樹木戦〜バトルウッズ〜
ニ撃目は見事僕の腹を叩きのめし、脳を揺らしそこらのRPGみたいに目の前を真っ暗にした。
そこらのRPGだったら目の前が真っ暗になったら前のセーブポイントに戻るはずだし、
そこらのRPGみたいにそこからやり直せる設定だったら僕は始まりの草原にいるスライムを絶滅させて"碧腕の狂戦士"という二つ名と経験値をほしいがままにし、圧倒的なレベル差で数々の雑魚を屠り森には入らず安全な道を通って王都に行くだろうし、焚き火には絶対にドングリをくべないだろう。
だがそんなご都合主義なわけはなかった。
目の前が真っ暗になった後に見たのは始まりの草原なんてものじゃなくてさっきよりも少し酷くなった目の前が真っ暗になる前の場所で、どこが酷くなったかというと彼女の傷だった。
いつの間にか彼女は少し遠いところから僕の目の前に移動していて、さっきよりも怪我を酷くして倒れている。
艶やかだった髪は所々毟られたようになっていて、服は当初よりもはだけ肌色率というか赤色率がマシマシだ。
一体なぜ彼女はこんなところにいるんだろう。移動したということは一回目をさましたのだろうか。傷が増えていて僕の傷が増えていないのはなぜか。
腕や足の傷から防御姿勢を取ったことがうかがえるけれども、なぜか。
目の前が真っ暗になってもセーブポイントに戻るわけでもないのに、なぜ。
その傷や髪も勝手に戻るわけでもないのに。
これ以上考えてはいけないのはわかっていたけれど駄目だった。僕の手が自然と拳を作り、さっきから背中を預けていた地面から上半身を離す。
腹を打たれたせいか口の中が酸っぱくて頭がガンガンと痛み目眩が止まらなくて地面が揺れる。
限界を感じるけれども躊躇していられない。
女の子ががんばったのに僕が頑張らずしてどうする。
ここで逃げたら昔の僕はどう思うだろう。
絶対に許してくれないだろうなあ。
不思議と昔の夢を思い出して頬が緩む。そのせいか身体が少し軽くなって、立つことが出来た。力が漲るようだ。
それでも震える足を前に出し、まずは一歩を踏みしめる。
刹那、三打目の根っこが僕の左脇腹を打った。
背骨が軋み、首がひしゃげて、股関節が痛み、頭が抜けそうになる。足から地面が離れる。その時間は一瞬のはずだけど酷く長い時間のように感じる。
死ぬ、その思いが頭をよぎる。
僕は持てる限りの力を尽くして立ち上がり、彼女を半ば引きずり、半ば抱きかかえながら森から出た。
その頃には空は白んでいて、右手には残酷にも一番最初に見た看板が目に映る。
生きているのかどうかも怪しい彼女をそこに置いて、疲れ果てた僕はそこに倒れるように寝転んだ。寝れば何かがよくなるかもしれないと思い目を瞑る。
ポケットに入れていたスマホが鳴ったのはその時だ。