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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
彼女との邂逅と問題処理
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初登校

「いってきます!」

「は、はい。いってらっしゃい」


 今日はやりなおしてから初の登校日である。

 大人たちの努力の甲斐あり、新学期が始まる日に転校できた。

 これから彼女と過ごせると思えると、声が弾んでしまうが、母親を失った直後にあまり浮かれていると、変に思われるかもしれない。ある程度は勝手に空元気と解釈してくれるんじゃないかと踏んでいるが。


 ここ桜ヶ丘は、ベッドタウンで田舎とも都会ともつかないところだ。緑は割と多く、街路樹はしっかりあるし、公園もたくさんある。しかし、それは人がたくさんいるということでもあり、多くのマンションが道路のわきに立ち並ぶなかを児童は歩くのだ。


 たかだか四、五年ほどだろうが、通学路はそれだけ歩いていないだけでもかなり久しぶりに感じる。一年ほどしか通ってないので、忘れていることも多いが、古ぼけた自転車屋、なぜかブランコがない児童公園など、歩いていくだけでも郷愁を抑えられない。まあ、郷愁も何も昔に戻っているのだから、懐かしさがない方がおかしいのだ。


 大きめのスーパーの前にある交差点は、右に曲がると中学校でそのまま行くと小学校だ。

 さて、そのスーパーの前にはちょっとした広場があり、木がたくさん植えられていたり、オブジェのような感じで置かれた石がいくつかあったりと、鬼ごっこやかくれんぼをする場所として使われることもある。

 前の世界ではよくここでかくれんぼをしていたものだ。


 木に隠れてから20分ほどしても、小学生は全くいなかった。当然だ。家を出たのは朝六時半で、まだ七時を少し過ぎたところだ。朝練をしている中学生はともかく小学生はまだ家にいる時間帯だろう。

しかし私は知っている。彼女は極力誰にも会わないようにするために、かなり早くから登校していたということを。そして誰もいない空き教室に逃げこんでいたらしい。


 いつ来るか詳しくは知らなかったが、小学校が開くのは七時だからそれより早く来れば問題はないはずだ。

 

 やばい。転校初日から遅刻になってしまう。職員室に行ってから全校集会で紹介される予定なのだが……。

 扉をノックすると、どうぞ、という声が聞こえた。扉を開けると、なんだかバタバタしていたので大きい声で伝える。 


「すみません! 三年の秋吉奏です!」

 

 すると、一番奥の机に座っている男の先生が立ち上がってこちらに来た。


「ああ。秋吉さんね。では、もう少ししたら式が始まるから、ちょっとここでまってようか」

 

 諭すように言うところが教師なんだな、と思わせる。


「はい」



 職員室で待っている時間は大して長くもなく、全校集会もつつがなく終わった。教室での紹介もあっさりしたもので、恒例の本人による自己紹介や先生の適当な席決めなどはなく、しっかりと用意されている一番後ろの空き席に座った。隣は男子で、軽く会釈しておいた。


 さて、結果から言うと彼女は現れなかった。残念ながら同じクラスにもいない。学校を休んでいる可能性がある。そうだとすると、少しつらい。今日は彼女と会えないということになってしまう。

 まずはクラスを突き止めねば……。


「じゃあ、今日はこれで終わり。号令は……出席番号一番の青木さんにかけてもらおうかな」

「は、はい。きりつ……」


 のろのろと立ち上がって、れい、という号令で全員ひょいっと頭を下げる。

 何人かがこちらに向かってくる。あの眼の光り具合を見ると、きっとこれから質問攻めにされるのだろう。

 いくら急いでいるとはいえ、クラスの人間関係をおろそかにするのはあまりいいことじゃない。

 できる限り短く済むようにしよう。


「どこから来たの?」「ねえ。彼氏いるの?」「血液型は?」「好きな食べ物は?」「へえ。私もA型なんだよ」「好みのタイプは?」「何か見てる番組ある?」「え? あんな都会から来たの?」「あ! 私もツナマヨおにぎり好き!」


 私の集中力をもってすれば、この程度の質問はら、楽勝……だ。

 少しばかり疲れないでもないが、いくら質問をされたところで……。


「ちょっとそろそろやめてあげなよ。奏ちゃん困ってるよ?」


 鈴のような声で周りを静まらせたのは……。誰だろう。


「ごめんね。可愛い転校生が来てみんな興奮しちゃってるだけだから。私は竹内真理。よろしくね」

「可愛いって……そんなことないよ」

 

 ああ、どこかで見たことがある顔だと思ったら彼女の事をかばっていた数少ない人間だ。それも、あの事件であっさりひっくり返るのだが。

 それにしてもいいタイミングだ。さすがにこれで帰らせてもらおう。


「あの……。そろそろ帰ってもいいですか?」

「え? そんなの私たちに許可取る必要ないわよ。ねえ?」

 

 まさに鶴の一声で、不満そうな顔をしていた女の子たちは簡単に静まった。

 

「じゃあ、また明日」

「さようなら」


 みんなからさようならと言われるのはあまりされたことがなかったが、なかなか気持ちのいいものだ。

 

 廊下に出て彼女のクラスを確かめると、三年四組だった。ちなみに私のクラスは三年三組だ。隣のクラスというのはなかなかにいい引きだと思う。

 一応四組ものぞいたが、案の定誰もいなかった。


 今日は、このまま帰るとしよう。

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