるものじゃないか。でも、それは何の訓練も受けていない一般人にのみ適応されることで、鍛え抜かれた武人には、関係の無いことかもしれない。

「クレハも少しは休めた?」

クレハは「えぇ」とにこりと微笑んだ。この人の笑みは奥が深くて真偽が掴めない。

「では、行くか」

僕は先に立ち上がったレイドを見上げながら、頷きゆっくりと立ち上がった。いい天気だ。今は何時ぐらいなんだろう。一面、青空が広がっていた。




「そろそろ、国境だな」

馬を走らせしばらくしてから、レイドは低くそう呟いた。見たところ、国を隔てる壁も見当たらないし、関所のようなものもなさそうだ。彼にはどうして分かるのだろうか。

「どうして分かるの?」

レイドは、知れたことを……と呟いた。分からないから聞いているのになぁと、僕は胸中でひとりごちた。しかし、たいていの場合、口には出していないのにやはりレイドには心の内を汲み取られてしまうのだ。彼は僕の欲している言葉を続ける。

「水のにおいが薄くなった」

「水のにおい?」

雨が降った後などには、土の香りって言うのかな。湿った土のかおりを感じるけれども、そんなようなものを彼はいつでも感じ取っているというのだろうか。

「お前は感じないのか?」

僕は頷いた。すると、レイドは不思議がった。

「変だな。巫女であるお前も、感じているはずなのだがな」

そうなのだとしたら、気づいていないだけかもしれない。だって、「これが水のにおいです」なんてものを、嗅いだことがないから。

「巫女様、確かにそろそろ国境のようです。どうやら、幻炎国からはまだ、兵士が送り込まれてきていないようですね」

クレハがそう言った。しかし、幻水国と幻炎国を結ぶ道はこれだけではないはず。別の道から兵士が送り込まれている可能性だってある。

 しかし、僕はあえてそうはつっこまなかった。わざわざ、心配をかけさせる必要はないと思ったからだ。ここで僕らが何を心配しても、何もはじまらない。どうしようもない。

だったら、心配ごとを抱えて後ろ髪ひかれるより、真っ直ぐに前を見て歩いて、急ぎ足で帰ったほうがきっといいと思ったんだ。それに、城には王佐ミラシカに、重臣たちが居る。国王不在、水神不在、巫女不在ではあるけれども、きっと王佐はなんとかしてくれる。彼は、国のためならば、どんな策でも練り上げそうだ。だから、今は僕らに出来ることをすればいい。任せればいいんだ。彼が僕を行かせてくれたように、信じてくれたように。僕も彼やあの城のひとたち、国のひとたちを信じて居ればいい。


僕はセリアスに向かって微笑みかけた。


すると、セリアスも笑顔で応えてくれた。

 

幻水国の巫女ならば、いいかもしれない。そう、思った。この国のために汗水流すことは、とても幸せかもしれないと。こんな国王と、こんな臣下、そして、こんな神様のいる国。とても素敵じゃないか。だから同時に、寂しくなる。これは夢なのだと思うと、いずれ来る、唐突に来るだろう目覚めという別れを思い出すと、悲しくなるんだ。


 思わず顔が下を向く。涙だってこみあげてくる。けれども、今は泣いていられない。こうして夢を見ている間は、僕はこの国の巫女なんだ。今まで、何も出来ずにいた僕でいてはいけない。僕にしかできないことが、ここにはあるのだから。

(顔を上げるんだ!)

僕は自分自身に言い聞かせて顔を上げた。太陽がぎらぎらと光っている。そこはきっと、幻炎国。

 馬がまた一歩、前に進み出たときだった。不意に違和感を覚えた。これまでとは何かが違う、そう感じさせる何かがあった。いや、逆かもしれない。なくなったのかもしれない。これまであった何かが……。そしてそれこそがレイドの言う「水のにおい」なのかもしれない、そう思った。

