捜索中
翌日、私は六時に家を出た。叔母は訝しげに送り出していたが、そんなこと気にしてられない。
今日は絶対に遅刻しないよう時間制限を設けることにした。
あの交差点から学校まで所要時間が約十五分。
彼女は学校にできる限り早く着きたいはずなので、六時四十五分にはあそこを通過しないとおかしい。
つまり六時四十五分になったらもう学校に向かってもいいということになる。
時間制限というよりはそれ以上待つのは無駄という当たり前のことである。
そうはいってもこれだけ早く来れば、必ずこの交差点を通るはずなのだ。そこまで心配する必要はないだろう。
……人はそれをフラグという。
あまりにも信じられなくて七時まで粘ってしまった。明らかに時間の無駄だったのに……。
学校に向かいながら、考えてみれば、わざわざ人が多く通る交差点を通って学校に行く必要なんて全くなかったのだ。
学校に着いてから、三組に荷物を置き、四組を覗くが、いるのは彼女ではなく文学少女のようだ。
そもそも、教室にいるはずがないのだが。
手当たり次第に空き教室を見て回ったが、なかなか見つからない。
と、思っていたが、よく考えれば空き教室とは限らない。大人の目の届くところに居る可能性も十分にある。
職員室、保健室を回ったが、彼女はいなかった。
もう、八時になってしまった。教室に戻った方がいいだろう。
やはり彼女は学校を休んでいるのだろうか……。
休み時間。隣のクラスを覗きに行く。
出席番号から言えば、廊下から二列目の前から三番目……。
席にはいないようだが、ロッカーにはしっかりとランドセルが入っている。
放課後、やはりクラスメイトに捕まって、また彼女に自然に出会う機会を逃してしまった。
彼女との出会いを最高に演出したいというのに……。
そして彼女に一目惚れでもされたりしたら……。
「ねえ。顔真っ赤にしてどうしたの?」
「へぁっ? な、何でもないよ」
へんなのー、と可愛らしくいっているのは、今日学級委員に決まった竹内真理だ。
彼女はもう学校内に居なかったので、一緒に帰ろうという誘いに乗ったのである。前の世界であまり関わりがなかったので、家が同じ方向だということを知らなかった。
「ところで、なんか休み時間とか放課後とか人を探してるみたいだったけど、なにか困ったことであるの?」
「え? ああ……」
彼女の名前を知らないことにすれば、自然に協力が得られるか……。
「実は、始業式ですごくきれいな娘を見かけたの。お友達になれたらなって……」
「ん、もしかしてそれって黒い髪を長く伸ばしてて、目が大きくて背が低めの?」
「そうそう! そんな感じだったよ!」
「だったらそれは神代陽菜さんかも」
ようやく名前が出てきた。情報を引き出すために、知らないふりをする。
「へえ。どんな人なの?」
「うーん、あんまり話したことはないんだけど、聞いた話ではいじめられてるとか、暗くて口下手とか……」
「ふ、ふーん、なんかかわいそうだね」
思わず握る手に力が入る。彼女をいじめている奴。いるのは当然わかっていたが、どのように制裁を加えるか……。
「その子、すぐ帰っちゃうし朝も見かけないから……。うちのクラスに仲良かった子がいるはずだからその子に話を聞いたらいいかも」
なに! そんな子がいるなんて聞いてない。動揺を隠して、その敵か味方かわからない子供について情報を集める。
「へ、へえ。そいつ、じゃなくてその人ってだれ?」
「あの子だよ。あの出席番号一番の」
「ああ、青木って名前で四月二日生まれの出席番号一番になるために生まれてきた人ね」
「そんないい方したらかわいそうだよ……」
「でも残念ながら、相生とか相川とか相沢とか上を行く苗字はたくさんあるんだけどね」
「聞いてないよ」
どうやって彼女の事を問いただそうか考えていると、突然竹内がくすくすと笑い出した。
「なに? どうかした?」
「いや、奏ちゃんなんか大人っぽいし、みんなと壁を作ってるように見えたからちょっと心配してたんだけど、面白い子でよかった」
こっちを向いてにっこりと花を咲かせる。子供ならではの酷い言い様だ。しかし、こちらも笑顔を返して言う。
「私も竹内さんと友達になれてよかったよ」
「やぁん! 奏ちゃん可愛い!」
叫びながら私に抱きついてくる。
本当に良かった。下手に私を疑ったりしない人間で。排除する人間が少ないに越したことはないのだから。
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