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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
一家断乱
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あったけどなかった話

 小学六年生の時、母を失った私は呆然自失の状態だったように思う。ただでさえ友達があまりいない性格だった私はさらに人が寄り付かれなくなっていた。

 お母さんが死んだのは私のせいだ。私がお母さんを殺したんだ。そういって毎晩自分を責めていた。

 そして私は無気力に、ほとんど人と関わることなく一年間を過ごした。


 中学生になっても何も状況は変わらなかった。どうやったら人に迷惑をかけずに死ねるのか。そればかり考え、ただ毎日を過ごしていた。

 

 中学生になって一か月を過ぎたころ。私にとって人生を大きく左右する出来事が起こった。


 その日、私はいつも通り一人で帰宅していた。帰り道は大通りしかなく、周りにいる中学生のバカ騒ぎの中をくぐりぬけなければならないのは苦痛でしかなかった。まるで自分だけ違う世界の住人みたいで、そんな自分に対する嫌悪感でいっぱいになるからだった。今思えばこれ以上ないくらい卑小な人間だった。背負いきれない罪悪感を他人への憎しみに変え、世の中を恨んでいた。


「え! あの子付き合ってんの!?」

「そーそー。やばくない?先こされちゃったよー」


 頭の悪そうな会話に心底イラつきながら、信号の色が変わるのを待っていた。


「ねえ。見て見てあれきもくない?」


 きもくない、と返したくなるが、そいつらが指さしている相手が自分じゃないことに気づきその目線を追ってしまう。

 

 そこに居たのは、たとえようもないほど美しい人だった。

 

 噂を聞いたことがないわけではなかった。とても美人なのに、いや、だからこそなのかもしれないがひどいいじめにあっている人がいる、と。

 そんなの男はどうせみんな味方なのだろうと思っていたが、周りの男子の様子を見るとそうでもないらしい。

 その子は、周りの悪意に満ちた視線にさらされて、とてもいたたまれない様子だった。あんなに縮こまっているのを見ると、少しかわいそうだ。

 まあ、そうはいっても私には関係のないことだ。美人なのにこんなにいじめられるなんて想像すらできないことだが、こういった経験を活かして人を信用せず近づけないことを学ぶと良い。学生生活をうまく切り抜けてほしいと願うばかりである。


 信号が青になった。本当に中学生とは嫌な生き物だ。さっさとこんな空間からは抜け出させてもらおう。


 その刹那、横からトラックが飛び出してくるのが視界の端に映った。


 この時私は安堵した。唐突すぎるとはいえ、特に生きることに未練はなかった。

 その感情のせいで私の足は動くことはない。

 接近してくるトラックを、ただ見つめながら近づく死を待っていた。


 しかし、私の視界から突然トラックが外れ始めた。そして自分を轢きつぶすと思っていたその車体は私の横を通り過ぎて行く。


 何か暖かいものに包まれて、冷たいコンクリートの上を転がった。

 そのぬくもりは私を涙を浮かべてみていた。


「ばかぁ! なんで動かないの! 死んだらどうするの……」

「……なんで私を助けたの?」


 絞り出した言葉。頭の中が真っ白になって自分が何を言っているのかわからなくなっていた。


「私は……あなたの事何も知らないのに……なんで?」


 そういうと彼女は困ったように眉を細めて言った。


「なんでって……助けられそうだったから……じゃ、だめ?」


 ねだるように微笑むいじめられっこに、私は心を奪われた。死にたいという気持ちを、何か別の感じたことのない感情にすり替えられてしまったのかもしれない。


 自分でも、つかめない心の揺れに対して、一瞬だけ感じた恐怖に、狂気に私は蓋をした。

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