「感じたか? あぁ、炎の世界に入った」

僕らの目指していた国に到着できたことは確かなようだ。しかし、その途端にレイドの整った顔が、苦痛で歪んだ。嫌な汗をかいているようにも見える。

「レイド、苦しいの?」

そういえば、こんなような言葉を以前にも彼にかけたことがあったと思い出した。僕がこの世界にやって来て間もなくのときだ。白の空間を飛行中、突然空から落下し、どこかの村に落ちた。そこでサンに会ったんだ。そのときも、駆けつけてくれたレイドはどこか具合が悪そうだった。

「陛下、具合の方はよろしいですか?」

クレハはセリアスの身を案じていた。その言葉を聞いて不審に思った僕は、セリアスの方に顔を向ける。すると、セリアスもレイドと同様、苦悶の表情を浮かべていた。これまで、疲れなんて見せなかった彼からは想像もできない表情だった。

「どうしたの? セリアス。それにレイドも……急に疲れが出ちゃったの?」

僕が心配しながらそう声をかけると、クレハは馬を僕の方に歩み寄らせ、肩を並べるほどの位置までやってきた。

「巫女様は、なんともないのですか?」

不審に思ったのは僕だけではなく、クレハもだったらしい。クレハは眉を寄せて、不思議そうな顔で僕の顔を見ていた。

「え? 僕は……別に、なんともないけど?」

その言葉を聞くと、クレハはさらに眉をよせ、軽く眉間にしわを寄せた。そして、僕を見ながら、僕ではない、どこか遠くに焦点を合わせたかのような顔をした。今の彼は、どこを見ているのかなんて分からない。ただしばらく、黙ったまま何かを見ていた。

「そうですか」

僕が答えてからかなりの時間を経て、彼はそう呟いた。その言葉は、どこか飄々としていたクレハらしからぬ口調で、重々しさを感じた。

「いえ、この国は幻炎国。水の力を持つものは、力の反発が体内で起こり、とても辛いらしいんですよ」

その後の言葉は、いつもの彼の口調に戻っていた。笑顔交じりでそう説明してくれた。水の力が強ければ強いほど、反発を受け、体調を崩してしまうのだと。

 レイドは水の神、当然ながらこの中で一番身体に影響を受ける。そしてセリアスも強力な水の力を持っているというわけで、こうして今、非常に疲れた顔をしているのだ。

 クレハは、力をまったく持っていないとのことで、変わらず汗ひとつかいていない。僕も、力は持っているらしいのだけれども、別になんとも感じない。ただ、左の手の甲が、いっそう熱を帯びているかのように思えるだけだ。

「レイドとセリアスは、国境を越える直前で、待っていた方がよかったかもしれないね」

僕はそう呟いた。すると、セリアスはとんでもないという顔をした。

「馬鹿を言え。ここまで来て置いていかれるなんてごめんだぜ。それも、この仏頂面の神様とふたりっきりだなんて、堪えられないね」

神様を仏頂面呼ばわり。王様ってすごい。

「俺はアスナの傍を離れるつもりはない」

こちらはこちらで、ものすごい告白をしてくれる。

とりあえず、この勢いと熱意を持っているふたりならば、まだ大丈夫だろうと安心した。そんな彼らを、クレハは優しい目で見守っていたことに、僕は気づいていた。

「レイド、もっとペースをあげられる?」

僕はそう、声をかけた。すると、彼は驚いたような口調で答えてきた。

「ペースを?」

さすがに長時間馬の上で過ごしてきたのだから、いい加減僕もこの高さと揺れには慣れてきた。少しぐらいなら、飛ばしても我慢できそうだ。

 レイドとセリアスが、体調不良で崩れる前に、こちらの城にたどり着きたいと思ったことからの判断だった。

「うん。早くたどり着いた方がいいのかな……と思って」

レイドは「お前が言うのならば」……と、鐙をかちりと鳴らした。それに続いて、セリアスとクレハも後に続く。馬は風を切り、景色が次々と通り過ぎていくほどの速さで走りはじめた。


