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私の愛した結末  作者: おーい十六茶
正義の在処
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意外な人物

 夏休みは始まって二週間が過ぎていた。


 今度こそ、私を襲っていたのは大量の時間である。

 暇な時間は人を堕落させると言うが、その通りだろう。

 ここ最近、彼女について思いを馳せたり、彼女の写真を見ることが主になっていた。これはいいとしても、それ以外では本を読むぐらいしかやることがなかった。


 そんなときである。二階でアルバムを眺めていると叔母が呼ぶ声が聞こえた。


「友達から電話よ」


 デジャビュを感じて、階段を降りる。彼女からだろうか。

 叔母さんから受話器を受け取って、頭の中で多少想像を膨らましてながら、定型句をいう。

 

「もしもし」


 そこから、聞こえてきたのは意外な人物からの電話だった。


 

 次の日、集合場所である図書館の前の裸の女性のモニュメント付近で私を呼び出した人を待つ。帽子を被って楽で涼しい格好を心がけた。なぜなら今日は予報で今夏一番の暑さだと言われていたからだ。そして予報は外れなかった。

 猛暑のなかでただ待ち続けるのは結構辛い。しかし、だからといってこの日差しのなかでは読書もできない。


 だが、あまり長く待たされることはなかった。待ち人はすぐにやって来た。


「秋吉さん。こんにちは」


 私に声をかけたのは、いつもとはうって変わって丁寧な口調の、竹内真理だった。

 

「じゃあ、どこか涼しいところにでもいきましょうか」



 小学生の行く涼しいところというと全く思い付かなかったが、私の前を歩く少女は迷うことなくファミレスに入っていく。入った瞬間、冷たい風によって汗が引くのを感じた。

 小学生二人で行くには少し背伸びしている場所だと思ったが、店員などもそう思っている様子だ。訝しげに私たちに声をかけてくる。それに対して、竹内は涼しげな表情で答える。そして私たちは案内に従って禁煙席に座った。


「ドリンクバーだけでいいですよね」


 どうやら竹内はなかなかに厚かましいらしい。まあ、私も自由になるお金は無いに等しい。メニューを開くこともなく、注文をした。店員の私たちに向ける目がどんどん冷たくなっていく。


 取ってきた飲み物に口をつけてから、しばらくして竹内が唐突に切り出す。


「どうか、お姉ちゃんを……姉を助けるのを手伝ってください」

 



 昨日、電話口で竹内が私に提示した物は、脅しと言って差し支えないものだった。

 つまり、私は弱みを握られていた。


『大量の遺書の練習用紙。これだけ言えば十分でしょう』


 続けて、端的に場所と時間だけを言い放つと、電話は切れた。

 

 どのように母を殺した時の練習用紙を手に入れたかはわからない。ただ、私が絶望的に運が悪いということだけはわかる。

 なぜなら、あの練習用紙を捨てたタイミングは事件が起こる直前だ。それならあれが拾われるということは、日常的にゴミ漁りしている人がいたということになる。

 竹内とそいつがどういう関係であったにしろ、タイムリープの内容をじっくり考えていなかった当時の私では、私の事を確信を持ってマークする人間がいることも想像できなかった。

 あの練習用紙が見つかれば、遺書の信頼性が失われ、私に疑いが向くのは避けられないだろう。

 考えるべきはこれからどうするか。竹内が何を求めているのか。

 



