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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
一家断乱
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決行

「私は、奏が憎くてこんなことしてるわけじゃないの。奏が悪い子に育ってほしくないからこそこうやって厳しくしてるのよ」


 母のどうでもいい、よくある言い訳を聞き流し涙ながらに謝る。


「ごめんね。お母さん……。私…もうしない…からあ……」

「いいのよ、解ってくれれば。じゃあ夕ご飯にしましょうね」


 母の開放は意外とあっけなかった。こうやって涙を流して謝ったら、『日記が読みたかった』という、わけのわからない理由が通ってしまった。

 これであとは母親を消すだけだ。少し危ないが成功すれば全く怪しまれることはない。それも小学三年生の子供なのだから。


 私の家では浄水器と普通の水道はわかれている。ある程度、高級な家ならワンタッチで切り替わるのかもしれないが、わりとわかれている方が一般的ではないだろうか。まあ、他の人の家のキッチンなど見たこともないので、浄水器なんてないという家も多いのかもしれないが。

 



 翌日、遺書を完成させた私は家に必要なものがあるかを確認する。リビングにある棚の二番目の引き出しの中には、しっかりと記憶通りの薬が入っていた

 その夜には、母が風呂を入れている間にちょっと浄水器をいじってから、用意してもらった風呂に入り、布団の中で眠らないように横になっていた。


 一、二時間ほどたった時、下でゴトンという物音がした。どうやらうまくいったようだが、もしもの時のために一応忍び足で階段を降りる。

 

 キッチンの中を隠れながら見ると、しっかりと母は気を失っていた。

 重い体を引きずり、洗面所でいったん停止し、急いで着替えさせる。実は一番の鬼門はここだった。万全を期しているから万一にも目を覚ますことはないはずだが、実際薬の効果も本当にうまくいっているかは非常に怪しい。とにかく目が覚めないことを祈りながら、寝間着から今日の元の服装に下着ひとつ残さず着替えさせる。目が覚めなかったことに安堵して、次へと移行する。

 

 ここからは、簡単だ。風呂の前に連れて行き、母の右手にナイフを握らせそれをもう片方の腕にさす。母の体がビクンと震え、目がうっすら開くが体がうまく動かないらしい。ナイフを引き抜くとさすがに自分にもかなり返り血が飛んでくるが問題ない。もう、遺書は母の日記に挟まってるし私は後はここにいるだけでいい。


 母がゆっくりと死んでいくのを見ながら、感慨にふける。まさかここまでうまくいくとは。前の世界でもばれなかった殺人はあるが、ここまで何のエラーもミスもなしに成功したのはこれが初めてだ。

 満足感に浸りながら、まどろみに体を預ける。


  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ソファで寝ていた高橋弘明が、外の喧騒にゆすり起こされたのは、八時過ぎの事だった。


「なんだあ。騒々しい」


 寝ぼけ眼で、外を見ると何やら白くて大きめの車が見えた。その上のランプが光っているのに気づいて、その車が救急車だと認識するのに少しかかった。

 野次馬根性で急いで着替えて外に出ると、家の中とは比べ物にならないほどの音が耳をつんざいた。

 

「あそこの家って、お母さんが精神を病んでらしたんですって」「どいてください! 車が通れません!」「お父さんも亡くなってるそうよ」「全く自殺なんて迷惑だからやめてほしいわ」「まあ。じゃあ、あの子はどうなるの?」「お母さん! 死んじゃやだあ!」「ほんと、やあねえ」「あーあ、ここも騒がしくなっちゃうなあ」


 ざっと聞き取れただけでもこれだけの情報が得られるとは。ご近所さんの井戸端会議は本当に恐ろしい。

 まさかこんな近くで自殺が起きるなんて思いもしなかった。しかし、自分の食指の動きそうなことではなかった。振り返って改めて家に帰ろうとする自分に最後に見えたのは血だらけになった少女だった。

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