「平和」を、この国と、幻水国にもたらすんだと意気込む。


「大丈夫か?」

レイドは僕を気遣う言葉をかけてきた。首は、自分が振らなくても先ほどから上下左右に揺られまくっている。

「だ、大丈……っ」

舌を噛んだ。痛みで思わず涙がこみあげてきた。僕は、しばらくは黙っていようと決め込んだ。そして、馬の鬣をぎゅっと握る。これが答えだ。まだ大丈夫、頑張れると。

 レイドも了承したらしい。馬の速度を落とすことなく、走り続けた。




 つまらない。


 そう思いながら、事の次第を見ているものが居た。幻水国の神と王様に臣下ひとり、そして巫女。その四人で旅に出ると、それもこちらと協定を結びたいなんていう可愛い戯言を目的にした旅に出ると言い出した頃から、彼はずっと巫女たちの動きを監視していた。というより、覗き見をしていた。本来ならば、幻水国への道は閉ざされている。力だって及ばない。こうして簡単に覗き見ることは不可能だったが、今では幻炎国の巫女でもある彼女と契約を結んでいる身。幻水国を覗くことはできなくとも、巫女の姿を追うことはできるようになっているのだ。

 炎神レジェンは、つぶらな瞳を半眼にまで閉じ、いかにもつまらなさそうな顔で水晶のような石を覗き込んでいた。そこに巫女とその周りのものの姿を映し出しているのだ。

「仲良くなっちゃって……子どもの遠足みたいですねぇ」

皮肉たっぷりの言葉をもらしつつ、彼は城内の一室で覗き見をし続けていた。


 幻水国、それもあちらの城に乗り込んで、巫女に返り討ちにあってから、レジェンは真っ直ぐにここ、幻炎国主城、レントルに戻ってきた。攻撃を受けたとはいえ、怪我はしていない。新米巫女にやられるほど、彼は弱くはなかった。だがしかし、報告しなければならないことがいくつかあったので、幻炎国王が待つこの城に戻ってきたのだ。

 国王に報告するべきこと、その一。巫女が見つかったということ。その二、巫女は自分よりも先に、水神と契約を結んでしまったということ。その三、遅ればせながら自分とも契約を(強引に)結ばせたということ。その四、巫女の身柄は幻水国に獲られたということ。

 それらのことを王や重臣たちに告げると、レジェンは本来ならば国王よりも位が上であるのにも関わらず、かなりの小言を言われた。幻水国の国王とは違い、ここ、幻炎国の国王は中年で頭も固く、小言も多い。ついでに言うと、王佐も宰相もみなそろって頭が固いと自分は思っている。

(あちらは楽しそうでいいですねぇ。僕もまざりたいぐらいですよ)

本音だった。城内での様子も、旅路の様子もずっと覗き見していたけれども、宿敵水神はいつでも巫女の傍らに居て、何やら楽しそうにしている。あの巫女は自分の主でもあることを考えると、なおさら腹立たしくなるのだ。


 そして、羨ましくも……。


 レジェンは水晶に目を向けつつも立ち上がった。このまま楽しい旅を送らせてたまるものかという意識が頂点にまで達したのだ。巫女たちは、自分のテリトリー内に入った。この国の中ならば、サンマルスは自由自在に移動できる。巫女の力を感知し、正確な位置を突き止めると、彼は炎神の力を使った。体が赤き光に包まれる。そして、赤き空間が当たり一面に広がった。これがレジェンの空間移動だ。巫女の力の波動を感じる方に向かって、彼は飛び立った。




「アスナ」

不意に上から声が聞こえた。これまで手綱を握っていたレイドが、片手だけそれから離し、僕の体を包み込むように手を伸ばしてきた。突然どうしたのだろうかと僕は不思議に思った。

しかし、警戒心たっぷりな表情をしているのは、レイドだけではない。セリアスもクレハも同様に、固唾を飲み込み何かを警戒しているようだ。

「何、みんな、どうしたの?」

僕だけが取り残されている。ただ、これ以上足手まといにならないようにと、レイドの腕の中ですっぽり身を隠していた。そして、耳を澄まし、目を見開き、何が起きようとしているのか察知できるよう努めた。しかし、成果はあげられない。

