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真夜中にキーボードを叩いてみた

紙の月

作者: ドーナツ

※お題「満月の夜に」「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」で書きました。

 母の実家を取り壊すことになった。

 ぼくは主のない家内を眺める。奥の離れは、叔母の部屋だった。彼女はどこへも嫁ぐことなく、父親の家で亡くなっている。心臓が弱く、子供の産めない体だったらしい。

 小学校くらいまで、ぼくはよく母の実家で避暑に明け暮れた。祖父は町会の仕事があり、祖母は婦人会の切り盛りで忙しい。ぼくに構ってくれたのは、この年若い叔母だけだった。

 叔母の部屋は整理されていたが、長年、使われていなかったためか埃っぽい。ぼくは見るともなしに文机の中を漁った。几帳面に細い線で描かれた叔母の筆跡が目に入る。ノートは日記らしかった。頁を繰ってみる。だが、日常のありきたりな内容にすぐ飽き飽きし、引き出しに戻した。

 その拍子に白い小さなものが頁の間から滑り落ちる。紙片が丸く切り抜かれていた。紙質から懐紙であることがわかる。そして思い出したのだ。

 ぼくは縁側に面した障子を見回す。あの時、ぼくは小学校の低学年だった。だから腰板の上あたりに違いない。障子の前にぼくは、跪いた。


「ねえ。この月が満月になったら、一緒に海へ泳ぎに行きましょう」

 叔母は、そう言って紙で作った三日月を障子に貼る。幼かったとはいえ、ぼくは半信半疑だった。しかし、叔母は障子に浮かぶ月を指して微笑んでいる。

「きっと」

 ぼくに向かって話していたが、自分に呼びかけているような顔だった。


 ぼくは、紙片を障子の三日月へ重ねた。

「うん。行こう」

 その時は、思いつきもしなかった答えをようやく口にする。何しろあの時、ぼくは井戸水に浮かんでいるスイカのことばかり考えていたのだから。

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