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野菜畑はあまりにも広かった。
端から端まで水やりなんて無理だ。
「竹内さん! ごめん! トイレ行ってくるね!」
「ああ、いってらっしゃい!」
竹内は校舎へかけていく青木を見送って、しばらく黙々と水やりを続けていた。
その時、竹内の動きが止まる。目がうつろになり、呆けて地面を見つめていた。
また、唐突に瞳を上に向けた竹内の様子は、いつもの快活な所作ではなく、厭世的で、目の前の植物にも何の価値も見出していないようだった。
「さて、何が入ってるんでしょうか」
容器を持ちあげ蓋を開ける。たまたま、中身を入れ替えるところを見ただけだが、実際その中に入ってる液体の色は、よく目を凝らせばいつもの色と違うことが認識できた。
それを、空になっているじょうろの中に薄めることなく直接入れる。容器の中身は当然、それに応じて急激に減っていく。
そして、青木が返ってこないことを確かめながら、青木のじょうろにもそれを入れ、さらに容器の中身を直接青々と茂る野菜たちにまんべんなくかけた。これでほとんどすっからかんだ。
肥料もどきがどんな効果なのかはわからないものの、これだけ広いとその効果も地味になってしまうかもしれない。別にそうなったところで私には本来どうだっていいのだが、そうとも言っていられない状況なのだ。
異常事態を起こしたら、きっと秋吉奏は動いてくれる。
もし、神代陽菜にしか興味がないのなら、彼女が興味を持てばいい。
秋吉奏の存在は規格外だ。こんなこと今までの一度もなかった。
邪魔さえしなければそれでいいが、行動原理、行動の傾向は知っておくのが吉だ。
そのために、この事件はちょっとばかし派手になってもらう必要がある。
すべてやり終えた竹内は青木が返ってくるのを待ちながら、水やりを続行した。
「ごめーん! さっさとおわらせよっか!」
「うん」
竹内が微笑んでそう答えると、青木も笑みを湛えながらさっきの続きを始めた。
じょうろの中身がなくなると、竹内が少し遠いところにいる青木に声を張り上げた。
「もう遅いから終わりにしよっか!」
「そうだね! かなり疲れたしね!」と、腰を叩くポーズをして、じょうろを持ってやってくる。
肥料に近い位置にいるようにしていた竹内は率先して軽くなった容器を持ち、そのまま青木と一緒に第二理科室へと、軽くなった肥料とじょうろを返しに行く。
もう日が暮れてしまって、野菜畑も真っ赤に照らされ、まるで血を流しているようだった。
校門まで来ると、青木が立ち止まって言った。
「今日は手伝ってくれてありがとう」
「困ったときはお互い様。私でよければいつでも力になるよ」
「ありがとう。じゃあね!」
「うん。また明日ね」
青木と別れた後、竹内は突然立ち止まる。今度は目の前の廊下に目を向けたまま、全身の動きを止める。
回りを見回した後、スキップをしながら帰路につくのだった。
受験なので連載停止します