「来る」

レイドが再び呟いた。来る? 何が来るのだろう。

 そのときだった。僕とレイドの馬の目の前に、赤い光の柱が立ち上った。どこから現れたのだろうかと思うそれは、神々しく光っている。そして、次第に光が収まっていくと、見覚えのある人影がそこに居ることが分かった。

「サン……」

思わず、あの日の出来事が脳裏をよぎる。僕は苦虫を噛みしめた。サンが悪いのではない。僕が勝手に暴走してしまったことを、サンを攻撃したという苦い思い出に表情を歪める。

「巫女さま、覚えていらっしゃったようで安心いたしました」

サンはにこりと笑みを浮かべた。どうやら、傷を負ったりはしていないようだ。とりあえず、そのことに僕はほっとした。

「幻水国の王様も、ご機嫌麗しいようで」

セリアスに向けては、どこか憎たらしさを含めた笑みを浮かべながら言葉を発した。しかし、そんな態度のサンを見ても、セリアスは何とも思わないのだろうか。あぁ、どうも……なんて言いながら、頭をかいている。先ほどまでの緊張はどこへ行ったのやら。セリアスはひとり、戦線離脱したような感じがする。

 レイドと同じく、警戒心を緩めていないのがクレハだ。彼はあのとき、玉座には居なかった。だから、サンに出会うのはこれがはじめてだと思われる。サンの力も何も知らないだけ、強く警戒しているのかもしれない。

 銀に近い白髪の男、サンは、燃えるような火の目をきらつかせながら、レイドの顔を見据えた。馬に乗っているレイドを、下から睨む。

「巫女さまは、僕の巫女さまでもあるんだけれどなぁ?」

それが呪文だったのだろうか。レイドの眼前に向かって火の玉が飛んでいく。つまり、僕の方にも向かって。

 僕は咄嗟に身をかがめ、体を縮めこませた。思わず反射的にそう動いてしまったのだが、これではレイドが的になる! 僕は慌てて体を再び起き上がらせようと頭を上げた。

 しかし、ほんの数ミリ頭を上にあげただけで、レイドが思い切り僕の頭に手を乗せて、下に押し返したのだ。押し返したというより、押し付けるというほうが正しい。そして小声で、そのままの体勢で居ろというのだ。

「アスナに当たったらどうするつもりだ」

その声には、明らかに怒りの色がこめられていた。そして、これもまた呪文となっていたのだろう。水の壁が僕らの乗る漆黒の馬の前に現れ、サンからの火の玉を消し去った。その衝撃で、水蒸気が立ちのぼる。こうして水の防壁に守られるのは二度目だ。

「当たらないよう、お前が動くだろう? そんなことは分かっている」

上からものを言うような口調でサンは笑みを浮かべながら囁いた。その言葉に舌打ちしつつ、レイドはますます険悪な顔つきになる。レイドは右の手で僕の体をしっかりと抱き寄せると、左の手も手綱から離し、サンの方に手のひらを向けた。

「だからといって、アスナに向かって攻撃の刃を向けるとは!」

怒りをあらわにしたレイドの左手からは、青色の光が発せられた。すると、水の防壁がサンを包むようにして現れる。サンの背丈よりもずっと高く立ち上った水の防壁は、すっかりサンの視界を奪ってしまった。

「レイド」

警戒の意をこめながらそう呟いたのはクレハだった。クレハは馬から降り、腰に携えていた剣の柄に手をかけた。そして、じりじりとサンとの間合いをつめていく。

「ここは私に任せて行きなさい、レイド。戦う気がないのならばなおさらです」

戦う気がない? レイドが? こんなにも怒りを面に出しているのに、戦う意志がないというのか? 