 だからこそ、竹内のこの言葉は意外だった。

 脅して、私が断る余地を奪っておきながら頼みごとの体を取るなど、交渉ならば下の下の手だ。

 しかし逆をたどれば、竹内には、私に貸しを作ったり私の優位に立つ必要性がないということになる。

 これは追い込まれているというより、開き直っているという方が正しいのではないか。


「どういうこと……? それを受ければあの遺書を私に返してくれるの?」

「ええ。返します。私が知っていることもすべて話しましょう」


 一拍置いて、竹内はその表情を厳然としたものにして、言葉を繋ぐ。


「しかし、私が望む関係は対等です。あなたにも知っていることを洗いざらい話してもらいたい。そういうつもりであなたに頼んでいます」

「それなら、脅すというのは逆効果じゃない?」


 竹内は、眉をひそめて溜め息を吐く。


「そうでもしないとそもそも協力を頼めないと思ったんです。だから、わざわざ夏休みの間、あなたの引っ越す前の住所を調べたりとしちめんどくさいことをしたんですから」


 なるほど。私は今、結構熱烈なアプローチを受けているらしい。

 竹内が小声で、まあ、ダメもとだったんですけどね、とつぶやいた。


「それよりも、受けるか受けないか、答えてください」


 色々と、気になることはある……。なぜ、こいつは半分自棄になっているかのように私を仲間に引き込もうとしているのか。

 しかし、こいつは私がここで断れば、本当に警察に私の事を告発するだろう。間違いなく。


「わかった。協力する」


 そういうと、竹内は自嘲気味に表情を緩めて、メロンソーダを一気にあおる。


「はあ、良かったです。あなたが今回はあきらめると言い出したら、私の努力は水の泡なんですよね……」


 今考えると穴だらけですね、と笑う竹内。


 なんだと? 


「ちょっと待って。『今回は』ってどういうこと?」



 

 私がタイムリープについて想像していたのは、私以外の『手段で』タイムリープしている人間がいることだ。

 なぜなら、あの神を名乗った男がいったのは次の通りの言葉だったからだ。


『あなたと同じようにタイムリープする人間はいません』


 この言葉はどう考えても『私と違った形でタイムリープする人間がいる』ことを示唆している。


 だが、タイムリープが一回だけなら、竹内が言ったような言葉は出ないはずだ。

 タイムリープした人間にとって二回目の世界は最後の機会のはずだからだ。


 しかし、『今回はあきらめる』という発想が出てくるのは複数回タイムリープできる人間。明らかに私の条件と平等ではない。

 私には複数回タイムリープができるという選択肢すら当たられていない。



 

 私の言葉に竹内が一瞬、目を見開く。そして、すぐに手を額に当てて落胆したような表情を見せた。


「なるほどね……。まだ『お試し期間』だったんですか。通りで、やり方が強引だと思いました」


 竹内に言われたくないが。


「しょうがない……。貧乏くじを引いたのは私の責任です。しっかりと説明させてもらいます」


 いちいちイラッとくる言い回しをするやつだ。私が続きを促すと、竹内が何事か、考え事をし始める。そして口を開いた。


「本当は、あなたが今回の世界で自殺を選んだ段階で、あの死神から説明があるはずの事です。つまり、他のタイムリープ者からこれについての説明を受ける秋吉さんはかなり特殊な例ですね」


 ああ……、神に近い者って、死神ということだったのか。


「二回目からの逆行は選択したタイムリープの形式に従わなければいけません。選択肢は向こうから提示されます」

「タイムリープの形式……?」


 私がオウム返しすると、竹内が答えてくれる。


「私が選んだ形式は『回数券』です。制限なしに複数回タイムリープできる代わりに、一日につき最高三時間しか、意識を表に出すことはできません。このようにそれぞれの形式をそれぞれの人間が選択することになります」


 竹内の選んだ形式はなかなかに不便そうだ。中に入られているもう一人の竹内が何とも思わないということはないだろう。突然別の所に移動していたりしたら、恐怖を抱くはずだ。私がそう言うと、竹内は頷く。

 

「もちろんです。何回かはごまかせても、そのうち自分が夢遊病ではないかと疑うでしょう。だから、私は手紙を書いて、私の存在をその世界の竹内真理に知らせています。最初は納得させるのに苦労しましたが、何回かすればコツも掴めました」


 では、未来からきていることを人に伝えるのは自由だということだろう。

 

「私の目的もある程度は知っています。それに、私は竹内真理が知覚しているものを見聞きでき、意識を奪うタイミングもこちらに選択権があります」


 つまり、ほとんどタイムリープした竹内が身体の行動を自由にできる状態にあるということか。それなら思うほどの不自由はないだろう。


「そしてここからが本題ですが……」


 竹内の顔が引き締まる。


「姉はもうすぐ死ぬか人を殺すか……そのどちらかなのです」


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