僕はクレハとレイドの顔を交互に見た。レイドはサン(を取り囲む水の防壁)に視線を向けたまま、何の反応も見せない。

「ここはレジェンのテリトリー内だ。どこまで逃げようとも、瞬時に追いついてくる」

レイドは、いつも以上の低音ボイスでそう言い放った。ぎりっと歯をかみ締める。そして、目を半眼にし、相手を睨んだ。

「では、戦うのですか?」

クレハの問いに、やはりレイドは答えない。ただ、サンから目を離してその視線を僕へと移した。

 思わず僕は、疑問符を浮かべながらレイドの目を見た。吸い込まれそうになるその美しい瞳に、困惑する僕が映る。そんな僕の顔を、レイドはしばらくじっと見ていた。

「な、何?」

その沈黙に耐えられなくなり、僕は視線をレイドの口元あたりにまで落としてから尋ねた。

「どうしたい、アスナ」

尋ねたのは僕の方だったのに、その答えを言う前にレイドは僕に問いを投げかけた。どうしたいとは、一体何を示してそう言っているのだろうか。僕には理解できなかった。そのため、さらに表情がくもる。そんな僕の顔を見て、レイドの方もまた、困った顔をした。

「うっとうしい」

苛立ちの声をあげ、高く立ちのぼった水壁を炎で一切吹き飛ばしたサンは、刃が炎で包まれている剣を手に握り、じりじりとこちらに詰め寄ってきていた。それを見たレイドは、腰に携えていた剣を抜いた。

「邪魔者には、消えていただくことにしました」

左足から踏み込み、サンは一気にこちらの間合いに飛び込んできた。しかし、僕らの馬の前に、下馬していたクレハが立ちはばかる。柄に手にかけたまま、クレハはサンを向かえ、彼との距離をはかった。腰を低くし、左足を半歩下げる。剣を抜くタイミングを見計らっているのだ。

 サンがさらにこちらに向かって足を一歩進めてきたとき、炎の剣がクレハの眼前に迫った。クレハは顔色ひとつ変えず、体の重心を低くとり、頭の上で交わすと、剣を目にもとまらぬ速さで抜き、炎の剣と切っ先を交えた。炎の剣にも鋼の部分があるらしく、交わった剣からは、金属がぶつかり合う音が聞こえた。

「クレハ!」

クレハの剣の腕は賊との一件でなんとなくは分かっているけど、炎の剣なんていう反則技を使っている神様サンに、クレハが勝てるとは思えなかった。クレハの外見はどう見たって文官のようだし、体も華奢で大剣を振り回したりとかなんて、とてもできるようには見えないからだ。賊との一戦がなければ、クレハが携えている剣は実は飾りものなんじゃないかとさえ思っていたぐらいだ。

 クレハとサンは、剣を交えたままこう着状態を保っていた。熱く燃え上がる炎の剣を前に、クレハの顔は赤く照りだされる。しかし、その表情は涼しいもので、まるで焦りというものを感じていない。

「退け、若き炎の神よ。お前と遊んでいる時間はないんだ」

いつものクレハらしくない口調だった。軽々しく、いつでも爽やかな彼の声色ではなく、低音で、威厳のあるものだった。眉をきりっと上につり上げ、穏やかな表情も消えている。

「何者だ、お前は……」

焦りを見せているのは、むしろサンの方だった。お互いに動きが取れないのかと思っていたが、動けないのはサンだけのようだ。一歩でも動いたら、クレハの剣がサンを捉えるだろうことは、僕をのぞいたふたりには分かっていた。

「巫女様は争いを好まない。だからお前も退け」

警告を発するその声は、依然として彼らしからぬ響きを持っていた。

道中、僕が散々戦争反対主義を語ってきたものだから、幻水国の重臣であるクレハも、僕の意を理解してくれるようになっていたらしい。

「お前のような一介の兵士に、物言われる筋合いはないねぇ」

サンがクレハの刃をわずかだが力で押した。切っ先がクレハ側にずれると同時に、クレハは右足を左後ろへ半歩ずらし、サンの力を受け流した。そのままサンの刃を地面の方へと誘導し、重なり合った刃が離れた瞬間に、クレハは体を時計回りに回転させ、その勢いのままサンの方へ向かって剣を振り下ろした。体勢を崩していたサンの背中に刃が迫る。「あっ!」と声をあげる間もなく、サンは防御の神力を発動させることも出来ずに居た。

 僕は思わず、身を乗り出した。右手を突き出し、クレハと止めようとする。しかし、ここは馬上。手を伸ばしてもクレハに届くわけがないし、すでに振り下ろされかけているクレハの剣を止めることは時間的にも不可能だろう。僕の手はただ空を切っただけだった。

 しかし、僕が予想していた瞬間は、一向に訪れようとはしなかった。ただ静寂した雰囲気が漂うばかり。


 クレハの剣が、サンの身体に衝撃を与えることはなかった。


 そのことに、一番驚いた表情をしてみせたのは、攻撃を受けそうになっていたサン自身だった。目を見開き、自分に向けて振り下ろされた刃をただただ見ていた。刃を振り下ろされる瞬間までは背中を向けていたサンだが、刃が背中に触れるか触れないかというときには、体勢を入れ替えが完了しており、刃の前にはサンの顔があった。

一方クレハは、表情ひとつ変えずに剣の切っ先をサンの眼前、寸でのところで止めたまま、微動たりともしなかった。皮一枚というところだろうか。あとほんの少しでも刃を止めるのが遅ければ、間違いなくサンの顔に刃が食い込んでいたことだろう。僕は、血が流れなかったその光景に、思わず胸を撫で下ろした。

「あぁ、そうだ」

重々しいこの空気の中、沈黙を破ったのはまったくの第三者となっていたセリアス国王だった。馬にまたがったままの姿勢で、手をぽんと鳴らす。そして、いかにも名案でも浮かんだかのような顔をして、嬉々としてサンに声をかけた。

「えぇと、名はなんと言ったっけ? 炎の神様。まぁ、とにかくだ。案内しろ」

おもむろに飛び出した言葉は、色々とつっこみどころのあるものだった。まぁ、とにかく、どこへ案内しろというのだろうか。僕は謎めいた言葉を発した本人の顔を見つめた。

「ほらほら、巫女様に力使わせっぱなしってのも悪いだろう? この炎の神様に、こっちの城まで案内させればいぃんじゃないかなぁ?」

炎の神様、サンに道案内……いい案かもしれないと思った。クレハは僕に背を向けているし、元々まだどういう人物なのか理解しかねるので、どんな表情を浮かべているのかは分からない。レイドは僕の真後ろにいるので、やはり表情が見えないのだが、彼は軽くため息をついたところから、あまり乗り気ではないことが伺い知れる。

「僕が……案内を?」

眼前に切っ先を向けられたままのサンは、顔を動かすことができず、目線だけを動かしてセリアスの方を見た。眉をひそめ、いかにも嫌そうな顔をしている。神様のプライドがうずくのだろう。

「お前も巫女に仕えるものならば、巫女の身を案じるのが当然だろう? 巫女はティレーヌ城を出てから、ずっと赤き力を使い続けている。かなり疲れが出ている頃だろう」

そう言ってくれるのはありがたかったが、実のところを言えば力を使っているという意識も、それによって疲れているという意識もなかった。前者のことだけを取り上げれば、多少は意識している面もあるかもしれないのだが、それによる疲労感というのはあまり考えられない。ただ単に、馬の乗り心地がよくなくて、腰が痛くなっているくらいだ。これは力とは関係がない。

 しかし、セリアスがせっかく作ってくれた好機。逃すわけにはいかない。僕はあたかも「もう、駄目だ」という顔をして、ぐったりとレイドの胸に身体を預けてみせた。もちろん、演技。それを見て、セリアスは思わず吹き出していた。しかし、すぐさま笑いを堪えサンに視線を戻した。

「ほら見ろ。巫女は疲れ果てている。これ以上力を使わせて、死なせたくはないだろう?」

(ぇ、僕死ぬの!?)

心の中で思わず叫びをあげる。力を使い続けると死んでしまうっていうのか!? そんなこと知らなかった。どうして誰も教えてくれないんだ! この力は有限なのか? 使い切ったら僕は死ぬのか!?

 僕は思わず振り返りレイドの顔を見た。彼は別に、なんともない顔をして僕の目を見返してきた。思わずひるむ。

「どうした」

短く呟くレイドの声色には、特に感情が含まれているというわけではない。ただ淡々としていた。

「知ってた?」

僕は単刀直入にそう切り出した。しかし、レイドは首を軽くかしげ顔に疑問符を浮かべるだけ。さして重大なことでもないというそぶりをしてみせる。

「何をだ」

「力のこと! 力には限界があって、使い切ったら死んじゃうってこと!」

レイドはゆっくりと頷いた。それを見て、僕は肩をすくめた。レイドは、みんなは僕の味方だと思っていたのに。彼らは僕なんて死んでも構わないと思っていたのだろうか。なんだか、演技ではなく本当に疲れを覚え、身体から力が抜けていくのを感じた。

「教えて欲しかったのか?」

いかにも意外だという顔をして、レイドは言葉を続けた。僕は、ぐったりとレイドに身体を傾けつつも頷いた。

「しかし、言ったところで何が変わった?」

そう言われ、僕はふと考えた。

 力が有限であると知り、使い切ったら死ぬということを仮に城を出る前、あるいは出てすぐに教えてもらったとしよう。僕はそこで、力を使うことをやめ、歩くことをやめただろうか……と。

 答えは知れている。「NO」だ。言ったところで、何も変わらないことを、おそらく皆が知っていたのだろう。分かっていたのだ。けれども、だからと言って黙っているなんて。僕は、その言葉がこれからの行動に影響しようともそうでなかろうとも、話して欲しかったと思った。それが、仲間だというものだと思ったから。

「変わらないだろう。だったら、言おうが言わないでおこうが、関係ないだろう」

「関係ないものか!」

僕は思わず声を荒げた。突然のその声に、僅かにだがクレハがぴくりと肩を動かした。しかし、たったそれだけの動きをして見せたあとは、再び怖いほど静かで微動だにしない彼に戻っていた。

「だって、だって……仲間じゃないか! だったらさ、隠し事とかなしで、何でも話して欲しいって思うのが普通だろう!?」

一度切ってしまった袋の口は、簡単にはふさがらない。僕は雪崩のごとく言葉を次々にレイドに浴びせた。

レイドひとりが悪いというわけではないのだが、ひとりは王様、ひとりは今、襲ってきた相手に刃を向けて集中力を途切れさせるわけにはいかない状況下。そういうわけで、自動的にレイドに怒りの矛先が向けられたのだ。

「普通? 仲間だから、何でも言えと? それは間違っているのではないか?」

レイドは少し困惑したような表情を浮かべながらも、淡々とそう呟いた。

「間違ってる? じゃあ、内心を隠して接することが仲間への対応なの!? それで友情は育めるの!?」

これまで、仮面をつけて他者との間に壁を作って生きてきた僕には、心の奥底から「友達」だと言い誇れるひとが、ひとりもいなかった。もちろん、自分が悪いんだ。自分が踏み込まなければ、こちら側のことを知られない代わりに、相手の奥底もまた、見ることができないのだ。上辺だけの付き合いでは、真の友情など育めない。

 ここへ来て、はじめて僕は自分の弱さを他者に見せることが出来た。その相手が今まさに怒りを向けているレイドだったし、ここまで旅を共にしてきたクレハとセリアスにも、学校付き合いの顔ではなく、本当の自分で接してきたつもりだった。

 それなのに、そう感じていたのは僕だけで、周りはなんとも思っていなかったということなのか。

「……馬鹿みたい」

俯きながら、僕はかすれた声でそう呟いた。あまりにも小さな声で、背後に居たレイドにさえ届かなかったようだ。

 レイドは、僕の肩を手で握り、揺さぶるような形で「なんと言った?」と聞いてきた。僕はレイドの手を振り払うと、馬から飛び降りた。涙が溢れてくる。


馬鹿みたい。


こうなるから、信じてしまったら、心を許したら、相手に裏切られたときに受ける衝撃は大きくなる。失ったときの悲しみは計り知れない。だからこそ、僕は誰とも深い仲にならずこうして生きてきたのだ。

(信じなければよかった、弱さなんて見せなければよかった!)

目頭が熱くなり、僕は慌てて両手で顔をふさいだ。そして、声も出さずにただ涙だけを流した。




 壊れていく。




 音を立てて、何かが壊れていく。



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